Special
楽園おんがく Vol.3:涼しいアルゼンチン音楽の世界
旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住のライター 栗本 斉による連載企画。今回のテーマは6月7日にアルゼンチンの“新しい”音楽を紹介するディスクガイド『アルゼンチン音楽手帖』を出版した筆者がセレクトした、この季節にぴったりの“涼しいアルゼンチン音楽の世界”。
梅雨のジメジメとした季節。ここ沖縄も毎日のように雨が降り、洗濯物の乾きにくい日々が続いている。おまけに夏日の晴天と交互にやってくるので、猛暑と湿気のダブル攻撃。こうなると、冷房の効いたひんやりとした部屋で、クールな音楽でも聴いていたいと思う。
そんな時は、ボサノヴァやジャズもいいが、ちょっと一捻りしてアルゼンチン音楽というのはどうだろうか。ここ近年のアルゼンチンには、洗練されたアレンジと歌を聴かせてくれるコンテンポラリー・フォルクローレや、ECMレーベルあたりの北欧ジャズを彷彿とさせるチェンバー・ミュージックなど、その音を聴くだけで体感温度がぐっと下がりそうなサウンドがたっぷり。今回は、そんな地球の反対側から届いた、涼しげな音楽を何枚か紹介しよう。
カルロス・アギーレ・グルーポ
『カルロス・アギーレ・グルーポ(クレーマ)』
まずは、繊細なシンガー・ソングライターであり、詩情あふれるピアノとギターを弾くプレイヤーでもあるカルロス・アギーレのグルーポ名義による第一作。まるで、河のせせらぎや木の葉が風に吹かれる風景をそのまま音譜に落とし込んだようなオーガニックな音色が、朴訥としたヴォーカルに、じわじわと心に染みこんでいく。ぜひ山や川へ連れて行って欲しい逸品。
■Official Site■
ヘオルヒナ・ハッサン
『コモ・レスピラール』
青空をバックにしたポートレートが印象的な、女性シンガー・ソングライター。ユダヤの血を引いていることもあって、アルゼンチンのフォルクローレの素朴さと、ユダヤ音楽特有のエスニックな味わいがミックスされている。その歌声はまるで天上の音楽のように優しく清らかで、子守唄のようなメロディに心癒されるはず。お昼寝のBGMとしても使えそう。
■Official Site(myspace)■
キケ・シネシ
『CUENTOS DE UN PUEBLO ESCONDIDO』
上記のカルロス・アギーレとも親交が深いギタリストの完全ソロ作品。特注の7弦ギターや、チャランゴというアンデスの民族楽器を駆使し、たったひとりでありながらも緩急自在に弾きながら、スケールの大きな世界を作り上げている。プログレ、ジャズ、タンゴといったバックグラウンドも深いため、ジャンルに区分けするのは困難なほどヴァラエティに富んでいる。
■Official Site■
ギジェルモ・リソット
『Solo guitarra』
こちらもギター・ソロだが、もう少しクラシカルな雰囲気。もちろん、ベースになっているのはアルゼンチンのフォルクローレ音楽ではあるが、曲によってはスペインあたりのクラシック・ギター作品にも通じるものがあったり、独特の奏法で現代音楽やエレクトロニカにも通じる実験性も香り立つ。2作目の『情景の記憶~ソロ・ギターラⅡ』と合わせて聴いておきたい。
■Official Site■
マリアナ・バラフ
『チュリータ』
もうちょっと土着的な雰囲気がよければ、パーカッションを叩きながら歌う女性シンガーはどうだろう。フォルクローレ独特のコブシをを回した唱法と、ジャズ、ロック、エレクトロニカなどを取り入れながらも民族性を押し出した斬新なサウンド。聴いているだけで、アンデスの白く輝く山並みや、サボテンがニョキニョキと生える荒野が目に浮かぶ映像的な作品集。
■Official Site■
アレハンドロ・フラノフ
『チャンパキ』
10数年前に“アルゼンチン音響派”というムーヴメントが騒がれたとき、その最先鋒にいたひとりであるマルチ・ミュージシャン。音響派の歌姫フアナ・モリーナでもキー・マンだったが、ソロではさらに不思議な音世界を構築。サンプラーやプログラミングを駆使し、キーボードやギターだけでなくシタールやムビラなど世界中の楽器の音色が心地良く耳に残る。
■Official Site■
このように、多様な音楽性やジャンルがあるが、アルゼンチン音楽に一貫しているのは、どこか自然を感じさせるオーガニックな薫りと、クラシックやジャズといったありきたりのジャンルではくくりきれないミクスチャー感。これまでの価値観だけでは総括できないのが、現代のアルゼンチン音楽の面白さだろう。
さて、こういった21世紀以降の興味深いアルゼンチン音楽を、この度一冊の本『アルゼンチン音楽手帖』にまとめることが出来た。厳選した250枚のディスクガイドを中心に、現在進行形の新しいアルゼンチンのシーンを俯瞰できるのはもちろん、音楽だけでなくファッションや料理などのコラムを入れることで、多角的にアルゼンチンという国を知ることができるはず。
これからの季節は、涼風のようなアルゼンチン音楽の調べを聴きながら、快適に過ごしてみてはいかがだろうか。
Information
『アルゼンチン音楽手帖 / Organic Music of Argentina』
監修・著:栗本 斉
世界初!21世紀以降の「新しいアルゼンチン音楽」を紹介するディスクガイド。
フォルクローレ、ジャズから、タンゴ、音響派、エレクトロニカにいたるまで、洗練されたセレクトで、ジャンルを超えたラインナップ約250枚を厳選。
旅行、料理、ファッションなどのコラムも挿入し、多角的にアルゼンチンとその新しい音楽を浮き彫りにする、アルゼンチン音楽入門書。
栗本 斉 Hitoshi Kurimoto
旅と音楽をこよなく愛する旅人/旅&音楽ライター/選曲家。
2005年1月から2007年1月まで、知られざる音楽を求めて中南米へ。2年間で訪れた国は、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラ、トリニダード・トバゴ、パナマ、メキシコ、キューバの、合計14カ国。
帰国後は旅と音楽にこだわり、ラジオや機内放送の企画構成選曲、音楽&旅ライター、コンピレーションCD企画、ライナーノーツ執筆、講演やトークイベント、ビルボードライブのブッキング・コーディネーターなどで活動中。得意分野はアルゼンチン、ワールドミュージック、和モノ、中南米ラテン旅、世界遺産など。2013年2月より沖縄県糸満市在住。
カルロス・アギーレ・グルーポ(クレーマ)
2010/07/22 RELEASE
RCIP-144
Disc01
- 01.los tres deseos de siempre
- 02.zamba de mancha y papel
- 03.beatriz durante
- 04.pedacito de rio Ⅰ
- 05.paloma y laurel
- 06.zamba de usted
- 07.pasarero
- 08.coplas de cielo y rio
- 09.pedacito de rio Ⅱ
- 10.la tarka
- 11.memoria de pueblo
- 12.la espera
- 13.huella mora
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