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楽園おんがく Vol.7:きいやま商店インタビュー
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。今回は沖縄・石垣島出身の3人組ヴォーカル・グループ きいやま商店のインタビューをお届けします。
今や沖縄だけでなく、全国区で人気沸騰中のきいやま商店。石垣島出身の兄弟と従兄弟関係にあたる3人のヴォーカル・グループだ。
その一風変わった名前から推測できる通り、彼らの音楽もとてもユニーク。方言をたくさん使った言葉使いや、身内ネタ満載の歌詞、そしてありとあらゆるジャンルの音楽を取り入れたごった煮サウンド。それらが一体となって、テンションの高い音楽を作り上げている。また、コントを交えながら展開する抱腹絶倒のライヴも評判で、沖縄だけでなく全国でじわじわと動員記録を塗り替えつつあるのだ。
▲今年8月リリースの最新アルバム『ダックァーセ!』
そんな彼らの最新アルバム『ダックァーセ!』も、とにかくバラエティ豊か。元E-ZEE BANDのイクマあきらをプロデュースに迎え、ラッパーのGIPPERから歌人の俵万智まで多彩なコラボレーションを行うだけでなく、NHK「みんなのうた」や沖縄ローカル番組のテーマソングなどタイアップも万全。また、初期作品をコンパイルしたアルバム『きいやま商店』も、全国流通が始まっている。大ブレイクするのも時間の問題だろう。
というわけで、今回は勢いに乗りまくる3人に、きいやま商店の魅力を語ってもらった。
――まずは自己紹介からお願いします。
リョーサ:兄のリョーサです。
マスト:弟のマストです。
だいちゃん:従兄弟のだいちゃんです。リョーサとは同級生です。
――みなさん、やっぱり小さい頃から仲良しだったんですか?
リョーサ:もうどこに行くにも一緒ですよ。家も近所だったから。小さい頃の写真を見ると3人一緒のが多いです。
マスト:友達もみんな一緒だしね。
――音楽に興味を持ったのは?
リョーサ:だいちゃんがよくレコードを買ってたんですよ。歌謡曲からマイケル・ジャクソンまでいろいろ。それをみんなで回し聴きしてました。
だいちゃん:バンドをやろうと思ったのは、バンド・ブームの頃ですね。石垣の大先輩BEGINが「イカ天」のグランド・チャンピオンになったのを新聞で見たりして。
――実際に始めたのは3人一緒に?
だいちゃん:俺とリョーサは同級生だったから一緒に始めて。マストはまた同じ学年の仲間とやってましたね。
――お兄さんチームはどんな音楽を?
リョーサ:中学生でいきなりオリジナルです。郵便局でパインの歌を募集していたんですよ。それに応募するのをきっかけにバンドも組んで曲も作ったんです。カヴァーもしてたんですけどオリジナルがメインです。
だいちゃん:そのパインの歌は名曲ですよ(笑)。当然、コンテストは受からなかったけど、同級生の間では話題になりました。でもオリジナルやってたのは俺らくらいでしたね。
――マストさんは?
マスト:俺も同時期に始めたんですけど、やっぱりオリジナルです。だから注目を浴びました。
リョーサ:石垣島ってライヴハウスが無いんですよ。だから発表できる場は文化祭か石垣島祭りくらい。年に3回くらいしかチャンスがないので、オーディションやるんです。3バンドしか出れないところに20バンドくらい集まるから大変ですよ。
マスト:でもそんだけバンドあるのに、ドラマーは3人くらいしかいなかったけど(笑)
――その後の3人の活動は?
だいちゃん:バンドやりたかったから、高校辞めて東京に行きました。音楽学校に通ってそこの仲間とやってるうちに、石垣の同級生が続々と上京してくるわけですよ。それで地元の仲間とバンド組んでました。
リョーサ:俺は福岡の大学に行って教員免許を取ったんですけど、働かないでバンドやってました。親に隠れて(笑)
マスト:俺はだいちゃんを追いかけて上京して、家に居候して(笑)。それでやっぱり石垣の仲間とバンドを始めました。
――3人が音楽を通じて再会したきっかけは?
リョーサ:ずっと福岡でバンド活動してたんですけど、メンバーが海外に行くというので、俺も一度石垣に帰ろうと考えたんです。その時に、そういえばこの3人はみんなずっと音楽やってるから、「一回だけ一緒にやろうよ」って東京まで行ったんです。で、居酒屋で30人くらい集めて一夜限りのライヴをした時に「バンド名どうする?」って話になって。「一回だけだからばあちゃんの店の名前でいいんちゃう?」ということで、きいやま商店になったんです。
――そもそもどういう音楽を目指したんですか?
マスト:コンセプトなんて無くて、面白いことやろうや、ってくらい(笑)。身内ネタで俺らにしかわからないことを歌ったらおかしいかなと。「父ちゃんと母ちゃんが仲悪い」っていうのが一番受けた(笑)
だいちゃん:一回だけのつもりだったし、身内を笑わせようということくらいしか考えてなかったよね。
マスト:最初のそのライヴのお客さんも身内ばっかりですよ。親や親戚や同級生もわざわざライヴのために島から東京まで出てきましたから(笑)
――2010年に初のCDが出ますが、そこにいたるまでは?
だいちゃん:一回きりのライヴの後はみんなそれぞれのバンドやってたから、丸2年ぽっかり空いてるんですよ。結婚式が石垣であったら集まったりとか、ちょこちょこやるくらいで。
――定期的に続けようというバンドではなかったと。
リョーサ:まったく無い。結局、俺も島に帰らなかったし(笑)
▲2010年リリース『さよならの夏』
――で、レコーディングしようと思ったのは?
リョーサ:俺の友達が専門学校の先生だったんですけど、なぜかその学校のCMソングをきいやま商店に依頼してきたんです。それで曲作って東京でレコーディングする時に、「せっかくだから他にも録ろう」ってことになって、それぞれのバンドでやってた曲を寄せ集めてミニ・アルバム『さよならの夏』を作ったんです。
マスト:それでも、このアルバム一枚で終わりだと思ってました。記念に作りましたっていうくらいで。
――なぜ続けたんですか?
リョーサ:せっかくCD作ったからライヴ回ろうってことになって。マストのバンドがすでに全国津々浦々回ってたから、ライヴハウスにコネクションがあったんです。それで、各地行ったらどこも満員なんですよ。
マスト:なぜかわからないんですけどね。そうしたら、もう一度回ろうかってことになって、ライヴやってるうちに曲もできてくるし。その繰り返しが、未だに続いている感じです(笑)
だいちゃん:そうこうしているうちに震災があって、俺は島に帰って喫茶店やろうとしてたんですよ。内装まで済ませて。
リョーサ:俺らは、喫茶店のオープン記念に「テレビ買ってやろうよ」って話もしてたんですよ。
だいちゃん:まだ買ってもらってないけどな(笑)
マスト:でもツアー回ってるうちに、「俺ら紅白狙えるんじゃないの」って思い始めて(笑)、それぞれのバンドを休んで、きいやま商店に専念することにしようって決めたんです。
リョーサ:俺はその時まだ福岡にいたんですけど、マストからいきなり電話かかってきて、「にいにい、沖縄本島で3ヶ月合宿するぞ」って(笑)
マスト:沖縄本島で応援してもらえれば、全国に広がると思ったからね。
だいちゃん:でも、泊まるところが無くて探していたら、今の事務所が泊まらせてくれたんですよ。所属もしてなかったのに(笑)
マスト:それでその3ヶ月はライヴばっかりやって、最後は沖縄市のミュージックタウン音市場っていう大きなライヴハウスでやったら、なんと満席になったんです。新良幸人さんやTHE WALTZとかゲストもいっぱい来てくれて。で、これまた終了のつもりだったんですけど、事務所に仕事がどんどん舞い込んでくるんですよ。結局、3ヶ月の合宿が2年続きました(笑)
――曲作りのコツは?
だいちゃん:方言を取り入れるのはポイントですね。
マスト:島のおじいおばあが「これ面白い!」と思ってもらえるような曲を入れたいといいのはあります。
リョーサ:老人ホームでライヴやったことがあるんですけど、石垣の方言で歌ったらじいちゃんばあちゃんがすごい喜んでくれて。車椅子のおばあちゃんが立ち上がるくらい(笑)
マスト:ラップの曲もあるんですけど、年寄りにしかわからない言葉も使うから、めちゃ受けるんですよ(笑)
リョーサ:あと、石垣の民謡をちょっとだけ入れ込んだりもしますね。
――サウンドもいろんなことをやってますね?
マスト:こだわりがないのがいいのかもしれない。みんな好みも違うから、逆になんでも受け入れるしね。
――それぞれの好みの音は?
マスト:俺はベタベタな、どこか懐かしい感じのものが好きなんですよ。
リョーサ:俺はワールド・ミュージックが好きですね。
だいちゃん:ロックンロールとかスカとか、クールな感じのものが好みです。
――4枚目のアルバム『ダックァーセ!』も、一曲目「あがやファーナ」がいきなりソカのリズムですね。
マスト:これは、プロデューサーのイクマあきらさんにソカの曲を聞かせてもらって、すぐに「俺ら、これやります!」って決めたんですよ。
リョーサ:「ハンジてた!」っていうアフロっぽい曲があるんですけど、それをソカにしたのがこの曲なんです。1曲を2曲にするという、新しい技を身につけました(笑)
――「まるまんでぃ」はアイリッシュ風ですね。
マスト:最初はカントリーっぽい曲だったんですけど、フィドルが入ったことであの雰囲気が出せました。この曲は島のおじさんに人気あるんですよ(笑)
――GIPPERが参加した「ダックァーセ!」はイクマさんっぽさが出てますね。
▲「ダックァーセ! feat. GIPPER」[VIDEO]
だいちゃん:これはモロにイクマ・サウンドです。うちらだけでは出せない音ですね。
――そもそもイクマさんとの出会いは?
マスト:最初は、あの合宿の時にイクマさんのバースデー・ライヴに出させてもらったのがきっかけです。
リョーサ:でも、E-ZEE BANDは中学の頃にCD買ってたんですよ。それで、ファミリーマートのCMソングを作ることになった時、イクマさんに頼んでみたらピッタリ相性はまって、それ以来ですね。
マスト:だから、このアルバムは4人で作ったという感覚です。僕らの中でサウンドのイメージはあったけどなかなか表現できなかったところを、イクマさんが形にして出してくれました。
だいちゃん:まあ、俺ら投げっぱなしだからな(笑)
マスト:「また次回もお願いします」っていったら、「今度はちゃんと曲作ってこいよ」って(笑)
――NHK「みんなのうた」に使われた「カチャーシ☆ブギ」も収録されていますね。
マスト:あれは嬉しかったですね。普通はアニメーションなのに、本人が出てる映像はシブがき隊の「スシくいねえ」以来じゃないかって。
――かと思えば、「がんば」は俵万智さんが作詞した、ちょっとしんみりする曲です。
だいちゃん:俵さんは、いま石垣に住んでらして、たまたまお祭りで僕らのことを観て気に入ってくれたんです。
マスト:この曲は歌うのが難しいんですよ。ふざけた曲を歌った後に、この歌詞の世界に切り替えるのが。でも盛り上がりますね。
――ボーナストラックには、BEGINとコラボした新石垣空港のPRソング「おかえり南ぬ島」が入っています。
マスト:ずっと、きいやま商店を応援してくれてます。この曲も最初はBEGINの方に話が来たんですけど、「きいやま商店にも参加してもらおう」って声をかけてくれたんです。
リョーサ:もうびっくりですよ。俺らの憧れの先輩から、頼まれたんですから。
だいちゃん:曲が送られてきて、「石垣に住んでいる人の目線で詞を書いて欲しい」っていわれて、めちゃくちゃ緊張しましたよ。さすがに何回か直しましたね。
マスト:レコーディングは比嘉栄昇さんに歌唱指導してもらって、とても勉強になりました。
――こうして聴くと、本当にいろんなものを詰め込んだアルバムですね。
だいちゃん:いつも、きいやま商店は「バラエティに富んでますね」っていわれるんですけど、さらに幅が広がってると思います。
――ニュー・アルバムの後に、初期音源をまとめたベスト・セレクション・アルバム『きいやま商店』も発売になりました。
▲ベスト・アルバム『きいやま商店』
マスト:これから聴いて欲しいっていう気持ちもありますね。身内ネタ含めて僕らの原点だから。
リョーサ:ゆるくてちょっとテキトー感が、今聴いてもいいですね。
――あとはやっぱりライヴに来てもらいたいですね。
マスト:俺らはライヴやるためにCD作ってるようなもんですから。
リョーサ:ライヴ観て「もっと好きになった」って言ってくれる人が多いんですよ。お笑い芸人と思われていることもあるから、「ちゃんと音楽できるんだ」って(笑)
――コミック・バンドというキャッチフレーズが付けられることも多いですからね。
マスト:俺らはザ・ドリフターズを目指してるから、それは全然いいんですよ。
リョーサ:演奏はしっかりしながら、面白いことをやるっていうのがポイントです。
マスト:まあ、歌や演奏より、コントのところの反省会の方が長いしね(笑)
だいちゃん:必ず1枚のアルバムにひとネタ入れてますから。
――では、きいやま商店の目標は?
マスト:ずばり紅白歌合戦です。
リョーサ:紅白はじいちゃん、ばあちゃんも知ってるから親孝行にもなりますからね。
――話は変わりますが、みなさんにとっての“楽園おんがく”とは?
だいちゃん:最近はブラジルのサンバですね。3人ともパンデイロを買って練習してるんですよ。
リョーサ:八重山民謡の「まみどぅま」なんかも、僕らにとっては楽園のイメージですね。
――じゃあ、楽園を感じる場所は?
だいちゃん:やっぱり竹富島です。あのサイズもいいんですよね。
マスト:座間味かなあ。釣りに行って入れ食い状態だったことがあって、それ以来僕にとっての楽園になりました。
リョーサ:黒島ですね。うちのかーちゃんの故郷なので、よく連れられて行ってたんですよ。なんもないですけど、とにかく海がきれいです。民謡もいいんですよ。
だいちゃん:離島はどこもいいですね。ぜひみなさんにも遊びに来て欲しいです。
Writer
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
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