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クリス・デイヴ徹底解説
ヒップ・ホップ界随一のドラマー、クリス・デイヴ。ロバート・グラスパー・エクスペリメントでの活動、マックスウェル、ディアンジェロのツアー・メンバーとして活躍するなど、現在ヒップ・ホップシーンで若手最高峰のドラマーとして知られる。一度見た者の目と耳を釘づけにする超絶テクニックは、名だたるアーティストが絶賛。今年発表されたクリス・デイヴ&ドラムヘッズのミックステープにはモス・デフ、ロバート・グラスパー、サンダー・キャットといったアーティストが参加し大きな話題を呼んだ。そんな彼のドラム・テクニックの特徴、経歴、そして様々なアーティストとの人脈を徹底解説!
ビルボードライブ東京公演は6/6(金)、大阪公演は6/7(土)。大阪公演には、今回の解説者でもあるDJ大塚広子がオープニングDJとして登場するので、こちらも要チェック。
新世代のキードラマーとしての特徴
クリス・デイヴの公演を今度こそは、と思っている方はきっと多いだろう。だって今が絶好の時期なのだ。2012年はトリオでのライヴ、前回は2013年9月、自身のグループ、ドラムヘッズでの公演だった。また彼の最大のキーマンであるケニー・ギャレット来日の際、ビルボードライブ東京のステージでゲスト参加したこともあった。
近年のライヴでは、J・ディラ から、ジェイムス・ブラウン 「Give It Up or Turn It Loose」、フェラ・クティ「Zombie」、ウェイン・ショーター(マイルス・デイビス)「Nefertiti」、ハービー・ハンコック「Actual Proof」をカヴァー。まさに自分のDJセットのようなダンスミュージックが並び、クラブで共有するのと同じ感覚が嬉しかった。ただそれは単純なクラブミュージックではなく、ハイレベルな技術に裏付けられたもはや新しい次元のやり方で、ドラムをビートであることから解放し、現代の自由なジャズのドラミングをダンスミュージックの中で活かしたものだった。
▲「Actual Proof」ハービー・ハンコック カヴァー
▲JAZZ THE NEW CHAPTER
~ロバート・グラスパーから
広がる現代ジャズの地平
本年出版されたガイドブック「JAZZ THE NEW CHAPTER~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平」より引用させて頂きながら、まずクリス・デイヴの特徴に迫ってみよう。なぜ彼がジャズとヒップホップのキーワードをもって、新世代のキードラマーとして今最大の話題性を保持しているかについてだ。
まずジャズとしてみてみると、いわゆるジャズのソリストを中心に展開していく音楽とは異なるタイプである。繰り返されるベースのリズムやハーモニーと、R&Bのようなグルーヴに徐々に変化を加えていき、長い時間をかけて音楽的なテンションを高めていくというアプローチによるものだ。ただ、トニー・ウィリアムスを想起させるドラミングを随所に出すなど先人達の特徴を巧妙にプレイしたりもする。彼は間違いなくジャズのシーンのなかでも、人並み外れたテクニックを持っているのだ。
さらにヒップホップサイドから見てみると更に特徴が浮き彫りになる。これまでのジャズの超絶技巧のドラマーは、それを象徴するような楽曲や、機材と伴って巧みだとされてきた。しかし彼は、全く別の方法でその技を表現している。彼の場合、自身の持つアカデミックかつ高いレベルのテクニックで、ヒップホップの文脈を通して音が描写される。それは、これまでの“抜ける”(=サンプリングできる)ブレイクを叩くことではなく、ターンテーブルを操るDJの二枚使いが自然にずれてしまうことや、サンプラーのボタンを指で押した直後の音の出方を、テクニックとして完全に人力で再現するという目標をもってやっているところにある。それをストイックに完璧なジャズドラムとして取り込んだのはきっと世界中で彼しかいなかった。
ビルボードライブ公演情報
クリス・デイヴ & ドラムヘッズ
日時:2014年6月6日(金)
会場:ビルボードライブ東京 ⇒詳細はこちら
日時:2014年6月7日(土)
会場:ビルボードライブ大阪 ⇒詳細はこちら
大阪公演にはオープニング・ステージにDJ大塚広子が登場
クリス・デイヴの経歴、人脈
次に彼の経歴を駆け足で辿ってみよう。
クリス・デイヴは、1968年テキサス州、ヒューストン出身。幼少期から教会で演奏を始め、父親の影響もありジャズを学ぶために名門パフォーミング&ヴィジュアル・アーツに進学する。出身地ヒューストンは、ジャマイア・ウィリアムス、マーク・コーレンバーグ、エリック・ハーランド、ケンドリック・スコット等今注目されているドラマーを生んだ土地で、それぞれが同じようなコンペティションを勝ち抜いてきた。お互いの実力をしっかりと評価してくれる土壌があったのだ。しかし、クリスは、いまでこそジャズとの関わりのなかで語られ、ケニー・ギャレットやロバート・グラスパーのバンドメンバーで知られるが、それ以前にヒップホップ、R&B界隈の人気ドラマーだった。進学したハワード大学があるワシントンでジャム&ルイスに出会い、90年代からミント・コンディションで活動を始める。
2000年にかけてメアリー・J. ブライジや、それ以降もトニ・ブラクストン、マックスウェル等R&B界隈の作品に参加、近年では2011年最大のヒット、アデルの『21』で、リック・ルービン(ビースティ・ボーイズやRun-D.M.C.をプロデュースしたデフ・ジャム・レコードの創始者。現在コロムビア・レコードの共同社長)が手がけた楽曲にも参加して脚光を浴びている。またロサンゼルスの Sa-Raや、サンダー・キャットとの交流もあり、共に来日もしている。近年は2012年のツアーで約11年ぶりの復活となったディアンジェロのツアーバンドにも参加。ピノ・パラディーノ(b)との二人三脚で同界隈でのリズムキーマンとして最重要の存在となっている。
一方ジャズ人脈との接点は、ケニー・ギャレットとの出会いが大きい。ケニーがマイルス・デイヴィス・グループに参加していた頃、同バンドメンバーだったフォーリーの紹介で知り合い、1999年、ケニー・ギャレットの『Simply Said』(1999年)に起用されたことが大きなターニグポイントになった。2000年代に入り、音楽の主流がストレートアヘッドなジャズから大きく変わる転換期に、ケニーも今までとは違ったエッセンスを求めてクリスを起用しジャズの未来を印象づけた。彼の独特の抜けのいいドラムがこの時点で完成されている。
さらに、M-BASE派出身のベーシスト、ミシェル・ンデゲオチェロと組んだことにより、更にジャンルの壁が崩される。彼女の描く多彩なリズムの変化とポリリズムは、彼の才能を非常にうまく開花させた。
?そして現在における彼の注目度は2012年ヒットを遂げたロバート・グラスパー『Black Radio』で一気にヒートアップした。2013年の次作『Black Radio 2』ではディアンジェロのラブコールによるツアー参加もあってか参加に至らず、ファンから嘆きの声も多くあったほどだ。(グラスパーとは2009年の『Double Booked』以降の共演)
ケニー・ギャレット、そして自分自身が考えるクリス・デイヴのスタイル
最後に、ケニー・ギャレットの言葉と、彼独自の発言を並べてみよう。クリス・デイヴというドラマーの特徴やパーソナリティーも見えてくる。
ケニー・ギャレット:「本当に音楽を愛しているならあらゆる音楽に対してオープンにいるべきだと思う。クリスには、ファンクのスタイルではできなかったことがあった。ファンクは定型なビートを崩すことは許されない。だけどジャズは即興演奏の幅が広いからリズムやテンポをちょっとスリップさせてみたりもできる。そこで彼は自分のスタイルを完成させていった。ジャズはミュージシャンのための自由な乗り物だしいろんな方向へ進めるんだ。」
クリス・デイヴ:「僕はいろんなジャンルの音楽をすべて自分でやってしまおうとずっと考えていたし、実際に今それをやっている。演奏するときは画家が何も考えずに絵を描くように僕も何も考えずに叩くんだ。一心不乱に、感じるがままにだ。いつだってね。」
大塚広子(DJ/ライター)
ディスコグラフィー紹介
最新作は彼のホームパーページからフリーダウンロードできる「Mixtape」。気のおける仲間たちと形式にとらわれず自由に作り上げたプロジェクトで23曲入り。
簡単な登録だけで、アルバムジャケットやクレジットデータもダウンロードできる。
http://chris-dave.com/download-drumhedz-mixtape/
ビルボードライブ公演情報
クリス・デイヴ & ドラムヘッズ
日時:2014年6月6日(金)
会場:ビルボードライブ東京 ⇒詳細はこちら
日時:2014年6月7日(土)
会場:ビルボードライブ大阪 ⇒詳細はこちら
大阪公演にはオープニング・ステージにDJ大塚広子が登場
ブラック・レディオ
2012/02/22 RELEASE
TOCP-71225 ¥ 2,409(税込)
Disc01
- 01.リフト・オフ feat.シャフィーク・フセイン/マイク・チェック
- 02.アフロ・ブルー feat.エリカ・バドゥ
- 03.チェリッシュ・ザ・デイ feat.レイラ・ハサウェイ
- 04.オールウェイズ・シャイン feat.ルーペ・フィアスコ&ビラル
- 05.ゴナ・ビー・オーライト(F.T.B.) feat.レディシ
- 06.ムーヴ・ラヴ feat.キング
- 07.アー・イエー feat.ミュージック・ソウルチャイルド&クリセット・ミッシェル
- 08.コンシークエンシーズ・オブ・ジェラシー feat.ミシェル・ンデゲオチェロ
- 09.ホワイ・ドゥ・ウィー・トライ feat.ストークリー・ウィリアムズ
- 10.ブラック・レディオ feat.モス・デフ
- 11.ヘルミオーネへの手紙 feat.ビラル
- 12.スメルズ・ライク・ティーン・スピリット
- 13.トゥワイス (日本盤ボーナス・トラック)
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