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<インタビュー>6年越しで掴んだ初の1位──歌コレ2025秋“二冠”の結城碧が語る、作品づくりへのこだわり

Interview & Text:曽我美なつめ
約半年に一度の期間で開催される、歌い手の祭典『歌ってみた Collection』(歌コレ)。長年シーンを牽引するベテランからデビュー数か月の新星まで、大勢の「歌ってみた」文化を愛する人々が一堂に会する機会として、イベントは回を追うごとに大きな盛り上がりを見せている。
直近も、単独実施としては第9回となる歌コレ2026春が3月5日(木)~9日(月)に開催。その中で今回は歌コレ初回から“皆勤賞”で参加し続け、前回2025秋開催では「熱異常」で悲願のTOP100ランキング初優勝を果たした歌い手・結城碧に、歌コレというイベントにまつわるインタビューを行った。
これまでにも歌い手活動のみならず多彩なコンテンツへの歌唱ゲスト参加や、昨年は新たに声優活動も開始するなど、様々な表現の拡張を試みるような動きも見せる結城碧。前回はグループランキングでもユニット・×××WANTED×××による「脱法ロック」が優勝を果たし、実質の二冠を獲得した勢いのまま、アーティスト・結城碧として本格活動を始めることも明らかにした。そんな彼は前回の歌コレ2025秋にどのような心持ちで臨み、大きな栄冠の先にどんな景色を見たのか。歌い手としてのこれまでの歩みと共に、現在のありのままの心境を語ってもらった。
ぐるたみん、まふまふ、un:c…高音男性ボーカルの系譜に憧れて
――まずは結城さんの歌い手活動や、音楽遍歴について訊かせてください。歌や音楽が好きになった原点はどういったものでしたか。
結城碧:小学1年生の時に音楽会的な学校行事で初めて人前で歌を歌ったんですが、それがすごく楽しかったのが最初だったと思います。そこから音楽や歌を好きになり、その後小学3年生の頃に歌い手文化を知って、それ以来「歌ってみた」にどっぷりハマって。何かのきっかけでニコニコ動画で見た、ぐるたみんさんの「only my railgun」に衝撃を受けたのが「歌ってみた」の入口でしたね。
――当時、「自分も歌い手をやりたい」と思いました?
結城碧:いや、自分ができるって発想は全然なくて。当時自分にとって、歌い手さんってメジャーアーティストと全然遜色ない感覚で。憧れや夢の対象というか、手の届かない存在だと思ってました。

▲ぐるたみん「only my railgun(fripSide)」
――歌い手デビューが2019年なので、かなり長い間一リスナーとして「歌ってみた」を楽しんでいたんですね。他にはどんな歌い手さんが好きだったんです?
結城碧:まふまふさんやun:cさんとか、高音の男性ボーカルの方を好んでよく聴いていました。中学に上がってからは邦ロックにもハマって、UVERworldやSUPER BEAVERが好きでしたね。今もよく聴いてます。同時にその頃バンドにも興味が湧いて、中学~高校は軽音部でいろんなバンドをコピーしていました。ただ当時は人前で歌えるレベルじゃないと思っていたので、担当もボーカルではなくベースでした。
――そこから、歌い手を始めようと思った具体的なきっかけは何だったんでしょう。
結城碧:2019年12月の初投稿動画は、大学受験の合格が決まった直後に出したものなんです。バンドをしながらもニコニコ動画や「歌ってみた」にはずっと触れていて、その中で「歌い手やってみたいな」という気持ちが徐々に大きくなっていって。ただ当時はやっぱり受験勉強第一だったので、「これが終わったら歌い手活動をしよう」とずっと考えてたんですよ。
――そうしてデビューから今に至るわけですが、自身の「歌ってみた」で意識している事などはありますか?
結城碧:本家動画へのリスペクトはもちろんですが、併せて自分の解釈、自分なりの要素をどの作品にも必ず少し加える事は意識してます。

▲結城碧「熱異常(いよわ)」
――前回の歌コレ2025秋で優勝された「熱異常」は、まさしくそのオリジナリティも多々感じられる作品でした。一方で歌い手活動の中では、苦労や大変さも当然あるかと思うのですが。
結城碧:活動を始めた当初は好きな歌を気楽に歌ってたんですけど、最近は「しっかり作らなきゃいけない」という自我も芽生えてきましたね。「熱異常」もでしたが、自分の投稿を楽しみにしてくれている人が目に見えて増えた実感はあって。その分気合いを入れた作品を作ろうとすると、当然自分1人じゃ作れないものも出てくるんです。「熱異常」の歌ってみたも映像やアレンジをチームで制作したんですが、複数人での作業の中で連携を取る難しさなんかも最近は感じています。
――その際に、結城さんご自身が具体的に心掛けていることはあります?
結城碧:自分が間違ってるな、と思ったらすぐ謝ります。コミュニケーションの基礎の基礎ですけどね(笑)。制作チームは当然みんな対等な関係性ですが、どうしても動画投稿時は自分が矢面に立つので、なんとなく僕が制作を先導する形にはなるんです。ただ実際、作業量のメインになるのは動画制作スタッフやアレンジャーさんなので、そこは絶対勘違いしないように、同じクリエイターとして対等な配慮と敬意を持って進めていますね。
――重ねて活動の中で、結城さんが一番楽しい瞬間はいつですか。
結城碧:やっぱり音源、映像も含めて作品がすべて完成した瞬間ですね。普段からそうなんですが、言うならば投稿する前に完成した時点で自分の中ではもう完結しちゃってるというか。
――変な話、投稿後の再生数や反応はあまり気にしない派です?
結城碧:もちろん反応があれば嬉しいし、エゴサもするんですけど。一番の目的は、自分がこの曲を歌っている音源を聴きたいから歌ってる。完成動画を見た時点でもう満足しちゃうんですよね。気づけばもう6~7年ほど活動してますが、再生数がずっとゼロでもたぶん同じペースで投稿してたと思います。
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第1回からの皆勤賞、参加5年目で初のTOP100部門の頂点へ
――その中で歌コレへ初参加したのは、ボカコレ併催だった2020年冬の第1回とのことで。イベントを知ったきっかけは覚えてますか?
結城碧:元々歌い手を始めた時から活動の拠点はニコニコ動画中心と決めていたので、ニコニコにもずっと張り付いていました。そこでボカコレの開催を知って、その中に「歌ってみた部門」なるものもあるらしい、と。「ニコニコが盛り上がるんなら参加しなきゃ」と思って参加しましたね。祭りがあるなら乗っかっておこう、と。
――TOP100ランキングのみならず、これまでグループランキングにも複数回参加されていますよね。やはり部門の違いによる心境・醍醐味の違いもあるんでしょうか。
結城碧: TOP100は毎回いい意味でバチバチというか、結構熾烈な戦いという感覚なんですけど、グループランキングは本当にお祭り感が強くて。みんなで楽しんでる雰囲気をすごく感じますね。

▲結城碧「アンノウン・マザーグース(wowaka)」
――過去には2024年秋開催時に、「アンノウン・マザーグース」でTOP100ランキング2位という好成績も残されました。個人戦は順位・数字の面で熾烈さがあるとの事ですが、そうなるとこの結果はかなり悔しかったのでは?
結城碧:実はこの時優勝したつきみぐー、くんとは友人で。個人的には悔しさより、この2位で「もうこれで最終回でいいかも」と思うぐらい充実してたんです。「あ、これ引き際としてちょうどいいな」って。でもリスナーさんたちは「次こそ1位取ってください」って言ってくれたり、動画の制作チームもみんな「次は1位取ろうよ」と言ってくれて。そこから、「確かにこのまま2位で終わるのもな」という気持ちが自分にも芽生えました。
――結城さんの順位・結果が、結城さんだけのものではないと感じられたんですね。
結城碧:あとは、今後もただの歌い手でいるか、それともシンガーとしてオリジナル曲でも活動したいかと問われた時に、「どちらもやりたい」という思いがあって。より活動の幅を広げたいと考えた時に、2位で終わるのは確かに少しもったいないと思ったんです。ちゃんと箔を付けたかったというか。 今回1位を取った時に、自分の公式サイト設立と1stアルバムの制作を発表したんですが、実はこれも叶わなかったら多分発表してないです。なので新しいステージへの第一歩として、歌コレ1位を絶対に取りたかったのが本音です。そのぶん今までで一番気合いを入れた作品という自負もあったし、動画が完成した時には「これは1位とったな」と思ったし。そんな自信の裏で、1stアルバムや諸々の発表準備をこっそり進めていた、という感じでした。
――ある意味で絶対に負けられない戦いだった、と。「熱異常」はいつ頃から制作に着手したんですか?
結城碧:企画自体はそれこそ、「アンノウン・マザーグース」で2位を取った直後だったと思います。コーラスアレンジ担当のLilyさんから「1位取るなら『熱異常』しかないです」って言われたんですよ。ただ「熱異常」は元々、僕自身は“歌う曲”じゃないと思ってて。この曲は、足立レイという特殊な出自の子が歌うからこその音楽だと思っていた。自分がこの歌を歌うビジョンが見えなくて、その点では自分一人なら絶対に歌わなかった曲ですね。
――具体的にどんな理由でこの曲を勧められたか覚えてます?
結城碧:原曲自体のボーカルが比較的シンプルな構成なので、コーラスアレンジを加えたらかなり映えるという点がひとつ。一方で曲自体の持つ世界観はかなり壮大なので、同じように壮大かつ重層的なコーラスアレンジをしても浮かないだろう、という点もありました。「熱異常」はすごくストーリー性の高い終末的な世界観の曲だと思うんですが、Lilyさんも元々死生観のムードが漂うコーラスアレンジが強みですし、プラス僕の声質の無機質な響きともマッチするかな、と。あと歌い手・結城碧には難しい曲を歌う印象もあると思ってたので(笑)、その辺りも含めてもうこれしかない、という感じでしたね。
なので勧めて頂いた段階から、おそらくLilyさんにも「もしやるならこういう雰囲気で」というイメージがすでにあったんだと思います。アレンジの完成、めっちゃ早かったですから(笑)。普段から作業の早い方ですけど、あの量をこの期間で作ったんだ、っていう。すごい熱の入り方でしたね。
――台詞やコーラス素材もディレクションはLilyさんが手がけられた?
結城碧:そうですね。普段は僕起点でLilyさんにアレンジを相談することも多いですが、今回はLilyさんからの「ここはこう歌ってください」という主導で進めました。当初はシンプルにコーラスが多いだけのアレンジだったんですが、Lilyさんがボカロで作って下さったそのデモ版を聴くだけで満足しちゃうレベルで(笑)。正直な話、「これ僕が歌わなくてもいいんじゃないか」って録音に臨むのが億劫になったりもしたんですよ。
――そこはどのようにマインドを切り替えたんですか?
結城碧:確かに「熱異常」は足立レイの無機質さあってこその曲ですが、歌詞はすごく感情的な内容が綴られてるんですよね。そこに人間が肉声で歌う意味が出てくるのかな、と解釈しました。あとは今回、叫び声や子どもの遊ぶ声のようなSE(サウンドエフェクト)を曲全体に散りばめたんですけど、その素材を録る時やそれに合わせた歌唱表現を考えている時は、自分の声優活動の側面も活かせたのでは、と思います。
――確かに今作は結城さんの歌唱力に加え、台詞なども交えた演技力が強烈にアレンジとして加わっています。内容としては曲の世界観と、実際の制作現場の状況がダブルミーニングになっていますが。制作、かなりギリギリだったんですね……(笑)。
結城碧:全部完パケしたの、投稿の2時間前とかだったんで(笑)。遅刻参加になってた可能性も全然ありましたよ。動画担当の(暁星)ちかげさんは会社の有給まで取って、ほんとギリギリまで作ってくださってて……。ただそんなネタ的な表現も含め、ある意味よりニコニコ動画らしい作品というか、“本気でふざける”ができたのも結果よかったのかな、と。本当に制作チーム皆さんのおかげです(笑)。
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×××WANTED×××は「誰が一番面白い事をやるか」を争うライバル
――重ねて歌コレ2025秋ではグループランキングの「脱法ロック」も優勝し、実質の二冠となりました。×××WANTED×××の歌コレ登場は二度目ですが、こちらの参加経緯もお伺いできますか。
結城碧:実は元々、「1位取ったら次もやろうか」という話を冗談でしていて。そしたら本当に「新人類」が1位を取っちゃったので、次もやるしかないな、となった形です。あとこれは言っていいかわからないんですけど……前回も優勝してしまったので、今は第三弾の企画も水面下で進んでいます(笑)。
――「脱法ロック」を選んだ経緯や、新メンバー・神谷玲さんの加入理由もぜひ教えて下さい。
結城碧:曲については、僕らの雰囲気的にやっぱりワイワイできる曲が合うよね、という話と、前回「新人類」の冒頭にあったMqki.くんのがなりフレーズをもう一回やりたいという話から「脱法ロック」しかないな、となりました。神谷さんは結成のきっかけだったライブにたまたまいなかっただけというか。メンバーとも元々面識があったし、みんな入れたいなって思ってたんですよ。実質的なリーダーのぐるたみんさんが神谷さんとのライブ共演時に「一緒にやろうよ」って誘ってくれてて、気づいたら参加してましたね(笑)。

▲×××WANTED×××「脱法ロック(Neru)」
――あれだけ個性の強い面々が揃っているので、制作中も何かしら面白いエピソードが絶対あったのでは、と思うのですが(笑)。
結城碧:音源自体はすぐできたんですけど、映像が本当に大変で……(笑)。イラストも全員で書いたんですけど、当初はとりあえず思い思いのイラストを描いてそれを動画にしたら「脱法ロック」になるんじゃないかって話だったんです。けどあまりにもフリーダムな絵ばっかりで、動画担当の◯◯-まるまる-さんが「どうしたらいいかわかんない……」って頭抱えちゃって。しかもそれが公開の2日前とかだったんですよ。「本当すみません、実は何もできてなくて……」となり、さあどうしようか、と(笑)。急遽主に吉沢ぽわくんとMqki.くんがずっと◯◯-まるまる-さんと通話しつつ、「ここはこうしたらどう?」って指示やアイデアを出してくれて、素材も増やしながらどうにか完成させたという感じです。イラストを描いた僕たちもさすがに好き勝手やりすぎたな、という反省も込みですね、これは(笑)。
――音源自体は難なくできたとのことですが、その中でも結城さんご自身で工夫した部分や、大勢での合唱で留意した点はありましたか。
結城碧:みんな声の癖が強いので、その中に埋もれないよう「俺もいるぞ」という自己主張をなるべく頑張りました。遠慮したら負けなので(笑)。×××WANTED×××は仲間というより、みんなライバルというか。チームとして纏まるわけではなく、全員が「誰よりも面白い事やったろ」って感じですね。そういう意味ではまとまってるのかな(笑)。
――今回の歌コレも、「1位を取りたい」という思いは皆さんあったんです?
結城碧:もちろん取りたいとは思っていましたけど、前回のこともあるし、さすがに今回は無理じゃない?とも思ってて。「脱法ロック」は結局、イベント開始から少し遅れて投稿したんです。そしたら新メンバーの神谷さんとそのリスナーさんがすごい頑張ってくれて、「ここから巻き返して1位取ろうぜ」と盛り上げてくれて。イベント期間中もずっとみんなで毎時ランキング見ながら「おっ、1位じゃん!」「あー、(1位から)落ちちゃった」ってやりとりしてたんです。中間発表辺りで「これ本当に1位取れるんじゃ?」となってからは、もうほぼ寝ずにずっと動向を追ってましたね。僕はTOP100も気が気じゃない状態だったので(笑)、×××WANTED×××の方はかなりみんなに任せきりになってたんですが。
――冒頭のお話の裏事情がありましたもんね……(笑)。総じてかなりハラハラした歌コレだったかと思いますが、結果、二冠を獲った感想はいかがでしたか。
結城碧:マジで実感はないです(笑)。でもイベント後にいろんな所へ顔を出した時に、「1位おめでとう!」とか「あれすごかったね」って大勢から声をかけてもらえて。すごく嬉しい一方で、次はどうしようかな、とも同時に思ってます。ここをゴールにしちゃったら、僕は今後どう歌コレを楽しめばいいのかな、と。一旦目標を見失ってる感はあるんですけど、歌コレというイベントが続く限りは何かしらの形で関わりたいと思ってます。
――次回以降、歌コレに関してはまた新たな目標を模索する形になりますね。重ねて、歌い手としての今後の目標・展望についてはいかがでしょう。
結城碧:一応、2026年4月に1stアルバム発売の予定で今は動いてます。できればそのまま、ニコニコ超会議にも出展したいと思ってて。その辺も含め、今後の動向は引き続きSNSや公式サイトから気にかけてもらえると嬉しいですね。
――ありがとうございます。ちなみに、現時点の心境としてはどうですか? 次回の歌コレ参加に関しては。先ほどのお話から、グループランキングには再度エントリー予定かと思うのですが……。
結城碧:TOP100ランキングにも、もう1回ちゃんと挑もうと思ってます。今回みたいな強烈なものではないけど、僕にとって歌い手活動のひとつの集大成を出したいと考えていて。ずっと歌いたかった、自分にとってすごく大切な曲で一歌い手として参加する予定です。何の曲かは、ぜひイベント当日まで楽しみにしてもらえたら。
――承知しました。そうしましたら次回の歌コレ開催を楽しみにしているみなさんへ、改めてメッセージをいただけますか。
結城碧:歌コレはイベントの性質上どうしてもランキングに目が行きがちですが、どの歌い手も毎回、自分の全身全霊の思いを込めて1曲1曲投稿してると思います。なので、どの歌にも同じ重さの思いがあるものとして、たくさんの作品を楽しんで聴いてほしいですね。
――ありがとうございました。最後に訊かせてください。歌い手・結城碧にとっての「歌コレ」とは。
結城碧:ランキング戦というよりは“発表会”だと思います。自分の今までの活動の粋を集めた、渾身の自信作を見てもらう場。新人ベテラン関係なく、「歌ってみた」を愛する人たちがここには溢れている。いろんな課題もありますが、愛のある楽しい場所・期間として、今後もできる限り末永くイベントが続いてほしいです。


























