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ドクター・ジョン ~ニュー・オーリンズの音楽文化を伝える至宝~
レジェンドと呼ぶにふさわしい音楽界の生き証人がステージに降り立つ。不朽の名盤『ガンボ』や「アイコ・アイコ」、「サッチ・ア・ナイト」など、ニュー・オーリンズ・サウンドを代表する重鎮、ドクター・ジョン。セカンド・ラインと呼ばれるリズムと軽快なピアノ、独特のしわがれたヴォーカルで40年以上に渡り活躍。ミック・ジャガーやエリック・クラプトンらロック・ミュージシャンを魅了し続け、影響を与えてきたレジェンドの軌跡を辿る。
アメリカのルーツ・ミュージックの源泉、ルイジアナ州ニュー・オーリンズ。“白い呪術師”と呼ばれるドクター・ジョンことマック・レベナックは、1940年に生まれた。父親がレコード店を経営していたこともあり、少年時代からジャズ、ゴスペル、R&Bを浴びるように聴いて育ち、地元のスタジオで数々の歴史的セッションを目撃。当初はギタリストを目指していた彼だが、クラブで演奏中に喧嘩に巻き込まれ左指薬指を負傷し、ピアニストに転向。その結果、プロフェッサー・ロングヘアー、ヒューイ・ピアノ・スミス、ファッツ・ドミノ、アラン・トゥーサンなど同じニュー・オーリンズ出身の優れたピアニストたちの伝統を受け継ぐことになった。
60年代半ばにロサンゼルスに移り、スタジオ・ミュージシャンとして活動を開始。ソニー&シェールの紹介でアトランティック・レコードと契約すると、1967年にファースト・アルバム『グリ・グリ』を発表。19世紀のヴードゥー教の祈祷師、ドクター・ジョンをテーマにしたことをきっかけに、マック・レベナックから“ドクター・ジョン”へと変貌を遂げた。1972年には40年代から50年代へかけて誕生したニューオーリンズ音楽の名曲を見事に甦らせた歴史的名盤『ガンボ』を発表。1973年のアラン・トゥーサン、ミーターズと共演したアルバム『イン・ザ・ライト・プレイス』からは、ヒット・シングル「ライト・プレイス、ロング・タイム」、「サッチ・ア・ナイト」が生まれ、ニュー・オーリンズ・ファンクを広く知らしめることとなった。ロック・ファンの間では、ザ・バンドの解散コンサート映画『ラスト・ワルツ』や、ローリング・ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』、ジェシ・エド・デイヴィスの『ウルル』への参加、リンゴ・スターのオールスター・バンドのツアーでもおなじみ。ロック・ミュージシャンからのリスペクトぶりが伺える。
1989年にはコール・ポーター、デューク・エリントンなどジャズ界の巨匠が残したスタンダード・ナンバーを独特の解釈でカヴァーした『イン・ア・センチメンタル・ムード』の収録曲「メイキン・フーピー!」で、グラミー賞の最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞。
2005年、ハリケーン・カトリーナがニュー・オーリンズを含むアメリカ南部沿岸を襲うと、その被害者救援を目的にしたミニ・アルバムを制作、ベネフィット・コンサートに出演するなど、故郷ニュー・オーリンズに対する想いはいまもなお熱い。2012年5月にリリースした『ロックト・ダウン』が第55回グラミー賞にて「最優秀ブルース・アルバム」賞を獲得、健在ぶりを見せつけた。
ドクター・ジョン
『ガンボ』
ロック・シーンへニュー・オリンズ旋風を巻きおこしたドクター・ジョンが1972年に発表した出世アルバム。プロデューサーにジェリー・ウェクスラーを迎え、「アイコ・アイコ」「ティピティーナ」「ビッグ・チーフ」など素晴らしいクラシック・チューンを集めた代表作。2013年デジタル・リマスタリング盤。
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ドクター・ジョン
『イン・ザ・ライト・
プレイス』
名盤『ガンボ』に続き、ドクター・ジョンが1973年に発表したアルバム。ミーターズのサポートによるルーズ&タイトなサウンド、洗練され、エキゾチックなアラン・トゥーサンのアレンジ、唯一無比のドクター・ジョン節が相俟って創り出された極上のニューオリンズ・ファンク・アルバム。2013年デジタル・リマスタリング盤。
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ドクター・ジョン
『ロックト・ダウン』
名高いミュージシャンでロックの殿堂入りを果たしたドクター・ジョンの、ノンサッチ移籍第一弾となるアルバム。ザ・ブラック・キーズのダン・オーバックをプロデューサーに迎え、2013年2月に開催された第55回グラミー賞にて「最優秀ブルース・アルバム」賞を獲得。
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ニューオーリンズは、その歴史と地理的な環境からジャズをはじめ様々なサウンドを育んできた音楽の聖地。かつてはフランス領で、港町として発展したこの街にはあらゆる人種が集まり、その中から独自の音楽を形成した。ジャンプ、ブルース、ブギウギ、ジャズ、カリプソ、ルンバ、サンバなどを織り交ぜたサウンドと独特のピアノ・スタイルでドクター・ジョンに多大なる影響を及ぼしたのが、プロフェッサー・ロングヘアー。ドクター・ジョンの『ガンボ』では彼の代表作「ティピティーナ」を取り上げている。 60年代からニュー・オーリンズの音楽シーンを牽引してきた立役者といえば[ビルボードライブ]にも登場したアラン・トゥーサン。シンガー/ピアニストとして『サザン・ナイト』などソロ・アルバムを発表。ドクター・ジョン、ミーターズ、アーマ・トーマス、ラヴェルのプロデュースでも知られている。 ニューオーリンズ・ファンクを生んだ第一人者であるミーターズは、アラン・トゥーサンとともにラヴェルの「レディ・マーマレイド」のヒットを生み、中心メンバーのアート&シリル・ネヴィルは兄弟たちとともに1978年にネヴィル・ブラザーズを結成。ダニエル・ラノワをプロデュースに迎えた1989年の『イエロー・ムーン』はグラミー賞に輝いた。ジョン・メイヤーやPhishなどいまも多くのトップ・ミュージシャンに影響を与えて続けているニュー・オーリンズ・ミュージック。あらゆるリズム音楽/リズムが渾然一体となった強力で独特のグルーヴ、そのヒストリーをチェック。
プロフェッサー・ロングヘアー
『クロウフィッシュ・
フィエスタ』
ニューオーリンズ・ピアノといえばこの人。はじけるセカンド・ラインのビートに乗って軽快にピアノを転がす教授。この悦びに満ちたハネ具合がなんともたまらない1枚。
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ザ・ネヴィル・ブラザーズ
『イエロ-・ム-ン』
ダニエル・ラノワ・プロデュースによる1989年発表のアルバム。「マイ・ブラッド」「イエロー・ムーン」「ファイヤー・アンド・ブリムストン」他、全12曲を収録。
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LIVE REVIEW : 2010.10.18[mon]-10.19[tue] @Billboard Live TOKYO
ニュー・オーリンズの白い呪術師、降臨!
まるでガンボ・スープのように濃厚に音楽が溶け合った2日間=4ステージ。
レジェンドの名を欲しいままにする、変幻自在、ワン&オンリーのパフォーマンスはまさに圧巻!
今年11月に御年70歳になるドクター・ジョン、初のビルボードライブ。満席の熱気あふれる中、ピンクのストライプ・スーツにシルバー・シューズという伊達男っぷりで杖をつきながら登場。ピアノの前にドクロを配したミステリアスな演出も心憎い。
2日間4ステージ、すべてセットリストが異なった今回のライブ。10月19日の2ndステージは、ラテン風味溢れる「モスコシアス」から軽快にスタート。続いて、1968年の記念すべき1stアルバム『グリ・グリ』から「ママ・ロックス」。ライブならではの洗練されたアレンジとコーラスが楽しいこの曲では、ドクターはハモンド・オルガンを演奏。それまで発表したアルバムが30作にも及ぶだけに、どの曲が演奏されるかはまったく予測不可能だが、ドクターの闊達なピアノ&オルガンとしわがれた味のあるヴォーカルはおおいに健在なのだから顔がほころんでしまう。「カム・レイン・オア・カム・シャイン」は、『ザ・ブライテスト・スマイル・イン・タウン』(1983年)、『シングス・スタンダード』(2006年)に収録されたジョニー・マーサーのナンバー。1946年にオール黒人キャストで上演されたミュージカル「セイントルイス・ウーマン」からの曲だ。オリジナルだけではなく、様々な先達の名曲を取り上げて、アメリカのルーツ・ミュージックの魅力を伝えてきた人らしい渋い選曲に唸るばかり。
ザ・ロウアー911のメンバーが「エヴリバディ・スタンダップ!」と促したのは、1973年にBillboard HOT 100で9位の大ヒットを記録した「ライト・プレイス・ロング・タイム」かと思えば、1998年の『アナザー・ゾーン』からは「アイ・ライク・キヨカ」をいう夜の怪しい雰囲気漂うブルージーな曲……と、ニューオーリンズで育まれた音楽的語彙の豊かさに浸る至福を堪能。また、ドクターが1曲ギターをプレイしたのも嬉しい誤算(?)。1961年に事故によりピアノに転向するまでは、ギタリストとして活動していたドクターの数十年ぶりに渡るキャリアに思いを馳せるシーンだった。
後半は、ドクター・ジョン&ザ・ロウワー911名義で今年リリースされた充実のニュー・アルバム『トライバル』から、オルガン・ソロが印象的な「ビッグ・ギャップ」、アルバムではデレク・トラックスがスライド・ギターを演奏していた「マヌーヴァス」、サルサ風味の「オンリー・イン・アメリカ」を披露。ニュー・オーリンズをベースにするザ・ロウワー911との息の合った演奏も含め、ステージを往年の名曲だけで構成しないところは現役の証でもある。全ステージ、すべてセットリストが違ったのも、まさに驚異!
アンコールは、「待ってました!」の「アイコ・アイコ」。セカンドラインのリズムに乗って、総立ちの観客が「ヘイ・ナウ!」と歌い踊るご機嫌な締めくくりになった。
ジャズ/ブルース/ロックンロール/R&B/ラテンなど、まさに出身地ニューオーリンズのガンボのようにさまざまな音楽が混ぜ合わされ独特の風味を醸すレジェンド、ドクター・ジョン。その魔力と色気に酔いしれた極上の夜だった。
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