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<インタビュー>はっぴいえんど解散後、単独渡米し制作――盟友・南佳孝が迫る、発表50周年を迎えた鈴木茂の名盤『BAND WAGON』制作秘話

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 毎週水曜の18〜19時、FM COCOLOでオンエアされている人気プログラム『NIGHT AND DAY』。シティポップスの名手として名高い南佳孝をナビゲーターに、彼のナチュラルな表情や、音楽ルーツに迫る楽曲を交えた濃密な1時間だ。去る11月5日には、ゲストに鈴木茂が登場。1975年に発表した1stアルバム『BAND WAGON』の制作秘話などが飛び出した、貴重なトークをお届けしよう。

鈴木が南へラブコールを送った「ソバカスのある少女」

南佳孝:今夜のゲストは鈴木茂くんをお迎えしております。(先だってオンエアした「LADY PINK PANTHER」について)いやぁ、本当にいい曲ですね。

鈴木茂:ありがとうございます。

:2ndアルバム『LAGOON』に収録されていますが、それを制作するタイミングで書いた曲なんでしょうか?

鈴木:そうですね。(1stアルバムの)『BAND WAGON』を作ったあとに、“レイドバック”といって、世の中がゆったりとした時間の流れを好むようになって。僕自身は『BAND WAGON』のような少しハードなサウンドを鳴らしていたんだけど、そこからガラッと変わって、もっとゆったりした曲を作っていきたいなと思ってね。



:なるほど。

鈴木:あの頃よく聴いていたのは、ポール・サイモンのStill Crazy…。

:Still Crazy…♪(ご機嫌に歌い出す)

南&鈴木:(二人で)After All These Years~♪(笑)。

鈴木:ふふふ(笑)。とか、ニック・デカロ、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジョアン・ジルベルトとか。そういった空気の中で『LAGOON』を作りました。

:そんな茂くんと僕の出会いというのは、「こんな曲ができたから佳孝くんが歌ってくれたらうれしいんだけど。ちょっとボサノヴァっぽいんだ」なんて声をかけてもらったことから始まって。それがティン・パン・アレーの「ソバカスのある少女」。当時はボサノヴァにハマっていたんですか?

鈴木:ボサノヴァもよく聴いてました。僕よりもさらにボサノヴァ好きの友人がいて、彼が遊びに来た時に、ジョアン・ジルベルトの曲を弾いてたんですよ。そのコード進行がすごく気持ちよくて。彼が帰ったあとも弾いていたら、1カ所だけ気になるコードがあって。それを探っていくうちに「ソバカスのある少女」のメロディができたんですよね。



:「ソバカスのある少女」はすごくよく完成度が高い曲。「LADY PINK PANTHER」も、あの時代にこのコード進行を使うか!?なんて(笑)。繰り返すところもちょっと変化を加えたり、コード進行も面白いんです。

ソロとしてスタートを切った『BAND WAGON』への道のり

:『BAND WAGON』〜『LAGOON』の頃は、はっぴいえんどを離れた茂くんが、一人でリードギター&リードシンガー、そしてシンガーソングライターとして一歩踏み出した時期で。『BAND WAGON』はすごくインパクトのある作品でしたね。

鈴木:はっぴいえんどが解散した後、細野(晴臣)さんや大瀧(詠一)さんもソロ・アルバムを作っていたり。これは僕も何か作らないといけないなと。じゃあどういうものを作ろうかと思ったときに、高校時代にハマっていたイギリスのロックバンド…プロコル・ハルムやトラフィック、クリーム、そして一番感激したのはジミ・ヘンドリックスだったんだけど、そういった高校生の頃の思いを音に残したいと。同時に、当時の音楽シーンはスティーヴィー・ワンダーらの影響で、チョッパー・ベースのスタイル=16ビートの時代に移り変わっていってたんですね。それが60年代の後半ぐらいだったんだけど。そういう高校生の頃のロックを残したいという思いと、制作当時のビートをミックスさせたのが『BAND WAGON』なんです。1974年の春~夏頃にかけて曲を作って、10月にアメリカでレコーディングして。そもそもアメリカに行った理由は、ロックしかできない人と作りたいと思ったからなんですよ。



:へぇ!

鈴木:現地で最初に出会ったベーシストのダグ・ローチが、『BAND WAGON』の影の功労者というか、プロデューサーと言ってもいいくらい。彼がミュージシャンやスタジオを紹介してくれて。

:一人でアメリカに乗り込んでいった中で、頼りになる人がいると助かるよね。

鈴木:本当に。今考えると信じられないけど、カーナビも携帯もない時代に一人でレンタカーを借りて運転して、よくできたなぁと思います。不思議でしょうがない(笑)。

:スタジオを借りたり、みんなにスケジュール伝えたり、ギャラもどうするかとか…(笑)。すごいです!



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ハプニングを乗り越えての名録音

:そんな『BAND WAGON』がリリースされたのは1975年。今年で何と50周年!そもそも、予定していたミュージシャンが手違いで来なかったり、非常にハプニングがあったとか。

鈴木:そうなんです。はっぴいえんどの最後のアルバム『HAPPY END』(1973年)の制作時にお世話になった新興楽譜(現在のシンコーミュージック・エンタテイメント)のロサンゼルス支部で働いていたキャシー・カイザーという女性がいて。彼女が音楽業界に精通していて、はっぴいえんどの時も(リトル・フィートの)ローウェル・ジョージやビル・ペインを紹介してくれてね。で、その彼女を頼って『BAND WAGON』のレコーディングに行ったんですよ。前もって手紙を書いて、「ベースはジェームス・ジェマーソンかチャック・レイニー、ドラマーはジェームス・ギャドソンかジム・ゴードン」ってリクエストを出して。で、空港に着いたら「誰も見つかってない」と(笑)。

:なるほど、すごいですね(笑)!

鈴木:「失敗したな、何もせずに日本に帰るのかな…」とハリウッドの街をさまよっていたら、サンフランシスコから電話があって。キャシーの友人で、同じく新興楽譜の木原さんという女性が、ダグ・ローチを紹介してくれることに。ギターを持ってサンフランシスコまで行きましたね。(ダグの前で弾いて)「いいね、じゃあやろうよ」って言ってくれて。翌日はドラムのグレッグ・エリコの家へ行って、同じように弾いて。オーディションみたいなものでしたね。

:おぉ~!それで、ベース・ドラム・ギターがそろって。

鈴木:2曲レコーディングしました。で、ダグの家で過ごしていたら、(元タワー・オブ・パワーのドラマー)デイヴィッド・ガリバルディが訪ねてきたんです。ダグとバンドをやろうとしていた彼に「僕のレコーディングを手伝ってくれない?」って交渉して。それで「砂の女」と「八月の匂い」を録音できた。サンフランシスコで6曲ぐらい録ったのかな。




『BAND WAGON』50周年を記念した祝宴

:さて、11月13日(木)にビルボードライブ大阪、11月16日(日)にビルボードライブ東京で『「BAND WAGON」発売50周年記念ライブ~Autumn Season~』が控えています。アルバムを全曲やったりするんですか?

鈴木:もちろん!アルバムの順番通りやりますよ。節目の年だし、なるべくオリジナルに近い状態を再現したいなと思っていて。ドラムのキックの位置まで指定しているくらいです。50年前のサウンドに今の音色と僕のアイデアを加えたものもやりたいなと思っています。

:細かく考えているところ、やっぱり茂くんらしいね。バンドのメンバーはどんな人たち?

鈴木:いつも一緒にやっている長谷部徹(Dr)くん、宮田岳(Ba)くん、外崎銀河(Synth)くん。そして、久しぶりに佐藤準(P, Rhodes)くんに、生ピアノの強烈なビート感を出してもらおうとお願いしています。あとは、間に合うかどうか分からないけど、新曲をやりたいなと思ってます。

:おぉ~、それはすごい!

鈴木:曲は出来上がっているんですが、今は詞を考えていて。僕には珍しく、ハッピーバースデーといった感じの曲を。

:いいじゃないですか~!

鈴木:ぜひ聴きに来てほしいですね。

:僕は、12月18日(木)に『南佳孝 & 杉山清貴 Half & Half X’mas Premium Live 2025』と題し、ビルボードライブ大阪でのライブが決まりました。今年は南、鈴木、杉山の3人でもやったよね(3月7・9日開催のI’M A SHOW公演)。

鈴木:すごく面白かったよ。

:来年もまたやりたいよね。それにしてもライブの回数が本当に多いよね。はっぴいえんどの中では一番元気そう!

鈴木:一番年下っていうのもあるけどね(笑)、元気です。

:ますます頑張ってもらいたいと思います。

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