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THE BACK HORN 『THE BACK HORN』 インタビュー
心を開くということは、受け入れるということ。現実を直視するということ。とてもポジティブで正しいことのように感じるし、きっと正しいことなんだけど、それは、美しいことばかりじゃなく、吐き気がするほどの暗い現実やどうしようもなく弱っちい自分を受け止めることでもある。そんなことを『THE BACK HORN』を聴きながら改めて痛感させられた。ただ力強いだけじゃない、あまりに生々しいリアルを打ち出した彼らに約一年ぶりのインタビューを敢行した。
共鳴ツアー
--個人的には、【『太陽の中の生活』ツアー~ライブ イン ザ サン~】と【東阪ホールツアー~鈴虫デストロイヤー~】で、バックホーンは各メンバーの精神的にもバンドとしても次のステップに駆け上がった感があったんですが、自分たち的にはどんな感覚だったんでしょう?
松田晋二:【東阪ホールツアー~鈴虫デストロイヤー~】に関しては、単純に新しい挑戦というか、新しい経験ではありましたけど、そこに気負いみたいなモノはなかったです。むしろどのライブも楽しみながら向かっていけた感覚でしたね。
--あの、もうとにかく『太陽の中の生活』以降のバックホーンは、極端な言い方をすると笑顔の似合うバンドだったと思うんですよ。なんだったら常に太陽の下でライブをしててほしいぐらいの(笑)。その感覚はありました?
菅波栄純:自分ではそんなに笑っていた感覚はないんですけど、それはよく言われますね。
--そんなバックホーンが今年に入って【「KYO-MEI対バンツアー」~共に鳴らす夜~】をスタートさせます。あれはどういった趣旨で始まったモノだったんですか?
松田晋二:ずっとワンマンでツアーを回ってきて、自信でも出てきていましたし、自分たちのライブをしっかり作っていけている手応えもあったので、ここらでちょっと修行的な意味も込めて対バンでツアーをやってみるのはどうか?って話が上がったんですよ。で、どうせやるなら初めてやるバンドとかすごく刺激を得られそうなバンドとやろうと思ったんです。そしたらいっぱいバンドの名前が挙がってきて。じゃあ、全会場違うバンドとやってみようと。「そんなこと実際に出来んのかな?」って思ったりもしたんですけど、あれよあれよと言う間にブッキングが決まっていって。だから“共鳴”というテーマを掲げていたけど、自分たちのモチベーションとしては、刺激を得たくて始めた挑戦的なツアーですね。いろんなライブも観れるし、会場ごとに全く違った空気を味わえるだろうしと思って。
--実際に敢行してみていかがでした?
松田晋二:考えさせられたツアーでしたね。ワンマンのときみたいに自分たちの世界観をいろんな会場で広げていくというよりは、そこにもうひとつのバンドの要素と空間があって、俺たちの空間もあって、本当にその日にしかないライブをお客さんも含めて一緒に作っていく感じでした。で、本当にどのバンドもやりたいことがあって、伝えたいメッセージがあって、音楽が好きで、そこだけに向かってやっていってるんですよ。それは俺たちも忘れちゃいけないなって思いましたね。
--僕は、横浜の銀杏BOYZとの対バンと埼玉の怒髪天との対バンを観させてもらったんですけど、対バン相手の個性もありきだとはもちろんあると思うんですが、前半と終盤ではかなりバックホーンのライブの印象が変わったんですよ。怒髪天との対バンは、もう何も余計なことは考えず振り切れていた印象を受けたんですが、それは自分たちでも感じていましたか?
菅波栄純:なんかどんどん心を開いていってもらってる気はしましたね、回を追うごとに対バン相手とお客さんに。ツアーの最初の方はやっぱりすごく気負いもあったんですけど、お客さんが普通に楽しんでる姿を見れば見るほどに「俺らももっと楽しんでいこう」と思えたんですよ。あと、やっぱりバンドによって自分らの音楽をどう楽しんでもらうか?ってそれぞれじゃないですか。その「どう楽しんでもらうか?」ってことに対してみんなが一生懸命考えて、体全体で表現してるのを見てたら、やっぱりこっちも「どんどん心を開いていかねぇとダメだな」って思ったし、それでどんどん無心になれていった、没頭するようになれていった感覚はありましたね。やっぱり頭でゴチャゴチャ考えてても、対バン相手にも勝てないし、お客さんを楽しませることは出来ないから。だからもう「どれだけ自分らの音に入り込むか」ってことしか考えないでやっていこうと。
--ちなみに横浜での1曲目に『レクイエム』を持ってきたのには、かなり度肝を抜かれたんですが、あれはどういった想いや考えから?
松田晋二:単純に「『レクイエム』を久しくやってないな」と思って。あとライブでグッと来る曲だし、ちょっと俺らの中での強い武器として使いたいなとも思ったんですよ。銀杏BOYZがストレートに熱いライブをやるだろうし、ちょっとどっしり始まってガッツリ進めていくのはどうかって思って。
だから前半は結構対バン相手の影響を受けながらやっていたというか、やっぱりツアーを進めていろんな対バン相手とやっていくごとに変わっていったからこその、その埼玉での怒髪天とのライブとかがあると思うんですけど、最初はやっぱり新しい試みだったし、どこかで戦闘モードだったのもあると思う。そういう意味で、銀杏BOYZと怒髪天のライブっていうのは、まぁやった時期的に見ても対照的だったかなと。
菅波栄純:対バン相手に対する意識の仕方が出てたかもな。もちろんどれも真剣勝負なわけだけど、前半は剥き出しっていうか、「この野郎!」みたいなのはあったな、正直(笑)。だけどまぁそういうのも徐々に「自分たちの音楽に没頭することが真剣勝負になるんだ」っていう風に変わっていきましたね。
--ちなみにそのツアー、いろんなボーカリストを観たと思うんですが。
山田将司:いろんな人がいましたねぇ。特に怒髪天さんは、ギター&ボーカルとかじゃない、自分と同じボーカルだけのボーカリストじゃないですか。そういう意味で注目して観てたんですけど、格好良かったですね~、増子さん。
あと、ツアーの中での俺らの変化については、自分はそんな自覚的ではなかったんですけど、毎回毎回ガチンコで、その積み重なってきた形がその怒髪天のときに出たんじゃねぇかなって。
菅波栄純:うん、そうだな。
--決して容易いツアーではなかったことは、あの埼玉での、最後の松田さんの尋常じゃない「埼玉最高!」の連呼から感じました。
岡峰光舟:言ってた、言ってた(笑)。
--すべてを観ていないから分からないですけど、バックホーンが辿り着きたかったモノにようやく辿り着けた表れだったのかなって。
松田晋二:うんうん。それと、埼玉でライブをやるのが初めてだったっていうのもあります。最初は、埼玉は近いのでそんなに初めて感はないと思ってたんですよ。今回のツアーで言えば、滋賀とか、久しぶりに言った長崎とかだと、初めて感、久しぶり感があるのは当然なんですけど。でも埼玉は東京に近いはずなのに、“埼玉でやる新鮮味”みたいなモノがあって。で、ライブが終わるときにすごく繋がれた感じがあって、喜びのあまり、「埼玉最高!」って叫んでました(笑)。
--また今回のツアーでは特になんですけど、最近の岡峰さんのライブにおけるベースプレイを絶賛する声をよく聞くようになりました。自分の中ではそこの変化や進化みたいなモノを感じていたりしますか?
岡峰光舟:どうっスかね~。でも今回のツアーでいろんなベーシストを観れたっていうのは、大きいですね。それもあるし、意外と良い人しかいなかった(笑)、バンドもベーシストも。やっぱりずっと続けているバンドの人たちは、その人間性があっての演奏だし、音楽なんだなって。すごく人間を感じましたね、いろいろ。そういうのを感じていろいろ考えてると、良いベースが弾けてくるんじゃないかなって思う。
Interviewer:平賀哲雄
心を開くってことは
--そんな各々がいろいろなモノを吸収したツアーを終えた後に今作『THE BACK HORN』がリリースされるわけですが、まず1曲目の『敗者の刑』を聴いて、「あ、このアルバムは決して優しくはないな」と感じました。それは歌詞の内容的にもそうですし、『扉』や『カオスダイバー』のような分かりやすい入口ではなかったからなんですけど、どうしてこうした曲を1曲目に持ってこようと?
松田晋二:今回のアルバムの中で最後の方に出来てきた曲なんですけど、俺が「こういうテーマで曲を作りたい」って言って、脚本みたいなモノを箇条書きにして持っていって。そこからセッションであれよあれよと言う間に曲のストーリーが固まっていって、完成して。で、俺のイメージとしては、わりとアルバム中盤の人間物語みたいな感じで考えていたんだけど、将司とか光舟が「『敗者の刑』、1曲目じゃないか」と。それで今回は曲順を考える上で、一曲一曲がより映えることを意識していたんですよ。それはなんでかって言うと、今回のアルバムの作り方が一曲一曲に向かっていく形だったんですよね。『太陽の中の生活』は、トータルコンセプトがあった上での一曲一曲だったんですけど、今回はそうじゃなくて一曲一曲の世界観を突き詰めていく、歌詞もサウンドもアレンジもプレイも。だからそういう風にして生まれた12曲をどういう風に聴かせていくかっていうときに、『敗者の刑』といった今作で一番シビアな曲、底辺というか、すごくギリギリのところからアルバムが始まっていくのは、個人的にも良いなと思えて、今作の幕開けに選んだという流れですね。
--そして、2曲目の『ハロー』、最初はなんて爽やかドライブミュージックなんだ!って驚いたりもしていたんですが、なんか聴いている内にすげぇ切なくもなったりして。この曲には一体どんな想いが収まっているのか、教えてもらってもいいですか?
菅波栄純:身内が死んだりするのも経験して、自分の死生観っっていうか・・・なんていうのかな。でも自分は今も生き続けて、音楽やり続けようと思ってずっとやってるけど、時々寂しくなったりして。でも人は死んだりしなくても出逢いと別れがいっぱいあるんですよね。対バンツアーをやって、24回も出逢いと別れを繰り返すわけじゃないですか。イチイチ寂しいんスよ、結構。打ち上げ終わって別れるときとか、寂しいんだよなぁ。なんかそういうことを繰り返していって、人生って転がっていくんだなって思って。でももしかしたら「二度と会えない」って思っていた人にもいつか会えるかもしんねぇし、そうやってずっと繰り返していく出逢いと別れと、あと寂しさと、希望みたいなもんが書きたくて。
--『美しい名前』もまた日常の中のどうしようもない現実から生まれた楽曲であると聞いたんですが、そういったモノを曲にせずには、歌わずにはいられなかったんでしょうか?
菅波栄純:あの、一番自分の気持ちに正直に書くから、それもやっぱり書くべきだと思ってて。自分の人生で起きたことをちゃんと書くっていうか、何かが起きて自分の心が動いたことは、誰かに伝えるために歌にしたいっていつも思うから。でも音楽にするときにそのことを、ただ現実に起きたことだけを書くんじゃなくて、更に生きていく力にできるように書きたいと思って。音楽ってそういう力を持ってると思うんですよ。で、例えば、『ハロー』みたいに爽やかに聴けるような音楽にして、何回でも聴けるような音楽にして、それでみんなが持ってる切なさを癒やせる音楽にしたいなとか。そういうのはすごく考えながら作りますけどね。
--バックホーンのここ数年は、『ヘッドフォンチルドレン』で必死に心を開いて、それによって生まれた光みたいなモノを『太陽の中の生活』で描いた印象なんですが、今作からは、心を開くってことは、ポジティブなことだけじゃなくて、目を背けたくなるような現実も受け入れることなんだってことを強く感じさせられるんですよ。
菅波栄純:うんうん。
松田晋二:そうですね。それを感じてくれたらすごく嬉しいなと思っていて。心を開く、閉じこもっていないってことは、それだけ悲しみもツラいことも喜びも、それこそ出逢いも別れも、いっぱいいろんなことが待ちかまえていて。それをバックホーンが心を開いたかとか、バンドレベルでの話じゃなくて、最終的にみんなが人生を楽しむためというか、自分で自分が生きている実感を得るためには、他人のせいにしたりとか、世界のせいにしたりとか、「誰かが悪い」って言う前に自分で心を開いて、まずは受け止めてみよう。そういう感じが今回のアルバムには充満してると思っていて。で、その上で「どうよ?」って聞く。例えば、『敗者の刑』だったら、本当にビルしかないようなシビアな場所にいて、ふと故郷の景色が浮かび上がってくる。そこで「どうよ?」って。そこで負けて故郷に帰るのか?って問う。そうやって単純に希望を描くだけじゃなくて、受け止めた悲しみだったり、ツラい現実にしっかり向き合って、そこからまた一歩踏み出すことが大事だと思ってて。そういうことをこのアルバムから感じてもらえたら、、嬉しいですね。
--その結果なのかもしれませんが、今作、全てではないですが、もがき苦しんでいる描写や祈りにも似た歌が前作より目立ちますよね。例えば『フリージア』、具体的にはどんな背景があって生まれた歌だったりするんでしょうか?
菅波栄純:「美しく生きたいなぁ」とか思うんですよ。花とかに憧れたりするんですけど。でもそれってものすごくシビアな生き様だから美しかったりするじゃないですか。そう思うと、純粋さとか美しさっていうのは、ただ綺麗なわけじゃねぇっていうか。だからまぁ結構俺なんて、生きてても、ちょっと微妙ですよ。
(一同笑)
菅波栄純:わりとね、自分には甘いしね。なんかこう微妙な感じだなぁって。そうやって自己嫌悪になったりするんですよねぇ。だから花とかに憧れる。そういうちょっと狂おしい気持ちを書きました。
山田将司:そのちょっとモヤモヤした感じがこの曲にはあって。頭の中では、いろいろ世の中で起こってることは分かってるんだけど、自分は何かから抜け出せないでいる。分かってるんだけど。そういう気持ちには歌っててもなりましたね。
--また『負うべき傷』、前作の『浮世の波』同様、サウンド的には「これぞTHE BACK HORN」的な印象を受ける楽曲でもありますが、これはどんな想いから生まれたモノなんでしょう?
岡峰光舟:なんか、どうしようもない虚しさってどっかあるじゃないですか。全然不満はないんだけど・・・なんか虚しい。そういうのがあるからきっと喜びとかいうのも見えてくるんだろうけど。悲しいことだけが虚しいわけでもなく、上手くいってるんだけど不安だったり虚しかったり、そういうところで落ち込んでもいるし、でも頭の中では、さっき山田も言っていたように「こんなの、抜け出したいんだよ」って思ってる感覚、葛藤。
--このどうしようもなく途方に暮れている感じをリアルに感じる人と「ダメな奴だな!」ってはね除けてしまう人が僕はいると思うんですが。
岡峰光舟:「分かんない」って言う人も多分いる。でも分かる時期は来ると思う(笑)。
菅波栄純:絶対に来るからな、周期的に。
--ただ、この曲はある意味、これをリアルに感じてしまう人へのアンチテーゼ的なメッセージがあるのかなとも感じたんですが。
菅波栄純:バックホーンはそういう曲が多いんだけど、自分の想いを本当に「伝わるように!」って思いながら吐き出せば、誰かに対する救いになったり、また毒にも薬にもなるとは思う。
--また、同じく岡峰さんが詞を手掛けた『虹の彼方へ』。この曲での表現は、ネガもポジも受け止めて歩いていこうとしている意思を感じさせますよね?
岡峰光舟:そうですね。自分では「行きたい!」って気持ちがもちろんあるんだけど、でもどこか見守っててほしいみたいな、支えてほしいみたいな気持ちもあって。それってどんな状況や対象にも当てはまるのかなって。それは友達だったりもするだろうし、バンドだったらお客さんだったりもするだろうし。モチーフ的には友達なんですけどね、みんなのモノにもなるだろうなって。そういう感じ。
--それに続く松田さんが詞を手掛けた『シアター』は、もうどっちだか分からないですよね?ポジなのか、ネガなのか。
松田晋二:この曲は、あんまり俺の中にポジティブとかネガティブっていう解釈はなくて、まぁどちらかと言えば、『シアター』っていう曲は、すごく熱い男の歌だと思うんですよね。熱く「生きるってことに恋してる」って自分で言っちゃような奴の曲を書いてみたいなと思ってて。でもその主人公は、すごく敏感な奴っていうか、いろんな人の痛みだったり、毎日ニュースから流れてくる悲惨な事件に対して「そんなことが起きてるんだ」って他人事のように思いつつも、でも実はテンションが下がったりとか、「こんなあたりまえの生活できてていいのかな?」って思っちゃう奴なんですよ。で、たまに映画館に行って映画を観ている瞬間は、自分が救われる。そのあいだいろんなことが世界では起きてるんだけど、でも俺はここにいるっていう。だから正義とか正しさとか、そういう観点で歌うんじゃなくて、映画館っていうリアルと想像、いろんなストーリーが渦巻いている状況を書きたかったんですよね。現実と現実に感じられない部分。でも最終的には「行こう!」みたいな曲なんですけどね。すごく特殊な感じがする曲です。
Interviewer:平賀哲雄
THE BACK HORN
--ただ今作、その特殊な感じも含め、どれも描写がリアルなんですよ。ポジやネガのどちらかだけに寄れる人生や未来なんてないってことが残酷なまでに表現されている気がするんですが、どうでしょう?
菅波栄純:そうですね。最後の『枝』って曲がそれを全部救いに変えているような感覚はありますけどね。それまでにいろいろ葛藤してるんだけど、最後に全部それが救いになる。虚しさとかあるから「なんかやんなきゃ」って思うし、寂しいから誰かのことを求めるようになるし。そういうことを考えると、ポジティブな気持ちはもちろん、全然ネガティブな気持ちもあっていいし、どっちもあっていいんだって気付く。マツ(松田)がいつも言ってる「人生を謳歌すればいいじゃん、だから」もそうだけど、「そうだよな」って俺もすごく思う。
--『枝』もそうなんですが、今、栄純さんが言っていたことをすごく明確に描いているのが『航海』という楽曲だったのかなと。「僕は生きる 全てのことを受け止めてゆく 舵を取ってく」っていう。
菅波栄純:うんうん。
山田将司:正にそれを言いたくて作った曲ですね。受け止めて、そして自分でどうにかしていく、舵を取っていく。すごく気持ち良いですよ、この曲は。
--あの、先程、トータルコンセプトのあった『太陽の中の生活』とは違う作り方をしたという話がありましたが、最終的に4人が4人でそれぞれ詞を書いているのにも関わらず、すごく一体感、一貫性があるアルバムになってますよね、今作は。結果としてコンセプトが浮き彫りになってきたというか。
菅波栄純:それがバックホーンの持ってる根本的なメッセージなんだと思うんですけどね。
松田晋二:やっぱり悲しみを見つめて希望を見出していくっていうか、希望を見つけていく。それは、アルバムを作る前の会話の中でも、バックホーンが表現すべきことだろうっていう確認もできていたし。個人的には、あんまり悲しみやツラさを歌詞で表現するのは、どうなんだろう?っていうのがあったんですよ。まぁ得意じゃないし、自分の根に持ってるモノでもないし。でもそういう話をみんなとしたときに、初めて「悲しみって何なんだろうな?」っていうところに向き合えたんですよ。それが今回の歌詞にもすごく反映されていると思うし、悲しみや絶望に浸ってるだけの作品にはならなかった部分に繋がってるとは、思いますね。悲しみや絶望に浸ってる、ある種、酔いしれているような曲に誰も心は動かさない。やっぱりそこからどうにかもがいてる様だったり、ひとつ何かを見つけた瞬間だったり、そういうところに心は動くと思ってて。だからそのためには、さっきの人生の話じゃないですけど、すべて見つめて、ダメージ食らうけど受け止めて。で、そっから何か一個、一言、言葉が出てきたら、それがグッと来るモノなのかなって、俺らは思ってます。
--そんなアルバムの中で、とにかく抜けまくった楽曲が終盤に収録されていました。11曲目の『理想』なんですが、この楽曲にはどんな想いを?
松田晋二:曲を選ぶ段階で『理想』のように抜けた楽曲が10曲ぐらいあったんですけど、そこから絞り込んでいくときに栄純が「この曲の進行と世界観は新しい」「大空に向かって突き抜けていくような良い曲なんだよなぁ」って言ってて。で、この曲の歌詞を書いていくときに、その広がりをあんまり崩さないようにというか、その景色を大事にしつつ、自分の中で探し続けているモノ、そこに辿り着きたい、自分の中の理想に辿り着きたいっていうことを書いて。やっぱりその景色っていうのは、コードが鳴ってる世界観に触発されたイメージではありました。
--そして、ラストの『枝』。やがてはすべてを忘れてしまうのになぜ生きるのか、繰り返すのか。ある意味、究極のテーマであると思うのですが、今こうした曲が生まれたのは、どうした背景や想いがあってなんでしょう?
菅波栄純:歌詞から出来たんだよな。
松田晋二:そう。今までは曲に後から歌詞を乗せるパターンが多くて、それっていうのは、その曲から生まれる情景だったり、世界観だったりイメージ、その曲の中に入り込んで見えてきたモノを描き出せる良さがあるからなんですけど。でも『枝』は、その真逆で、ふとその歌詞が零れてきた感じがあったんですよね。「なんか見えたな」と思って。それは曲があって歌詞を乗せたときの「見えたな」とはまた違って、丸裸な、本当に枝のような素朴な言葉だけが出てきて。で、栄純が昔、歌詞を先に書いて曲を付けていく作り方もしてて、「そういうのも久しぶりにやってみたいなぁ」って言ってたから「あるよ」ってその歌詞を見せたんですよ。そしたら「これは良い」ってなって。
ある種、何の制限も何の影響もなく、自分が感じれたモノがそのまま言葉に出来たのかなと。零れてきたモノの良さをそのまま曲にして完成できた。その歌詞に関しては、ちょっと上手く説明できないんですけど。「普遍的な歌詞が書けた」っていう実感はあるんですけど、それが何なのかとか、どういったことを歌いたかったのかとかは、自分では上手く説明できない。聴いてくれた人の中で・・・とは言って、委ねてるわけじゃないんですけど。
ただひとつ、これの詞を書きながら思っていたことがあって、「言葉っていうのは、大事だな」って。いろんな想像とか想いとかで、それこそ争いになったり喧嘩になったり自虐になったりするけど、でもしっかり良いことも悪いこともすべて言葉として伝えられれば、変なことにはなんねぇんじゃねぇかなって。そんなことを書きながら自分にも言ってたし、みんなにも言いたいとは思ってましたね。
菅波栄純:なんかさ、喧嘩の起きる原因の8割が言葉らしくて、解釈の違いとかで。そんだけ言葉って強いもんだと思うんだよな。突き刺さる部分だし。でもだったら人を救う言葉をさ、一生懸命掴み取って、それを歌詞にして伝えればいいと思うんですよ。『枝』は、正にそういう歌詞だと思う。それだけ本心で、誰かのそばに立って言葉を投げかけている気がして。だから素朴だけど、俺はすごく強い歌詞だなって思うし、人の心に入っていって、その人のモノになっていく歌詞だなって思いますね。
--その『枝』、実際に歌ってみていかがでした?
山田将司:言葉がぽろりと零れていくタッチの曲だから、そのまんま歌にしました。本当に喋ってる感じっていうか。そっと話し掛けるみたいな。そこを目指しましたね、特にAメロの部分とか。
--ライブで歌うの大変そうですよね?
山田将司:分かりました?
(一同笑)
山田将司:大丈夫です。あんまり心配しないでください(笑)。
--結局今回もほとんどの収録曲について触れてしまいましたが(笑)、なぜこのアルバムのタイトルが『THE BACK HORN』なのか?というところを聞かせてもらってもいいですか?
松田晋二:それは本当に自信ですね。今まで以上に俺たちがこのアルバムで何を伝えるのかを話をして、意識を高く持って臨んだっていうのもあるし。まぁもちろん「バックホーンって言ったらこれを表現するんだろ」っていうのが見つかったら、もう音楽やる必要はないと思うんですけど、だけどやっぱりそこに向かって音楽を作っていくことが、大袈裟な言い方で言ったら、表現者としての最低限やるべきことだと思ってて。
僕らの音楽っていうのは、合宿で曲作りをしているときとかは、本当に楽器を持った子供のような感覚で鳴らして、そこから何かひとつ生まれて、そうやって純粋に音楽を楽しんでいる姿と、しっかり自分たちが歌うべきところに向かっていくところと、そのふたつがあって生まれてくるモノだと思うんだけど、その中で生まれた『THE BACK HORN』っていうアルバムは、やっぱりメンバー一人一人の個性っていうモノが本当に色濃く出たアルバムでもあるし、それが混ざり合ってでしか生まれない一曲一曲だと思うんですよね、全曲。それが出来上がってみんなで聴いているときに「『THE BACK HORN』っていうのはどうか?」って意見が出てきたんですけど、みんな「そうだな」って感じになりましたね。最初から明確にコンセプトやテーマを決めていたわけじゃなくて、本当に自由に一曲一曲を作っていったし、もうそれぞれが「自分たちで新しいバックホーンのイメージを作っていく」っていうところに向かっていったので、もうその表れですね、『THE BACK HORN』っていうタイトルは。だから「これが集大成だ」とか「やっとここまで来た」っていうよりは、ここからまた行進していくっていうか、何回でもそういうアルバムや曲を作っていく意思で付けたタイトルですね。
--では、やはり最後に聞かせてもらいたいのですが、未来に向けたバックホーンの想いなのですが、バックホーンはこれから先、どんな未来を目指していくんでしょうか?
松田晋二:やっぱり垂れ流しはしたくないですね。何を曲として呼ぶかっていう次元で言ったら、少なくとも俺たちは曲を作れる才能はあるし、歌詞を書く才能はある。だけど、そこのレベルじゃなくて、もっと人に伝えて、人の心を動かす音楽として、やっぱりバックホーンは曲を作っていくべきだと思うし、それでこそ“表現”っていうモノをしている人間だと思うんですよね。それをするっていうことは諸刃で、好き嫌いが分かれるモノでもあるし、自分たちがダメージを食らうこともあるし。だけど、やっぱりそこと向き合って、しっかりその瞬間に思う自分たちの音楽を作っていったら絶対響いてくれるんじゃないかなぁと思ってます。あと、どっかで単純に音楽を楽しむというか。やっぱり両方大事だなって。無邪気に「これ、いいじゃん!かっけぇじゃん!」っていう瞬間と「俺たちは何をやるか」っていう想いの両方を持っていきたいなって。
Interviewer:平賀哲雄
THE BACK HORN
2007/05/23 RELEASE
VICL-62372 ¥ 3,143(税込)
Disc01
- 01.敗者の刑
- 02.ハロー
- 03.美しい名前
- 04.舞姫
- 05.フリージア
- 06.航海
- 07.虹の彼方へ
- 08.シアター
- 09.負うべき傷
- 10.声
- 11.理想
- 12.枝
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