昨年はデビュー30周年記念公演＠ビルボードライブが大きな話題を呼んだ野宮真貴が、2013年公演のテーマに掲げたのは「野宮真貴“渋谷系”スタンダード化計画」。時代を超えて世界中で愛され続ける渋谷系の名曲、そして、それらのルーツとなった名曲の数々を、元祖渋谷系の女王自らが歌い、永遠のスタンダード・ナンバーとして世界に向けて発信するという壮大なプロジェクトでした。

Live Photo by YOSUKE KAMIYAMA

　まずは、このスペシャルライブのセットリストを、公演のプロデュースを手がけた音楽家・坂口修（O.S.T. INC.）によるライナーノーツ「野宮真貴“渋谷系”スタンダード化計画書」（※当日会場にて配布）をもとに、全曲ご紹介します。（★は坂口氏のライナーノーツより引用。敬称略。）

▲KEITA MARUYAMA 2013-2014 AW COLLECTION [VIDEO]

　ショーのオープニングを飾ったのはDREAMS COME TRUEのステージ衣装やJALの新制服も手掛けているファッション・デザイナーKEITA MARUYAMA 2013-2014秋冬コレクション・ムービー。このコレクションのために、野宮は小沢健二の「ぼくらが旅に出る理由」をカヴァーし、映像にも出演。このプロジェクトへの参加も「野宮真貴“渋谷系”スタンダード化計画書」を始めるひとつのきっかけになったと、野宮真貴本人が語っています。

　1993年発表、ピチカート・ファイヴの6枚目のシングル。言わずと知れた超代表曲のイントロとともに、鮮やかなドレスを身にまとった野宮真貴がオンステージ。まさに“渋谷系”のアンセムといっても過言ではないこの曲は、ビブラヴォンを取り入れた2013年版アレンジで華やかに披露されました。

　「渋谷系といえば、この人を忘れてはいけません。」というMCに続いて歌われたのは、コーネリアスこと小山田圭吾が1994年に発表した1stアルバム『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』収録曲「The Love Parade」。この曲に野宮がコーラスで参加していることは、ファンの間では常識ですね。

　今回の企画のきっかけとなり、また“渋谷系”の生みの親といっても過言ではないバート・バカラック初期の作品。1963年にイタリア人女優ソフィア・ローレンがフランス語の「Donne-Moi Ma Chance」というタイトルでカヴァーし、アレンジをアルマンド・トロヴァヨーリ（これまた“渋谷系”を代表する伊映画『黄金の七人（1965年）』の音楽で知られています）が手掛けていることで注目されました。

　今回お手本としたのは、それをシャンソンとして取り上げた越路吹雪のヴァージョン。1964年7月、先日逝去された岩谷時子訳詞で「サン・トワ・マミー」のカップリングとして東芝音楽工業からリリースされた記念すべきバート・バカラック日本語カヴァー最初期の曲。1967年の大晦日には第18回NHK紅白歌合で歌われています。

　バート･バカラックが1963年7月にソロ・デビュー・シングル「サタディ･サンシャイン」をリリースしたのはN.Y.のKappレコード。その約半年前の2月に同社の看板アーティスト、ルビー・アンド･ザ・ロマンティックスによって全米チャートNo.1の大ヒットになっていたのがこの曲です。 　発表されてからすぐに多数のアーティストが挙ってカヴァーし、カーペンターズ（1973年5月）やフランキー・ヴァリー（1975年10月 全米チャート11位）、最近では故エイミー・ワインハウス（2011年12月）までもが時代を越えて取り上げました。

　元祖ソフト・ロックともいえるボサノヴァ風の奇跡の名曲で、作詞のボブ・ヒリアードは「プリーズ・ステイ」「エニー・デイ・ナウ」「恋するメキシカン」等、1960年代初期の楽曲でバート・バカラックとパートナーを組んでいます。（バカラックにR＆Bの影響を与えたのは彼なのかも知れません）作曲/アレンジのモート・ガーソンは、“渋谷系”再評価アーティストの代表格、ロジャー・ニコルズ・トリオのデビューにも携わり、1966年5月の彼らの1stシングルではこの曲を取り上げ、アレンジを再び自ら手掛けるという力の入れようでした。

　日本では、オリジナル版がルビーとロマンティクス名義で1963年4月に東芝音楽工業から「燃える初恋」のタイトルで発売され、1992年10月には、小西康陽プロデュースの井上睦都実の1stアルバム『恋は水色』で日本語詞によってカヴァーされています。

　1977年春の資生堂CMソングで、タイアップ・ソングがヒットした曲のハシリです。アレンジャーは“渋谷系”に大いに影響を与えたミュージシャン・プロデューサー･ユニット、ティン・パン・アレーの松任谷正隆（他には細野晴臣、鈴木茂、林立夫が参加）。演奏も、ティンパンを中心とするメンバーによるものでした。

　尾崎亜美は、1976年3月にポスト・ユーミンとして同じ東芝EMIからデビューし、スタッフも重なっていて、荒井由美御本人にも妹分として可愛がられています。後には、これまた“渋谷系”ルーツのキーとなる加藤和彦率いるサディスティック・ミカ・バンドのベーシスト小原礼と結婚し、彼女はティンパン＆ミカバンド両人材と交差する貴重なアーティストとなりました。

　渋谷系のルーツとなった3曲を披露し終えたところで、衣装チェンジのためにいったんステージを降りる野宮。その間、バンドメンバーによってこのライブのプロデュースを手がけた坂口修（O.S.T. INC.）が音楽を担当したドラマ『時効警察』『熱海の捜査官』、映画『インスタント沼』テーマ曲が「監督：三木聡メドレー」と題して披露されました。

　1977年11月、ティン・パン・アレー在籍時に松任谷正隆のソロ・アルバム『夜の旅人』で発表されたものがオリジナル。後に作詞を担当した奥方である松任谷由実が『水の中のASIAへ』（1981年5月 東芝EMI）でセルフ・カヴァーし、両者共、殆ど同じミュージシャンによって演奏されているので聴き比べてみるのも面白いでしょう。

　演奏しているティン・パン・アレーとは、はっぴいえんどを解散したベーシストの細野晴臣とギターリストの鈴木茂が、ドラマーの林立夫、キーボーディストの松任谷正隆と組んだミュージシャン＆プロデューサー・ユニット。最初はキャラメル・ママという名前で活動し、レコーディングに1年かけた荒井由美のデビュー・アルバム『ひこうき雲』（1973年11月）を皮切りに、吉田美奈子、大滝詠一、小阪忠、矢野顕子、大貫妙子といった“渋谷系”に影響を与えたアーティスト陣の作品全てに何らかのカタチで参加しています。

　ユーミン楽曲であり、ご主人の松任谷正隆が作曲していてティンパン色が一番強いということもあり取り上げてみました。

　村井邦彦のベスト・パートナー、作詞家：山上路夫の作品は、40年以上たっても全く古くならず、生まれた時からスタンダード・ナンバーなのだとつくづく思います（小西さんが影響を受けるのもよく分かりますね）。また、作曲の渋谷 毅はジャズ･ピアニストとして有名ですが、コマーシャル音楽や歌謡界でも大活躍。そのセンスのよい洋楽ベースの作風はまさに“渋谷系”に直結していて、事実、小沢健二の3rdアルバム『球体の奏でる音楽』（1996年10月 東芝EMI）では彼の演奏が全面的にフィーチャリングされていました。

　同じ由紀さおりの「夜明けのスキャット」（1969年3月 作詞：山上路夫）は、いずみたく作曲ですが、渋谷 毅がアレンジをしたからこそ永遠となり、一昨年、ピンク・マルティーニと共にカヴァーされ、昨年はNHK紅白歌合戦で43年ぶりに取り上げられたのも当然の事でしょう。そんな無敵のコンポーザー・チームが手掛けた「生きがい」（1970年11月 東芝音楽工業）こそ、今聴かれるべき元祖“渋谷系”の音楽ではないでしょうか？

　今回の企画に繋がる最初のミーティングの時、打ち合わせ場所の近くにあるレコード店で大好きなこの曲の超美品シングル盤をたまたまゲット。早速、野宮さんとスーパー・エグゼクティブ･プロデューサーのK氏にお見せしたところ、偶然にもおふたりのフェイバリット・ソングで、この曲に“渋谷系”を感じるという共通認識まで確認できたのには驚きました。

　野宮真貴と目指すのは、第２の由紀さおり？（いえいえ、野宮さんは既に世界へ進出していましたね）。つまり、この曲のお陰で我々の「渋谷系スタンダード化計画」は具体的にスタートしたのです。

　日本で“渋谷系”の元祖というと村井邦彦さんになるのではないでしょうか？ 作曲家だけではなく、プロデューサーとして赤い鳥～ガロ～ユーミンを育てて、レーベル～レコード会社アルファ・レコードを設立。早くからティン・パン・アレーを起用し、その発展形のYMOで日本人アーティストを全世界デビューさせています。

　また、最初から洋楽思考で曲を作り、作詞家パートナー山上路夫との名作の数々は歌唱法も含め小西康陽に多大な影響を与えました。 この曲、出だしのメロディ・ラインが1969年10月にリリースされたバート・バカラック作曲の「雨に濡れても」によく似ていますが、実はこちらの「或る日突然」の方が先に世に出ているのです（1969年5月 東芝音楽工業）。ちょうどその頃、村井邦彦はキャロル・キングの楽曲などの音楽出版権の日本での代理店を始めていました。当時バート・バカラックが所属していたA＆M（後のＹＭＯのアメリカでのレコード会社）の人脈も近くにいて、早くから自身の楽曲やアーティストを海外に売り込んでいたそうなので、この楽曲もアメリカに届けていたに違い有りません。もしかするとそれを誰かがバカラックに聴かせて…、なんてことも単なる妄想では終わらないかも知れませんね。

　ショーもいよいよ終盤、再び90年代の“渋谷系”を代表するナンバーとして披露されたのが、1991年にリリースのオリジナル・ラブの2ndシングル「月の裏で会いましょう」。リアルタイムで“渋谷系”ムーブメントを体験してきたであろうオーディエンスからは、驚きと大歓声が！野宮真貴の艶のある美しい歌声で、オリジナル・ラブの名曲が新たな“渋谷系”スタンダードとして生まれ変わった瞬間でした。

　そして本編のフィナーレを飾ったのは、先述の通り、この「“渋谷系”スタンダード化計画」のきっかけとなったこの曲。ピチカート・ファイヴとならび、“渋谷系”を代表するアーティストとして、フリッパーズ・ギターの二人（小山田圭吾＆小沢健二）を外すわけにはいきません。1996年発表の「ぼくらが旅に出る理由」は、小沢健二のソロ12作目となるシングル。最後のMCでは、改めて、この曲の深い歌詞が胸に沁みたと語り、その内容を交えながら愛するファンのみなさんへ“しばしのお別れ”を告げました。

　鳴り止まない拍手と熱気に包まれた会場に再びバンドメンバーが登場し、軽快なあのリズムを奏で始める…「トゥイギー・トゥイギー」を皮切りに、怒涛のピチカート・メドレーのはじまり。「ハッピー・サッド」「万事快調」「ベイビィ・ポータブルロック」「恋のルール、新しいルール」「プレイボーイ・プレイガール」と代表曲を披露、再び「トゥイギー・トゥイギー」でフィナーレ。オーディエンスは立ち上がり、一緒に踊って、歌って、最高に華やかでハッピーな空気に包まれる中、「“渋谷系”スタンダード化計画」のスタートとなる、スペシャルな夜は幕を閉じました。

　デビュー以来、渋谷系の女王のみならず、ファッションの女王としてもトップに君臨し続ける野宮真貴。洗練されたデイリー・ファッションもさることながら、とびきりゴージャス＆キュートなステージ・ファッションは見ているだけでも心が躍ります。今回のライブでも、約1時間半のショーのなかで3パターンの衣装を披露してくれました。衣裳デザインはすべてKEITA MARUYAMA！すべてのステージ・ファッションを、野宮真貴本人のコメントとともにご紹介します！

今回の衣装は、全体的に“1920s Flapper Girl”をイメージしました。オープニングに流した、KEITA MARUYAMA 2013-2014autumn＆winter collectionのショートムービーの中で演じた“歌姫”も、チャールストンを踊るシーンやフラッパーヘアにダークリップなど、“1920s Flapper Girl”をイメージしています。

　ショートムービーでチャールストンを踊るシーンで着用していた赤×黒フリルの印象的なドレスを、スクリーンから抜け出して来たかのような演出で、同じドレスをステージでも着用しました。バラのヘッドドレスは、スティーブン・ジョーンズ。

　映画「華麗なるギャツビー」を思わせる20sテイストのドレスを、白のフォックスの襟巻きでゴージャスに。ヘッドピースはオリジナル。

　アンコールのピチカート・ファイヴ・メドレーには、動きのあるシルクサテンのチャイナカラーのポンチョで、足を思いきり出してみました。赤毛のウイッグは、90年代渋谷系ピチカートの私のトレードマークでもあったので、あえて着用。赤毛の色と、衣装のブルーのコントラストで90年代を思い起こさせるコーディネートに。ヘッドドレスは、スティーブン・ジョーンズ。

　今回の公演のもうひとつの目玉となったのが、公演限定オリジナルカクテル。最近「植物療法士（フィトテラピスト）」の資格を取得したという野宮が「女性力アップ」をテーマに“恋するカクテル”をプロデュース。気分を高めたり、美肌効果もあるという「ローズウォーター」を使用した女性に嬉しいオリジナルカクテル、その名も「東京は夜の七時」。

野宮真貴公演限定で提供されたこのカクテル、あまりの人気にソールドアウトしてしまったステージも…ということで、ここでは会場で「東京は夜の七時」をお楽しみいただけなかった方のために、そのレシピを特別に公開しちゃいます。

《用意するもの》
テキーラ：30ml
オーガニックアガベシロップ：15ml
フレッシュライムジュース：10ml
ソーダ水：適量
クラッシュアイス：適量
ローズウォーター：5ml
ベルローズ：1つ

※テキーラはドン・フリオ、パトロンといったロスアルトス地方の銘柄がまろやかでお薦めです。

《作り方》
　クラッシュアイスを入れたグラスに、テキーラ、オーガニックアガベシロップ、フレッシュライムジュースを注ぎます。黄金色のアガベシロップが他の材料に溶けて見えなくなったら、ソーダを注いで軽くステア。（お酒が苦手な方は多めに割ると良いですよ！）

　最後にローズウォーター(5ml)を静かに落として、ベルローズを飾ったら、見た目も香りも美しい“恋するカクテル”の完成です！