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なぜBillboard JAPANが書籍チャートを作るのか――音楽の「聴かれ方」から、本の「読まれ方」へ



コラム

Text By Seiji Isozaki

<なぜBillboard JAPANが書籍チャートを作るのか>

 私たちは日々、音楽を聴き、本を読み、その感想をSNSで共有しながら暮らしています。特に10~20代にとって、こうした行動は特別なものではなく、スマートフォン1台の中で自然につながっています。

 音楽アプリで楽曲を聴き、マンガや小説アプリで作品を読み、気になったことをSNSに投稿する。「聴く」「読む」「語る」という行為は、切り分けられた体験ではなく、連続した日常の一部です。そのため、「音楽ファン」「読書好き」「SNSユーザー」は、実際にはかなり重なり合った存在だと言えます。

 音楽の世界では、こうした生活者の行動を「聴かれ方」として捉える仕組みが整っています。CDの売上、ストリーミング再生、ラジオ放送、動画視聴など、複数の指標をまとめて評価するビルボードの総合チャートが、その代表例です。ビルボードが提供する音楽チャートは、「どれだけ売れたか」だけでなく、「どれだけ聴かれ、広がっているか」を社会全体の動きとして可視化してきました。

<本の世界では、なぜ「読まれ方」が見えにくいのか>

 一方で、本の世界では事情が異なります。紙の書籍、電子書籍、EC、リアル書店、図書館といった接点ごとにデータが分かれており、読まれ方を一つの絵として捉えることが難しいのが現状です。そのため、「本が実際にどれくらい読まれているのか」「どこで読者と出会っているのか」といったことが、業界全体で共有されにくくなっています。

 そこに着目したのが、音楽で培われてきた総合チャートの考え方です。ビルボードジャパンでは、ユーザーの行動の多様化に合わせて、約30種類の音楽チャートを展開してきました。複数の行動データを組み合わせ、「いま社会で起きていること」を一つの指標として示すこの設計思想は、本の世界にも応用できます。

 書籍市場全体(紙+電子)は、この10年で大きく縮小してはいません。しかし、紙の売上はリアル書店からECへと移行し、電子書籍、特にコミック市場は拡大を続けています。結果として、「本」というコンテンツではなく、「本屋という場」だけが構造的に厳しい状況に置かれています。

<総合ブックチャートがもたらすもの>

 音楽市場のデータを見ると、フィジカルとデジタルは対立関係ではなく、互いに影響し合っていることが分かります。また、ファンのあり方も変化してきました。かつての「買う人」中心のコアファンに加え、SNSを通じて作品やアーティストを自発的に広める「ファンダム」が、市場を動かす存在になっています。こうした動きは、本の世界でも既に起きていると考えられます。これを踏まえて、総合チャートを導入することで、次のような変化が期待されます。

・どこで、どのように読まれているのかが分かる

・書店や図書館が果たしている役割が見える

・映像化や音楽連動など、IP展開の兆しを捉えやすくなる

 これにより売上だけでは測れなかった「読まれ方」を、社会的な広がりとして捉え直すことが可能になります。

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    反映した書籍の総合チャート
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<多様化するユーザーアクティビティを反映した書籍の総合チャート>

 紙(リアル書店+EC)、電子書籍、図書館貸出などを横断的に集約した、Billboard JAPAN 総合書籍チャート“JAPAN Book Hot 100”は、11月6日から毎週木曜日に公表しています。音楽チャートで培ったロジックを活かし、「いま、本当に読まれている本」を一つのスケールで示し、Book Chart Insightとしてチャネル別ランキングも公開することで、それぞれの強みが可視化されます。

■JAPAN Book Hot 100

・実店舗での紙書籍の売上冊数
紀伊國屋書店、タワーレコード、トーハン、日本出版販売等から提供される実店舗での紙書籍の売上部数

・Eコマース(通信販売)での紙書籍の売上冊数
e-hon、HMV&BOOKS online、紀伊國屋書店、タワーレコード、中央書店 コミコミスタジオ、日本出版販売などから提供されるEコマース(通信販売)での紙書籍の売上部数

・電子書籍のダウンロード数
モバイルブック・ジェーピーから提供される電子書籍のダウンロード数 (※各社の提供データについては、独自の係数を全て等しく乗じてポイント化したデータとなり、実績値ではありません。)

・定額制サービスの閲覧数、図書館における貸出数など
カーリルから提供される図書館における紙書籍の貸出回数 ※ローンチ時は図書館貸出数のみ、サービス追加次第、有料・無料で重みづけを実施

読書ブログサイトにおける、書籍ごとの閲覧数、シェア数、Like数など
noteから提供される書籍関連記事に関する統計情報
ブクログから提供される書籍に関する記録情報

 今後活発化するであろう書籍のグローバル展開を見据え、様々な時代やカテゴリの書籍がどのように読まれているのか、より細かくカバーできるよう、総合チャートからデータを抽出する形で以下のジャンル・年代別チャートも展開しています。さらには、ユーザーからのニーズに応え、旧作が注目を受けて急上昇する様を可視化するHot Shot Booksを急遽ローンチしました

■Hot Bungei Books
JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コード(Cコード)を参照したジャンル情報から文芸関連書籍を抽出し、順位化したチャート

■Hot Manga
JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コード(Cコード)を参照したジャンル情報からコミックを抽出し、順位化したチャート

■Hot Economy Books
JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コード(Cコード)を参照したジャンル情報から政治・経済関連の書籍を抽出し、順位化したチャート
抽出ジャンル:「ビジネス」「政治」「社会思想・社会学」「社会問題」

■Hot Culture Books
JAPAN Book Hot 100をもとに、日本図書コード(Cコード)を参照したジャンル情報から文化・芸術関連の書籍を抽出し、順位化したチャート
抽出ジャンル:「芸術・アート」「人文(政治全般/社会の一部を除く)」

■Showa Books
JAPAN Book Hot 100から昭和以前に初版が発売された書籍を抽出し、順位化したチャート

■Heisei Books
JAPAN Book Hot 100から平成に初版が発売された書籍を抽出し、順位化したチャート

■Reiwa Books
JAPAN Book Hot 100から令和に初版が発売された書籍を抽出し、順位化したチャート

■Hot Shot Books
チャート登場回数3回以上の書籍を対象とし、前週と比較して総合ポイントが一定割合伸びた書籍を抽出する、大きく注目度が上がった作品のみをランキング化した急上昇チャート

 

<本と読者をつなぐ、新しいインフラとして>

 音楽の「聴かれ方」と本の「読まれ方」を同じ考え方で捉えることで、生活者の中にある「聴く」と「読む」を、連続した体験として設計できるようになります。音楽との出会いが本へとつながる。そんな導線を、偶然ではなく、意図を持ってつくることも可能になることでしょう。

 国内では、リアル書店、EC、電子書籍、図書館がつながるエコシステムの中で、書店が再びIPのハブとして機能する環境づくりが期待されます。さらに、アニメや音楽を起点に世界へ広がる日本発IPに、書籍という軸を加えることで、海外展開を見据えた新たな可能性も拓けてきます。

 音楽と連動するグローバルメディアであるビルボードのネットワークを活かし、「音楽と本をセットで届ける」新しいモデルを構築する余地も見えてきています。

 「ヒットチャートは楽しい。」JAPAN Hot 100を始めたときにこのフレーズを掲げました。これは音楽だけではなく、本でも同じです。ユーザーの方々と共に、この全く新しいブックチャートを楽しみながら育てていきたいと思います。

<インタビュー・シリーズ【WITH BOOKS】 >
■「作り手・読み物・送り手の“三方”にメリットのあるデータに期待」――株式会社ローソンエンタテインメント 瓜生英司

■吉澤要人(原因は自分にある。)が「人生の指針」になる本への想いと、本との新たな出会いを語る

■水野良樹(いきものがかり)が語る、本が与えてくれる“受け取り手”への向き合い方のヒント

■“Billboard JAPAN Book Charts”で日本の出版物を世界へ――日本出版販売株式会社 沼田大輔

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