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スター・スリンガー 来日インタビュー
ハウス、ソウル、ヒップホップなど多様な音楽スタイルを吸収したジャンルレスなダンス・サウンドで人気を博す英・マンチェスターを拠点として活動するダレン・ウィリアムスによるエレクトロニック・プロジェクト、スター・スリンガー。今回一緒に来日公演を行ったゴールド・パンダを始め、ディアハンター、トロ・イ・モア、エド・シーラン、フォスター・ザ・ピープルなどのリミックスを手掛ける売れっ子プロデューサーでもある彼がデビュー作『ヴォリューム1』をここ日本でも6月5日にリリース。その折衷的で魅力溢れるサウンドメイキング、グラストンベリーやロラパルーザなどの大型音楽フェスティヴァルへの出演や様々なジャンルのアーティストとのツアーでも発揮してきた洒脱な音楽センスと魅力が体験できるライブ・パフォーマンスなどについて話を訊いた。
夜が明ける時間まで黙々と音楽を作っていた
??今回初来日となりますね。以前日本に住んでいたことがあるダーウィン(ゴールド・パンダ)には東京を案内してもらいましたか?
ダレン・ウィリアムス:残念ながらまだなんだ。昨日DJした会場からホテルへ戻る時に、少し見れたぐらい。でも今のところ見たものは気に入ってる。色々散策したいから、もう少し長く滞在できたらいいんだけどね。
??街並みは、想像していた通りでしたか?
ダレン:そうだね。クレイジーな建物が多くて、まさに“メトロポリス”って感じ。大都市は性に合うから好きなんだ。
??まず音楽的なバックグラウンドについてお訊きしたいのですが、ダレンが一番最初にはまったレコードは?
ダレン:色々あるけれど、ロンドンにあるクラブ、ミニストリー・オブ・サウンドの初期のコンピレーション・アルバムかな。『アニュアル』というタイトルで、その当時の最新のクラブ・ヒットが収録されていた。90年代後半に初めて聴いた時に「こんな音楽が作りたい。」と思ったんだ。
??では制作活動、“プロデュース”を始めたのはいつ頃でしたか?
ダレン:14歳ぐらいの時。家のコンピューターに海賊版の編集ソフトウェアを入れたら、ウィルスに感染して怒られて…。でもそれが発端となっていて、その頃と同じように現在も制作活動を継続している。今はちゃんとソフトは自分で買っているけど(笑)。好きなことで生計が成り立ってるから、ありがたいね。
??その当時、同年代の同志はいましたか?それとも一人でベッドルームに籠って…。
ダレン:(笑)。何人かいたけれど、僕ほど真剣にやっていたやつはいなかった。彼らは本当に趣味でやっているという感じで、僕はヘッドフォンをつけて、夜が明ける時間まで黙々と音楽を作っていた。それでも朝方少し寝て、ちゃんと学校の時間に行く時間には起きていたよ。
▲ TEAMS vs STAR SLINGER /
「PUNCH DRUNK LOVE」MV
??ダレンはマンチェスターを拠点として活動していますが、頻繁にアメリカ・ツアーをしていたり、アメリカのレーベルからリリースやアーティストともコラボレーションしていて、実は最初アメリカ人かと思ってました。
ダレン:れっきとしたイギリス人だよ(笑)。でもアメリカで過ごす時間が多くなっているのは確かだね。アメリカのレーベルからも何枚か作品をリリースしているし、アメリカ人のアーティストとも作品づくりをしている。アメリカでツアーをするのはクールであって興味深くもある。それにとてつもなく巨大な国なので、その分音楽マーケットも大きくて、様々な音楽ジャンルが受け入れられている。
??ライブに関しては、アメリカとヨーロッパでは観客に変化はみられますか?
ダレン:初めてアメリカでプレイした時は、度肝を抜かれた。アメリカの観客は“インタラクティブ”に演奏を楽しんでくれる。“インタラクティブ”と言うとなんだか変だけど…。ハロウィンの時にNYのミュージック・ホール・オブ・ウィリアムズバーグで演奏したんだけど、ステージに観客が上がってきちゃって。多分YouTubeで“Star Slinger / Punch Drunk Love”で検索したら、その時のビデオが出てくるよ。僕とDJ卓を囲んで100人ぐらいの観客がステージにいるんだ(笑)。ヨーロッパほどクラブ・カルチャーが浸透していないから、彼らにしていれば“パーティーする”というのがまだ真新しいコンセプトなのかもしれない。21歳まで法律的に飲酒できないので、飲み始めると羽目を外し過ぎて自由になりすぎちゃうのかもね。ヨーロッパではパリの観客はいいよね。ラインアップ次第だけど、午前3時ぐらいにプレイするのが一番好きだ。でもルーマニアみたいに、まだこういう音楽が理解されていない国も存在する。観客がダンスするか、しないか迷ってて…僕は踊らせる為にプレイしてるんだから、踊ったらいいのにって思ったけど。だって午前3時なんだから、踊るか、家に帰るかどっちかしかないんだから(笑)。
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独創的なスタイルを確立して、
サウンドやリズムを展開させていく方が面白い
▲ 「Bad Bitches
(Feat. Stunnaman & LIL B) 」
??日本でのデビュー作となる『ヴォリューム1』は、様々な音楽要素が詰まっていて、色鮮やで個性豊かな作品に仕上がっていますよね。今作のインスピレーションとなったサウンドやプロダクション・スタイルについて教えてください。
ダレン:曲のスタイルに関していうと、ダフト・パンク、J・ディラ、初期のカニエ・ウェストのビーツ、ハウスやヒップホップ。サンプリングに関しては、昔のハウス系のサウンドがメインだね。
??ヒップホップからの影響も多く見受けられますが、ラッパーの為にトラックを作るというのは?
ダレン:単発でいくつか曲は作っている。ダーティ・サウス・ヒップホップのジューシー・Jとプロジェクト・パットやサンフランシスコ出身のリル・Bとのトラックとか。彼はとにかく面白いラッパーなんだ。ラップには大きな影響を受けているけど、フル・アルバムを作りたいとは思わない。僕自身は、多種多様な音楽性を目指していて、ラップはその中の一つの要素でしかない。シングルだったら抵抗はないけれど。仕事の仕方としては、クライアントとして仕事を頼まれ、彼らの名前の傘下で制作するという感じだね。
??ラッパーと言えば、エイサップ・ロッキーのツアー・サポートも務めていましたよね。
ダレン:そう。凄くクールだったよ!
??そのツアーの前には、彼のリミックスも手掛けていましたし。
ダレン:彼のことは以前から好きだったから、リミックスは自分がやりたくてやってみたんだ。手掛けた作品の中で一番好きとは言えないけれど、偶然彼のマネージャーの耳に入って、気に入ってくれたみたいで「ロッキーのUKツアーに参加しないか?」と誘ってくれたんだ。もちろんイエスと答えたよ。彼はほんとにクール。僕の音楽にも理解があって「ただのラッパーではなくて、いつかDJしてみたい。」とも言っていた。ファッション・アイコンでもあるし、とても多才なんだ。
??リミックスは、公式に依頼される場合もあれば、趣味で作ることもありますよね。
ダレン:聴いてみて単純にいい曲だな、と思ったり、もっと違う味が引き出せるのでは、と思ったらとりあえずやってみる。たとえばケンドリック・ラマーの曲は、単に好きだからやった。公式に依頼されたら、もう少し時間をかけて誇りに思えるようなものに仕上げるけど、楽しいからどっちも作るのは好きだね。
??プロデューサーとして他のアーティストのトラックを手掛ける面白さというのは?
ダレン:LA、マンハッタン、ロンドンと様々なスタジオと関わってきているけれど、どこのエンジニアと話しても、アーティストがほぼ完成されたトラックを持ち込んできて、ヴォーカルのみスタジオでレコーディングするのが現代の主流となっている。時間と金銭面ではいいことだけどね(笑)。レディ・ガガのプロデューサーでさえ、出来上がったトラックを持ち込んで「ほら、これにヴォーカルを足して。」という感じなんだ。時代が変わってきていて、以前のようにスタジオに集まってセッションしたりすることは少なくなった。その反面、ダフト・パンクの新作は、スタジオにミュージシャンを集めてレコーディングされていて、もしかしたら昔ながらの技法が復活の兆しをみせているのかもしれない。マーク・ロンソンもセッション・ミュージシャンを使ってレコーディングしているしね。エレクトロニック・ミュージックのクリエイティヴな表現法に惹かれる僕の見解としては、独創的なスタイルを確立して、サウンドやリズムを展開させていく方が面白いと感じている。どのような楽器を使ってレコーディングしているというのには、あまり興味がないんだ。
??では現在のマンチェスターの音楽シーンについて少し教えてください。私は2年前ぐらいに行きましたよ。
ダレン:ホントに?どこに行ったの?
??ライブを観に行ったので、リッツとルビー・ラウンジに行きました。後は、ピカデリー・レコーズとか。
ダレン:リッツとルビー・ラウンジは昔からある老舗ライブハウスだよね。僕はピカデリー・レコーズを曲がってすぐのところに住んでいるよ。あの辺は“ノーザン・クォーター”といって、マンチェスターでもヒップなエリアなんだ(笑)。
??やはりマンチェスターだと、音楽的にはニュー・オーダーやストーン・ローゼズのイメージが強いですよね。
ダレン:うん。今でも影響力のあるバンドだとそうだよね。忘れがちなのが、マンチェスターがアシッド・ハウスの発祥地だということ。だからダンス・カルチャーは今だに根強い人気を誇っている。"Hoya:Hoya"というクラブ・ナイトがあるんだけど、それに出演しているDJはクールだね。Illum SphereやKrystal Klear、ローカルのアーティストもプレイする。後はサンキーズ(Sankeys)というハウス系のヴェニューやデフ・インスティチュート(Deaf Institute)もいいよね。マンチェスターには、世界中から色々なアーティストがプレイしにくるので、音楽シーンとして刺激的ではあるね。
??ダレン自身もクラブ・ナイトを主催していますよね。
ダレン:ひとつの場所に常駐するのは嫌だから、巡業するものにしたかった。色々な場所で開催していて、自分でその付近に住んでるDJをブッキングするんだ。スローガンが「折衷的で個性的なダンス・パーティー」だから、スタイルやジャンルがまったく異なるDJを選ぶことを心掛けているよ。
??最近観に行ったライブやイベントで、印象に残っているものはありますか?
ダレン:ウェアハウス・プロジェクトでのトッド・エドワーズのプレイは良かったね!彼はUKガラージの先駆けなんだけど、アメリカのニュージャージー出身なんだ(笑)。それも彼が意識的に確立したものではなくて、自然とそうなったっていう。彼が目当てで行ったけれど、オリジナルの曲はすべて素晴らしかった。今になっても世界中をツアーしているのは凄いよね。ダフト・パンクの新しいアルバムにも参加しているみたいだよ。でも今は音楽を作って、もっとライブをすることに専念しているから家にいることが多いね。自分の音楽を作る以外にリミックスもするから、あまり時間が無くて…。時間がある時は、泳ぎに行ったりする。それに8月に赤ちゃんも生まれるから、これからもっと忙しくなってしまうね(笑)。
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単にDJとしてパフォーマンスをするだけではなくて、
トラック・セレクションは重要なんだ
??では曲を作り上げていく制作過程についての話をお聞かせください。
ダレン:大体の場合は、レコード・ショップかネットで聞いて気に入った曲のサンプルからスタートする。インストゥルメンテーション、コードが多いものやヴォーカルが入っているものを選ぶことが多いね。それを編集ソフトのサウンドトラックでパーツごとに録音して、刻んでいく。そこからヴァースとコーラスのシークエンスに分けていって、そのまわりに自分で演奏したドラム、パーカッション、ベース、ギターのサウンドで肉付けしてしていく。レコードの場合は、さっき話に出たピカデリー・レコーズやその近所にあるビート&リズムっていうノーザン・ソウルものを取り扱っている店に行く。レアなインポートもののソウル・レコードが色々あるんだ。
??『ヴォリューム1』ではオールドスクールな女性ソウル・アーティストのヴォーカルを多くサンプルしていますが、中でも特別に惹かれる方はいますか?
ダレン:ルビー・アンドリューズ、ミスティークス、メイヴィス・ステイプルズ…。
??メイヴィス・ステイプルズは、もう少しで新作が出ますよね。
ダレン:うんうん。クレイジーだよね。この間、マイケル・ジャクソンの「シャモーン」っていうのは彼女へのオマージュだというのを訊いてビックリしたよ。彼女は長い間アーティストとして活動してきているけど、残念ながらポップ・カルチャー史では、過小評価されている。すっごくキュートなレディだよね(笑)。
??同感です。今年のグラミー賞でのリヴォン・ヘルムへのトリビュートで彼女が「ザ・ウェイト」を歌っているのは見ましたか?
ダレン:見てないよ!後で見なきゃ。
??同じ曲をウィルコ、ニック・ロウと歌っているヴァージョンもあるのですが、そっちもすごくいいですよ。
ダレン:ウィルコは僕も好きだよ。『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』はいいよね。「ヘヴィー・メタル・ドラマー」とか「アイ・アム・トライング・トゥ・ブレイク・ユア・ハート」。でも一番好きなのは、ビリー・ブラッグと一緒にやったアルバム。
??『マーメイド・アヴェニュー』。
ダレン:そう。僕はビリー・ブラッグのソロ作品も好きでよく聴くんだ。
??意外とロックも聴かれるのですね。
ダレン:いわゆる名盤と言われるものは、間違いないからね。一緒に年を時を重ねてきたアルバムも多いし。それに個人的に今の音楽シーンでインスパイアされるようなギター・バンドは全然いないから。
▲ 「Star Slinger x Austin TX 2012」
??ダーウィンにも同じことを訊いたのですが、エレクトロニック・アーティストの場合、自分の音楽をどうライブで表現するかというのも大切ですよね。
ダレン:難しい時もあるけれど、エレクトロニック・アーティストでもDJとだとまた変わってくるよね。言葉にするのが難しいけれど…一般的なアーティストのように曲作りの際に、ライブ環境で聴いて楽しいと思えるものを作っているわけではなくて、他の曲と繋いだ時に感じられる面白みを意識している。僕が尊敬するライブ・アーティストはやはり過去のDJが多い。
??DJシャドウとか?
ダレン:正直な話、彼の作品に関してはほとんど知らなかった。初期の作風が似ている、とはよく言われていたけど。でも実際会ってみたら、様々な経験を積んできているから賢明で、学ぶことが多かった。初めてちゃんと彼の音楽を聴いたのは、その数日後にイスタンブールから乗ったフライトのインフライト・エンターテインメント。たまたまDJシャドウのグレイテスト・ヒッツというのがあったから聴いてみたら、何故似てると言われているのが理解できた。僕が一番尊敬するDJは、ライブで演奏するために曲をきちんと作り込んでいるアーマンド・ヴァン・ヘルデン。ヒットしたオリジナル曲も数多くあるから、それを聴いただけで観客はクレイジーになるよね。後は、元々DJだったダフト・パンク。2manydjsのライブも最高。単にDJとしてパフォーマンスをするだけではなくて、トラック・セレクションは重要なんだ。たとえばシミアン・モバイル・ディスコの音楽は大好きだけど、ライブで見るとおじさんが2人で機材いじってる!スゴイ!って感じではないよね。表面的なパフォーマンスやヴィジュアル面はあまり大切ではなくて、その人の個性が出るセレクションに驚かさせられる方が僕にとって意味があるんだ。
自分の前に演奏した人がアッパーなセットを展開しても、ライブ・アーティストの場合、自分の音楽が盛り下がるものだとしてもそれを必ず演奏しなければならない。DJだとその場の雰囲気に合わせてプレイする曲を選べるから、同じようにアッパーなセットをプレイして、それをだんだん自分でスローダウンすることが出来る。観客の反応を見ながらどんな曲が聴きたいかを考えるから、インタラクティブで興味深い。ある意味ライブという要素も含むからDJをする方が好きだね。
??では最後に今後の予定を教えてください。
ダレン:エリー・ゴールディング、ロンドン・グラマー、ライのリミックスがリリースされる。後は日本で『ヴォリューム1』がリリースされて、イギリスでも新作がリリースされる。
?? 『ヴォリューム2』?
ダレン:いや、『ラヴ・テイクス・アス・ハイ』というタイトルだよ。でも『ヴォリューム1』の続編ではあって、ゴスペルとハウスに影響されている。それにアルバムとして『ヴォリューム1』より明確な構造がある。
??『ヴォリューム1』は様々なスタイルが織り交ざった曲のコレクションという印象でしたが、今回は一貫としたテーマがある?
ダレン:僕は宗教的な人間ではないけれど…もちろん人類への博愛や信じる心はある。新作は信仰についてなんだ。別に「ジーザス」とかいってるサンプルは無いけどね(笑)。discogs.comにも掲載されていないようなレアなゴスペルのトラックも使ったし、夏っぽいから、みんなに気に入ってもらえるといいな。
リリース情報
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ヴォリューム1
2013/06/05 RELEASE
YRCU-98005 ¥ 2,409(税込)
Disc01
- 01.モーニン
- 02.ミンテッド
- 03.エクストラ・タイム
- 04.イノセント
- 05.バンプキン
- 06.コピュレイト
- 07.ダッチィ・カレッジ
- 08.ギミ
- 09.ガス
- 10.ファミリー・フレンド
- 11.スター・スリンガー
- 12.ライク・アイ・ドゥ (日本盤ボーナス・トラック)
- 13.ホット・ポテト (日本盤ボーナス・トラック)
- 14.ドゥ・イット・マイセルフ (日本盤ボーナス・トラック)
- 15.ホー・プラ (日本盤ボーナス・トラック)
- 16.ルネ・ストーム (日本盤ボーナス・トラック)
- 17.インプレッショナブル (日本盤ボーナス・トラック)
- 18.カサノヴァズ・ジャンプ・オフ (日本盤ボーナス・トラック)
- 19.スロウン・ウェット (日本盤ボーナス・トラック)
- 20.ベイビー・ママ (日本盤ボーナス・トラック)
- 21.モエ・アンド・リース (日本盤ボーナス・トラック)
- 22.テイク・ディス・アップ (日本盤ボーナス・トラック)
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