Special
<インタビュー>アジアでバイラルヒット、茉ひるが世界に届けたい愛の歌「百日草」

Text & Interview: 永堀アツオ
Photos: 堀内彩香
SNS総フォロワー数90万人超を誇るシンガーソングライター、茉ひる(Mahiru)が新曲「百日草」をリリースした。ワーナーミュージック・ジャパンからの1stメジャーシングルは、昨年巡ったアジア各国で出会った人々との交流をきっかけに生まれた温かな愛の歌だ。これまでとは異なるアプローチで制作された本作は、茉ひるにとって新たな表現の扉を開く一曲となった。国内外で活躍の場を広げる茉ひるに、新曲に込めた思いをはじめ、音楽活動を始めた原点、「ダブルベッド」や「フレグランス」といった代表曲について話を聞いた。
──これまでの経歴からお伺いできますか? 音楽を始めたきっかけを聞かせてください。
茉ひる:きっかけはコロナ禍で生活環境が変わる中に失恋をし、その時に路上ライブをみたことかもしれません。
──コロナ禍というと2020年ですね。
茉ひる:そうですね。高校時代にやってた陸上部の延長で、卒業後もクラブチームに入って工場で働いていました。でも、コロナと同時に大会がなくなって、練習用の競技場も使えない環境になってしまって。趣味のひとつであった陸上ができなくなって、生きた心地がしなくなってしまったんですね。そのタイミングで失恋してしまい……。
──生きる活力だった陸上と恋人を同時に失ってしまったんですね。
茉ひる:これはどこにも話していないんですけど……別れたあとに元彼に会いに行ったんですね。
──ちょっと待って! なんで元彼に会いに行くんですか? そういえば、SNSでバズって話題になった「フレグランス」も「ダブルベッド」も忘れられない恋が題材になってますが。
茉ひる:一度好きになると、中々忘れられないタイプかもしれません(笑)。しかも、会いに行ったのは、別れてから1年半ぐらい経っていたときなんです。コロナになって陸上もなくなり、趣味もなくなって、「やばい、どうしよう」って思ったら急に会いたくなって。たぶん楽しさを求めてたと思うんです。実際に会ったら「音楽が向いてんじゃない?」って言われて。付き合ってるときによくカラオケに行ってたから、そう言ったんだと思うんですけど、その言葉がずっと脳裏にある状態で街を歩いてたら、路上ライブに出会って。
──路上ライブで歌っていたのはどんな方だったんですか?
茉ひる:年齢が4つ上の男性の方でカバー曲を歌ってたんですね。なんというか、悩んでるときにすっと寄り添ってくれるような歌声だったんですよ。その方とお話をする機会があって、「あなたには何かを感じるからやってみたら?」と言われたことがきっかけで、私も路上ライブを始めました。

──それまでの茉ひるさんと音楽の距離というのは?
茉ひる:歌うことは好きでした。家でもひとりでよく歌っていたし、友達とカラオケに行くと、伊藤由奈さんの「Precious」とか、あいみょんさんや西野カナさんの曲を歌ってました。ただ、その時はシンガーになりたいという夢はなく、「やってみてもいいかな」っていうくらいの気持ちで始めて。まだコロナが続いていたので、外出自粛期間中は路上ライブもなかなかできなくて、そこで動画の投稿を始めたんです。ある日、一人でカラオケの練習をしていたら疲れちゃって。体育座りで歌ってる動画をあげたら、「体育座りで歌うとお腹の力が入りにくいっていうけど、こんなに高いキーも出るんですね」っていう反応が増えて、路上ライブが復活してからも、しばらくは体育座りで歌ってました。
──そこからシンガーになろうと思った転機は何でしたか?
茉ひる:実は「私は音楽でやっていくんだ」って切り替わったきっかけが特になくて。本当に「気づいたらこうなってた」っていう感じなんですね。路上ライブで高瀬統也さんの曲を歌ったところ、それが高瀬さんの耳に届き、路上で一緒に歌ってくれることになって。その曲(高瀬統也「どうして feat. 野田愛実」)を作られたRINZOさんとの出会いが私の次のフェーズですね。

──RINZOさんと「ダブルベッド」(2023年5月)をコライトされています。
茉ひる:オリジナル曲は2020年から作り始めていたんですけど、その頃はまだ人に届けるというよりは、自分のために作っていたんですね。RINZOさんと出会って、楽曲制作をする上でいろんなことを学ばせてもらって。「ダブルベッド」は完全に実体験の失恋ソングなんですけど、とにかくメロディーとフレーズにこだわって作りました。短くて頭に残るフレーズで、トップラインがずば抜けていい曲を出したいと思っていたので、それが届いたら最高だよねって話をしながら作った曲です。
──その曲がミュージックビデオだけで500万回近く再生されるヒットとなりました。
茉ひる:これもおかしな話にはなるんですけど……いわゆる車界隈と言われるところにちょっと刺さったのかなって。「ダブルベッド」が車の走行動画と一緒に使ってもらえることが増えて、車関連のイベントにも出させていただく機会も増えたことで、それまでに発表していた楽曲とは異なるリスナー層やより多くの方に届きました。とことんこだわって作った曲が広まって、本当に嬉しかったです。
──そして、「フレグランス」が同年12月に配信リリース。同じ方ですよね。
茉ひる:「フレグランス」までは同じ人です。これもまた実体験でして。実は「フレグランス」のジャケットには別れた日にちの“22”をこっそり入れてるんです。
──それほど好きだったんですね。
茉ひる:忘れられない恋って、あると思います。どこに行ったとか、ここでこの時期にこの匂いをよく嗅いだなとか、自分は彼好みの香水をつけてたな、とか。そういう思い出が浮かび上がってきて。私はいつもトラックをもらってからメロディーをつけることが多いんですけど、このトラックを聴いた時に、なぜかわかんないんですけど、香りが連想されて。私が匂いフェチっていうのもあり(笑)、試しに作ってみた曲ではありますね。

──その曲が台湾や香港のバイラルチャートで1位になりました。
茉ひる:まったく想像していなかったし、別に狙っていたわけでもなかったので、これもシンプルに嬉しかったです。「ダブルベッド」から「フレグランス」に至るまでに、いい意味でこだわりが出てきて。「フレグランス」も最後の最後までこだわり抜いて作った曲なんですね。そうなると、世に出した時もみんなと共有したいっていう気持ちが強く出てきて。“売れたい”より、“共有したい”っていう気持ち。なので、SNSも自ずと毎日投稿するように意識したし、より深く聴いてもらえるには、より多くの方に知ってもらえるにはどうしたらいいかをより考えるようになりましたね。
──台湾や香港で広がったと思われる一因は?
茉ひる:私が「フレグランス」を歌いながら運転している動画を投稿したところ、少しずつ台湾や香港の方へリーチが増えていったので、動画内に中国語の歌詞を入れたんですね。投稿プラットフォームには翻訳機能が備わっていますが、すぐ目に入るように字幕を入れたいなと思って、入れてみたところ、その動画がさらに広まったんです。
──日本よりアジア各国で先に火がついたことについて、どう感じていますか?
茉ひる:意外でしたね。このまま国内で歌を届けていくんだろうなって自然に考えていたので、想像もしていなかったです。でも、海外の熱気を感じるとめちゃくちゃ楽しい。今年もまた行きたいです。
──昨年は台湾や香港だけじゃなく、韓国やタイを含むアジアツアーを成功させてますね。
茉ひる:いろんな場所を訪れることができて楽しかったです。「フレグランス」は日本語楽曲でありながらも、海外の皆さんも一緒に歌ってくれるんです。そのツアーでは(「フレグランス」を)セットリストの最後に持ってきてるんですけど、最後にみんなで一緒に歌って終わるライブにしていて、「一体感ってこういうことなんだな~」って感じました。
愛を持って包み込めるような楽曲を作りたいと思い、皆さんに向けて(「百日草」を)書きました
──コロナ、失恋、路上ライブから始まったこの5年間は、ご自身にとってどんな日々でしたか?
茉ひる:本当に物事が変わるスピードが速かったですし、いろいろと経験していく中で気づくことが多かった5年間でした。例えば、考え方ひとつ取っても、めちゃくちゃ変わってきて。
──どんな変化がありましたか?
茉ひる:私は400mの短距離走をやってたんですけど、陸上をやっていた頃は、とにかく数字に執着していたんですね。大会に出ることはめちゃくちゃ楽しいんですけど、それ以外の練習の期間は楽しいのかって言われたら、そうではなくて。数字のためだけにやっていたので、楽しくない分、成長のスピードも落ちるんじゃないか、これをずっと続けられるのかという不安もたくさんありました。でも、音楽を始めてから、その考え方が変わって。数字も大事ですけど、数字を追い求めることよりも、どれだけ自分が楽しめるかが大事だってことに気づいたんです。自分が楽しんで、こだわって作った音楽を共有したい。私は自分の音楽を届けたいっていう気持ちがあるので、皆さんに楽しんでもらい、寄り添えることができたら、それが私の楽しみや幸せにもなります。そういった目に見えないところに目を向けるようになった気がします。

──メジャーデビュー曲となる「百日草」はどんなところから着想を得て作られましたか?
茉ひる:今年の1月31日に地元の三重でファイナルを迎えるアジアツアーは去年の4月からスタートしました。アジアツアーは初めての経験で、自分の人生において大きな経験になっているのですが、愛にはいろんな形があるけど、愛そのものに変わりはないことに気づいたんです。というのも、アジアツアーを通して世界を知ると、世界で起こっていることに今まで以上に気になり始めて。
──台湾や香港、バンコクやソウルの公演を見に来てくれた現地ファンのことを思うと、その人たちが住んでいる場所の出来事も身近に感じますよね。
茉ひる:そうなんです。なにか起こると心配になりますし、なにか手助けしたいと思って寄付もしていて。それと同時に、なかなか理解されない、周りから否定されがちな愛の形もあることに気づいたんですね。冷たく感じることも、蓋を開ければ、そんなこと関係なく愛し合える関係で、同じライブに来てくれる。愛を持って包み込めるような楽曲を作りたいと思い、皆さんに向けて書きました。

──茉ひるさんの個人的な恋愛の実体験が元になっている曲ではないんですね。
茉ひる:もっと広い愛がテーマです。私にとっては初めてのことで、“あなたたちの恋愛”っていう意味でもあります。今、異性間だけじゃなく、同性の方を愛してる方もいらっしゃるじゃないですか。
──バンコクの街で見かけることも多いですね。
茉ひる:そういう方にたくさん出会いました。家族や友達を含め、周りの人全員が認めてくれるわけではない状況もあるけど、「愛し合ってるならそれでいいじゃん!」って思うんですよね。そういう方たちが純粋に愛し合える関係を築けるようになったらいいのになっていう気持ちもありますね。
──「百日草」というタイトルにはどんな思いを込めましたか?
茉ひる:百日草には絆や幸福、そして、遠い友を思うという花言葉があります。それこそライブに来てくれる、私の音楽を聴いてくれるお客さんにぴったりだなって思って。花はいつか枯れてしまうものだけど、枯れないように、みんなをそっと包み込みたいという思いを込めて「百日草」にしました。
──王道のピアノバラードですが、レコーディングはどんなアプローチで臨みましたか?
茉ひる:個人的にバラードが大好きで、いつもよりもBPMを落としているので、より声の動きが明確に見えると思います。だから、歌詞はあまり詰め込みすぎず、一言一言の深みを出すことにフォーカスしました。言葉のひとつひとつが伝わるように、メロディーの語尾の動きや吐息の部分を足し引きしながら、レコーディングしました。
──フェイクも入ってますし、後半のハイトーンには、国境を超えて多くの人の心を惹きつけるレンジの広い歌声の特徴が存分に発揮されてると感じました。
茉ひる:ありがとうございます。そこを狙って作ったので嬉しいです。なにか悩んでる人や誰かに寄り添ってほしい人に聞いてもらえたらいいなと思います。私はとにかくメロディーを大事にしていて。「メロディーがズバ抜けていい」って感じてもらえるような曲を作って、少しずつ自分の音楽を広げていきたいと思ってます。


──これからの活動はどう考えてますか?
茉ひる:夢は明確になくて。でも、目標は細かくいっぱいあるんです。メジャーデビューという大きな変化があったので、今までできなかったこと、なかなか挑戦できなかったことをやりたい。例えば、ドラマの主題歌を担当するとか、フェスに出演するとか。あとは、グローバルに関わることも増えたので、周りの方々の力を借りながら、今まで出したことがない中国語や英語など他言語歌唱の楽曲リリースに挑戦できたらいいなと思ってます。ライブも大好きなので、今年もいっぱいライブもツアーもしたいですね。
──やりたいことがたくさんある中で、今、一番にやりたいと思ってることはなんですか?
茉ひる:うわぁ、迷うな。ちょっと避けていた英会話ですかね。アジアツアーの現地で出会ったアーティストさんも含め、もっと深い会話がしたいなって。それと、ドラマの書きおろし主題歌も。脚本を読んで気づくことってあると思うし、なにかからインスピレーションを受けてどんな曲が書けるのか興味もある。新しい道が開けそうな気がします。
──ちなみに陸上大会のときに必ず聴いてた曲はありますか?
茉ひる:安室奈美恵様の「HERO」ですね。
──アップテンポでテンションが上がる曲じゃないんですね。
茉ひる:私が昔からバラード好きだからかもしれないんですけど。今、思い出したんですが、私が走るのが好きだから、TikTokでもそういう動画がたくさん流れてくるんですけど、とある陸上選手の投稿に「フレグランス」が使われていたんです。私は陸上を辞めてしまったけど、こういう巡り合いが嬉しくて。それこそ陸上関連の曲もやってみたいことのひとつですね。



























