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アンジェラ・アキ 『ANSWER』 インタビュー
これまでも「ぶっちゃけトークばかりなので、そのぶっちゃけな感じをこれを読む人にはストレートに受け取ってもらいたいです」と自ら言うほど、赤裸々に過去・現在・未来の自分について語ってくれたアンジェラだが、今回はアルバム『ANSWER』がテーマということで、彼女の恋愛観や音楽観、死生観に至るまでその人生観のすべてを惜しみなく語ってくれている。故に泣けて笑えて明日を変えられる! そんなアルバム同様に結果として熱きメッセージとなったロングインタビュー、ぜひご覧頂きたい。
砂糖をまぶしてスウィートに見せるんじゃなく
--シングル『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』リリースタイミング以来、約5ヶ月ぶりのインタビューとなるんですが、まず今日アンジェラに会ったら話したいことがあって。それは映画「ヘブンズ・ドア」についてなんですけど。あの映画を観てどんな感想を持ちました?
アンジェラ:あの映画は「余命3日」って主人公が言われて、死ぬことがテーマじゃないですか。でも見終わったときの生に対するパワーの漲り方が凄い。めちゃくちゃ暗い話なのに「頑張らないと」って超ポジティブな感じになる。それは新しい感覚だったし、衝撃的だった。
--僕はあの映画を観て「どう死ぬか」と「どう生きるか」って同義なんだなって。あたりまえのことかもしれないんだけど、改めて目から鱗が落ちたというか。
アンジェラ:そうそう。お母さんに会いに行ったときも声を掛けられなかったりして、あのシーンがすごく好きなんだけど……なんか、複雑じゃないですか、人生って。綺麗に終われないし、綺麗に始まらないし。そのリアリティが凄く心地良かった。映画ってすべてが綺麗だったりするけど、そうじゃなくて複雑な状況をありのまま伝えてくれる。それってあんまりないなと思ったし、私もすごく感動しました。
--で、そんな映画の主題歌『Knockin' On Heaven's Door』をね、アンジェラ・アキが歌うっていうのはすごく必然的だなって思ったんですが、自分ではどう思いました?
アンジェラ:監督が「映画の一部にしたい」って言ってくれたんですけど、あの映画って私の曲が流れたことで終われるじゃないですか。ぜ~んぶ出し終わった後に『Knockin' On Heaven's Door』がそっと背中を押してメッセージを最終的に伝える。だから、あの曲の歌詞を書く前にラッシュを見させてもらったんですけど、すごく重要な役割だなって思ったし。映画の意図だったりとか、私が生きることに対してどう思うか?とかね。ただ『ANSWER』の制作をしている中にこの話が来たので、すごくピッタリだったんですよ。今回のアルバムでは、人生は複雑だし、それを砂糖をまぶしてスウィートに見せるんじゃなく、酸っぱいまま、苦いまま出そうっていう気持ちがあったので、映画とすごくリンクして。
--ただ、これまでもジャニス・イアンや今作『ANSWER』に再録してるボズ・スキャッグスとか、アンジェラはたくさんの洋楽を自分なりに解釈してきたけど、あの曲をカバーするっていうのは結構骨が折れる作業だったんじゃないの?
アンジェラ:それはもちろん「どっから始めようか?」みたいな感じでした(笑)。とは言いつつもギターの曲をピアノでカバーするというところで、新しいアプローチをしていこうと思ったんですよ。過去にクラプトンとかガンズとかアヴリルとかカバーしてるけど、みんなアコースティックじゃないですか。だから私はもうちょっと新しい感じで、もっとオリジナルっぽくしてみようって。この曲が「もし私の歌だったらどういう風にアレンジするだろうな?」って一歩踏み込んで考えて作ったんですよね。
--そんなボブ・ディランの名曲カバーも収録された今作『ANSWER』、自身では仕上がりにどんな印象や感想を?
アンジェラ:今までのアルバムの中で一番思い入れが強い。今までで一番良いとか、そういうことじゃなくて思い入れが強い。デビューして以来、2年半ずーっと走り続けてきて、「期限の中で新しい曲を」「こういう流れがあるからここまでにアルバムを」っていう中でずーっと制作してきて、初めて去年時間が出来たんですよ。自分の中で何かが渦巻いて「書きたい」と思わなければピアノに向かわなくていい時間が。だから出てきてる曲たちって、よっぽど私が吐き出したいと思って生まれてるモノなんですよね。今回のアルバムのほぼ全曲がそうして生まれてきた曲。だから1曲1曲に対する思い入れが凄く強い。
今回いろいろ取材をしてもらっている中で「今までは優しいタッチが多かったけど、今回は結構ズバっと言ってるよね」とか「凛としてる」とか言われるんですよ。それは私が曲を作っていたときのモードが、綺麗事を出来るだけ排除していって、削いで削いでリアルなモノを作りたい感じだったからだと思うの。だから『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』について「なんてポジティブな歌なんだろう」とか言われると「いや、よく聴いてみて」って感じなんですよ。あれは「大人になってもめっちゃ苦しい、以上」っていう感じだから(笑)どっちかと言うと「逃げられないよ」っていう。私はそういうメッセージの方が好きだし。今、世の中にはとりあえずポジティブみたいな歌が溢れかえってるけど、私は本当のポジティブってネガティブから生まれるモノだと思ってるから。例えば「頑張って」って言われても頑張れないときもある。でも頑張れないってことを知らない人は軽率に「頑張って」って言う。私はそう思うから「それでもいいんだよ」っていう言葉の方がポジティブに感じる。 だから『手紙』もポジティブなのかもしれないけど、それは決してポジティブしか知らないところから生まれてきてるモノではなくて。そういう表裏一体性みたいな感覚は強いかもしれない。「愛」って言いながらもそこには「憎しみ」「苦しみ」もあるっていう。「生」と「死」も表裏一体だし。その立体感みたいなモノが今回のアルバムには知らず知らずの内に出来ていたんですよね。別に深いモノを作ろうと思ったわけじゃなくて、自然とそうなっていった。--僕がまずこのアルバムを聴いて思ったのは「本当にこの人はがむしゃらに生きてきたんだなぁ」って。で、それを感じながら聴いてたら「俺もがむしゃらに生きてきたなぁ」って(笑)。これってきっとそういうアルバムだよね? 共感レベルの純度が高い。
アンジェラ:そうですね。今作に前の作品からの変化があったとするならば、私は『手紙』っていう曲を通して大きく変わった部分があって。それは何かと言うと、あの曲は自分の実体験から生まれてきた曲なんだけど「自分」っていう主人公と「私」っていうアンジェラ・アキはね、それまでは一緒だった。だから痛くて歌えないとか「あんまり見ないで」っていう部分もあったけど『手紙』ではその2人の自分をスパッと切り離したんです。そしたらめちゃくちゃ自分に踏み込んで書くことが出来て。それが広い世代の人たちに受け入れてもらえて。なので今回のアルバムでは凄く踏み込んでいろんなモノをぶつけられた曲ばかりなんですよ。『手紙』以前はどこか見えない壁でガードしていたと言うか「ごめん、これは私の世界」みたいな。でも今回は自分の中では壁がなくなったって感じてる。
--アンジェラは前回のインタビューで、自分は「伝える」っていうより、自分の中に潜って掘り下げてそこから生まれたモノで繋がりたいと言っていて。で、それはこれからも変わらないスタンスだと思うんです。でも今作はただ掘り下げるんじゃなくて外も見てて。「伝える」っていう意思を感じる。
アンジェラ:『手紙』を通して10代の人たちと触れ合ったり、それだけじゃなくて事務所に大量に手紙が届くようになって。で、今まではほとんどが同世代の女性で「こんな不倫してるんだけど、どうしよう?」「アンジーなら分かってくれる」みたいな(笑)。でも今は例えば50代のサラリーマンの人が「最近思春期の息子と全然会話がなくて、1,2年喋ってないし、どういう風に接すればいいか分からなかったんだけど『手紙』を通して会話が弾みだして、今は普通に喋れるようになって嬉しい。ありがとう」みたいな手紙が届くんですよ。13才の学校でいじめられている女の子の本音とかも。そういった莫大な量の手紙の中に1人1人のストーリーを感じると、よりリアルに誰もが苦しみながら悩みながら生きている姿が見えるし、しかもその中で私の曲を聴いて元気をもらったりしてるって知ったら、それは意識してなくても外を向いちゃう。私の譲れないポイントっていうのは“媚びない”と言うこと。ただ、自分の中から生まれてきたモノをこうやって切り離して外に向けて送り出すっていう点では、今回はちょっと違うのかな。
Interviewer:平賀哲雄
解決できないモノもあるんだっていう答え
--今「媚びない」と話してましたけど、今作の『Our Story』を聴いた時点でそれは十分に分かりました。「私達の生きるストーリーは生易しくない」っていうね。
アンジェラ:もうちょっと救えばよかったかな(笑)?
--で、今作を途中まで聴いて気付いたのは、その生易しくはないストーリーの中でいろんな出来事があって、アンジェラはそのひとつひとつにちゃんと答えを出させてやろうと思ったのかなって。ただ「悲しかった」「切なかった」「あんなこともあった」じゃなくて、今や未来に繋げようとした。そんな気がするんですが、実際のところはどうですか?
アンジェラ:……正にその通りです。今までは思い出ベースと言うか「苦しかった。」みたいな感じだったけど、今回は「苦しかったのは分かったけど、それが今生きてる者のヒントになるのか?」とかね。『黄昏』とか正にそうで、間違いっていうモノは「もうやめよう」と思っても必ず舞い戻ってくる。「あれはもうちゃんと理解したはずだったのに」みたいなことって、多分この先の人生にもいっぱいあると思うし。ただやっぱり繋げていかないと、明日がないっていう。だから昨日のことを美化して歌ってもしょうがない。
--で、そこに気付くと、さっき言った「過去を今や未来に繋げようとしてる」って気付くと、今作のオープニングが『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』である意味がよ~く分かって。それで途中で止めて、また最初から聴き直すっていう(笑)。
アンジェラ:うんうん。
--だから今作はね、簡単にゴールに辿り着けないんですよ。でもそれが良い。まるで自らの人生を旅のように進んだり戻ったりして楽しめるというか。
アンジェラ:ありがとうございます。でもそれは自然にそうなったんですよね。だから私は自然に『ANSWER』というタイトルにも辿り着いたし、あんまり深く考えずに書いた、このアルバムは。今までだったら「こういう曲が足りないな、作らなきゃ」みたいなところがあったんだけど、今回はどの曲も自然に辿り着けてるんですよ。だからさっきから『手紙』に結びつけていろいろ話してるけど、それも客観的な意見であって、結果としてそうだったんだろうなっていう。
--ただ、自然に辿り着いた楽曲群だけあって、すごくアンジェラの内面や記憶が赤裸々に物語られていて。前作『TODAY』は感情先行でその背景はあまり語られてない曲が多かったけど、今作はノンフィクションドラマがしっかりと語られていますよね。特に『ダリア』とか。
アンジェラ:『ダリア』は初めて同棲した人との話なんだけど「この人だ!」って思っていた相手だったから、ダリアの花をプレゼントしてくれたときも「これが私の人生なんだ!」って思ったし。当時はお金もないし、テーブルもないアパートに住んでいて、地べたに座ってご飯を食べたりしてたの。でも窓辺に置いてあるダリアだけはいつ見ても綺麗に咲いてて、見る度に「私は幸せだ」って感じだったんですよ。まぁもちろん人生は生易しくないので(笑)最終的に別れることになるんです。で、8年ぐらいの年月が過ぎて、つい最近なんですけどダリアには花言葉がいくつもあるって知ったんですよ。私は「エレガント」「優雅」が花言葉だとずっと思ってたの。でも「移り気」もダリアの花言葉であることを知って。それを知ったときは誰もいない部屋で1人で「ちょっと待って!ちょっと待って!」って(笑)。それで8年も経ってるのにいろんなことを思い出して、じっとして居られなくなってピアノの前に行ったら「花言葉が移り気だと知っていたならば」って出てきたの! だからね、どんなに時間が経っててもちょっと表面削っただけで古傷から膿んだモノって出てくるんだなって。で、ちょっと恥ずかしいぐらい赤裸々な曲が完成してしまったという。
--でもこの曲の完成によって、その思い出にひとつの答えが生まれたわけですよね?
アンジェラ:そうですね。解決できないモノもあるんだっていう答え。解決できたと思ってもそれで手放せる訳じゃないし、解決できないまま手放さなきゃいけないモノもあるんだっていう。非常に曖昧で複雑でリアルな答えですけど。この曲を書いたことによって何かが良くなったと言う方が綺麗なんだと思うけど、そうでもない。
--おかげで忘れてたことたくさん思い出しました。で、思い出させられるだけだと結構ツラいアルバムで終わっちゃうんですけど(笑)。
アンジェラ:痛いアルバム(笑)。
--今作が過去を今に繋げていくアルバムであるからには、今から未来を歩いていくための教訓になるような楽曲も当然今作には多数あって。僕はそのひとつが表題曲の『ANSWER』だと思ってるんですが、実際にはどんな想いを込めて作った曲なんですか?
アンジェラ:『ANSWER』はみんな「ストレートなラブソングだね」とか言ってくれるんだけど、実はね、私は「好き」とか「愛してる」をハッキリ言ったりすることがすごく苦手なんですよ。これは今までもそう。だから『ダリア』みたいな曲が生まれるの(笑)。そこはちゃんと言えないっていうのが、ある意味自分の悪いところでもあるのは分かってるんですよ。でも言えない。ただ「好き」とか「愛してる」っていう感情はすごくある。じゃあ言葉じゃなく数字で表現しようと。それによって上手く伝えられたら良いじゃないですか。例えば仕事とかでもバンバン真っ正面から向かっていって、どうしてもぶち破れない壁があって「もうダメだ」って思っても、一瞬2歩ぐらい下がってみて少し見方を変えたら「なんだ、ここに脇道あったんだ」みたいな。それは人間関係にも言えると思うし。そういう意味では、答えっていうモノは見方を変えたら見えてくる、ルートを変えるだけですぐ見つけられたりする。それで「好き」とか「愛してる」を数字で導き出したのがこの曲ですね。
あと、この曲は今作のジャケット写真にピッタリなんですよ。本当はね、もっと綺麗な写真はいっぱいあったんですけど、この写真は何も構えてない自分をふと撮られたものなんですよね。で、自分はすごく構えちゃう人間だからこそ物事が見えなかったりするんですよ。でも構えないときこそ何かが閃いたり見えてきたりする。だからコンビニのレジに並んでるときの顔とか、通帳記入をしているときの顔とかに通ずる(笑)この写真を選んで。で、それは『ANSWER』という曲のメッセージでもあるっていうね。
--この曲で、足して2で割って出てくる答えがあるじゃないですか。これは誰かと“共に生きる”っていうことの意味を息苦しくなるほど考えたことがある人じゃないと出せない答え、書けない詞ですよね。
アンジェラ:さっきの映画の話じゃないけど、ラブストーリーとかが終わるとね、すごくハッピーな気持ちになるじゃないですか。だけどさ、私思うんだけど、その終わった時点から主人公たちの2年6ヶ月後とかを見てみたいんですよ。多分9割は別れてると思うわけ(笑)。だけどそこで別れてない1割のケースを追求するんです。世の中には「愛してる~」っていう言葉だったりトキメキはすごく大事だけど、それが消えたときに何が残ってる?って。そこにトキメキがなくても立派な愛を育てていくにはどういう要素が必要?って。それは自分が今まで失敗してきたからだと思うんだけど、いつまでも続いていくパートナーっていうのは恋人と友達のバランスがすごく大事。恋人っていうアスペクトが一部無くなったときに友達だったら全然大丈夫だし、すごく恋人を感じる瞬間があれば最高だし。そこは意外と複雑じゃないのかもしれない。
Interviewer:平賀哲雄
私は1人じゃなかった
--続いては、あの『モラルの葬式』の進化系とも言える大作『レクイエム』について話を伺いたいんですが、どんな想いやキッカケからこの曲を作ろうと?
アンジェラ:今作のレコーディングの終盤でウチのじいちゃんが末期ガンで亡くなったんです。私の音楽のDNAは彼から受け継いでいるようなものだから、自分の中でいろいろ思うことがあって。じいちゃんは息子、私にとって叔父さんにあたる人とずっと疎遠だったんですよ。ケンカ別れをしてて。でも死ぬんだって分かったときに和解をしたのね。2人で「ごめん」とか「ありがとう」っていう言葉を言いながら泣いてて。で、その晩にじいちゃんがね、ボソッと「なんでこんな「ごめん」とか「ありがとう」っていう簡単な言葉を、俺は長いこと言えなかったんだ」って言ったんです。だから和解はできたんだけど、きっとそれを後悔として最後の最後まで残して死んでいったと思うのね。
あと、私がアメリカでOLをやっていたときのボブっていう上司の話を思い出して。ボブがまだ若くて実家に住んでいた頃、一家に一台テレビがあってボブと彼のお父さんが見たい番組が違ってて、リモコンの取り合いのケンカになったらしいの。結局ボブが勝ってボブの見たい番組を家族で見たらしんだけど、その晩にね、突然お父さんが心臓発作で亡くなってしまったんですよ。で、その夜から20年ぐらい経ってるのに、私を飲みに連れていってくれたときにボブは「俺はなんであの晩、オヤジが見たい番組を見せてあげられなかったんだろう」って。そのことを思い出したら、自然にこの曲に辿り着いて。 やっぱり生きている内に言わないといけないこととか、あたりまえ過ぎることこそ伝えないといけないっていう。でもそれを例えばボブのストーリーにしたり、おじいちゃんのストーリーにすると、ちょっとパーソナル過ぎてメッセージが薄れるかなと思ったから、これはもう思い切ってフィクションで寓話の世界にして、死んでしまうんだけど送る側の歌ではなくて、逝ってしまう人の歌にしようかなと思って。その人の冒険を通してメッセージを伝えたいって思ったから、それを形にしようとすると組曲的になってしまって、結局11分ぐらいの曲になってしまった。最初は13分だったんだけど(笑)。--「生きている時に言えば良かった」の連呼に思わず会社で泣いてしまいました。しかも1人で、夜中の1時ぐらい(笑)。
アンジェラ:そういうときに泣けるんだよね!
--3回言われたぐらいで結構ヤバかったんですけど「何回言うんだよ!?」みたいな(笑)。
アンジェラ:アハハハハ! しかも途中からエコー付けちゃったからね(笑)。いやいや、ありがとうございます。
--それにしても、これ、ライブでどう再現するの(笑)?
アンジェラ:ツアーの課題ですね、これは本当に。頑張ります。
--で、続いてもまさかまさかのナンバーで、ベン・フォールズとの共作『Black Glasses』ですよ。これはシングル『手紙』のカップリングで『Still Fighting It』をカバーしたのがキッカケ?
アンジェラ:そう。で、その『Still Fighting It』のカバーをベン・フォールズがフジロックに来てるときにたまたま聴いて「誰なの?これ」ってスタッフに聞いたらしいんですよ。それでベンが「どうしても会いたい」って言いだして、正にこのソニーのビルでお会いしたんです。そのときベンは「『Still Fighting It』はリリースが9.11の翌日で大変な事になって、世間は音楽なんか……っていう感じになってしまって、結局どこにも行かなかった歌なんだ。それにはすごく落ち込んだし、しかも9.11と結び付いてすごくネガティブなイメージを実はあの曲に対して持っていた」って言ってて。でも「フジロックから都内に向かうバスの中でアンジェラのカバーを50回は聴いて、どうしても伝えたかったことがある。あなたがこのバージョンを作ってくれたおかげで『Still Fighting It』は完成した」って。もう泣きそうになって! 高校時代から敬愛してるアーティストであり、敬愛してるからカバーしてる訳であって、会えるなんて思ってないし。でもそれで意気投合して「曲作ろう」っていう話になってそのままスタジオに。
--凄い話ですね。実際に一緒に曲を作ってみていかがでした?
アンジェラ:ベン・フォールズはロック。全然ピアノに対するアプローチが違う!「さすが蹴りとか入れてるわ」って思うもん(笑)。まずは鍵盤に向かわずにピアノを開けて中のどの弦を弾いたら良い音が出るか?ってチェックしてて、もうそこからして「すげぇ!」みたいな。それで「良いんだよ、自由で」みたいな感じになったから、私もすごく自由に弾いて。だからサウンドは可愛いんだけど、よく聴くとピアノとかがすごくロックだったりするし、めっちゃ間違えてるのをそのまま採用してるし。やっぱベン・フォールズだった!
--そんなまさかまさかの曲が続いて、ラスト『ファイター』。この曲にはどんな想いを?
アンジェラ:なんかね、最後の曲にすごく相応しいなと思ったんです。日々はどんな些細なことでも戦いだと思ってて、それは子供たちの受験とかだけじゃなくて、仕事での駆け引きだったりとか、人間関係の押し引きだったりとか。で、その戦いに負けて帰る日もあるんですよ。でも敗者として帰って夜を迎えたら、明日も敗者としてまた新しい1日を始めるのか?って言ったらそうじゃない。今日は負けたかもしれないけど、まだ自分の中にはファイターが存在してるから、明日も人生という生易しくないストーリーの中に立ち向かっていくんだっていう。その自分の中のファイターを忘れたくないんですよね。例え負けても。そういうメッセージですね。
--そのメッセージも自然に生まれたモノなの?
アンジェラ:「美しきファイター」っていうところのメロディがスッと出てきて。それで「負けても美しいんだ、人は」っていうか。思い出は美しくないかもしれないけどね、思い出に負けたりとか涙する人は美しいんだってすごく思うし。だから綺麗に片付かなくてもそれに藻掻く自分、それこそが人間のありのままの姿であり、美しいんだっていうかね。そういう感じ。例えば『心の戦士』とかはバキーン!って感じだったけど、やっぱり自分の中のファイターを呼び覚ますだけじゃなくて、負けてもいいんだっていうか。負けてる自分も好きにならないと。だから『ファイター』のサウンドはちょっと優しいんですよね。
--この曲で今作を聴き終えて僕が感じたのは、『Home』や『TODAY』っていうアルバムを聴いたときは、ひとりで鼓舞したり、ひとりで居る部屋の中から外にいる誰かを想ったりする曲が多かったんですけど、『ANSWER』は誰かと泣いたり笑ったり、ひとりじゃなく誰かと一緒に居る部屋の風景が浮かぶ曲が多いんです。それはアンジェラがさっき言っていたけど「ひとりじゃない」ってことを心底感じたからなんだろうなって。
アンジェラ:本当にそうですね。また『手紙』の話に戻るけど、私が10代の頃の手紙をね、30代の自分が読んだときに、そこには「なんで私だけ?なんで自分だけこんな想いをしないといけないの?」みたいな内容が書かれていたわけですよ。で、NHKのドキュメンタリー番組で学校回りをしたときに、みんなで手紙を書いたんだけど、それを私に読ませてくれたんです。そしたらね、全員共通して「なんで自分だけこんな想いをしないといけないの?」っていう内容だったの。私、自分の10代の手紙を30才になって読んだときも「やっぱり私はちょっと変わった過去をもってるし、だから私は1人だったんだ」って思ってたんだけど、その彼女たちの手紙を読んだときに「私は1人じゃなかった」ってことに……今になって気付いたの。だからパートナーがいてもいなくても、孤独の中でも孤独を共有する人たちは必ずいるし、感情を共有できる仲間は必ずしるし、それがたとえ出逢ったことない人たちでも「いるんだ」っていうことに彼女たちが気付かせてくれたっていうのは、すごく大きかったの。だから今回のアルバムを聴いて「ひとりじゃない」って感じてもらえたとしたのなら、その気付きのおかげだと思う。私「昔の自分が今、彼女たちの言葉で救われた」ってすっごい思ったから。それで「私だけじゃなかった」って思うと、いろんなモノが許せるようになって。
--これはアルバムを引っ提げたツアーは凄いモノが感じられそうですね。
アンジェラ:一緒に完成させてほしいですね、この『ANSWER』というアルバムを。私のライブは「アンジェラのライブは1人で行くの!」っていう1人の人たちがすごくいっぱいいるんだけど(笑)でも友達同士でワイワイやっている人たちもいるし。あと親子がすごく多いの。ラブラブなカップルもいるし。そうやっていろんな人たちがいるからこそ、いろんな世代がいるからこそ、いろんなモノを共有したい。知らない者同士が繋がるチャンスでもあるし。一緒に笑ったり泣いたり歌ったりする中でひとつになって「その日の答えを完成させようよ」っていう。で、嫌なモノを全部床に置いて帰ったら、もしかしたらフッと何か閃きがあって、何か探しているモノが見つかるキッカケになるかもしれない。そんなライブにしたいなって思ってます。
--さて、今日もガッツリどっぷりと語って頂きましたが、最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします!
アンジェラ:今回のアルバムは「答えは見つからなくても大丈夫なんだ」っていうことを感じてもらえるアルバムになれば良いなと思ってて。もちろん何かを探すってことは大事。探し続けることが本当の答えであるから。今作は『ANSWER』って言っておきながら、探すことに『ANSWER』があるってことを伝えようとしてるし。あとツアーをやるために作ってるぐらいの勢いなので、ライブで完成させたい。そのライブは心配しなくても初めての人でも全然楽しめるライブだから、遊びに来てほしい。完成させに来てください!
Interviewer:平賀哲雄
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