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上間綾乃 『ニライカナイ』インタビュー
「紅白は……うん、出ると思ってる。」
沖縄が生んだ美人唄者。万人の涙を誘う「ソランジュ」含め、生まれ、笑い、怒り、泣き、喜び、死に、帰っていく“民の謡”を詰め込んだニューアルバム『ニライカナイ』について語る。自身が歌い始めるきっかけとなった祖母との別れ、遺された孫娘 上間綾乃の想い、使命等。彼女にしか話せない、けれども誰もが共感できる“民の話”、ぜひご覧下さい。
愛する祖母との別れ「ヨンナーやりなさいよー」
--どんな夏をお過ごしですか?
上間綾乃:暑ぅございます。東京、沖縄より暑いから、蝉の鳴き声も元気ないように聞こえる(笑)。
--『ソランジュ』リリースタイミング以来2ヶ月ぶりのインタビューになる訳ですけれども、「ソランジュ」の反応はいかがでした?
上間綾乃:リリース前からお店とかでよく流れるようになって、問い合わせもいっぱいあったみたいだし、私のケータイもよく鳴るようになって(笑)。親戚とかから「聴いたよ」「流れてたよ」って。リリース後はインストアイベントとかがたくさんあって、みんなの前でこの曲を歌うようになって、すごく嬉しい言葉をかけてもらうこともあるし、歌っていたらだんだん一緒に口ずさむ人が増えてきたんですよ。それがすごく嬉しくて。
--今でも、自分で聴いてて泣いてしまったりする?
上間綾乃:します。この曲聴いて泣いている人を見てもらい泣きしたり。
--個人的には「あなたが大好き」っていうポップなフレーズがさり気なく入ってるところ、グッと来ますよね。ここだけちょっと可愛らしい。
上間綾乃:あら、恥ずかしい。「可愛い」だなんて。
--(笑)。自分ではどう思いますか?
上間綾乃:ウチナーグチでそういう気持ちを表現して歌うことはあるんですけど、標準語で「あなたが大好き」って歌うのは初めてで。そこだけ抜粋してしまうとちょっと恥ずかしい部分もあるんだけど、でも全体を通すと「あなたが大好き」がすごく自然なんですよね。
--BEGINじゃないですけど、5年、10年かかって、じわじわ広まっていきそうな曲でもありますよね。気付いたら誰もが知る名曲になってる。
上間綾乃:渾身の一曲だし、本当の気持ちだし、本当の想いだし、それは伝わると思ってます。
--一生歌っていく?
上間綾乃:もちろん。
--そんな「ソランジュ」も収録されるニューアルバム『ニライカナイ』。このタイトルにしようと思ったのは?
上間綾乃:制作期間が一年あったんですけど、アルバムタイトルはなかなか思いつかなくて。候補として“ニライカナイ”はあったんですけど、最初はピンと来なかったんです。そんな中、6月の頭に沖縄へ帰ることになって……ウチのおばあちゃんの話って前にしましたっけ?
--上間綾乃が歌い始めるきっかけ。民謡や三線の魅力を教えてくれたおばあちゃんですよね。
上間綾乃:そのおばあちゃんが85歳になって、家族でお祝いすることになったんですよ。本当は88歳の米寿でお祝いするものなんですけど。ばあちゃんはいつもニコニコしてるし、老人会のいろんな行事に参加しながらも「私は老人じゃない」って言うし、気持ちがすごく若いんですよ。いつもマニキュアしてたり、お出かけするときはファンデーションと口紅も。私よりもオシャレなんです。だからばあちゃんは3年後も元気だろうと。でも周りにいる子や孫たちが県外あちこち行っているし、私も3年後の米寿の時期にお休みが取れるかも分からないし、だったら85歳の節目でお祝いしようってなって。
--それで沖縄へ帰ったと。
上間綾乃:それで85歳のお祝いをして、ばあちゃんもバッチリ着物を着て、私も余興で歌ったり、ばあちゃんの家族はもちろん、友達も従兄弟もみんな揃って、50人ぐらいの宴会をやったんです。で、いつもビックリさせてくれるばあちゃんだったんですけど、そのお祝いの2日後に……急に亡くなって、逝っちゃった。あんなに元気だったばあちゃんが逝くって誰も思っていなかったから、今も沖縄に帰ったらあの部屋に居るんじゃないかな?って思うし……まだ二ヶ月ちょっとだから。でもよかったなって思うのは、そのとき沖縄に居れたこと、ばあちゃんのそばに居れたこと。みんな帰ってきているときだったから。
--みんなで見送れたんですね。
上間綾乃:ばあちゃんが逝っちゃったことはとっても残念だし、みんな悔やんでるし、悲しいけど……「みんなと会いたかったんだなぁ、ばあちゃんは」と思って。そのとき、目の前がね、真っ白っていうか、真っ暗っていうか、色が何にも分からないぐらい、全く何も見えなくなって。何していいかも分からんし、何しようにも力入らんし、やるべきことはたくさんあったはずなんだけれども、全部分からなくなって、全身の力が抜けるってこういうことなんだなって。夜も寝れないし、体調崩してしまうし、全部の機能が停止した。でも不思議とお腹は空くんだよね。それで朝昼晩、ばあちゃんの食事を作ってお供えするんだけど、一緒に食べて。で、食べるとだんだん考える力が出てくるんですよね。
--なるほど。
上間綾乃:そしたら、今までばあちゃんと話したこととか、ばあちゃんに教えてもらったこととか、ひとつひとつ、ゆっくりゆっくりと思い出せるようになって。ばあちゃんは私が帰ると、いつも「綾乃、帰ってきたの? 今度はいつ行くの? 忙しいみたいだけど、ヨンナーしなさいよー」って言ってくれていて。活動を応援してはくれるんですけど、どんなに大きいステージで私がライブをしても「ふーん」なんですよ。それよりも私の身体が心配で「ヨンナーやりなさいよー」って言う。ヨンナーは“ゆっくり”って意味なんですけど、そのばあちゃんの教えを大事にしているんです。忙しいとどうしても周りが見えなくなったり、自分にも他人にも優しくなれなくなるから、どんなに忙しい中でもゆっくり。心の余裕は持ちなさい、という教えを小さい頃から受けていたので。あと、もっともっと昔のことを思い出して……。
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Interviewer:平賀哲雄
感じるものがどんどん強くなってきていて……涙腺が壊れたね
--ぜひ聞かせて下さい。
上間綾乃:私が小学生の頃「戦争体験の話を聞いてきてください」という宿題があって、戦争を体験しているばあちゃんに「戦争の話、聞かせて」ってお願いしたんですよ。そしたら、それまでニコニコしていたばあちゃんの目の色が変わって、今まで見たことがない表情になって「いいよ、あなたたちは。昔のことを考えなくていい。前だけ向いて生きていきなさい」って。……そのときは「宿題ができない……。いつもと違う、ばあちゃん。ケチ」ぐらいに思っていたんですけど。
--子供はそういうもんです(笑)。
上間綾乃:でもだんだん私も大きくなるにつれて、自分で沖縄の過去を調べるようになって「あのとき、ばあちゃんに本当に悪いことしてしまったな」と思って。辛いことも思い出させただろうし。でもばあちゃんは私たちに笑顔しか見せないように努めてくれた。そういう心強さはちゃんと受け継がないといけないって思ったし、それを思い出したときに「前だけ向いて生きていきなさい」、今がまたそのときなんだなって思って。いつまでも泣いていたらばあちゃんは喜ばんだろうし、しっかり前を向いたら、自分が今やるべきことを思い出したというか。で、その時期が今回のアルバムタイトルを決めなきゃいけないときで。……ばあちゃんとお別れじゃなくて、これからずっと近くにいてくれるんだっていう想いにして。
--それで“ニライカナイ”が再浮上してきたと。
上間綾乃:ニライカナイって沖縄の海のずーっとずーっと向こうにあるとされている島で、神様がみんなそこに住んでいる。五穀豊穣とか子孫繁栄とか、すべての幸せがあって、命はすべてそこからやってきて、その命が終わるとまた帰っていく島なんです。だからばあちゃんもニライカナイから来て、私もニライカナイから来て、ばあちゃんが先にニライカナイへ帰っただけなんだなと思ったら、私もいつかそこに帰るんだろうし、またばあちゃんにも会える。そのときに「よく頑張ったね」「頑張ったよ」って胸張って言えるように、今しっかり頑張らないといけないなって。……ばあちゃんが逝ってしまったことは残念だし、なんでこの時期だったのかな?って思ったけれど、すべてのことが繋がっているように思えたんですよね。それでハッキリと『ニライカナイ』しかないなと思えた。
--今作『ニライカナイ』は失ってしまった人へのラブソングが多いですよね?「あなたのもとへ」然り、「あいうた」然り。
上間綾乃:今作を作っていたとき、ばあちゃんはまだ元気だったんですけど、それ以前に亡くした人もいて、大好きだった厳しい師匠も亡くしているし、師匠のことを想ったら「あいうた」歌いながらブースで泣いてしまったり。前も歌いながら泣くとか、ライブで話ながら泣くとか、ちょこちょこはあったんだけど、ここ最近は感じるものがどんどん強くなってきていて……涙腺が壊れたね(笑)。我慢するんだけど、我慢できず感情が出ちゃうときはすごく多くなっている。…………ダメだな、これは。
(※上間綾乃、涙)
--歌うのが大変そうなアルバム『ニライカナイ』。
上間綾乃:(笑)
--奇しくも「ソランジュ」は生命の巡りを表現した楽曲でしたが、あの曲による影響もありますよね。『ニライカナイ』の世界観って。
上間綾乃:うん。アルバム制作中に「ソランジュ」は出来たものなんですけど、9月のアルバムリリースを待っていられないから、シングルとして先行リリースしたんです。今生まれた曲だから、今の時代と共に……と思って。なので、自ずとアルバムの世界観とは繋がっている。あと、生きていれば、自分だっていつかは逝く訳で。それは切っても切り離せないことだから、誰もが抱えていることなんですけど、とても悲しいとき、寂しいときもあれば、とっても楽しいときだってあるし、子守歌のように優しい気持ちになれるときもある。生活の中で誰もがポッポッポって感じられる、そういう自然発生的な歌ばかりだと思います。
--要するに民の謡。
上間綾乃:私にそれを歌わせた社会、自然現象、人との出逢いがあって生まれたもの。ただ、誰でもできる、誰でもいいような歌はうたいたくないし、誰かに押しつけられた音楽を歌うのも嫌だし、そういった面で自分の中にあるもの。感じているものを素直に表現したいと思っていて。
--あと、このアルバム、音楽的にも相当面白いことやってますよね。民謡がベースにはあると思うんですけど、その上で鳴っている音楽は何でもアリじゃないですか。ロックもフュージョンもハワイアンもある。
上間綾乃:何でもアリって分かってはいたけど、ここまで何でもアリとは思いませんでした(笑)。自分の感覚を飛び越えちゃって。これは本当に人と出逢って生まれる化学反応だなって思ったし、だからどれも好きな曲なんですけど、特に驚いたのは「新川(あらかわ)大漁節」!
--僕もそうです!
上間綾乃:ロックだよね、あれは。私の中で「ウチナー音楽をアレンジしてみたら面白いんじゃないかな?」っていう曲がいくつかあって、それを「こうでなくちゃいけない。自分はこれしかできない」っていう決めつけがない中で実践したかったんですよ。それで「新川(あらかわ)大漁節」は海の男の勇ましい曲だから、がっつりバンドサウンドで格好良い音になればいいなと思って、それを頼むのは根岸孝旨(※Dr.StrangeLove。Cocco、GRAPEVINE、くるり、中島美嘉などをサウンドプロデュース)さんしかいないよと。それでお願いしたら「どこまでやっちゃっていいんですか?」って言われたので、「振り切って下さい。根岸さんに全部お任せします」って託したんですよ。で、戻ってきたデモ音源を聴いたらアノ状態で「こう来たか!」と。すごく衝撃的。
--民謡なのに、バックで鳴っている音はレッド・ツェッペリンみたいで、これは相当新しい曲だと思いました。
上間綾乃:これ、先日【FUJI ROCK FESTIVAL '13】で披露したんですけど。
--どうでした?
上間綾乃:良かったですね! もう曲の中に入っちゃって入っちゃって、頭振りながら歌ってました。後から聞いたお客さんの声なんですけど、「沖縄の人が三線持って出てきたから“癒し系かな?”って思ったら、あの人、ロックだった」って(笑)。それがすごく嬉しかった。
--ちゃんとフジロックでロックしてきた。正しいですよね。
上間綾乃:間違ってない(笑)。音楽好きばっかり集まるイベントだから、みんな正直だろうし、その中で喜んでもらえたのは嬉しくて、沖縄音楽の可能性をすごく感じました。
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Interviewer:平賀哲雄
紅白は……うん、出ると思ってる。
--結果的にかもしれませんけど、このアルバムって海外を視野に入れていい作品ですよね。海外の人が「何これ?」ってちゃんと驚ける音楽なんじゃないかと。自分ではどう思われますか?
上間綾乃:なので、海外行きたいですね。チャンスがあれば……というか、作ってでも行きたいな。音楽に国境はないって言いますからね。
--前回のインタビューでも「私も海外行ってみたい。三線一丁持って」と仰っていましたが、具体的にライブしに行ってみたい国とか地域ってあるんですか?
上間綾乃:ブラジルに行ってみたい。沖縄移民がたくさん住んでいる地域があるんですけど、そこでは沖縄の言葉。古くから使われてきたウチナーグチが今でも生きてるんです。昔の移民の方々が使っていたから、子や孫たちもその言葉を使っている。今の沖縄は、一時期「方言を使ってはいけません」という時代があったからだと思うんですけど、ウチナーグチ分かる人がどんどん高齢化していて、若い子が分からない。でもあんな遠く離れたところにその魂が息づいているのであれば、ぜひ行ってみたいなって。
--宮沢和史(THE BOOM/GANGA ZUMBA)さんは、ブラジルでレコーディングやライブをよく行い、日本とブラジルの交流を深めてきましたよね。
上間綾乃:そっか、ついていけばいいんだ。
--(笑)
上間綾乃:宮沢さんが今やっているプロジェクトにお誘い頂いて、ブラジルの話もちょこっとさせて頂いたことはあるんですけど。
--上間綾乃にはグローバルな存在になって頂きたいです。もう長らく日本の音楽シーンはアイドル天下ですけど、それに対抗できるものって海外にも通用し得る音楽、アートしかないと個人的には思っていまして。
上間綾乃:沖縄から本土に飛び出したからこそ感じたものがあるように、日本から世界へ飛び出したときに感じるものもたくさんあると思うんですよ。で、行けるんだから、行かないなとなって。ただ、アイドルとかアニメは手強いですからね。海外でも人気ありますし。
--でもアイドルやアニメ以前に、民謡こそ日本独自の歴史あるカルチャーじゃないですか。
上間綾乃:たしかに。外人さんってトラディショナルなものに、すごく興味持ったりするんですよね。
--上間さんは子供の頃から民謡一筋ですけど、今、テレビや街中で流れる音楽にどんなことを感じていますか?
上間綾乃:今聴いている音楽が、昔のロックだったりするんですよ。今まで民謡しか聴いてこなかったから、仕事で出逢ったミュージシャンが影響を受けてきたであろう音楽を聴いてるんです。だから今の流行り歌は、私のiPodには入っていないんですよ。今日はディープ・パープルを聴きながら……
--想定外過ぎますよ(笑)。
上間綾乃:ダッダッダッ~♪ それ聴きながら来たから、すっごいテンション上がっちゃって。あとはエアロスミスとかU2とか。なので、今の音楽はあんまりよく分からない。
--でも「新川(あらかわ)大漁節」然り、今聴いてる音楽とリンクする部分は現時点でもあるので、これからどんどんロック色が強くなっていったりも?
上間綾乃:溢れ出てくるロック魂を……
--溢れ出てきちゃって、次のアルバムは全編ロックンロール。
一同:(爆笑)
上間綾乃:「上間、どこ行くの~!?」みたいな。
--間奏に2分30秒ぐらいのギターソロ入れたり。
上間綾乃:やっちゃう(笑)?
--それと三線でバトルしたら格好良いんじゃないですか!
上間綾乃:鍛えておかないといけないですね。可能性は無限大です。三線をマーシャルにプッてやってみたいんですよね。
--(笑)。民謡を“民の謡”と定義するならば、あらゆるポップミュージックを民謡と言えちゃう訳ですけど、上間さんが思っている民謡ってどんなものなんですか?
上間綾乃:生きているものです。そういう意味では、今の時代が生んだ、元気があるアイドルの歌も“民の謡”だし、時代と共に生きている言葉、歌は総じて“民の謡”と言えると思う。ただ“民謡”って言うと、やっぱりまだ決めつけられたイメージがあるから、“民の謡”と言うことでもうちょっと広く、柔らかく感じてもらえればなとは思ってます。
--誰もが知っているような“民の謡”を歌っていきたい気持ちは強い?
上間綾乃:そうですね。やっぱり“今”を歌えば“今の人”には受け入れられるんですよね。そういう時代の気持ちとかを歌うと、1年後、10年後、20年後、色褪せない歌として残っていく。だから私も“今”を歌いたい。
--いわゆる紅白に出たいとか、有名になりたいとか、そういう野心はあります?
上間綾乃:紅白は……うん、出ると思ってる。
--「出たい」とかじゃなく「出る」んですね(笑)。
上間綾乃:もちろん、その為の努力はしないとダメですけど……出ると思ってます。
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