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<インタビュー>にしな、複雑で混沌とした日常で見えてきたものは 感情を言葉に託す新曲「ドレスコード」と最新アルバム『日々散漫』について

インタビューバナー

Text & Interview: 金子厚武
Photos: Shintaro Oki (fort)

 3月に約3年半ぶりとなるサードアルバム『日々散漫』のリリースを発表した、にしな。新録8曲を含む全21曲が収録されたアルバムから、「ドレスコード」が先行で配信された。コミュニケーションの難しさや別れの切なさを描きながら、軽やかに自己肯定を促す歌詞にしろ、削ぎ落とされながらも気品のあるアレンジの中を泳ぐ伸びやかな歌声にしろ、表現者としての充実した現在地を示し、アルバムへの期待を膨らませるに十分な一曲だ。大事な一年の始まりに、曲に込めた想いについて語ってもらった。

──年末年始はどんなふうに過ごしましたか?

にしな:年末年始は……年末から不運が続きすぎて。最後のライブが終わった後に発熱して、帰ってから洗濯機を回したら水が溢れてきて、建物全体の汚水が流れ込んで、年始から工事をして……激しい年末年始でした(笑)。

──この一年の厄を全て済ませたかのようですね(笑)。僕は去年も1月ににしなさんの取材をしていて、そのときは「デビュー5年目ということもあり、チャレンジもしながら、改めて自分自身について見つめ直す一年にできれば」という話をしてくれてたんですけど、実際2025年はどんな一年になりましたか?

にしな:そう言われて振り返ると……自分が何を書きたいかとか、自分がどう生きたいかとか……意識して向き合おうと思ってたわけじゃないですけど、無意識下ですごく頭の中で考えていた一年だった気はしていて。ずっとぼんやりとしていた「こんな人になれたらいいな」という望みの輪郭が少しずつはっきりして、「やっぱり自分はこういう人になりたいし、こういうことを書きたいんだ」みたいなことがわかってきた。振り返ると、2025年はそういう濃い一年だったような気がします。

──「こんな人になれたらいい」あるいは「こういうことを書きたい」を具体的に言葉にしてもらうことはできますか?

にしな:「表現したいこと」とはちょっと違うかもしれないですけど、「自分のことを自由にしてあげたい」みたいな感覚ですかね。生きる上で考え方ってすごく変わるし、その時々で取る選択も変わっていくじゃないですか。でもそれを重く捉えすぎずに、自分自身を軽やかに、風に乗って飛んでいきたいし、それを楽しみたいし、そういう自由さが自分の中から出たらいいな、みたいな感じ。

──固定観念や既成概念みたいなものに捉われずに、より自分らしく、より軽やかに生きていきたい。

にしな:そういう思いはたぶんずっとあったんですけど、2025年の制作を通じて、そういう根本的な部分がよりナチュラルに出るようになった気がします。

──10月に出た「パンダガール」の取材をさせてもらったときは、歌録りを一人でやってみたり、ライブでイヤモニを外してみたり、やはり去年一年はいろんなチャレンジがあったことを話してくれて。そういった中で見つけていったものもありましたか?

にしな:いろんなことにチャレンジをして、再発見をする感覚というか、自分が何者でもなかった頃をもう一度見つけてくるような感覚がありました。「歌うことが楽しい」とかもそうですし、曲のアプローチもいろいろとチャレンジしたけど、逆に何もしないことももともと好きで。にしなとして、ここまでやってきたけど、そもそもどういう人間だったかとか……忘れてたわけじゃないですけど、改めて、「あ、そうだったな」みたいな。前に進んできたからこそ、チャレンジしてきたからこそ、自分の根本にある部分を改めて見つけられたような気がします。

──新曲の「ドレスコード」を聴いて、そういう「改めて」の部分を個人的にも感じて。歌詞のおもしろさだったり、いろんな曲調があることもにしなさんらしさなんだけど、「ドレスコード」は歌であり、声の素晴らしさを強く感じたんです。一番は丸々リズム楽器が入ってなかったり、構成はABサビの繰り返しですごくシンプルだったり、それによって改めて「歌」であり「声」という原点にフォーカスしているように感じました。

にしな:実際に曲を作ってるときは、特別何かを意識したわけではないんですけど……いざこの曲が完成したら、「こういう曲はしばらくやってなかったな」と思って。あんまり考えてないからこそ、自分の持ってる素直ないい部分が出た曲かなと思っていて、だからこそこのタイミングでリリースしたいと思ったんです。

──「パンダガール」みたいな遊び心のあるアレンジも「らしさ」の一つだけど、「ドレスコード」はある意味ではすごくシンプルな、削ぎ落とした良さがありますよね。そもそもいつ頃に、どういう着想から生まれた曲なんですか?

にしな:種ができたのは2年前ぐらいで、完成したのも結構前ではあって。結局、恋とかの終わりは二択じゃないですか。一緒にいるか、いないか。その二択の中で、さよならを選んだとして、そこからいろんな関係の続き方があるかもしれないですけど、「最後に素敵な自分を覚えていてほしい」って、人はわがままだから、たぶんそう思うと思うんですよね。それがドレスコードに似てると思って、そこから書きました。

──「ドレスコードに似てる」というと?

にしな:素敵に着飾って、ちょっと背伸びをしている状態というか、それは視覚的にもそうですけど、精神的にも、キュッと背筋が伸びてる状態。それがドレスコードに合わせて着飾るときに近いと思ったんです。悲しいとか嬉しいとか、そういう感情は一旦置いておいて、進んでいく様が感じられる曲になったらいいなと思って書きました。

──基本的にドレスコードはシチュエーションに合わせて選ぶものじゃないですか。そうじゃなくて、自分のためにドレスコードを選ぶっていうのは、逆転の発想というか、ドレスコードを自分らしくいるためのワードとして使う発想はすごく面白いなと。

にしな:確かに、そう言われるとそうですね(笑)。もともとはもっとシンプルに、「素敵に着飾ってお別れしたいよな」みたいなところから、「ドレスコード」という言葉が直観的に出てきたんだと思うんですけど。

──実際にドレスコードがある場所に行って、その経験をもとに書いた、みたいなことではなく。

にしな:ではなく。恋愛に限らず、悲しいさよならもいいけど、どっちかっていうと、背中を押し合えたほうがいいのかなって。ただ最初は「この歌詞、矛盾してないかな?」と思いながら書いてたんですよ(笑)。でも、その矛盾も人間味だし、ひっくり返っていく気持ちも含めて恋愛だし、人との関係だよなと思って、途中からは深く考えることをやめて。

──お別れすることの悲しさだったり、相手に対する感謝の気持ちはあるんだけど、その一方で、「最後まで素敵な自分でありたい」という気持ちのほうが勝ってたり。そういったいろんな矛盾が、人間らしい感情が詰まってる曲だと思います。

にしな:そうですね。そういう矛盾が最初は気になったりしちゃったけど、それを推敲し始めるのも違うなと思って、そのまま閉じ込めました。サビの前で、〈せめて最後は綺麗にリボンをかける〉と言ってるところは、自分の中で気に入っていて。視覚的にリボンをかけてるのかもしれないし、思い出とか、想像の中でリボンをかけてるのかもしれない。そういうイメージができて、可愛いなって思いました。


──途中でも話したように、アレンジは比較的シンプルだと思うんですけど、最初からそういうイメージがあったのか、それとも編曲の横山(裕章)さんとやり取りをする中で削ぎ落とされていったのか、そのあたりはどうでしたか?

にしな:曲の構成自体は弾き語りの時点で完成していて。そこからアレンジをお願いする中でも、二転三転した記憶はないですね。一回最初からドラムを入れてみたりもしたけど、やっぱり抜いたりしたくらい。この曲の良さは言葉がちゃんと届くこと、聴こえることだと思ったので、音を足しすぎない点が、最初からイメージとしてはあって。それを横山さんに伝えたら、ぴったりのものを返してくれました。

──「こういう曲はしばらくやってなかった」と思ったそうですが、「こういう曲」っていうのは、シンプルな、弾き語りに近いイメージの曲?

にしな:言葉がしっかり届いて、シンプルな曲っていうことなのかもしれないです。「いろんなチャレンジをしてみました!」というよりは、自分の感情がそこにあって、ちゃんと話せるとか、伝えるように歌える曲、みたいな感じですかね。

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──レコーディングはいかがでしたか?

にしな:いろんなマイクを自分で買ってみて、聴き比べたりする中で、最近は「このマイク」っていうのがあるんですけど、「ドレスコード」はいつも使ってるものとは違うマイクをチョイスしてます。横山さんに「この曲はこっちのマイクのほうが合うと思う」と言ってもらって、聴き比べた上で選んでるんですけど、そのときにやっぱり音楽は生き物だし、マイク一つで表情が変わるし、いつまでも研究しがいのある、おもしろい作業だなと思って。「ドレスコード」はまた学びを与えてくれた一曲になりました。自分でもこの曲の歌は気に入ってて。より話してるようにも聴こえるし、ちゃんと歌ってるなって感じています。

──「話すように歌う」というのは、にしなさんの中でどんな感覚なのでしょうか?

にしな:何なんですかね……もしかしたら「歌の中で話せる」って、「体の中に入りきってる」みたいな感じかもしれないです。昔はレコーディングの機会自体があんまりなかったけど、コンスタントにレコーディングをするようになると、その曲を歌い込む時間がどうしても減るじゃないですか。でも、ちゃんとその曲を体に入れて、自分のものにしてから歌えば、邪念もなくなる。そういう過程が大切だと思うので、最近は曲と向き合う時間が前よりも長くなった気がします。判断して決断するまでの時間も長いけど、その分向き合って、冷静になって聴いて、自分のものにしていく過程が増えた気がしますね。「ドレスコード」はこの曲に出てくる女の子がちゃんと見える感じがします。

──にしなさんの歌の良さがしっかりと伝わる曲が、アルバムが出る年の始まりを飾る曲として出るのはすごくいい気がします。

にしな:1月からお別れソングですけど(笑)。

──前向きなお別れソングだし、いかに自分を肯定して生きていくかについて歌う曲だから、大丈夫だと思います(笑)。

にしな:そうですよね(笑)。

──3月にリリースされるアルバムは『日々散漫』というタイトルが発表されています。どれくらいのタイミングで、なぜこのタイトルになったのでしょうか?

にしな:候補はいっぱいあったんですけど、決まったのは11月くらいかな。ほかの候補には「お米」とかもあったんですけど。


『日々散漫』すてき盤・たっぷり盤共通ジャケット

──ちなみになんで「お米」だったんですか?

にしな:お米が好きだから(笑)。『日々散漫』にしたのは、まずアルバムに21曲入ってるので、それをまとめるのはすごく難しいなと思ったからなんです。でも曲をいっぱい聴いていくと、大きく二つの柱があるなと感じて。一つは本当にささやかな、日常的な側面。もう一つは混沌とした、散漫としてる感じ。それをガッチャンコして、『日々散漫』にしました。1枚目の『odds and ends』が英語、2枚目の『1999』が数字だったから、次が漢字なのもいいなって。みんなの日常の中で流れてくれたら嬉しいですし、今のマインドにも当てはまるし、いいんじゃないかなと思って決めました。

──「散漫」はちょっとネガティブに捉えられるワードだったりもするじゃないですか。それをあえて使ったのは意図的ですか?

にしな:私は「散漫」に対してあんまりネガティブな印象はないんです。定期的にミニマリストに憧れるんですけど(笑)、絶対になれないし、散らかってるのも散らかってるのでおもしろいし、それにも魅力を感じていて。なので、「あえて」みたいな感覚は全くなく、素直に「日々散漫、いい感じ」みたいな感じでしたね。

──現在レコーディングの最終段階だそうで、まだアルバムに収録される新曲は聴けていないのですが、すでにリリースされている既存曲の中で、アルバムの軸になる曲とか、「この曲が今の自分のモードに導いてくれた」という曲を挙げてもらうことはできますか?

にしな:そうですね……一つは「わをん」。個人的にすごく聴き返したいと思える曲だし、きっとアルバムの中でも大切なピースになってくる曲だと思います。あと「weekly」はアルバムタイトルにも通じるし、曲順を考える中で、早い段階で、「『weekly』はここにいたらいいんじゃないか」みたいな感じで置いた気がしますね。

──CDでいうディスク1の実質的な一曲目が「weekly」で、最後の曲が「わをん」なわけで、アルバムのムードを形作ってますよね。それこそ「軽やかさ」とか「自由さ」みたいな意味でも大事なピースになっていそう。あと、去年「パンダガール」の取材をさせてもらったときに、「曲を書く上で遠くを見て、自分にはもっと言いたいことがあるかもしれないと思った」という話をしてくれたのを覚えてるんですけど。そうやって見えてきた「自分の言いたいこと」も、アルバムの曲には反映されていますか?

にしな:反映されてる気がします。どう見えるかは置いておいて、ここは強めに言い切ってみよう、みたいなこととか、せっかく歌うんだったら、こういうことを大きい声で歌ってもいいんじゃないかとか、そういうトライ……とまでは行かないですけど、そういう描き方ができてる曲もあると思います。

──「遠くを見る」っていうのは、いろんな捉え方ができる言葉だなと思うんですけど、一つの解釈として、「今の時代感や、今の社会を見る」という意味合いも含まれてるのかなと思って。「今の時代に対してこういうことを感じていて、だから自分はこういうことを言いたい」みたいな、そういった側面もありますか?

にしな:あると思います。私自身がすごく散漫というか、何か思ってることがあっても、次の瞬間には違うことを考えちゃってるし、肯定されたいから逆に自分を卑下しちゃうし、紐解いていったらすごい複雑だなと思うんですけど、私以外の人もそうだと思っていて。SNSを見ててもそう思うし、大きなことを言えば、戦争が起こる理由も簡単にはわからない。いろんな国の事情、いろんな人の気持ち、どれも複雑でわからないなって思うことがたくさんあるんですけど、だからこそ、自分の中でシンプルに見えてくるもの、大切にしたいものははっきりわかるようになってきて。そういうことを書き記したいと思ったんです。

──「散漫であることを肯定する」というアングルもあるし、散漫だからこそ、その中で軸になっている部分の大切さも見えてくる。

にしな:そのシンプルな軸を見失うと、自分のことがわからなくなって、おかしくなっちゃう可能性もあるけど、その大切なことがわかってたら、ちゃんと生き抜いていけると思う。今年もいろんなところに行って、いろんな人に出会って、いろんな話をしたいし、そのときに感じられることとか、変わっていく自分とか、ちゃんと生き様を書き記して、残していける一年にしたいなと思います。

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