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THE BACK HORN 『閉ざされた世界』インタビュー

THE BACK HORN 『閉ざされた世界』 インタビュー

 今秋公開の「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」監督の水島精二より「ガンダムの壮大な世界と久しぶりの劇場版の幕開けに相応しい」と、主題歌制作をオファーされたTHE BACK HORN。彼らはその想いに歓喜しながら自らの魅力をすべて詰め込んだ新曲『閉ざされた世界』を完成させる。今回のインタビューでは同曲に込められた想い、更には“奇跡的な必然”を起こし続けるTHE BACK HORNのメカニズムについて、山田将司(vo)と菅波栄純(g)に語ってもらった。

独りでやってる訳でも、生きてる訳でもねーんだな

--映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」主題歌『閉ざされた世界』リリースタイミングに載るインタビューなので、新たにバックホーンを知る人の目にも入ると思うんです。そこで聞きたいんですけど、自分たちではバックホーンってどんなバンドだと思いますか?

菅波栄純(g):激しさと繊細さが同居しているような感じ。繊細だから激しい音になっているというか。

--どうしてそういうバンドになったんでしょうね?

山田将司(vo):心の内側を表現しようとしているから、それが激しい形で出たりとか、静かな形で出たりするのかなと思う。熱く燃える気持ちだったりとか、寂しく感じたときの気持ちだったりとか、そういう感情と繋がっている音楽をやろうとしているから、そうなる。

菅波栄純:心の中の気持ちを曝け出そうとするから、すげぇ激しかったり、すげぇ静寂だったりすんのかなって。ちょっと壊れかけてる音が出たり、すげぇあったかい音が出たりする。表向きの顔で音を作っている感じじゃないから、ちょっと歪(いびつ)だったりもするけど、生々しいものになる。

--結成当時からそういう音楽を目指していたんですか?

山田将司:しっくり来るところを求めていたら、そうなってた。

菅波栄純:あまり外交的ではなく、内側を見つめる性格だったからっていうのもある。で、その内側にあるものがマイクとか楽器を使うことで吐き出されていく。

--それが毒にも薬にも成り得る音楽になる。これは前に栄純さんが使っていた言葉なんですけど。

菅波栄純:言ってましたね(笑)。それは未だに思いますけどね。今も昔も変わらない。

--では、どこか変わったところがあるとすれば、どんなところだと思いますか?

菅波栄純:音楽の中はそんなに大きく変わっていってる気はしない。違う音楽になっちゃったみたいな変化はなくて、深まってきた感じ。ただ、普段の感じはちょっと変わったかな。人当たりがよくなった。

--(笑)。それはなんで?

菅波栄純:前は東京出てきてビビってたところもあって、騙されないように心を防御してたんでしょうね。だからスタッフにも冷たく当たったりして。でもそれだと何も生まれないし、自分も余計に苦しいし。だったら信用して新しいものを共に作っていった方がいい。っていう気持ちがだんだん沸いてきた。メンバーがいて、スタッフがいて、お客さんがいて、ライブがあるじゃないですか。CDの反応があるじゃないですか。それを感じていく毎に「独りでやってる訳でも、生きてる訳でもねーんだな」っていうことに気付いていったんだと思います。てか、質問がクライマックスみたいじゃないですか、最初から(笑)。

--山田さんはどこが変わったと思われますか?

山田将司:変わってないところの方が多いと思うんですけど、外面はわりと変われたかなって。東京出てきたばっかりの頃は「自分の存在を守りたい」と思ってて、消えてしまいそうな自分を一生懸命に守ってた。でもそのうち「どれだけ自分のことだけが好きなんだよ」って思うようになって。いろんな人が言ってくれることとか、ファンの温かさとか、そういうものを知ったら考え方が変わってきたというか。そんな感じかな。

--それと共に音楽も開いたグルーヴを生むようになっていき、今年の春に発表した『戦う君よ』はその集大成とも言える曲になっていたと思います。自分たちではあの曲にどんな印象や感想を?

菅波栄純:前のアルバム『パルス』が出た後にいろんな曲を作っていたんですけど、俺たち4人がステージに立って演奏している絵が浮かぶような曲として『戦う君よ』は作ったんですよ。「俺らが熱く演奏しているその音はどんな響きかな?」「どんなスピードで駆け抜けていくのかな?」ってイメージしながら。毎シーズンに1回はそういう曲を作りたくなるんです。自分らのコアに近い部分で鳴ってる音を確かめたくて。で、あのシングルには4人それぞれが詞を書いた曲が入ってたし、より“今の俺たちの代名詞”みたいなものになってる自信はありましたね。

--『戦う君よ』の歌詞はどんな想いや背景があって生まれたものなんでしょう?

菅波栄純:なんか、やりきれねぇこととか、自分じゃどうしようもない災難とか、急に悲しいことが起きたりとか、みんなあるじゃないですか。で、そうなると、何にも他のことが見えなくなって「世の中って全部悲しいことなんじゃないかな」とか「誰もわかってくんねぇんだ」って思ったりする訳なんです。自分の場合。そうやって自分に閉じ篭っちゃうんだけど、本当は世界はもっとキラキラしてるし、幸せだってすぐ側にあるかもしんないし。そういうことを忘れないように書いたのが『戦う君よ』の歌詞で。閉じ篭ってるときに聴いて思い出せるように。

--なるほど。

菅波栄純:あと、その当時、すげぇ悩んでる友達がいて。でも直接「こうすればいいんだ」って言ってもしょうがねぇっていうことを味わってきたし、逆に何も言ってやれねぇ歯がゆさも味わってきたし。ただ、せっかく音楽やってるんだったらそれで伝わるものを作ろうと思って。それって前向きだなと最近思うんですけどね。

山田将司:俺も歌ってて「誰かに届けたい」って気持ちがありましたね。そう思うことでまた自分に響いてくることもあったし。

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「ここでいい」と思ってたら“奇跡的な必然”はない

--そのシングルが全国各地で品切れ続出。急きょ再プレスまですることになった訳ですが、あの状況にどんなことを思いましたか?

菅波栄純:その状況に俺らは気付いてなかった(笑)。

山田将司:今知りました。

菅波栄純:やべぇ、嬉しいな。リリース前にライブで『戦う君よ』はやってて、2回目ぐらいのときに「さぁ走り抜けよう」っていう最後のところをもう歌ってる奴がいて。口の動きをよく見てみたら歌詞を完全に憶えている訳ではなかったんです。だけど歌いたい衝動に駆られているところを見せてくれて、そのときも「届く曲だなぁ」って実感はしました。

--歌うべきだと思った歌を、鳴らすべきと思った音を発信して、それを求めてくれる人が着実に増えていく。これはバックホーンにとっては理想的な状況なんじゃないですか?

菅波栄純:それはそうですね。

--で、僕はこの音楽でその状況を生めるところにバックホーンの特異性を感じるんですよ。誰でも取っ付きやすい、ポップでキャッチーなものを選んで発信している訳ではないのに、セールス的に結果が出る。また、狙って取りに行ってる訳じゃないのに、今回みたいな大きなタイアップも付く。これは何でだと思いますか?

菅波栄純:なんでだろうね? 俺たちは生理的にというか、感覚的にどうしても鳴らしたい音を出している訳なんだけど、でもそういう音だからこそ響いてくれる人もいてくれるのかなって思いますけどね。あと、前にテレビでモネの特集をやってて。「睡蓮」っていう画を書いた印象派の。で、印象派の画って線が細かくなくて、すごくぼんやりしてる。でもモネは「絶対に目の前にある景色しか書かない」と思ってるから、現実にその景色を自分の庭に作っちゃうんですよ。そこに無いなら空想で書けばいいのに、それをしないで現実に作ってそれを書いてる。その上で光の加減とかは面影で書いてるから画は少し抽象的になるんだけど、リアルさを感じさせる。面影はぼんやりとしたものだけど、見た人それぞれの思い出にくっつく可能性が高いというか、それぞれのリアルな感覚に直接くっつく。

--バックホーンが生み出してる状況とも重なる話だと思います。僕はそれを“奇跡的な必然”と言いたいんですけど、バックホーンの活動って決して戦略的じゃないんですよね。でもまるで狙い撃ちをしたかのように人の心を掴んで、例えば、水島精二監督のような人が自分の映画に使いたいとも思う。で、そのすべてに結果として必然性を感じさせるじゃないですか。

菅波栄純:すげぇね、それ。次のシングルのタイトルは『奇跡的な必然』で行こうか(笑)。俺らは感覚とか感情とかをフルに使って曲にしている訳なんだけど、その作業自体がちょい未来に向けてやっていることで。未来に向けてせめて半歩でも進めればと思って曲は作ってる。だから出逢えるんだと思う。向こうからやってくる奇跡に自ら出逢いに行ってるところはあって。それがあるのとないのでは違うと思う。「ここでいい」と思ってたら“奇跡的な必然”はないかもしれない。

--で、その“奇跡的な必然”を顕著に感じさせるのが、今回の映画「劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-」主題歌なんですが、どういう経緯で決まった話なんでしょうか?

菅波栄純:テレビシリーズのエンディングテーマとして『罠』を作ったじゃないですか。それでまた監督が声を掛けてくれたんですけど、今回はオープニングの曲なんですよ。ガンダムの壮大な世界と久しぶりの劇場版の幕開けにね、バックホーンは相応しいって言ってくれて。で、俺たちはそのときすげぇ曲を作っていて、エンジンをガンガン吹かしていたので「やりたい、やりたい」ってなって。

--水島監督とはどんな話をしたんでしょうか?

菅波栄純:映画自体の壮大なテーマについていろいろ聞きました。その内容は公開前だからまだ詳しく話せないんですけど。で、そのテーマの説明はしながらも「具体的な音に関しては任せる」って言ってくれて。監督もすげぇバックホーン好きだから「あの曲とかあの曲の感じ」っていうのはちょっと言ってましたけどね。それもまた嬉しくて。

--テレビシリーズの「機動戦士ガンダム00」エンディングテーマが決まったときは、松田さんが喜びを噛み殺していたと(笑)以前のインタビューで伺いましたが。

菅波栄純:噛み殺してたね!

山田将司:噛み殺そうとしてたけど、噛み殺せてなかった(笑)。

--今回はどうだったんでしょう?

山田将司:今回は噛み殺せてた。

一同:(爆笑)

--そして、作り上げた主題歌『閉ざされた世界』。実際どんな想いやイメージを膨らませながら形にしていったんでしょうか?

山田将司:新曲を作っているシーズンに生み出した欠片をネタとしてみんなのところへ持っていって。その欠片はAメロなんですけど、あのコード感とベースラインはずっとあったんです。それをパソコンに打ち込んだりしながら「光舟(岡峰光舟)だったら弾けるだろうな。やってもらおう」と思って。で、みんなでBメロとサビを付けて、1回形にしたんだけど「ちょっと違うかな」ってなり、それを壊してまた新しいBメロとサビを付けて今の形になりました。

菅波栄純:「俺らの好きな曲が生まれてしまったぜ」っていう感じでしたね。ロマンがあって、ドラマティックで、哀愁があって、激情があって、俺らの好きな要素が全部入ってんだよね。凝縮されてる。

--「これがガンダムのオープニングに流れちゃうの?」って思いました。

一同:(爆笑)

菅波栄純:だから監督がロックってことですよね。俺らを起用している時点で。こうなることは分かってて頼んできたんだから(笑)。監督には途中段階で一度聴いてもらったんですけど「バッチリです!画が見えます」って言ってくれて。「繋がってんなぁ」って思いました。

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--歌詞はどんな想いやイメージがあって書き上げたんでしょうか?

菅波栄純:マツ(松田晋二)に話を聞いたりもしたんだけど、ガンダムは善悪がハッキリしていないところがポイントだって言ってて。だからこそ人間の藻掻きとかが生まれる。それは最初のガンダムから脈々と受け継がれてきていて、その中でどんな答えを出すか。対立している者同士がどう分かり合っていくのか。どう未来を作っていくのか。そういうところはこの歌詞に入れていきたいなっていうのがあって「世界を見つめ続けていく」って書いて。信じるだけでもなく疑うだけでもなく、勇気と知性を持って見つめ続けていく。目を逸らさないことが大事っていう。あと元々『閉ざされた世界』って将司が仮タイトルにしていて、それもひとつのインスピレーションとして機能して。分かり合う為に世界を閉ざすのか、開くのか。閉ざされた世界で答えを見つけるのか、開かれた世界で誰かとの関係の中で答えを見つけるのか。そこには選択肢があるとか、いろいろ考えたりして。だから監督とバックホーンからもらったインスピレーションがかなり融合している感じですね。

--この曲を聴きながら思ったんですけど、今この曲とメッセージを発信する2人には世の中ってどんな風に映ってるんですか?ってまた重い質問なんですけど……。

菅波栄純:凄いッスね。

山田将司:総決算みたいになってる。

一同:(爆笑)

菅波栄純:大体このぐらい重い質問って1つのインタビューに1個ぐらいだよね(笑)。

山田将司:愛情が伝わります。

菅波栄純:世の中ね……、最近思うことは何かぐらいの質問に砕いちゃいますけど(笑)悲しいこととか辛いこととかってあんまり味わいたくないと前は思ってて。傷付けたり傷付けられたりもしたくなくて。その臆病さに対して逆ギレするかのようにギターの音が歪んだりして。でも最近思うのは、前にアラーキー(荒木経惟)の個展を観に行ったんですけど、死んじゃった飼い猫との日々がテーマになってたんです。で、アラーキーは奥さんを早くに亡くしちゃってるから、猫は奥さんの代わりみたいな存在だったんだけど、死んじゃって。それも写真になってて。で、死んだ後の空の写真が1ヶ月半分ぐらい定点で続くんですね。それを見て悲しい気持ちになったんだけど、人は悲しみを味わうことで実は純化されてんのかなと思ったりして。だらだら生きていたとしても悲しみを味わうとハッと目が覚めたり「生きているって素敵なことなんだな」って気付いたりする。だから悲しみは逃げずに受け入れた方がいい。リアルの中で。

--なるほど。

菅波栄純:悲しいドラマを観て泣くけどそこにエグさはなくて。リアルの世界にしかないリアルな悲しみってあるなって。で、バーチャルな世界とリアルな世界が共存している世の中だからこそ、リアルな世界で味わう感情というのを大事にしたいと思ってる。だから今は昔に比べてネガティブなものに対する捉え方が変わったっていうか。ひたすら怯えていただけの頃より少し強くなった。

--山田さんが今の世の中で感じていることも聞かせてください。

山田将司:ほぼ一緒です。

菅波栄純:(笑)。

山田将司:そうだなぁ……。 まだまだいっぱい知らないことが世の中にあって。自分以外の人があたりまえだと思っていることでも知らないこととかあるし。例えば、自分が不幸かって言ったら不幸じゃないし。それなのに感情を生み出す仕事をしていて、それを好きでやっているっていうのは贅沢だなと思って。大して苦しくもないのにそういう気持ちを生み出したり。そういう気持ちにならざる得ない場所に住んじゃって、本気で光を掴まえようとしている人がいるのに、自分はすごく平和な東洋で生きてて闇を生み出したりしている。それに気付いたときに、そこに溺れに行っちゃ絶対にダメだなと思って。闇を生み出してもそれを絶対に光へ繋げなくちゃいけないとも思うし。それをやっていかなきゃ絶対にいけないと思う。やらないのは諦めるっていうことだから。綺麗事かも知れないし、忘れちゃうときもあるんですけどね。自分しか見えなくなっちゃうときもあるし。でも忘れてもまた思い出せばいいと思ってて。

--今2人が話してくれたことってバックホーンの音楽にまんま反映されていますよね。そういう想いがあるから「運命を切り拓け」と歌うし、閉ざされた世界をこじ開けたいと思う。音楽で何かが変わるということを信じているから。って感じるんですけど、そこは実際のところどうですか?

菅波栄純:それはある。実際に音楽で何か変わるのを自分が味わってきたから。

山田将司:全部を変えられるとは思わないけど、おそらく一番大切な“一歩踏み出していく力”にはなると思う。自分もそういうパワーをもらってきたし。

菅波栄純:自分らの思っている通りに思ってほしいとかじゃなく、その人を抑制しているものから解放することで新しい感情が生まれてくるとか、そういうことが起きればいいなと思ってるだけで。昔は伝えたいことがストレートに伝わってほしい欲望があったけど。

--「分かれよ、俺のこの気持ち」っていう。

菅波栄純:そう。単純に「俺を分かってよ」っていう(笑)。当時はそれが原動力だったりしたんですどね。そこはちょっと変わってきたな。

--そんなバックホーンの最新シングル『閉ざされた世界』、世にどんな風に響いていったらいいと思いますか?

山田将司:ライブで聴いてほしいし、感じてほしい。みんなでこの曲を共有することで何かの力を生み出せるんじゃないかな。だから秋冬にやるツアーには来てもらいたいです。

THE BACK HORN「閉ざされた世界」

閉ざされた世界

2010/08/04 RELEASE
VICL-36592 ¥ 1,257(税込)

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  1. 01.閉ざされた世界
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リヴスコール
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2012/03/07

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