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マイケル・フランクス 来日記念特集
ジャズやフュージョン、ブラジル音楽のエッセンスを取り入れたエレガントなサウンドと、甘く囁くようなヴォーカルが魅力のシンガー・ソングライター マイケル・フランクスがまもなく来日を果たす。1977年発表の「アントニオの歌」など、洗練された楽曲でAORの先駆け的存在となった、彼の軌跡を辿る。
●マイケル・フランクス 来日公演
2013年10月28日(月)、29日(火)@ビルボードライブ東京 ⇒詳細はこちら
2013年10月31日(木)@ビルボードライブ大阪 ⇒詳細はこちら
詩的で観念的な世界が、ソフトなボサノヴァ・サウンドに乗せてウィスパー・ヴォイスで歌われる「アントニオの歌 / Antonio's Song (The Rainbow)」。これは、マイケル・フランクスが、“ボサノヴァの父”といわれるアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた楽曲で、ヘレン・メリルやサリナ・ジョーンズといったジャズ・シンガーが好んで歌い、南佳孝やUAといったJ-POPのアーティストにもカヴァーされた名曲だ。それほど派手な曲ではないのに、ここまで愛される楽曲を作り出したマイケルは、実に才能とセンスに溢れたシンガー・ソングライターといえる。一般的にAORというと、ソウルやリズム&ブルースをベースにしているのに対し、彼の場合は、ジャズ、フュージョン、ブラジル音楽などのエッセンスを取り入れた独自の音楽を作り出してきた個性派。デビュー40周年を迎えた現在も、そのスタイルはぶれることなく継続している。
1973年にアルバム『マイケル・フランクス』でソロ・デビュー
▲1976年発表の2ndアルバム『アート・オブ・ティー』
マイケル・フランクスは、1944年にアメリカのカリフォルニア州生まれ。幼い頃より、両親が好きだったスイング・ジャズを聴いて育ってきたという。そこで流れていたのは、ナット・キング・コールやペギー・リーといったポピュラー歌手であり、ジョージ・ガーシュインやジョニー・マーサーといったソングライターによるスタンダード・ナンバーだった。14歳の時に初めてギターを手にしたことでフォークやロックに目覚め、大学に入るとジャズやボサノヴァと出会うことでさらに音楽性が広がっていった。そして、大学で教鞭を執るかたわら、本格的な音楽活動をスタート。映画やミュージカルの音楽をいくつか手がけることになる。
1973年にアルバム『マイケル・フランクス / Michael Franks』で、ついにソロ・デビュー。映画音楽作家として知られるリチャード・マーコウィッツのプロデュースで、フォークやカントリーのテイストを持った力作だったにも関わらず、大きな話題となることはなかった。そこで、環境を変えて制作したのが、1976年のセカンド・アルバム『アート・オブ・ティー / The Art Of Tea』。ジャズやクロスオーヴァーの分野では飛ぶ鳥を落とす勢いだったトミー・リピューマをプロデュースに迎え、フランク・シナトラと同じレーベルであるリプライズからのリリースということもあって一気にブレイク。ジョー・サンプル、ラリー・カールトン、ウィルトン・フェルダーといったクルセイダーズのメンバーがサポートし、「エッグプラント / Eggplant」などの名曲を生み出した。
1977年に初期の傑作『スリーピング・ジプシー』を発表
▲「アントニオの歌」収録の3rdアルバム『スリーピング・ジプシー』
その勢いで、翌1977年にはサード・アルバム『スリーピング・ジプシー / Sleeping Gypsy』を発表。前作に引き続き、トミー・リピューマのプロデュースで、ミュージシャンも前作と同じような達人たちを配置。前述の代表曲「アントニオの歌」や人気曲「淑女の想い / The Lady Wants To Know」を収録したというだけでなく、ジョアン・ドナートなどをゲストに入れることでブラジル色も濃厚な作品となった。本作は、初期の傑作として今なおジャンルを超えて人気が高い。その後も、4作目の『シティ・エレガンス / Burchfield Nines』(1978年)では、スティーヴ・ガッド、ラルフ・マクドナルド、ジョン・トロペイといった一流のジャズ系スタジオ・ミュージシャンを多数起用。彼にしか成しえないジャジーでメロウなAORを披露している。
1979年の5作目『タイガー・イン・ザ・レイン / Tiger In The Rain』ではトミー・リピューマが離れ、ジョン・サイモンをプロデュースに迎える。これまで以上に、ホーン・セクションやストリングスを加えたゴージャスなアレンジと、マンドリンやバンジョーといったアメリカのカントリー的な味わいを醸し出した。1980年の6作目『N.Y. ストーリー / One Bad Habit』では再びトミー・リピューマがプロデュース。エリック・ゲイルやエディ・ゴメスなど旬のプレイヤーたちがクレジットされ、ソフト・サウンドに磨きがかかっている。
80~90年代もコンスタントに作品を発表
▲7thアルバム『愛のオブジェ』
ライヴ・アルバムを挟み、ボニー・レイットとのデュエット「淑女たちの夜 / Ladies' Nite」を収録した1982年の7作目『愛のオブジェ / Objects Of Desire』からは、シンセサイザーなどのテクノロジーを導入。前作から参加したロブ・マウンジーがプロデュースを手がけた8作目『パッションフルーツ / Passionfruit』(1983年)では、ケニー・ランキンやアストラッド・ジルベルトを招いてボサノヴァ的世界をさらにブラッシュアップ。9作目の『スキン・ダイヴ / Skin Dive』(1985年)は、ロン・カーター、スティーヴ・ガッド、デヴィッド・サンボーンといった歴代の共演者を呼び戻し、原点回帰とでもいうべきサウンドを作り上げた。10作目となった『カメラ・ネヴァー・ライズ / The Camera Never Lies』(1987年)ではソウル風味を加えるなど、新たな幕開けを予感させながら80年代を締めくくった。
90年代に入ってからも、コンスタントに力作を発表。再びトミー・リピューマと組んだ『ブルー・パシフィック / Blue Pacific』(1990年)、イエロージャケッツなどフュージョン系プレイヤーがこぞって参加し、憧れのペギー・リーとデュエットが実現した『ドラゴンフライ・サマー / Dragonfly Summer』(1993年)、オリジナル以外にアントニオ・カルロス・ジョビンやジャヴァンといったブラジルのナンバーも歌った『アバンダンド・ガーデン / Abandoned Garden』(1995年)、ヴァレリー・シンプソン(アシュフォード&シンプソン)とのデュエットが話題になった『ベアフット・オン・ザ・ビーチ / Barefoot On The Beach』(1999年)と、力作を発表し続ける。
ゼロ年代からはさすがにペースもスローになったが、ウィンター・ホリデイをテーマにした『ウォッチング・ザ・スノー / Watching The Snow』(2003年)、「アントニオの歌」のセルフ・カヴァーを含む『ランデヴー・イン・リオ / Rendezvous In Rio』(2006年)と、クオリティを落とすことなくリリースが続く。現時点での最新作『タイム・トゥギャザー / Time Together』(2011年)でも、ジェイソン・ムラーズを筆頭に、ティル・ブレナー、デヴィッド・スピノザ、チャック・ローブといった若手からベテランまで世代を超えたミュージシャンたちが、マイケルの世界に華を添えている。
日本をテーマにした楽曲も持つ親日家
マイケルは、非常に親日家のアーティストだ。その証拠に、日本をテーマにした楽曲がいくつか存在する。『シティ・エレガンス』収録の「鹿の園で逢いましょう / Meet Me In The Deerpark」は、奈良公園をテーマにしたものだし、『パッションフルーツ』収録の「東京の夜は雨 / Rainy Night In Tokyo」は、滞在時に遭遇した台風の夜を描いている。『ウォッチング・ザ・スノー』に収められている「クリスマス・イン・キョウト / Christmas In Kyoto」というジャジーな楽曲も印象的だ。また、杏里のアルバム『Angel Whisper』(1996年)では「アントニオの歌」をデュエットしているし、ユーミンのトリビュート・アルバム『OVER THE SKY』(2003年)では「あの日にかえりたい」を英詞でカヴァーしている。定期的に来日公演を行うのは、大好きな日本のオーディエンスに対するサービスであり、それを待ち望むファンが多いことも理由だろう。
「アントニオの歌」には、“絶えまなく音楽を流そう 虹にかかる光のように”という一節がある。マイケル・フランクスの音楽は、まさにそんな七色に輝く光のように感じられる。そして、永遠のスタンダードとして、これからも彼の歌声は世界中で流れ続けることだろう。
text:栗本 斉
ベスト・オブ・マイケル・フランクス
2013/12/04 RELEASE
WPCR-15340 ¥ 1,257(税込)
Disc01
- 01.エッグプラント
- 02.モンキー・シー・モンキー・ドゥ
- 03.淑女の想い
- 04.はるかなるブラジルの地 <ジョアン・ドネイトに捧ぐ>
- 05.ブルーにならないで
- 06.クッキー・ジャーは空っぽ
- 07.愛のさえずり
- 08.ジャルダン・ボタニコ
- 09.終りの時に
- 10.ベースボール
- 11.ジェラシー
- 12.うつろな恋
- 13.東京の夜は雨
- 14.ネヴァー・サティスファイド
- 15.リード・マイ・リップス
- 16.フェイス・トゥ・フェイス
- 17.カメラ・ネヴァー・ライズ
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