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ロイ・エアーズ 来日直前特集
極上メロウなサウンドと、クールなヴィブラフォンの音色。“キング・オブ・ヴァイブス”ことロイ・エアーズは、世代やジャンルを超えて愛されている希有なミュージシャンのひとりだ。一般的には卓越したマレットさばきを披露するヴィブラフォン奏者として評価されているが、実際はヴォーカリストでもあり、サウンド・プロデューサーでもある。そしてなにより、ベテランから若手までを魅了する“音楽界のグル”といっても大げさではないだろう。現在73歳という年令にも関わらず、誰よりも元気に世界中を飛び回り、超人的なライヴ・パフォーマンスを続けている。レジェンドでありながら現在進行形。ここでは、そんなロイ・エアーズの足跡を簡単に辿っておこう。
ロイ・エアーズは、1940年に米国ロサンゼルスで生まれた。父親はトロンボーン奏者、母親は幼いロイにピアノの手ほどきをしたという音楽一家に育つ。彼がヴィブラフォン奏者となるきっかけは、5歳の時。なんと、第一人者と呼ばれる名プレイヤー、ライオネル・ハンプトンからマレットをプレゼントされたそうだ。とはいえ、実際にその楽器に触れたのは17歳になってからだった。1960年代のウェストコーストにおけるジャズ・シーンが活発な時代に、ロイは新進プレイヤーとして活動を始める。
最初のリーダー作は、1963年に発表した『West Coast Vibes』。その後も『Virgo Vibes』(1967年)、『Daddy Bug』(1969年)といった力作を何枚か発表している。また、この頃のレコーディング作品としては、カーティス・エイミー、ジャック・ウィルソン、ジェラルド・ウィルソン・オーケストラなどが挙げられるが、なんといってもハービー・マンとの共演が大きいだろう。ジャズ・ファンにはお馴染みの大ヒット・アルバム『Memphis Underground』(1969年)でも重要な役割を担っており、じわじわとその名が知れ渡るようになっていった。
彼のキャリアの中でもっとも高く評価されているのは、70年代に続々と作り上げた名盤の数々だろう。1971年に自身のバンド、ユビキティを結成し、最初のアルバム『Ubiquity』を発表。以来数々の傑作を生み出すことになる。初期の代表作として評価の高い『He's Coming』(1972年)、ブラック・ムーヴィーの金字塔ともいわれる『Coffy』(1973年)のサウンドトラック、ディー・ディー・ブリッジウォーターのヴォーカルも堪能できる『A Tear To A Smile』(1975年)、メロウな世界に磨きをかけた『Mystic Voyage』(1975年)、永遠の名曲であるタイトル・ナンバーを含む『Everybody Loves the Sunshine』(1976年)、ロイ自身のヴォーカルをメインに聴かせる『Let's Do It』(1978年)、ブギー・ファンク節が炸裂する『Fever』(1979年)、ユビキティとは違うフレッシュなメンバーで新たなサウンドを模索した『Feeling Good』(1982年)、エレクトロやヒップホップの空気感を取り込んだ『Lots Of Love』(1983年)と、ファンク・ジャズ~クロスオーヴァーへと時代は移り変わっていくなかで、きらびやかなヴィブラフォンの音色を世界中に響かせていく。とりわけ70年代後半からは、ソウルやディスコのシーンとも密接に繋がり、ジャズというよりはブラック・コンテンポラリーな楽曲が増え、プレイヤーというよりはサウンド・プロデューサーとしての役割が強くなっていった。
同時に、アフロ・ファンクの帝王フェラ・クティとの共演作『Music Of Many Colors』(1980年)や、深遠な世界を表現した『Africa, Center Of The World』(1981年)といった、自身のルーツに対する視点も忘れなかったことが、薄っぺらくなりがちなこの時代のサウンドに呑み込まれなかった理由だろう。地に足の付いた音楽を作り続けたことが、結果的に現在の評価に繋がっている。
来日公演情報
Roy Ayers with special guest
Ali Shaheed Muhammad(A TRIBE CALLED QUEST)
ビルボードライブ大阪:2014/7/16(水)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2014/7/18(金)~7/20(日)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
プロデューサーとしてのロイ・エアーズ
▲ 「Come Into Knowledge」 / RAMP
80年代以降のロイは、ミュージシャンとしてだけでなく、プロデューサーとしても頭角を現すことになった。女性ヴォーカル2名をフィーチャーしたランプの『Come Into Knowledge』(1977年)は、隠れた傑作としてDJたちに人気の一枚。また、レーベル「Uno Melodic」を立ち上げ、ここからはエイティーズ・レディースの『Ladies Of The 80s』(1980年)、シルヴィア・ストリップリン『Give Me Your Love』(1981年)、フスト・アルマリオ『Interlude』(1981年)といった作品も送り出している。もし彼がただの職人的ヴィブラフォン奏者であれば、こういった作品を世に出すことが出来なかったはずだ。音楽を俯瞰できるバランス感覚の持ち主ならではの仕事といってもいい。
▲ 「Love Will Save The Day」 / Whitney Houston
80年代後半からは制作のペースも落ちたが、音楽シーンの重要な場面に何度もロイは登場する。その一例が、ホイットニー・ヒューストンのアルバム『Whitney』(1987年)からカットされたシングル「Love Will Save The Day」や、グールーによるジャジー・ヒップホップの大傑作『Jazzmatazz Vol.1』(1993年)など。ロイのサウンドが新鮮であり続けられるのは、こういった様々な音楽ムーヴメントと常にリンクしているからだろう。他にも、ニューヨリカン・ソウル『Nuyorican Soul』(1997年)から、カルト・ヒットしたバー・サンバの7インチ・シングル「Positive Vibe」(2009年)など、とくにクラブ・ミュージック界隈からのラヴコールは絶えない。
歴史的名曲とロイ・エアーズ
▲ 「Searching」 / Pete Rock & CL Smooth
そして、ロイの音楽が今の時代に通用することを再確認させてくれたのは、やはりヒップホップやR&Bでのサンプリング・ソースとして。ここ30年くらいの歴史に残る名曲には、やはりロイの音源が多数引用されている。コモン「Book Of Life」やメアリー・J.ブライジ「My Life」では「Everybody Loves The Sunshine」、ピート・ロック&CLスムース「Searching」やOC「Point Of Viewz」では「Searching」、DJジャジー・ジェフ&ザ・フレッシュ・プリンス「Just Kickn' It」やクーリオ「Mama, I'm In Love Wit A Gangsta」では「Mystic Voyage」、モス・デフ「Brooklyn」やDJシャドウ「Hindsight」では「We Live in Brooklyn, Baby」と、挙げていくときりがない。
▲ 「Description Of A Fool」 / A Tribe Called Quest
そして、待望の来日公演では、ア・トライブ・コールド・クエスト時代に「Description Of A Fool」で「Running Away」をサンプリングして話題になったDJアリ・シャヒードとの初共演が予定されている。20数年の時を経て邂逅する新旧の才能。どのような化学反応が起こるかは、もちろん現場に来てみないとわからない。そして、あらためてロイ・エアーズという才能が、今なお未来に向かって突き進んでいることを体感できるはずだ。
来日公演情報
Roy Ayers with special guest
Ali Shaheed Muhammad(A TRIBE CALLED QUEST)
ビルボードライブ大阪:2014/7/16(水)
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ビルボードライブ東京:2014/7/18(金)~7/20(日)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Text: 栗本斉
エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン
2014/05/21 RELEASE
UCCU-90029 ¥ 1,080(税込)
Disc01
- 01.ヘイ・ウー・ホワット・ユー・セイ・カム・オン
- 02.ザ・ゴールデン・ロッド
- 03.キープ・オン・ウォーキング
- 04.ユー・アンド・ミー・マイ・ラヴ
- 05.ザ・サード・アイ
- 06.イット・エイント・ユア・サイン・イッツ・ユア・マインド
- 07.ピープル・アンド・ザ・ワールド
- 08.エヴリバディ・ラヴズ・ザ・サンシャイン
- 09.タン・パワー
- 10.ロンサム・カウボーイ
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