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<わたしたちと音楽 Vol. 68>門上由佳(読売テレビプロデューサー) 音楽が社会と人をつなぐ、【Grooving Night】が描く優しさの形

米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、音楽・社会・人をつなぐイベント【Grooving Night】を主宰する、読売テレビのイベントプロデューサー・門上由佳。11月30日にビルボードライブ大阪で開催される公演を前に、イベント立ち上げの背景から、社会課題と向き合う現場のリアル、そしてこれから挑戦したいことを語った。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]、Photo:Mikito Hyakuno)
「いつか必ず一緒に仕事がしたい」
【Grooving Night】誕生の物語

――11月30日にビルボードライブ大阪で【Grooving Night Premium in Billboard Live OSAKA】が開催されます。まずは立ち上げのきっかけから教えてください。
門上由佳:今回はホストにSIRUPさん、ゲストにLeinaさんをお迎えします。【Grooving Night】の企画の原点は、私がコロナ禍にSIRUPさんの発信に出会ったことなんです。成人式ができなかった若い世代に寄り添い、社会に向けて、X(旧Twitter)で「自分たちが成人式をできた事実を忘れず、できなかった人がいることを覚えていよう」と綴っていて。その視点と優しさに心を動かされました
さらにコロナ禍、SIRUPさんがホテルシェルターと医療機関の連携資金にご自身の売上の一部を寄付したという記事を読み、言葉だけでなく行動に踏み出す姿勢に強く惹かれました。「いつか必ず一緒に仕事がしたい」と思い、2021年、ライブのバックステージでご本人に「時間がかかっても対話を重ねさせてください」とお伝えしたのが始まりです。以降、各地のライブに足を運び、会うたびに少しずつ会話を重ねて、現在の【Grooving Night】があるんです。
――SIRUPさんの活動が、門上さんを突き動かしたんですね。そもそもテレビ局のプロデューサーである門上さんが、なぜライブの企画に踏み込んだのでしょう?
門上:もともと中学からバンドでライブ活動をしていて、“生の音が鳴る空間”が大好きでした。2013年に入社したあとは、番組制作で経験を積みつつ、社内のエレベーターで野外ロックイベント【RUSH BALL】のポスターを見かけ、「読売テレビがこんなイベントに関わっているのか」と事業局に話を聞きに行ったんです。
2018年、どうしても現場を経験したくて「何でもするので手伝わせてください」と頼み込み、3日間【RUSH BALL】バックヤードに入れてもらいました。FM802のDJの方やコンサートプロモーター、ライブハウスの方、プレイガイドのスタッフ……多様な人が連帯して動く現場に、「これまで自分の生きてきた場所に近い」と直感しました。
その後、有志ディレクターと連帯して社内に企画書を提出したりしながら、2020年に新設部署に声をかけていただいて。音楽イベントを担うようになり、今のプロデューサー職に至ります。
やってみないと何も分からない
社会課題と向き合う現場

――【Grooving Night】では、ライブだけでなくトーク&セッションでさまざまな課題を扱っていらっしゃいます。社会課題をライブで扱う難しさや、伝え方のトーンで大切にしていることは?
門上:対立や分断を生まないこと。議論と喧嘩は違います。できる限り前向きに連帯し、ポジティブな語り口を心がけています。
最初の頃は特に、本当に慎重に進めていました。第1回のトークテーマは“あなたはどんなときに怒る?”。SIRUPさんが「男性は泣いてはいけない、大人は泣いてはいけない、なんてことはない」と語ってくれたのが印象的でした。
第2回を終えたとき、SIRUPさんが「話すだけでなく具体的な行動を起こしたいよね」と。そこで第3回から、一般社団法人日本障害者舞台芸術協働機構の南部充央さんとの対話を通じた視聴覚障害鑑賞サポートの試験導入、LGBTQ+支援としてプライドセンター大阪のブース出展を始めました。
――実際に始めてみて、どんな気づきがありましたか?
門上:最初の一歩は怖かったです。知識不足で誰かを傷つけてしまわないか、と。でもやってみないと何も分からない。その後も実施後のアンケートの声を反映し、車椅子の方が確実に購入・着席できる“ユニバーサルシート”を設けるなど改善を続けています。掲示物や導線、オールジェンダートイレ表記の在り方も、当事者の声を聞きながら更新してきました。
声を上げるためには
まずは身近な人から

――社会について声を上げることに勇気が出ない人も多いと思うのですが、何から始めれば良いでしょう。
門上:まずは“信頼できる1人”に話してみること。そして、ある程度の権限があり、解決策を一緒に考えてくれる人に持っていくのが大事だと思います。
私自身、メディアにいても「無力だ」と感じる瞬間がありました。だからこそ、自分が統括できる場を作った。自分にとって安心できる場所ができたから、コンテンツを通じてジェンダー環境の改善などについて声を上げられるようになった。要は“誰に持っていくか”が鍵でした。幸運にも、私の上司(女性センター長)は、私のため、コンテンツのため、会社のために本気で叱り、話を必ず聞いてくれる人。ロールモデルの存在は心理的安全そのものだと実感しています
――女性がより活躍するために必要だと思うことは?
門上:決定権のある場所にダイバーシティがあること。ここが最重要です。ボトムアップだけでは限界がある。決定権のあるところに多様性が生まれて初めて、声の通り方や心理的安全が変わります。私の職場でも女性管理職が少しずつ増え、変化の兆しを感じます。“叱られても話が聞いてもらえる”組織体験は、個人の成長を後押しします。
誰かの人生に良い影響を与えられる発信か
これからの挑戦

――人生を通して、“女性であること”をどう感じていますか?
門上:メイクやファッションが大好きなので、女性として生まれたこと自体は嬉しいです。一方、キャリアでは「いつ休むか」「何歳までに何を作るか」など計画を強く意識してきました。母は服飾デザイナーでしたが、私たちを育てるために一度仕事を辞めたと聞いています。もし続けていたら……と考えると、個人の選択を狭める社会構造が確かにあったと感じます。だからこそ歴史を学び、今の立場で誰かの人生に良い影響を与える発信ができるかを考え続けたいと思っています。
――今後、挑戦したいことは?
門上:まずは11月30日のビルボードライブ大阪公演を成功させること。飲食も楽しめるラグジュアリーな空間でのアコースティック編成は、自分にとっても挑戦です。規模によってできること・できないことはありますが、鑑賞サポートやLGBTQ+支援は形を変えても継続したい。
将来的にはビルボードライブの東京や横浜はもちろん、さらに名古屋、広島、北海道、福岡など各地でも開催できればいいですね。アンケートでも開催要望が多いんです。でもそれは、自分たちだけではできないので、現地のパートナーと連帯しながら、“誰もが安心して楽しめるライブ”を増やしていきたい。それが、草の根的に"安心して生きられる場所"を広げることにつながると信じています。

プロフィール
読売テレビ放送株式会社 コンテンツ戦略局イベントビジネスセンター、プロデューサー。2013年入社。制作局でディレクターとしてバラエティ番組や音楽番組に携わる。2020年、新設されたビジネスプロデュース局イベントビジネスセンターに異動。現在、音楽イベント【Grooving Night】や【KOBE MELLOW CRUISE】を立ち上げ、【RUSH BALL】【OTODAMA~音泉魂~】など共催するプロデューサーとして活動中。
公演情報
【Grooving Night Premium in Billboard Live OSAKA】
2025年11月30日(日)ビルボードライブ大阪
HOST ARTIST:SIRUP
GUEST ARTIST:Leina
1st stage open 15:30 start 16:30 / 2nd stage open 19:00 start 20:00
https://groovingnight.jp/




























