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アンジェラ・アキ 『ANSWER』 インタビュー
これまでも「ぶっちゃけトークばかりなので、そのぶっちゃけな感じをこれを読む人にはストレートに受け取ってもらいたいです」と自ら言うほど、赤裸々に過去・現在・未来の自分について語ってくれたアンジェラだが、今回はアルバム『ANSWER』がテーマということで、彼女の恋愛観や音楽観、死生観に至るまでその人生観のすべてを惜しみなく語ってくれている。故に泣けて笑えて明日を変えられる! そんなアルバム同様に結果として熱きメッセージとなったロングインタビュー、ぜひご覧頂きたい。
砂糖をまぶしてスウィートに見せるんじゃなく
--シングル『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』リリースタイミング以来、約5ヶ月ぶりのインタビューとなるんですが、まず今日アンジェラに会ったら話したいことがあって。それは映画「ヘブンズ・ドア」についてなんですけど。あの映画を観てどんな感想を持ちました?
アンジェラ:あの映画は「余命3日」って主人公が言われて、死ぬことがテーマじゃないですか。でも見終わったときの生に対するパワーの漲り方が凄い。めちゃくちゃ暗い話なのに「頑張らないと」って超ポジティブな感じになる。それは新しい感覚だったし、衝撃的だった。
--僕はあの映画を観て「どう死ぬか」と「どう生きるか」って同義なんだなって。あたりまえのことかもしれないんだけど、改めて目から鱗が落ちたというか。
アンジェラ:そうそう。お母さんに会いに行ったときも声を掛けられなかったりして、あのシーンがすごく好きなんだけど……なんか、複雑じゃないですか、人生って。綺麗に終われないし、綺麗に始まらないし。そのリアリティが凄く心地良かった。映画ってすべてが綺麗だったりするけど、そうじゃなくて複雑な状況をありのまま伝えてくれる。それってあんまりないなと思ったし、私もすごく感動しました。
--で、そんな映画の主題歌『Knockin' On Heaven's Door』をね、アンジェラ・アキが歌うっていうのはすごく必然的だなって思ったんですが、自分ではどう思いました?
アンジェラ:監督が「映画の一部にしたい」って言ってくれたんですけど、あの映画って私の曲が流れたことで終われるじゃないですか。ぜ~んぶ出し終わった後に『Knockin' On Heaven's Door』がそっと背中を押してメッセージを最終的に伝える。だから、あの曲の歌詞を書く前にラッシュを見させてもらったんですけど、すごく重要な役割だなって思ったし。映画の意図だったりとか、私が生きることに対してどう思うか?とかね。ただ『ANSWER』の制作をしている中にこの話が来たので、すごくピッタリだったんですよ。今回のアルバムでは、人生は複雑だし、それを砂糖をまぶしてスウィートに見せるんじゃなく、酸っぱいまま、苦いまま出そうっていう気持ちがあったので、映画とすごくリンクして。
--ただ、これまでもジャニス・イアンや今作『ANSWER』に再録してるボズ・スキャッグスとか、アンジェラはたくさんの洋楽を自分なりに解釈してきたけど、あの曲をカバーするっていうのは結構骨が折れる作業だったんじゃないの?
アンジェラ:それはもちろん「どっから始めようか?」みたいな感じでした(笑)。とは言いつつもギターの曲をピアノでカバーするというところで、新しいアプローチをしていこうと思ったんですよ。過去にクラプトンとかガンズとかアヴリルとかカバーしてるけど、みんなアコースティックじゃないですか。だから私はもうちょっと新しい感じで、もっとオリジナルっぽくしてみようって。この曲が「もし私の歌だったらどういう風にアレンジするだろうな?」って一歩踏み込んで考えて作ったんですよね。
--そんなボブ・ディランの名曲カバーも収録された今作『ANSWER』、自身では仕上がりにどんな印象や感想を?
アンジェラ:今までのアルバムの中で一番思い入れが強い。今までで一番良いとか、そういうことじゃなくて思い入れが強い。デビューして以来、2年半ずーっと走り続けてきて、「期限の中で新しい曲を」「こういう流れがあるからここまでにアルバムを」っていう中でずーっと制作してきて、初めて去年時間が出来たんですよ。自分の中で何かが渦巻いて「書きたい」と思わなければピアノに向かわなくていい時間が。だから出てきてる曲たちって、よっぽど私が吐き出したいと思って生まれてるモノなんですよね。今回のアルバムのほぼ全曲がそうして生まれてきた曲。だから1曲1曲に対する思い入れが凄く強い。
今回いろいろ取材をしてもらっている中で「今までは優しいタッチが多かったけど、今回は結構ズバっと言ってるよね」とか「凛としてる」とか言われるんですよ。それは私が曲を作っていたときのモードが、綺麗事を出来るだけ排除していって、削いで削いでリアルなモノを作りたい感じだったからだと思うの。だから『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』について「なんてポジティブな歌なんだろう」とか言われると「いや、よく聴いてみて」って感じなんですよ。あれは「大人になってもめっちゃ苦しい、以上」っていう感じだから(笑)どっちかと言うと「逃げられないよ」っていう。私はそういうメッセージの方が好きだし。今、世の中にはとりあえずポジティブみたいな歌が溢れかえってるけど、私は本当のポジティブってネガティブから生まれるモノだと思ってるから。例えば「頑張って」って言われても頑張れないときもある。でも頑張れないってことを知らない人は軽率に「頑張って」って言う。私はそう思うから「それでもいいんだよ」っていう言葉の方がポジティブに感じる。 だから『手紙』もポジティブなのかもしれないけど、それは決してポジティブしか知らないところから生まれてきてるモノではなくて。そういう表裏一体性みたいな感覚は強いかもしれない。「愛」って言いながらもそこには「憎しみ」「苦しみ」もあるっていう。「生」と「死」も表裏一体だし。その立体感みたいなモノが今回のアルバムには知らず知らずの内に出来ていたんですよね。別に深いモノを作ろうと思ったわけじゃなくて、自然とそうなっていった。--僕がまずこのアルバムを聴いて思ったのは「本当にこの人はがむしゃらに生きてきたんだなぁ」って。で、それを感じながら聴いてたら「俺もがむしゃらに生きてきたなぁ」って(笑)。これってきっとそういうアルバムだよね? 共感レベルの純度が高い。
アンジェラ:そうですね。今作に前の作品からの変化があったとするならば、私は『手紙』っていう曲を通して大きく変わった部分があって。それは何かと言うと、あの曲は自分の実体験から生まれてきた曲なんだけど「自分」っていう主人公と「私」っていうアンジェラ・アキはね、それまでは一緒だった。だから痛くて歌えないとか「あんまり見ないで」っていう部分もあったけど『手紙』ではその2人の自分をスパッと切り離したんです。そしたらめちゃくちゃ自分に踏み込んで書くことが出来て。それが広い世代の人たちに受け入れてもらえて。なので今回のアルバムでは凄く踏み込んでいろんなモノをぶつけられた曲ばかりなんですよ。『手紙』以前はどこか見えない壁でガードしていたと言うか「ごめん、これは私の世界」みたいな。でも今回は自分の中では壁がなくなったって感じてる。
--アンジェラは前回のインタビューで、自分は「伝える」っていうより、自分の中に潜って掘り下げてそこから生まれたモノで繋がりたいと言っていて。で、それはこれからも変わらないスタンスだと思うんです。でも今作はただ掘り下げるんじゃなくて外も見てて。「伝える」っていう意思を感じる。
アンジェラ:『手紙』を通して10代の人たちと触れ合ったり、それだけじゃなくて事務所に大量に手紙が届くようになって。で、今まではほとんどが同世代の女性で「こんな不倫してるんだけど、どうしよう?」「アンジーなら分かってくれる」みたいな(笑)。でも今は例えば50代のサラリーマンの人が「最近思春期の息子と全然会話がなくて、1,2年喋ってないし、どういう風に接すればいいか分からなかったんだけど『手紙』を通して会話が弾みだして、今は普通に喋れるようになって嬉しい。ありがとう」みたいな手紙が届くんですよ。13才の学校でいじめられている女の子の本音とかも。そういった莫大な量の手紙の中に1人1人のストーリーを感じると、よりリアルに誰もが苦しみながら悩みながら生きている姿が見えるし、しかもその中で私の曲を聴いて元気をもらったりしてるって知ったら、それは意識してなくても外を向いちゃう。私の譲れないポイントっていうのは“媚びない”と言うこと。ただ、自分の中から生まれてきたモノをこうやって切り離して外に向けて送り出すっていう点では、今回はちょっと違うのかな。
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Interviewer:平賀哲雄
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