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滴草由実 『#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~』インタビュー
ブームを生む為の一撃/波紋は、いずれもオリジナリティに溢れているもの。現在のアイドルムーヴメント然り、90年代のJ-R&B/ヒップホップシーンの確立然り。そしてそのほとんどは名も無き、ブレイク前のアーティストたちが繰り出したものだ。時代やシーンの概念に捕われず、リスナーを驚かせる音楽の創造に尽力した者たちの革命。長い活動休止期間を経て、昨年、不死鳥のごとく復活を果たした滴草由実は、間違いなくその波紋のひとつである。
一度は歌声を失ったからこそ辿り着いた感性と、そこから生まれるスーパーオリジナルな音楽。初ベストアルバム『#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~』発売タイミングで、彼女の特異性=魅力に迫った。
現在の音楽シーンに対する挑戦「最初の耳心地で「何これ?」」
--今から約4年半前、一度は歌声を失った訳ですが、それから復活して日々歌えていることにはどんな感慨を持たれていますか?
※参考:滴草由実 歌声を失うも復活「Billboard-LIVEを眺めて涙浮かべた」
滴草由実:制作はずっとやっていたんですけど、それを人に聴いてもらったり、発信することが出来ずにいたので、またこうしてライブやCD音源で私の歌を聴いてもらえるっていうこと自体がすごく嬉しくて。有難いことなんだなっていうのを改めて感じてますね。あと、昨年12月にアルバム『A woman's heart』をリリースしてからいろいろ動いていたんですけど、いろいろ動けること自体も……関わってくれる人たちへの感謝の気持ちが強くなりました。
--当時は苦しい期間だったと思うんですが、それがあってよかったと思えるところまで自分を持っていけた?
滴草由実:それは感じますね。そういう期間があったからこそ気付けることがたくさんあって、より強く想うこともあるし、今回の初ベストアルバム『#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~』が形になってくるにつれて、ツラいこともすごく報われた気がするし、10年経ってまた改めてスタートする覚悟が出来た。デビュー当時も覚悟はあったんですけど、経験を得てからのスタートは全然重みも違いますし 、いろいろ感慨深い。
--歌えずにいた期間、自分を支えていたものって何だと思いますか?
滴草由実:やっぱり自分を支えてくれる人たちの存在。ファンの人たちもそうですけど、家族だったり、友達だったり、スタッフの人たちだったり。自分ひとりだけの為だったらここまで出来なかったかもしれないなって思います。また復活するということに関しても、そういう存在が自分の中で大きかったんだなって。
--そうして満を持して発表出来たオリジナルアルバム『A woman's heart』は、今振り返ると、自分の中でどんなアルバムになったと感じていますか?
滴草由実:やっと辿り着けた自分の音楽性だなって。これが基盤。土台が出来たので、ここからまたスタートして、ステップアップしていく為に新たな表現だったり、挑戦だったりをしていきたいので、いろいろ動いてます。
--個人的には、現在の音楽シーンに対する挑戦的な意識もあったアルバム。そう捉えているんですが、実際のところはいかがですか?
滴草由実:それはありました! この何年かで音楽シーンは変化していったし、「なんでだろう?」と思うところもあったので、そこで馴染むものを作るんじゃなくて、ちょっとひとつ飛び抜けたものというか、他とは違うものを出していく時なんじゃないかなと思って。なので、個性だったり、色だったり、これからの作品にも出していきたいと思ってます。
--今の音楽シーンの流れに合わせようと思えば、合わせられた訳ですよね?
滴草由実:それは出来たと思います。というか、その『A woman's heart』を作る前に別のアルバムを作っていたときとかは、歌詞とかメロディーとかは……拘りつつも、飛びぬける、『A woman's heart』みたいな尖った感じはなく、結構聴きやすいもの、ポップなものが入ってたんです。でも一回いろいろ試してみたときに「あ、これがいいのかな。これだったら埋もれない。自分自身も面白い」と思って、さらに「自分がリスナーだったらどう思う?」ってところから『A woman's heart』は出来たんです。
--今、これを打ち出して面白いか面白くないかの判断で作ったと。
滴草由実:前に作っていた尖ってないアルバムでも「良い」って言ってくれる人はいたかもしれないけど、発信する側として“トキメく”みたいな。その当時っていろいろ模索もしていた時期だったんですけど、どれが正しくてどれが間違っているか。その見分け方に迷うときってときどきあるじゃないですか。そこで大事にしたのが直感とトキメキだったんですよ。その当時、世に出ているものをいろいろ聴いた上で、振り切ってみたかった。そのほうが初めて聴いてもらったときの驚き感が全然違うだろうし。リスナーも今は耳が肥えているので、最初の耳心地で「何これ?」みたいな感覚を持ってほしかったんですよね。
滴草由実ライブ情報
滴草由実『#10 story LIVE』
8月23日(土):Knave(大阪)
開場 17:30 / 開演 18:00
9月6日(土):TSUTAYA O-nest(東京)
開場 17:30 / 開演 18:00
リリース情報
#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~
- 2014/06/11 RELEASE
- [VNCM-9022/3(CD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
この前も「ハエの音入れません?」って言いましたもん!
--今の日本の音楽シーン、滴草さんの目にはどんな風に映っているの?
滴草由実:アーティストによって、レーベルによって、いろいろ事情はあると思うんですけど、それによって今はこういう音楽性になってる、流れになってるっていうのもすごく分かるし、音楽業界自体の流れもよく分かるんですけど! もっとアーティスト自身の表現したいこと、メッセージを反映させてほしい。私はそういう風にさせてもらえてるので幸せだと思うんですけど、アーティスト友達の話を聞くと、もっと人間臭くていいんじゃないかなって思ったりする。でもいろいろ探してみると良いアーティストはたくさんいるので、リスナーにも探してみてほしい。テレビに出てる人たち、あたりまえのように流れているものだけが音楽ではないので。
--それこそ、この4年半でシーンは大きく形を変え、アイドルばかりがヒットチャートを賑わす時代になりました。そこについてはどんな印象を?
滴草由実:凄いなって。アイドルの娘たちはそこにすごく人生を懸けてるし、強い想いでやってるし、その娘たちの表現で、その娘たちの音楽をやってると思うから。まぁ好みはありますけど……「私も頑張らないとなぁ」とか思ったりする(笑)。私の好みですか? ちゃんと歌っている娘が好きです。
--90年代に宇多田ヒカルやDragon Ashが台頭して起きたR&B/ヒップホップブームって、今のアイドルブーム以上の盛り上がりを見せていましたよね。あの流れってもう一回来てもおかしくはないと思いません?
滴草由実:うん。それは思う。
--で、あのブームを起こした宇多田ヒカルやDragon Ashも、それまで日本で鳴ってない音楽だったじゃないですか。そういう意味では、滴草由実が今の時代に合わせるんじゃなく、新しいものを打ち出していくって正しい選択なのかなって。
滴草由実:私もあのときのような流れがまた来ると思うんですよね。時代は回ってるし。だからアイドルの流れもまた来たんだろうし、でもそこには波を起こさないといけないから、また新たな波を作る。だからいろいろ提案していかないといけないし、その最初のきっかけというか、流れを変えるぐらいの人になりたいというか、作品をつくりたいっていうのは『A woman's heart』の制作のときから思っていました。
--抽象的な話になっちゃいますけど、ひとつひとつの曲やアルバムって波紋としては小さいかもしれないけど、みんなが諦めずに波紋を作り続けた先にブームって起きるのかなって思うんです。ブームが起きたら起きたで今度は似たり寄ったりのものが増える問題もあるんですけど(笑)。
滴草由実:そうなんですよねー。
--でも最初の一撃って“右へならえ”のものではない。
滴草由実:そうですね。まぁその分「良い」って言ってくれる人もいれば、「え?」みたいな反応をする人も出てくると思うんですけど、それはそれで別にいいのかなって。
--驚かそうとする感覚って重要ですよね。
滴草由実:「面白い」とか「なんか変!」でもいいし!
--極論言うと「気持ち悪い」でもいいですよね。
滴草由実:そうそう! 気持ち悪くても「なんだこれは?」ってなれば面白い。この前も「ハエの音入れません?」って言いましたもん!
--(笑)
滴草由実:スタジオにハエが入ってきたんですよ。それで「マイク!マイク!」ってとりあえず録ってみたいと思って。それを音として盛り込んだら面白くなるかもしれないじゃないですか。私、絵も描くんですけど、絵とかデザインにもありふれた定番はあって。でも見慣れたものはスルーされるし、誰にも想像がつかないようなものだったり、意外とどシンプルなものだったりが注目されたりする。そういう感覚はものづくりの中ではすごく大事なんじゃないかな。
--その今の感覚に影響を与えたものって何だったんですか?
滴草由実:『A woman's heart』の制作を始めた頃、新しいものが作りたくていろいろ試していて。新しい音楽性、新しい滴草由実であっと言わせられるものが作れるのかって。で、自分以外に惹かれるアーティストが出てきて、それはジェネイ・アイコとウィークエンド。聴いたときに「あ!」っていう感じがあって、「こういう作り方もあって、こういう表現もありなんだ!」って。それで凝り固まっていた価値観から外れて、良い意味で枠から外れたものを作ろうと思ったんですよね。それをテーマにしたら気持ちがラクになったし、作るのが楽しくなってきた。凝り固まっているときはツラかったんですけど。「あ!」っと言わせるものを作っているときって、作っているほうもすごく楽しくてワクワクするじゃないですか。
--分かります。
滴草由実:だから楽しくって仕方なかったです。とにかく。だって、自由だからどんな風にも形を変えられるし。何かを試すときも、ちょっとの差をつける感じじゃなくて、一回振り切ってみたものを作ってから「じゃあ、こっちがいいね」って一番良い形に落とし込んでいく。
滴草由実ライブ情報
滴草由実『#10 story LIVE』
8月23日(土):Knave(大阪)
開場 17:30 / 開演 18:00
9月6日(土):TSUTAYA O-nest(東京)
開場 17:30 / 開演 18:00
リリース情報
#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~
- 2014/06/11 RELEASE
- [VNCM-9022/3(CD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
異彩を放ちたい。ブランドまで作っちゃうぐらいになりたい。
--さっきのハエの音の話もそういうことですよね。
滴草由実:意外と何かの音と合わせたら面白くなるかもしれないし。
--「凄い美しいノイズが生まれた」みたいな(笑)。
滴草由実:そうそう! 独特の世界観を作るかもしれないし、それは振り切ってやってみないと分からないじゃないですか。
--自分が再びこうして歌い始めたからには、今のシーンというか、日本のリスナーたちに一石投じたい想いは強い?
滴草由実:投じたいですね。投じれるようなものを作らなきゃいけないと思いますし。今も新たな曲を作っていたりするんで、そこは意識していたい。
--どんなアーティスト、歌い手で在りたいと思ってるんですか?
滴草由実:ベストアルバム『#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~』の色を黒にしたんですけど、絵の具っていろんな色を足すことで変わっていくけど、黒は黒にしかならない。自分の音楽性的にも、誰のどの色にも染まらない、唯一無二な存在、歌い手でありたいなってすごく思います。
--今の滴草由実が音楽で叶えたい夢や目標って何だったりするの?
滴草由実:日本だけじゃなくて世界に向けて発信出来たらなって。今、作っている曲たちの世界観が海外のフェスでどう受け止められるのか。そこで表現をどっかーん!ってしてみたい(笑)。
--その為の一歩でもあると思うんですが、6月11日に初のベストアルバム『#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~』をリリースします。 実際はどのようや経緯で発売することになったんでしょうか?
滴草由実:私は7月2日がデビュー日なんですけど、10周年であるこの機会にベストアルバムを出さないかという話が来て。それは過去の曲を聴いてもらえる、触れてもらえるチャンスでもあるので、すごく有難いなと思って。で、だったら過去の曲をただ詰め込んだものにするんじゃなくて、今の、新たに歩き出した滴草由実の音楽をまず聴いてもらえる流れにして、そこから過去の作品にも触れてもらう流れが出来たらいいなと思って。だから前半には新曲やリアレンジバージョンを持ってきていて。
--リアレンジや再レコーディングする上で過去の音源を改めて聴いたと思うんですが、その振り返る作業の中でどんなことを感じましたか?
滴草由実:やっぱり過去の曲を歌うと、その当時の想いとか情景とかすごく浮かんでくるんですけど、そこには新たな想いも重なるし、過去にはなかったエネルギーも絶対表現したかったんです。体にすごく染み付いちゃっていた歌い方を一回取っ払って、「新曲を今から作ります」みたいな気持ちで作って。なので、昔の音源は一切聴かなかったです。多分引っ張られると思ったんで。今回は「今の私が歌ったらどうなるか?」っていうことだけを考えて作り直しましたね。結果、昔よりパワフルなものになりました(笑)。
--デビュー当時の自分ってどんなアーティストだったと思いますか?
滴草由実:うーん……あんまり心を開かない女の子でしたね。強がっていた部分もありつつ、でも中途半端な気持ちでは始めてなかったんで、そのときからいろんな想いを抱えながらやっていて、良い意味でも悪い意味でも拘りが強かった。自分の意見とかはすごく……いろいろ知らないことも多かった分、自分を信じるしかなかったんで、泣きながら「絶対こっちがいい!これしかないんです!」みたいな(笑)。今見たら「もうちょっと肩の力抜いてもいいよ」って言いたくなるぐらい。
--今作には新曲も収録されていますが、MVも公開された「Rainy」はどんな想いやイメージから構築していった曲なんでしょうか?
滴草由実:先にトラックをもらって、すごく繊細で綺麗な曲が出来そうだなと思ったので、たまたま雨が降っていて、サビに入ってからの響きとかで「Rainy」っていう言葉が出来てきたんですけど、大人になるといろんなことを押し殺したりするじゃないですか。でも時には何かに身を任せて気持ちを吐き出したり、ただ出すっていうことだけでも大事なんじゃないかなと思っていて。で、この曲の場合は雨に身を任せて、押さえていた気持ちを溢れさせる。雨によって、それまで忘れられなかった思い出とか切なさを洗い流す。そういうイメージで作った曲です。
--初ベストアルバムの発表後は、どうこの音楽シーンで戦っていこうと思ってますか?
滴草由実:挑戦していきたい。独特な世界観とか表現とかって結構大げさなぐらいやらないと、感じてもらえないところもあるので、それはどんどんやっていきたいです。あと、今ないものも作るんですけど、メロディーや歌といった軸に関しては普遍的なものであったり、ちゃんと伝わるもの。それは意識していたい。発信したものがちゃんと届かないと意味がないので。でもカラーとしてはいろいろ挑戦して……異彩を放てたらいいなって思ってます(笑)。あんまり型に捕らわれず、でもどんな歌をうたっても「滴草由実だな」みたいな存在になれたらなって。そういうジャンルというか、ブランドまで作っちゃうぐらいになりたい。
滴草由実ライブ情報
滴草由実『#10 story LIVE』
8月23日(土):Knave(大阪)
開場 17:30 / 開演 18:00
9月6日(土):TSUTAYA O-nest(東京)
開場 17:30 / 開演 18:00
Music Video
リリース情報
#10 story ~Best of Yumi Shizukusa~
- 2014/06/11 RELEASE
- [VNCM-9022/3(CD)]
- 定価:¥3,780(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
#10 story ~BEST OF YUMI SHIZUKUSA~
2014/06/11 RELEASE
VNCM-9022/3 ¥ 3,850(税込)
Disc01
- 01.Rainy
- 02.don’t u wanna c me <oh> tonight? ~ReArr ver.~
- 03.take me take me ~ReArr ver.~
- 04.I’m in Love (featuring Wyclef Jean)
- 05.証
- 06.I still believe ~ため息~
- 07.Missing you
- 08.心はいつも Rainbow Color
- 09.Lucky Girl
- 10.時よ
- 11.花篝り
- 12.眠れぬ少女
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