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ピンバック 来日インタビュー
米サンディエゴを拠点に活動するロブ・クロウとザック・スミスによるインディ/オルタナ・ロック・バンド、ピンバック。シカゴの名門インディ・レーベルTouch & Goの看板バンドとして、そのエモーショナルなヴォーカル、ギターのようなユニークなベースのフレージングで「Good To Sea」など数々の名曲を生み出し、USロック界でもひときわ異彩を放つ存在となった彼ら。昨年10月に日本でもリリースされた5年ぶりの新作『インフォメーション・レトリーブド』は、普遍的でありながらも、奥深く…そしてブレることなく、バンドとしてのスタンスを貫き通す彼ららしさが増したピンバック史上最高傑作となった。今年6月に、アルバムを引っさげ、来日公演を行ったロブ&ザックに話を訊いた。
新たなライフスタイルに合わせ、曲づくりのやり方が変わってきた
▲ Rob Crow / Photo by Kazumichi Kokei
??時差ボケはどうですか?
ロブ・クロウ:ヒドイよ~。まだ着いてから24時間経ってないから。でもこのツアーが終わったら、ヨーロッパに行って、そしたらコミコンだぜ!
ザック・スミス:実は、コミコンにでるアーティストに間貸ししてるんだ。僕はロフトみたいなところに住んでるから。何枚か作品を見せてもらったけど、クールだったよ。
??昨年5月の来日公演では、既に新作『インフォメーション・レトリーブド』から「Sherman」を演奏していましたよね。
ロブ:そうだね。まだアルバムのリリース前だったけど、「Sherman」はかなり前に出来上がっていた曲だからライブでもちょこちょこ演奏してた。実は新作からライブで演奏したことがない曲がまだ2曲あるんだ。1曲は、ライブで演奏するのがスゴク難解で、もう1曲は…。
ザック:あれ?「Denslow, You Idiot!」1曲じゃなかったっけ?
ロブ:そうだっけ?とにかく今のセットリストは、とても濃いよね、毎晩22~25曲ぐらい演奏しているし。
??確かに、そうですよね。すべてのアルバムから3~4曲演奏してますもんね。
ロブ:そう、観客みんなを満足させないといけないから(笑)。セットリストは頻繁にかえてるけど、「なんであの曲やってくれないの?」って必ず言われる。でもアップビートな曲もあるし、ダウンテンポな曲もある。今のライブは、さらにエモーショナルで色々な要素が詰まった濃いものになってると思うな。結構コアなファンが多いから、ロブ&ザック・ショーっていうちょっと変わったコンセプト・ショーも地元のサンディエゴでやってる。昔の曲をいつもとは違ったアレンジで演奏してカヴァーしたり、アルバムを丸ごと再現したり。それはそれで演奏している俺たちも楽しいよね。
??デビュー・アルバムのリリースからもうすぐ15周年なので、それに基づいた特別なアニヴァーサリー・ショーもやれそうですね。
ロブ:15周年はもう過ぎたんじゃなかった?
ザック:いや、あのアルバムが出たのは秋から冬にかけてぐらいだったから、まだじゃないかな。でもアルバム自体は、その2年前ぐらいに出来上がっていたからね。リリースするのにかなり時間がかかったんだよ(苦笑)。
▲ Zach Smith / Photo by Kazumichi Kokei
??新作『インフォメーション・レトリーブド』は、5年ぶりのリリースとなりますが、制作過程において何か大きな変化はありましたか?
ロブ:今までは、制作環境を頻繁に改造していて、お互いの家を行き来して曲づくりを行ってたけど、2人とも携わっている新しいスタジオがやっと完成した。でも今はザックは、もう携わっていなくて…自分の家のスペースをまた改造して作業場にしている。
ザック:中々完成形に辿り着かないんだよね(笑)。もっとこうしたらいいんじゃないか、あーしたらいいんじゃないかっていうアイディアばかり浮かんでくる。機材も新しいのを買う度に色々模様替えしたりさ。
??この5年間の間にザックも家庭を持ったことによって創作活動に影響はありましたか?
ザック:内面的な変化ではないけれど、作業をスタートしたら、すぐストップして、という突発的な作業スケジュールに慣れないといけなかったね。新たなライフスタイルに合わせ、曲づくりのやり方が変わってきたというか…。ほんの最近になってその原理がやっと理解できてきたぐらいだよ。当初は、子供の面倒をちょっと見てて~とか、よく作業を中止しなければならないことが多かった。せっかくノッテきたのに~、とか思うけど、やはり父親としての責任もあるからね。やっと子供が少し大きくなってきて、今そこまで手がかからくなってきた。それに僕が何をしているかが理解できるようになってきたみたいで、家に置いてある楽器を演奏したがったりしてるな(笑)。
ロブ:学校に通い出すと少し楽になるよね。でも家で作業してる時に「遊んで~!」って言われて、遊んであげれないとちょっと申し訳ない気持ちになるよなぁ。
??たしかロブのお子さんは、ソロ・アルバムのジャケットにも登場してますよね。
ロブ:そう、あの子は一番最初の子供で、今は3人もいるんだ。ザックが言ったように、大きくなってくるにつれ、俺がやってる事に興味をもってきて、作業している時も一緒にいることが多くなったな。まだやんちゃだから、マイクをくわえたり、余計なところをいじらないように見てないとダメだけど(笑)。
??でも子供は、ある意味偏見がないので、新曲を聴いてもらうには、いいオーディエンスになりそうですよね。
ロブ:確かに、そうだな。彼らは俺の音楽の事を「ダディ・ソングス」って呼んでるよ。でも聴かせてみようとは思ったことは無くて…むしろ隠してた(笑)。ある時、車の中で最新作のデモを聴いていて、そのまま車に入れっぱなしにしてたら、知らぬ間に子供たちが学校からの送り迎えの途中でずっと聴いていたらしくて、めちゃめちゃだけど歌詞を大声で叫びながら歌っていたことはあったけど。でも彼らに「これサイコー!」って言われて、スゴク嬉しかったな。後はヘヴィー・ヴェジタブルの楽曲も結構気にいってるみたいで、よく聴いてるみたい。俺が作った音楽以外にも、スパークスやディーヴォだったり色々なものを聴いてるよ。
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Live Photo: Kazumichi Kokei
「このアルバムは、こうだ」っていうのをリスナーに押し付けたくないんだ
??ではアルバムの話に戻って、新作には未来や世紀末などを言及した内容が多く見受けられると感じたのですが、これはある意味現代の音楽シーンの現状と関係しているのですか?
ザック:僕たちはあまり自分たちの作品に関して細かく語りたくないんだ。オープンなマインドでリスナーに聴いてもらって内容を判断してもらいたいから。君が言ってることはもちろん間違えではないし、今までもこのテーマは探究してきたけれど、今作でその要素はより強調されているのは明らかだ。他にも色々な細かいテーマが織り混ざっているし、アートワークには暗号も隠されている。でも個人の捉え方で色々な解釈ができると思うから、あえて自分たちから、「このアルバムは、こうだ」っていうのをリスナーに押し付けたくないんだよ。
??なるほど。その近未来的な要素ですが、シングル・カットされた「Sherman」のミュージック・ビデオにも表れていますよね。ピンバックというバンド名もそうですが、ライブのプロジェクションなどSFの要素が強いビジュアルも印象的ですが、このビデオについて教えて下さい。かなり壮大で大がかりなプロダクションに見えますが…。
ロブ:これまでの映画史の中で作られた作品で本当に優れたものというのは、10本の指に入るほどしかない。中でもロシアは、SF映画についてずば抜けている。1950年代ぐらいに制作された冷戦映画で『火を噴く惑星』という作品があるんだけど、ユニークで、プロダクション・デザインもすっごくクールなんだけど、なんだか悲しげで…。
ザック:そう、いかにもロシアって感じの。
ロブ:それを元にアメリカの映画会社がリメイクした『原始惑星への旅』というロジャー・コーマンが携わった映画があって…。
??おー、ロジャー・コーマンは、昨年大きな映画祭で特集をやっていて、来日トークショーを観に行きました。
ロブ:クール!そう、それで彼は、元のバージョンにアメリカ人俳優を加え、少し話を変え、ロシア語をすべて英語の吹き替えにしたんだ。その後コーマンは、今は素晴らしい監督になっているけど…その頃無名だったピーター・ボグダノヴィッチに頼み、女の子が海岸で岩を投げている変な映像を足した『金星怪獣の襲撃』として2本の作品を作ったんだ。他人の作品をパクって、自分の作品にしちゃうなんて考えられないよね!それを俺が面白いと思って、趣味でその3作のキャラクターがお互いにコミュニケートして、繋がり合っている映像を自分で編集した。「Sherman」にビデオを作る話が出た時に、これを元にビデオを作ったら面白いんじゃないかと思って、またさらに編集を加え、俺たちも映像にちょこっとだけ出演しているんだ。
??元々そういう映像を作るのは、普段から趣味でやっているんですか?
ロブ:うん。最近だと子供たちと遊びでよく作ってるよ。適当なポップ・ソングを選んで、ミュージック・ビデオを作ったり、そういうビデオの背景に流す映像をアニメーションで作ったり。
??そういえば、ピンバックのドキュメンタリーを制作しているという話が以前あったと思うのですが…。
ロブ:あ~、知り合いが作ってたんだけど、今どうなってるんだろうね。まだ彼とは会ったりはするんだけど…。インタビューできるようなミュージシャンや仲間のリストも渡してるんだけど、全然音沙汰ないみたい。この前日本に来た時もいたし、ヨーロッパ・ツアーにも来てた。ヨーロッパ・ツアーは結構バンドとしてローポイントだったから、落ち込んでるようなメロウな映像しかなくって…クールな出来事は全然撮れてないんだ。それって観ても全然面白くないからなぁ。
??(笑)。ロブが自分で作った方が面白いものが出きあがりそうですね。
ロブ:アハハ。ヨーロッパ・ツアーの時にちょっとした映像は作ったんだよ。インタビューとかはない、とてもシンプルなものだけど。それを観たそのドキュメンタリーを作ってる友人に「映像ちょうだいよ!」って言われたけど、「自分で撮ったのを使えよ~!」って言ってやったよ(笑)。自分でやるっていう手もあるけど、話を訊く人たちが客観的になれないかな~、とも思うんだよね。いいことばかり言われたら真実味が薄れるから、ドキュメンタリーの意味がないしね。
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Live Photo: Kazumichi Kokei
今のジャーナリストはちゃんと音楽の批評ができない
??これまでリリースされたピンバックの作品を振り返ってみて、5枚目となるこのアルバムはどのような立ち位置にあると思いますか?
ザック:前のアルバムと全然変わってないじゃんってよく言われるけど、色々な方向性を試しているし、確実にバンドとして成長していると思うよ。今のジャーナリストはきちんと音楽の批評ができないってことが、よく分かるよね。
??オープニング・トラックの「Proceed To Memory」からして、新たな要素が色々あるのに…。
ザック:うん。「Proceed To Memory」は、アルバムの中でもその変化がよく表れてる曲だと思うよ。
ロブ:バンドとしてユニークなサウンドを確立しているから、それを無理に変えようとは思ってないんだ。そんな風に作った作品は、きっとピンバックらしくないと思うし、他人を喜ばせる為に、自分たちの意にそぐわないことはしたくないから。
??なるほど。2人はピンバック以外にも様々なプロジェクトに携わっていますが、曲づくりをする際にどのように曲をすみ分けているのですか?
ロブ:俺の他のプロジェクトは、ピンバックとはサウンド的に全く違うから、曲を書く時点で、どのプロジェクト用というのは多少頭にあるね。たとえば、ゴブリン・コックの曲だったら、ギターのチューニングが特殊で、5時間ぐらいかかるから、それに合わせた曲を書かないといけない。
ザック:僕にとって、スリー・マイル・パイロットとピンバックの差と言うのは、ロブのギターとヴォーカルだから、あまりすみわけをしないで考えているね。自分のソロ作品だと、他のプロジェクトより多少実験的になれるけど。
ロブ:曲作りを一緒に行う時には、お互いのアイディアにダメだしすることもよくある。でもそれは、2人ともいい作品づくりを目指しているからであって、別にそのせいで喧嘩するとかはないし、フランクでいい関係を保てていると思うな。アイディアは山ほど浮かんでくるから、その中からいいものを探す作業に重点を置いてるね。
??今日2人と話してみて面白いな思ったのが、2人ともまったく性格や考え方が違うにも関わらず、音楽に関して、そしてバンドとしては相性が抜群ですよね。結果15年間も一緒に活動を共にしていますしね。
ロブ:元々所属していたバンドのライブでよく会うようになって、共通の友達の家で映画を観たり、ゲームをしたりして仲良くなったんだよね。初めて一緒に書いた曲は何だっけ?
ザック:「Tripoli」か「Loro」じゃなかったっけな?
ロブ:2曲ともいい曲だよね。1stアルバムの曲は、かなり短期間で書き上げたんだ。だから音楽を一緒に作るパートナーとしては、早い段階で相性がいいというのは実感していた。それに似たもの同士じゃないから、面白い作品が生まれるんだと思う。だって自分と同じようなメンバーと組むんだったら、バンドをやる意味もないもんね。
??では2人で活動してきた中で、一番印象に残っている出来事は?
ザック:う~ん。印象に残っているというか、一番シュールだったのが、ちょっと前にスキー・リゾートで演奏したことだな。大晦日のライブだったんだけど、前日から入って、スキーをして楽しんでた。でも翌日いざリハをしたらトラブルが勃発して、サウンドをやってくれたスタッフに指示をするのもままならない状態で演奏しなければならなかった。それにスッゴイ寒かったけど、演奏する時には手袋はできないし…。ステージの裏にはゲレンデが広がっていて、スキーヤーもたくさんいた。多分観ていた人たちには、壮大な光景だったと思うけど、演奏している僕らにとってはとても奇妙な体験だったね。
??最後に、現在の音楽シーンについては、どう感じていますか?
ザック:細分化されてジャンルが多くなりすぎて、ちょっと理解しがたい部分もあるよね。様々なツールがリンクする事によって、訴求性は高まったとは思うけど、質が伴ってないし、重みが薄れたというか…。
ロブ:でも色々な人が気軽に音楽を作れるようになったのはいいことでもあるよね。音楽が、日常に溢れ、それを聴く人口が増えるということは、その分レコードを買って、ライブへ行くような人も増えるという事だし。それにもしネットがなかったら、一生聴く事のない音楽もあるかもしれない。俺はもっともっと情報が欲しいし、いつでも音楽を浴びるほど感じていたい。
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Live Photo: Kazumichi Kokei
インフォメーション・レトリーブド
2012/10/24 RELEASE
XQJH-1021 ¥ 2,376(税込)
Disc01
- 01.Proceed To Memory
- 02.Glide
- 03.Drawstring
- 04.Sherman
- 05.His Phase
- 06.Diminished
- 07.True North
- 08.A Request
- 09.Denslow, You Idiot!
- 10.Sediment
- 11.Thee Srum Proggitt
- 12.CLOAD “Q”
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