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<レポート>ロメオ・サントス×プリンス・ロイス、米NYの2万人規模アリーナ・リスニング・パーティで描いた“バチャータ新章”

インタビューバナー

Photo: ERNIE (@ernd0gz)

 長年ラテン・ミュージック界で熱望されていたコラボレーションが、ついに現実となった。米ビルボードが21世紀を代表するラテン・アーティスト8位に選んだ人気バチャータ・グループ、アベンチュラのリード・ボーカルで、現在ソロとして活躍するロメオ・サントスと同ジャンルのプリンスことプリンス・ロイスが初めてタッグを組み、ジョイント・アルバム『Better Late Than Never』を2025年11月28日にリリースしたのだ。

 ロメオとロイスはプロジェクトを完全に秘密裏に進め、事前のシングルもなくファンを驚かせた。アルバムにはロメオ作曲の未発表曲13曲が収録され、そのうち4曲にはロイスも参加。ロメオが総合プロデュースを務め、伝統的なバチャータの編曲に現代的サウンドを融合させ、R&Bやアーバンビートを取り入れた新しい響きを生み出している。

 今作のリリースに先立って、2人は、現地時間11月26日に2万人を収容する米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで招待制のリスニング・パーティを開催。業界関係者、クリエイター、熱心なファン、メディアが一堂に会したこの夜は、まさにバチャータとラテン文化の祝祭と呼ぶにふさわしかった。

 ステージはまるでニューヨークの街並みを切り取ったかのようだった。吊り橋、アパート、アルバム告知ポスターが掲示された地下鉄の入り口、車両の実寸大モデル、ニューススタンドに設置されたラップトップとターンテーブルなど、都市の息吹を感じさせる大掛かりなセットが、観客を物語の世界へ引き込んだ。


 なぜニューヨークなのか。その答えは明快だ。ラテン系である彼らの出身地であるニューヨークはドミニカ系移民コミュニティがバチャータを“国境を越える言語”に昇華させた場所であり、ローカルな恋愛歌が世界的なジャンルへ飛躍した起点でもある。さらに、ロメオにとって2012年に自身初のライブ作品『The King Stays King: Sold Out at Madison Square Garden』を録音した思い入れのある会場でもある。リリース前の楽曲を数万人のファンとメディアにお披露目するには、これ以上にないふさわしい舞台だった。

 午後10時を回ると照明が落ち、歓声がフロアを震わせる。数名のニューヨーカーが電車から降り、地下鉄の入口の中へ入っていくと、トレンチコート姿のロメオがステージに現れる。スマートフォンに向かって、「遅いよ!早く来いよ」と話すと、プリンス・ロイスが急ぎ足で地下鉄の入り口から登場。ロメオは、「こんばんは、ニューヨーク・シティ!」とスペイン語で挨拶し、「どこから来たの?」と観客に問いかける。コロンビア、エクアドル、ペルー、プエルトリコ、キューバ、ドミニカ共和国と出身地が次々に挙げられ、アリーナは即座に多文化的共同体へと変貌した。

 このリスニング・パーティの魅力は、観客がまだ聴いたことのない楽曲にいち早く触れられることだ。さらに2人が曲ごとに背景や歌詞の意味を語り、口ずさみながら観客と共有する貴重な体験となった。

 「この曲は女性たちのあらゆる側面を……とても尊敬を込めて描いてるんだ」と語った女性の多面性を描写した「Lokita Por Mí」では、愛情と狂気が交錯する複雑な感情をユーモアとともに表現。“You are my crazy bitch”という挑発的なフレーズに、観客は笑いながら反応し、バチャータが持つ“甘さ”と“毒”のバランスを完璧に操っていた。

 続いて紹介されたのは、R&Bとレゲトン・ビートを融合させた「Jezebel」。ストーリー性の高い歌詞を、まるで短編映画のセリフのように語り始め、「妻の携帯に聞き覚えのない着信音が鳴り、それが愛人からだったら……?」という言葉に会場はどよめき、やがてその危険なストーリーにのめり込んでいった。プリンス・ロイスの浮遊感ある歌声によって、さらに曲の情熱的世界が際立っていた。

 「Celeste」では、天空の青を意味するタイトルの通り、理想的な女性を天上的な美しさに例えていると説明。透明感のある旋律と相まって、観客は息を呑んで耳を傾けた。また、カリブ海とそのリズムを称えた「Ay! San Miguel!」では、迷信や呪術にまつわるユーモラスな話を交え、「迷信深いおばさんっているだろ?“元カノがあなたにブジュリア(呪術)をかけてるわよ”とか言う」「信じないけど、なんか呪われた気がするときがあるんだよね」と笑いを誘った。続く、「Encerrados」では、壊れかけた恋愛の緊迫感を性と欲望の象徴で描かれた。

 ステージ上を自由に動き回る2人は客席にキスを飛ばしたり、男性客をいじったりとファンとアーティストの間で自然な交流が生まれるなど、リスニング・パーティの枠を超え、まるでコミュニティ・家族の集まりのような温かい空間が流れる瞬間もあった。ロメオが、「今週は(感謝祭だから)感謝する週。良い友達がいること、素敵なパートナーがいることに感謝しなきゃ。でも、本当に忘れちゃいけないのは、自分たちがラティーノである誇りだ」と語ると、観客は大きくうなずき、拍手が鳴り続けた。

 終盤、ロメオが、「せっかくだから、みんなが知ってる曲もやろうか?」とつぶやくと、会場は黄色い歓声に包まれる。「El Amor que Perdimos」「Corazón Sin Cara」「Obsesión」など、2000年代から現在までバチャータの歴史を塗り替えてきた名曲が次々に投下されたが決してノスタルジックではなく、“過去があるからこそ、未来がある”という、2人からのメッセージのようでもあった。最後、観客のシンガロングに合わせて、肩を組んだ2人の満面の笑みは忘れることができない。

 なお、全13曲が収録されたアルバム『Better Late Than Never』の唯一のコラボレーション曲「Menor」にはドミニカの新星ダルビン・ラ・メロディアがフィーチャーされ、3世代のバチャータ・ファンを繋ぐ架け橋となっている。伝統と現代的サウンドの融合、スペイン語と英語を行き来する歌詞、ニューヨークという舞台、すべてがジャンルの進化と文化的継承を同時に示しているのだ。

 バチャータを“進化するジャンル”として提示し直したロメオ・サントスとプリンス・ロイス。さらにはリリース前の作品をファンと生で共有するという手法で、新章の幕開けを飾ったのが、このマディソン・スクエア・ガーデンでのリスニング・パーティだった。ロメオの「台本なんてない。全部即興だよ」という冒頭の宣言が象徴していたように、この夜のパフォーマンスはすべて“ありのまま”。アリーナ規模でありながら、トークもパフォーマンスも、まるで友人のホーム・パーティに紛れ込んだかのような近さで繰り広げられた。リスニング・パーティという枠を完全に越え、ラティーノ文化への讃歌であり、2人の兄弟のような絆を証明するような一夜だった。

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