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THE BACK HORN 『パルス』 インタビュー
初のベストアルバムのリリースに初の日本武道館公演。その両方を実に有意義なものとして昇華した今年のバックホーンは、もうそれだけで十分に「すげぇバンド」という評価を受けていたと思うのだが、なんと早くも次のオリジナルアルバム『パルス』のリリース。いろんなもんが入り乱れる中でのタイトなレコーディングではあったようなのだが、一連の勢いを一切衰えさせずに迷いなく作られた今作は、もう「こういうところが」とか「こういう意味では」とか使わずに「史上最強のアルバム」と言い切れる傑作となった。その理由と経緯を4人に訊いた。
10年経って別によそ行き用でやる必要はない
--『罠』以来のインタビューなので、まずこの間にあったことについてお話を聞きたいんですけど、まず結成10周年を記念した初のベストアルバムのリリースがありました。10年間の軌跡をいろんな場で振り返っていましたが、実際どんな気分でした?
松田晋二:あんまり10年っていうのを意識してやってきたわけではなかったので、意外と冷静に「いろいろあったなぁ」っていうのを振り返るような時間でしたね。結構中身の濃い10年だったなっていうのは、率直な感想としてありました。ベストアルバムに関しては、今まで作ってきた曲を見直せるっていう発想もあったし、あと単純に『サニー』から『罠』までの全部を聴いたときに、結局何も変わってるわけでなく、その時ごとに自信を持って「これだ!」っていうものを突き詰めてきただけなんだなっていうのもあって。もう一回それらで新しいアルバムを作りたいなと。
--また、10年間を振り返る一連の流れの中に、バックホーンが初めてワンマンライブを行った下北沢シェルターでの公演がありました。
山田将司:8年前にワンマンをやってる場所のはずなんですけど、なんか、初めてワンマンをそこでやるような感覚でしたね。また新しい気持ちでシェルターに立てた気がします。8年前の時はね、客席を見れる余裕もなかったしね。だから「シェルターってこんなハコなんだ」って今年のライブで初めて分かりました。お客さんがあれだけ近いライブも良いなって。
--そして6月7日、初の日本武道館。僕も観させて頂きまして、なんか、4人の人生が丸ごと叩き付けられたライブっていう印象だったんですけど、自分たちではどんな感想を?
岡峰光舟:やる前はすごく緊張していたんですけど、始まってみたらフッと力が抜けましたね。
山田将司:デカイ空間っていうイメージで臨んだけど、実際にリハーサルでステージ立ってみたら、客席が近く見えて。他のホールとかだと3Fとか遠く感じるんですけど、武道館は客席が等間隔だからすごく包まれてる感じがして、温かい雰囲気でした。
岡峰光舟:独特な雰囲気がある。自分らがお客さんで行ってもそれは感じるんですけど、会場に入って開演まで待つ間とか、客なのに緊張したりするし。面白いハコですね。
--僕も今までいろんなアーティストの武道館ライブを観てきたんですけど、バックホーンの武道館は誰よりも異質なライブだと思いました。武道館って最初から最後まで綺麗な映画を観ているようなライブが多いんですけど、バックホーンのは結構血なまぐさいシーンとかやたら現実に引き戻されるシーンもあって。それをあの人数が見つめてるっていう光景がすげぇなと思って。でもそれがバックホーンなんだよなと改めて感じました。
菅波栄純:血なまぐさいシーンって『ジョーカー』とかだと思うんですけど、あれは「絶対に武道館でやりてぇな」っていうのが俺らの中であって。あと『ひとり言』も絶対にやりたかったし。別に理由はなかったんですけど、それが自分らの本質のひとつだからやるべきだろうって。
松田晋二:10年経って別によそ行き用でやる必要はないっていうか。もちろん曲的に「こういう曲聴きたいだろうな」とか「こういう曲やりてぇな」っていう欲はいっぱいあったんですけど、単純にバックホーンを見せるという意味では、タキシード着て、蝶ネクタイ締めて、ビシッと決めるっていうことじゃなかったですね。だから『キズナソング』を大所帯の弦をバックに披露したのも、あくまで曲に寄り添った見せ方をしたかっただけで。単純に曲の持ってるイメージを広げるためというか。なので何か武道館で意識した演出があったとすれば、それは曲のイメージを広げるための演奏。それが最大の、自分たちなりの演出だろうなって。
--で、ベストも出て、武道館もやって、バックホーンはどこに行くのか?と思っていたら、このアルバム『パルス』ですよ。生命力の塊みたいな新作ですよ。なんでこんなに戦闘モード全開な作品が出来たんでしょうか?
松田晋二:去年シングルでリリースした『罠』のタイミングぐらいから、ぽろぽろ曲は出来てて。普通だったらアルバム『THE BACK HORN』出して、ツアー終わって、また新たなイメージ膨らませて曲作りっていう流れなんですけど、今回はツアー中に『罠』の制作が入ってきて、それが去年のうちにシングルとして出て、「来年10周年だしなぁ」とか考えてたら、その10年を振り返りつつ、『罠』で大きくなった音楽的な刺激を突き詰めていく方が「良いアルバムが出来そうだな」っていう予感がして。
実際、時間的にはタイトでしたけど、決断力は鈍ってなかったから「これ良いな」「じゃあこうしよう」ってスパスパって決まっていって。単純にそういうバンドの状態がこのアルバムに影響してるなとは思いますね。あんまり意識して「激しい、テンションの上がる曲をやろう」とか「生命力を歌おう」っていうテーマを決めたりはしてなかったので。
Interviewer:平賀哲雄
「おめぇ、はみ出せ」って言われて
--これまでバックホーンは、最初からゴールを決めて作り込んでいったり、まず1曲1曲の世界観を突き詰めていったり、様々な方法でアルバムを作ってきましたが、今回はそこは考えずに作ったってこと?
松田晋二:考えっていう意味ではなかったですね。ただ、イメージだったり、みんなで見てる最終地点っていうのは、意識の中で一緒だったと思います。
菅波栄純:デモの段階で、1曲目がないけど最後の曲はあるとか、その逆とかもあって、後からそこをどうするか考えていったりすることがよくあるんですけど、今回は『罠』が最初に生まれて、それがもうアルバム全体のイメージを見せてくれて。そういうのは初めてでしたね。
松田晋二:もっと言うと、その『罠』と『人間』と『生まれゆく光』の3曲が同時にボン!と同じシーズンに出来て。で、この3曲が絶対凄いことになるだろっていうのはその時点で分かってて。だからその3曲が同時に出来たことが今回のアルバムを生み出すパワーっていうか、自信になったんだと思いますね。そこで『罠』が単発で出来ただけだったら、そこで1回完結させて、また別の流れをゆっくり作っていたかもしれない。
菅波栄純:その3曲が補いあってたのかな。
松田晋二:3部作みたいな。なので、先程仰っていた生命力に満ち溢れてる感じっていうのは、そこから生まれたんだと思います。
--『ヘッドフォンチルドレン』のときも3曲によって切り拓かれたっていう話をしてましたよね。ふと思い出したんですけど。
山田将司:それと逆の流れですね。『ヘッドフォンチルドレン』のときは、重要な3曲が最後に出来たけど、今回は最初ですからね。
菅波栄純:そういうすげぇ大事な瞬間っていうのがあるんですよね。
--そうして生まれたアルバムに『パルス』というタイトルを名付けたのは?
岡峰光舟:タイトルを考えるのって、毎回アルバムが完成してからなんですけど、いつも2日ぐらい掛けて、じっくり言葉を探して考えるんですよ。で、今回もそうだったんですけど、なんでか『パルス』っていう響きだけが思い付いて。「語感は良いけどどういう意味なんだろ」って調べてみたら、意外と「鼓動」とか「脈を打つ」とか、体温を感じるような意味で。パッと見は無機質な言葉なんだけど、有機的な意味を持ってる感じが、今回のアルバムのトーンにも近いなと思って。で、しっかりアルバムと照らし合わせてみてもハマったので『パルス』に。
--では、その『パルス』各収録曲について触れさせてください。まず1曲目『世界を撃て』(作詞:菅波栄純)。この曲もなければ、おそらく何もかもが違うものになっていたんじゃないかと思うぐらいの存在感を持った曲ですが、なぜこんな凄まじい曲が出来てしまったんでしょうか?
菅波栄純:なんでだろう?突然生まれたんで、俺らもビックリしたんですけど(笑)。合宿やってて生まれてきたんですけど、俺が憶えてるのは、当時マツ(松田)が、このアルバムっていう国の住人になって曲を作りたいみたいなことを言ってたんですよ。それに俺は向かっていって。なんて言ってたんだっけ?
松田晋二:『罠』と『人間』と『生まれゆく光』の世界観が同じ国に住んでる奴みてぇなんだよなって言ってたんですよ。まぁ職業で言ったら、看護婦と酒屋の親父と漁師みたいな、全然違うんだけど、でも同じ国に住んでる感じなんだよなって。そんな感じで11曲の世界観が繋がっていたらいいなって。
菅波栄純:「一緒のところから生み出す」みたいなことを意識してたんですよ、今回は。それも初めてかもしれないです。いろんなところから集めてきてひとつの国を作るんじゃないっていうのが。で、『世界を撃て』を作ろうとしていたときは、そのときはまだ“パルス”っていう言葉はなかったけど、なんかすげぇ躍動してて。それで俺がイントロのフレーズが出来てマツに「合わせてみて」って言ったら、奇しくもドッドッドッドッドッってすげぇパルスを刻んでたんですよ。パルス刻みすぎて「足が疲れすぎるから辞める」って言い出すぐらい(笑)。そしたらみんなから猛反対されて。
松田晋二:だからツアーまでに特訓に入んなきゃいけないんですよ。多分ツアーの1曲目でやるだろうと考えると。
菅波栄純:いきなりあのテンションで刻めるかっていう(笑)。
松田晋二:右足だけは特訓に入る必要がある。界王星に行くぐらい。
菅波栄純:かいおうせい?
松田晋二:重力重いから。
菅波栄純:あぁ(笑)。それでドラムが・・・
--(笑)。
菅波栄純:ドラムがすげぇエネルギッシュだから、それで舞い上げられたんだと思う。だからみんなが出してる音も他と違うっていうか。
山田将司:ぐちゃっとしてる。
菅波栄純:塊みたいだよな。
--コーラスの絶叫ぶりも過去最高ですよね。
菅波栄純:あの絶叫は、将司が入れろって言いだしたんですよ。
山田将司:「この曲にはテンション低い奴が出てきちゃダメだ」って。飛び出してくる奴が欲しくて。
菅波栄純:それで俺が「おめぇ、はみ出せ」って言われて、スタジオでマイクを目の前に立てられて「死んだぁ!!!!!」って(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
リアルな11曲として存在できっかなと思って
--で、この『世界を撃て』から『フロイデ』(作詞:岡峰光舟)のイントロへの流れが完璧で、もうこの流れで「このアルバムは半端ない」って確信できる感じがあって。
岡峰光舟:それは他の人にも言われましたね。
--ライブにおけるバックホーンの『コバルトブルー』と『ブラックホールバースデイ』の畳み掛けって、今や百戦錬磨の必殺技だったりするじゃないですか。で、この『世界を撃て』と『フロイデ』の畳み掛けはもしかしたらそれに匹敵するんじゃないかなと。どうでしょう?
松田晋二:ライブでの畳み掛けはともかく、このアルバムの中におけるこの2曲の畳み掛けっていうのは意識しましたね。後半までじらしてじらしてドーン!よりは、まずこの2曲で始まりを告げたいと思って。『世界を撃て』のアウトロから『フロイデ』のイントロに入っていく流れも、『世界を撃て』で世界を見据えて覚悟を決めた後に『フロイデ』で照準を絞っていく感じの詞の流れも、すげぇ良いと思ったし。まぁこの順番で曲が出来ていったわけではないんですけど、最初はこの2曲でブチかましだろうなっていうのは、もちろんありましたね。
--その『フロイデ』の歌詞はどんなイメージから構築されていったんでしょう?
岡峰光舟:まずリフのイメージですね。凄く鋭い、切り裂くようなリフがどうしても戦場を呼んじまう。そこから広がった空想ですね。で、フロイデはドイツ語なんですけど、歓喜っていう意味があって。狂気と歓喜みたいなもんが戦場には入り乱れてんだろうなっていうイメージからこのタイトルに。
--で、この流れで聞こえてくる『覚醒』(作詞:菅波栄純)がシングルで聴いたとき以上に勢いを感じさせるっていう。
菅波栄純:俺らも同じ事を感じてて。『世界を撃て』『フロイデ』の後にこれが来るのは間違いない。
山田将司:ドッシリ聴こえて良い。
菅波栄純:今回の曲順はマツが急に持ってきたんですよ。「一応考えてみたんだけど」みたいな感じで(笑)。それで「一応聴いてみっか」って聴いたらもう。
山田将司:「これ、いいじゃん」って。
菅波栄純:「もう出来た」みたいな(笑)。
岡峰光舟:いつもだったら曲順でかなり揉めるんですよ。3,4日ぐらい。それがすんなり「良いからいいじゃん」なんて言えたのは、このアルバムの凄さだと思う。
松田晋二:まず収録曲を絞る段階でもう「この曲はこういう役割にしたいんだな」とか「この曲の言いたいことは多分ここなんだな」っていうのを分かってて選んだから、もうほとんど曲順も決まっていたようなもんだったっていうか。『生まれゆく光』ともう1曲、ちょっと場面を変える歌が欲しいってところから『鏡』が生まれたりしてるんで。ということは『鏡』が始まりのわけないし。そういうみんなの中での暗黙のイメージが合体した感じだと思うんですけど。
--今、名前の出た『鏡』、あと『さざめくハイウェイ』(作詞:山田将司)なんですが、この2曲って音楽ですけど、音楽の域を超えているというか、何かが蠢いている抽象画を眺めているような感覚になる曲で。
山田将司:分かりますよ、抽象画な感じ、何か画として見える感じは。『さざめくハイウェイ』は合宿で各々で別々にネタ探しをしてるときに出来た曲なんですけど、Bメロの決めとサビの変なコードが浮かんだときに「これ来たな」と思って。全体的にキュッとしてるんだけど、なんか、地下鉄で電車がずっと流れてる感じとか、人間の意識とは別に機械が常に動き続けてる感じとか、そういうイメージがあって。ちょっとグッと来ましたね。
--で、続く『鏡』の構成も絶妙で。かなり沈んだ世界で漂っていたはずなのにさりげなく太陽の下まで浮かび上がらせてくれるというか。これもかなり芸術的だと思いました。
菅波栄純:俺らもすごく新鮮でしたよ。『鏡』は最後に出来た曲なんですけど、「なんか1曲足んねぇ」ってことで将司が持ってきた曲なんですよ。将司の中ではその足りない1曲が多分見えてて。このアルバムは頭とかはバリッとしてるんだけど、すんげぇ『鏡』って柔らかくて。『さざめくハイウェイ』も。この中盤2曲は重要ですね。
山田将司:アルバムはもちろんエネルギッシュなものにしたいけど、もっとよりリアルに感じるアルバムにするためには、常に激しいっていうのは違うし。まぁ『生まれゆく光』も力は抜けてるけど、ちょっと神々しい感じがあるじゃないですか。それよりもっと抜けてる、ボケーッとした感じの曲をさりげなく入れられたらいいなっていう。それがパッケージできたらもっとリアルな11曲として存在できっかなと思って。
松田晋二:『鏡』が春のほのぼのとした縁側的な曲だったら「この世界にどう馴染むんだ?」ってなったと思うんですけど、その柔らかい感じもありつつ、冬のひんやりとした朝みたいなムードが一本流れてるじゃないですか。その線が多分、アルバム全体に流れてるムードにマッチングして。その上でバリエーションっていうか、幅の広さを出すことが出来たんだと思いますね。
Interviewer:平賀哲雄
この曲を世の中に出せることがすごく嬉しい
--そして、続く『白夜』(作詞:菅波栄純)でなんか項垂(うなだ)れて、開き直って、踊り出すみたいな。でも中盤に『レクイエム』ばりに緊張感あったりもして。これもセッションから生まれた曲みたいですけど、バックホーンの狂った曲は大体セッションから生まれるっていう(笑)。
一同:(笑)。
松田晋二:そうですね。大概、無意識のときにそういう曲が出来るんですよね。
菅波栄純:かなり無意識だった、あれは。
岡峰光舟:無意識の前じゃない?準備体操の前みたいな。だって音楽になるとは思っていない、練習段階の中から生まれた曲ですからね。
菅波栄純:光舟はなんでアレ弾いてたの?適当に弾いてたの?
岡峰光舟:いや、ベースのサウンドチェックで「今日は良い音で録れるかなぁ」って鳴らして。
--それに誰が食い付いたんですか?
岡峰光舟:まずドラムが合わせてきて、それを聴いて山田が、自分が元々持ってたギターのフレーズを崩したらハマるって多分直感で分かって。それをハメてみて、「じゃあ、俺が歌うわ」って歌ったんですけど。そしたら「白夜」っていう言葉が出てきて、大体ストーリーもこんな感じだったかな?で、そのまま封印してたんです。曲を作った感じは無かったから。ただ、後々「合宿の成果を聴いてみよう」と思ってそれを聴いてたら「これなんか、変な匂いを放ってんな」と思って、そこから育てた曲。良いアクセントになったと思います。
--そして『蛍』『グラディエーター』(作詞:松田晋二)と、終盤に差し掛かったところで、バックホーンの核というか王道が待ってるっていう。
松田晋二:まず『蛍』は、このアルバムの中で一番バックホーンが今までも打ち出してきた叙情感というか、切なさを持ってて。見える景色で言えば、コンクリートじゃなくて自然っぽい。で、大人のクールな感じと言うよりは青春の熱さ。そういう曲だなって。あと、最後の『人間』『罠』『生まれゆく光』っていうところに導くまでのところで「バックホーンでしかできない曲」って言い切れる曲がなんとなく欲しくて。それでこの位置に『蛍』を。『グラディエーター』もそうですね。
--で、そのバックホーンの核を見せ付けた後に『人間』(作詞:菅波栄純)という、その核を少し俯瞰して見たかのような、極端な曲が待っています。これが生まれた経緯っていうのは?
岡峰光舟:スタジオの中でバラバラになってアイデアを出し合おうみたいな感じで、俺と山田が同じ部屋でネタ探しをしてて。で、俺も曲作るときはギター使うんですけど、そのときにたまたま弾いていたのが『人間』の元になってて。『人間』『罠』『生まれゆく光』の3曲を作ったときは、ツアー中だったのもあって、結構タイトなスケジュールだったから、もう変なテンションになってたんですよね。だからよく分かんないうちに弾いてたのを山田が拾ってくれたっていう。それでイメージが見えてきたからそれを詰めてみようと思って、マツに「今日のとりあえずの形を付けたい」って言ってドラム叩いてもらったら、もうそのまま完成しちゃって。
--その仕上がりにはどんな感想を?
菅波栄純:チューブラベルの音が頭とかに入ってるんですけど、そのベルがちゃんと叩いてもちょっと不協和音なんですよ。で、なんか『人間』っていう曲自体も不協和音っていうか、天使と悪魔が混ざってるようなコードなんですよ。それが光舟から出てきたことに俺は面白さを感じてるんですけど、広くて狭いし、天使のようで悪魔のようだし、その矛盾してる感じが人間だなって。
--で、それに続くのが『罠』(作詞:菅波栄純)ですからね。前回のインタビューで松田さんが「一番歌いたい部分にどんどん向かっていってる」「「何かが見つかりました」っていうモノを次のアルバムで出したい」と言っていたんですが、正にそうなってるなって。
松田晋二:『罠』を作る段階で、あれが次に繋がるものだと思ってたし、あそこで「あぁこれしか出来なかった」っていう悔いが残ってたら、多分アルバムを作る上でも、自分たちが今後音楽を作っていく上でも、自信を持てないし、開いていける扉もないだろうなと思ってたから。そういう意味では「この曲が出来て良かったな」と思いますね。
--そして今作のラストを飾る『生まれゆく光』(作詞:菅波栄純)。この曲に込めた想いを聞かせてもらえますか?
菅波栄純:『人間』はセッションで出来てて、将司が『罠』を作ってきてて、俺もなんか作りたいと思ってメロディとか考えてたんですけど、歌詞とメロディが一緒に出てきたんですよ。まずはなんか生きてるってことを・・・なんだろうなぁ。どんな感じしました?
--この曲は、もう壊れそうになるくらい日々と戦ってきた人、戦ってる人に出逢ってほしい曲だなと思いました。
菅波栄純:それは俺たちも思いました。だから「この曲が出来て良かった」って。この曲を世の中に出せることがすごく嬉しい。そういう気持ちはすごくあって。ちょっと笑ってしまうんですけど「生まれてきてありがとう」みたいな。曲に対してそういう気持ちが芽生えたのは初めてでした。
--そんな全11曲入りのニューアルバム『パルス』。どんな風に世に響いていったらいいなと思いますか?
松田晋二:今回は、どの曲も足して足して膨らませていくっていう発想じゃなくて、もっと削って削ってシンプルにまとめて。且つそこに深みだったり、驚きだったりっていうのをどうやって入れられるかっていう、そういうアルバムになったと思っていて。だから、もっと大袈裟に「生命の・・・」「惑星の・・・」みたいな壮大な映画のようなタイトルを付けることもできたし、ひょっとしたら『人間』とか『生まれゆく光』とかを7,8分の壮大な曲にすることも可能だったけど、なんかそういうことじゃなかったんですよね。そこをシンプルにすることで、その分、想像できるだけの隙間がいっぱいできたと思っていて。だからそれがみんなのもとに届いたときに、シンプルさの中にある沸き上がってくるものとか、見えてくる映像みたいなものを感じてほしいっていうのはあります。あと、単純に音でダイレクトに「いいなぁ」って聴く感じとか、歌いながら聴くとか、そういういろんな楽しみ方ができるアルバムだと思います。
--そのアルバムを引っ提げたツアー【「KYO-MEIツアー」~創造のパルス~】が10月より半年以上にわたって行われるわけですが、どんな内容にしたいですか?
松田晋二:前半はライブハウスのツアーをやって、来年からはZeppクラスのちょっとでかくなったところでやるんです。なので、前半で曲が体に染みつくのをギュッとしたところで味わった感じが、来年以降どれぐらい羽根を広げんのか、壮大になんのかなっていう。そこが楽しみですね。さっき言った音でガン!って聴く感じと、映像をイメージしながら聴く感じと、その両方が今年と来年に跨って出来そうな感じもするので、楽しみです。『パルス』を出した今のバックホーンのライブがバン!と魅せられればなと思います。
Interviewer:平賀哲雄
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