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<コラム>FOMAREがEP『overturn』をリリース 結成10周年を迎えたバンドの集大成となる最新作を紐解く

Text:蜂須賀ちなみ
群馬県高崎発の日本語ロックバンド、FOMAREが最新EP『overturn』を9月24日にリリースした。結成10周年という節目の年に制作された本作は、バンドの新たな到達点を示している。
6月4日に配信リリースされた「サウンドトラック」を含む全5曲で構成された『overturn』は、結成10周年記念ツアー【揉みに揉まれて10周年ツアー】と並行して制作された。バンドの生の熱量を封じ込めた楽曲群から、ライブとスタジオワークの相互作用を感じ取れるだろう。
『overturn』には、ツービートナンバーからエモーショナルなバラードまで多様な楽曲を収録。メロディックパンクをルーツに持ち、ライブバンドとしてのフィジカルを重視すると同時に、歌をしっかり届けることを常に大事にしてきたFOMAREの音楽的アイデンティティが、全体を通して明確に示されている。その上で今作には、akkin、トオミヨウが共同編曲で参加している楽曲も含まれている。従来のバンド内制作を基軸としながらも、新たなクリエイティブ・パートナーシップに挑戦することで、各曲のカラーをより際立たせるアプローチを実現した。
作詞作曲のアマダシンスケ(Vo/Ba)が「日記のような感覚で作詞をしている」と語るように、FOMAREはこれまで等身大の感情表現を武器としてきた。『overturn』では、そうした姿勢をより深化させている。恋愛を入り口に人生そのものを描き、感謝・後悔・希望・不安・愛情といった複数の感情が混在する内面の深い洞察へと到達した。5曲に共通して流れているのは、過去・現在・未来への眼差し。10周年という節目のタイミングで、バンド自身が歩んできた道のりを振り返り、現在を見つめ、未来を考える時期にあることが、楽曲のテーマにも深く反映されている。
EPの1曲目「over」はミディアムナンバー。アマダシンスケのボーカル、第2のメロディ的な役割を担うカマタリョウガのギター、トオミヨウのアレンジによるストリングスが美しく融合している。〈西の空に沈む夕陽を眺める/あなたと生きていたい〉という夕暮れの情景描写も相まって、聴く人のノスタルジーを誘うことだろう。真の出会いとは一時的なものではなく、内面に永続的な変化をもたらすもの。その切なくも温かい感覚を夕陽に重ね合わせた表現が秀逸だ。また、〈どんな感触よりずっと/その手握り締めた時僕は/なんの根拠も無いけれど/強くなれる気がした〉という歌詞は、手を握るという物理的な触覚から「強くなれる」という精神的な変化への飛躍が印象的。理屈を超えた愛の力が体感的に表現されている。楽曲の美しいアレンジと相まって、FOMAREの等身大の感情表現がより洗練されたことを感じさせる一曲だ。
2曲目の「サウンドトラック」は、力強い歌い出しからダイナミックなバンドサウンドへと展開されるアッパーチューンだ。歌詞の文末はほぼ過去形で、青春期の恋愛体験、「あの時こうできていれば」という後悔が歌われている。1サビ直前のブレイクも効果的だ。ハッとするような静寂の直後の〈渡り廊下君を追いかけていた/素直に好きだと言えなかった〉というフレーズは、青春ソングの王道シチュエーションを真正面から歌ったもの。言葉にできなかった当時の想いを、現在の疾走感溢れるバンドサウンドが代弁するかのように、溢れんばかりの感情が音楽に込められている。しかし冒頭で〈ありがとうごめんよ〉と歌われているように、この曲で表現されているのは郷愁や後悔だけではない。〈大人びた風で恥ずかしいけど〉と言いながらも、過去の経験を元に今の自分が形作られていることを認め、肯定するような言葉が並んでいる。青春を俯瞰する視点と、まだ大人になりきれない今の素直な気持ちが絶妙に表現された楽曲だ。
FOMARE「サウンドトラック」Official Music Video
3曲目の「宝物」は、ツービートを基調とした勢い溢れる楽曲だ。豊かなコーラスワークも印象的で、ライブで歌い鳴らすメンバーの姿が容易に想像できる。【揉みに揉まれて10周年ツアー】のファイナル公演ではリリースに先駆けて披露され、大きな盛り上がりが生まれた。楽曲の即効性の高さが証明された瞬間だった。そしてこの曲の歌詞からも、過去・現在・未来への眼差しを感じ取ることができる。現在の愛を歌いながらも、〈砕け散ったカケラも/拾い集め繋げよう〉と過去の経験を糧とし、〈元通りにはしないで/新しい未来を‼〉と希望を込めている。
4曲目の「余韻」は、移ろう感情を楽曲構成そのもので表現した最も技巧的な作品だ。大切な人と過ごし、別れたあとに心に残る“余韻”は、温かさも寂しさも同時にもたらすもの。曲中でテンポやビートを巧みに切り替えることで、ハートウォーミングな日常、幸せを感じている最中によぎる不安、また離れ離れになる寂しさ、離れていても確かに感じられる温もりなどが表現されている。自身の複層的な感情を受け止めながら、〈これが愛なのか〉と気づく主人公の心の軌跡を丁寧に描いた楽曲だ。
最終曲「24/7」は、希望的な楽曲が並ぶEP『overturn』において対照的な位置を占める楽曲だ。〈気が付けばまた夏が過ぎて/あの頃が更に古くなった〉という時の流れへの感慨から始まり、〈君の幸せを喜べない〉という複雑な心境や、〈急な君からの電話鳴り響いてる夜/未来が無いのならもうかけないで欲しい〉という切実な想いが歌われている。ボトムを支える力強いビートと上層で響くシンセのコントラストは引き裂かれるような感情を、間奏のロックなギターソロは抑制されていた心の声を表現しているようだ。楽曲は〈会いたんだ 今度こそは/僕が君の幸せをどうか〉という歌詞とギターフレーズの重なりによる、率直な感情表現とともに幕を閉じる。自らの心の奥底にある脆弱性と孤独感、まだ答えを見つけきれていない人の葛藤を描いたこの楽曲を最後に配置することで、EP全体に感情の振れ幅と深みが与えられている。
先述の通り、『overturn』は【揉みに揉まれて10周年ツアー】と並行して制作された。ツアーファイナルの東京・Spotify O-EAST公演では、FOMAREが敬愛するバンド、MONGOL800とのツーマンライブが実現。FOMAREにとって特別な意味を持つ、音楽的ルーツへの感謝を込めたライブとなった。『overturn』初回生産限定盤に付属するBlu-rayには、【揉みに揉まれて10周年ツアー】全公演に密着した舞台裏やメンバーインタビューを収めたツアードキュメンタリーが収録される。EP本編と併せて楽しむことで、FOMAREの現在を多角的に捉えられるだろう。
結成10周年という節目にリリースされた、FOMAREの表現力の進化を示す『overturn』。過去・現在・未来への眼差しを一貫して描いた5曲は、10年間のバンド活動やメンバーの人生経験から生まれたもの。そこに、外部クリエイターとの共作によって得られた新たな音楽的表現力が見事に融合している。FOMAREが次の10年に向けてさらなる進化を遂げていくことを予感させる作品だ。

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