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THE BACK HORN 【「KYO-MEIライブ」~裸足の夜明け~@日本武道館】
彼らが着々と人気を集めていることは知っていたが、肉眼で武道館にパンパンに人が入っているのを見て感動してしまった。決して生易しくない、生きていることをサヴァイヴしていく音楽の共鳴者がこんなにもたくさん存在している現実に嬉しくなったのだと思う。
2008.06.07(SAT)at 日本武道館|セットリスト
戦いの狼煙をイメージさせる、魂の躍動をそのままサウンドにしたようなS.E.が暗黒に流れ、10,000人のうねりに呼応するようにステージを巨大な松明の炎が照らす。そして兵隊の行進さながらの『覚醒』である。なるほど、この曲はこの瞬間、文字通り覚醒するために生まれた曲だったか。悲しみを越えてゆけ!その雄叫びで切り開かれた世界に広がるのは、栄純、松田、光舟の狂気に満ちたグルーヴと将司の肉体を凌駕した魂の鼓動により生まれし、真っ赤な血の色をした鳥獣戯画の宴。死にてぇとか、生きてぇとか、やりてぇとか、あらゆる思念がぶつかり合って溶け合ったカオス。その分厚い混沌の壁に風穴を開けるべく、高く振り上げられたのは『光の結晶』。
この曲と松田の気合いと歓喜の極まったMCを超えたあたりから、バンドもオーディエンスも「まだまだこんなもんじゃねぇ!」と、ある者は声にならない声で歌い叫び、ある者は関節が外れてもおかしくない力で拳を振り上げ、ある者は「ヤバイ」と言いながらステージをただただ見つめ、誰もが生命をその手に掴み取ろうとのたうち回り始めた。時に苦しそうに、時に悲しそうに、虚しそうに、時に「こんなドープなバンドがステージに立っちゃっていいのか!?」と喜んだり驚いたり(『ジョーカー』と『アカイヤミ』の披露時)、いちいち一喜一憂し、楽しきゃいい、盛り上がりゃいいっていうライブとは一線も二線も画した、そしてこれまでの武道館に刻まれたいくつもの伝説のライブとも大きく異なった、異端的で狂気的で異質な世界。それ故に対応に苦しむオーディエンスがちらほら見受けられたのも事実だ。が、生きるということのリアルがそうであるように、それを正直に表現する彼らの歴史を象ったライブが、とにかく優しく分かりやすく共感させるためのライブなどになるはずがない。彼らの歌う共鳴は、感動的な物語を一緒に見て涙することではなく、否定も肯定も死も生も嫌なことも全部付き合っていかなきゃいけねぇっていう現実にこんなにも藻掻きながら苦しみながら生きていけるのか?俺たちは!おまえたちは!という問いかけの先にある共鳴だ。そして、それを感じてくれる奴がこんなにもいることに対しての言葉、栄純の感想が満面の笑みでの「みんなありがとう」である。
将司がアコースティックギターを持って鳴らしたのは『夢の花』、苦楽を歩いたすべての友の涙腺を緩ませる、物憂げな風の匂い。そしてここにいる誰もが『未来』でため息を零し、涙を溢れさせたまま僕らは『声』『ブラックホールバースデイ』『コバルトブルー』『刃』と、生命の限り、魂の限り、喉が潰れようと、肉体が限界を超えようと、己の存在を表現し、今そこにあるすべてを飲み込んでゆく。10,000人の雄叫び、この声を共鳴と呼ばず何を共鳴と呼ぶのか!?「本当に・・・本当に嬉しいです。どうもありがとう。夜が来て、朝が来て、で、また夜が来て、朝が来るわけだ・・・、なんか良いこと言おうとしたけど、忘れちまった」(笑)。「必ず夜が明けるように・・・、ま、ベタですが、これからもバックホーンをよろしく」言葉にはなってなかったが、将司の、彼らの想いが最高に伝わった瞬間。そして「じゃあ、最後の曲『キズナソング』」と彼が言うと、4人の後方には大所帯の弦楽団。初めてこの曲を耳にした瞬間から夢想していた光景と音楽が今目の前で現実となる!今目の前にいる奴もいない奴も久しく会ってない奴ももう二度と会えなくなってしまった奴も、今を紡いでくれたすべての奴の顔が浮かんで、自分でも引くぐらい涙が零れた。生きるってそういうことだったなと、最後の最後で改めてガツンと痛感させてくれたバックホーンに惜しみない共鳴の拍手と歓声が飛び交った。そして僕らは彼らの10年間とてめぇの人生をバカ騒ぎしながら祝して、ぐしゃぐしゃになった。
セットリスト
【「KYO-MEIライブ」~裸足の夜明け~@日本武道館】
2008.06.07(SAT)at 日本武道館
- 01.覚醒
- 02.野生の太陽
- 03.幾千光年の孤独
- 04.光の結晶
- 05.生命線
- 06.罠
- 07.世界樹の下で
- 08.ジョーカー
- 09.アカイヤミ
- 10.ひとり言
- 11.夢の花
- 12.未来
- 13.声
- 14.ブラックホールバースデイ
- 15.コバルトブルー
- 16.刃
- 17.キズナソング
- En1.サニー
- En2.涙がこぼれたら
- En3.無限の荒野
- WEn1.冬のミルク
Writer:平賀哲雄
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