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<インタビュー>おいしくるメロンパンがメジャーデビュー 新たなフェーズの幕開けとなる10th mini album『bouquet』はバンドのありのままを見せた作品に

Interview:蜂須賀ちなみ
Photo:久保寺美羽
10月1日に10th mini album『bouquet』をリリースした、おいしくるメロンパン。6月29日に開催された日比谷野外音楽堂でのツアーファイナルでメジャーデビューを発表し、記念すべきメジャーデビューアルバムとなった本作は、そんな華やかなタイミングに相反して「今までで一番ニュートラルな作品」とナカシマは言う。シンプルで虚飾のないサウンドに込められた想いとは?
9月29日で結成 10 周年を迎えたおいしくるメロンパン、まだまだ進化し続けるバンドの現在地とともに、3人に語ってもらった。
10枚目にしてすごくプレーンなサウンドの作品ができた
――3ピースバンドって三角形に喩えられると思うんですが、おいしくるメロンパンはどういう三角形だと思いますか?
ナカシマ:わからないな。考えたことなかったですね。
峯岸:まず、三角形をイメージできないです。今イメージしようとしてみても、全然できない。
ナカシマ:「こういう形です」って言っちゃうと、形が決まっちゃいそうで嫌だし。
――「こういうバンドです」というふうにイメージを固定したくない?
ナカシマ:それはあるかもしれないですね。
原:お互いの居場所を常に確認しながら、動き続けながら、その時々のいい形を作り続けているような。
峯岸:結成当初から「こういうフォーマットで」と決めていたわけではなかったし。
ナカシマ:うん。だけど活動を続けていくうちに、おいしくるメロンパンがどういうバンドなのか、自分たちなりに分かってきて。「ここにこだわりたい」という部分が増えていって、それに従っていくうちに、すごく一貫性のあるバンドになっていった。そう考えると、作品が常に軸にあったというか。まず作品が第一にあって、「こういう作品を表現するのに適した形はこれだよね」という感覚だったのかなと思います。だから、どんな三角形を作るかは、僕たちの活動にとってはそんなに重要じゃない。作品を一番大切に考えていたということだと思います。

――10月1日にリリースされた『bouquet』は、10枚目のミニアルバムですね。
ナカシマ:作品を作る時は、積み木のように、これまでの歴史の上にまた新たな曲を積み上げる感覚があって。これまでリリースした楽曲と並べても違和感がないもの、整合性が取れるものをどんどんリリースしていって、あとから振り返った時、自分たちのこだわりが見えるだろうという考え方なんですが、1個前の作品『antique』で集大成的なものを作ることができたというか。自分たちの世界観をしっかりと確立できた手応えがあったんです。
――つまり、「やり遂げたぞ」と思える作品だったと。
ナカシマ:その通りです。だからこそ「次、何でもできるけど、どうしよう?」という気持ちになったんですけど、今作のリード曲「群青逃避行」が完成した時に、「今やりたいこと、伝えたいことはこれなんだろうな」と分かって。
――世界観を確立した先でできること、やりたいことが見えてきたんですね。
ナカシマ:はい。これまでの歴史の上に積み重ねるという考え方は変わらず、「次の作品はどこに置いてもいいな」くらいの感覚で、自由に、新たな“1個目”を置く感覚で作って行きました。
――過去のインタビューでは、完成したアルバムについて、内向き/外向きというベクトルで表現されることが多かったですよね。それで言うと今回は?
ナカシマ:内とか外とか、あんまり考えてなかったです。今までは「前作はこっちだったから、今作は逆へ」と反動のように作ることが多かったんですけど、今回はそういう考えも一旦全部取っ払って、もう一度、“1個目”を置く感覚だったので。だから内も外もない。そういう意味では、今までで一番ニュートラルな作品かもしれない。
原:今ニュートラルという言葉が出ましたけど、僕も、5曲揃った今、「確かにニュートラルだな」と感じていて。
峯岸:その分、こっちも解釈の幅があるというか。今までは「ナカシマの意図をしっかり汲み取らなきゃ」という心構えで作っていたんですけど、今回はもっとライトな気持ちで、感じるままにやってよさそうだなという印象を受けました。
ナカシマ:10枚目にして、すごくプレーンなサウンドの作品ができたなと思っていて。メジャーデビュー=華やかにスタートしたいタイミングだけど、ここ最近で最も音数が少ない作品になった。それは狙ってやった部分もあれば、自然とそうなっていった部分もあるんですけど、ずっと人力にこだわってきたバンドなので、こういう作品にできてよかったなと思いますね。何も纏っていない僕たちの音楽をこのタイミングでまた提示できているという、面白さを感じています。

――何も纏っていない状態に、より自信を持てるようになったという側面もありますか?
ナカシマ:そうですね。1枚目の『thirsty』の頃はバンドを始めたばかりで、何も纏ってなかったと思うんですけど、やっぱり裸は恥ずかしいなということで、どんどん鎧を着るようになって。
――確かにおいしくるメロンパンは、リリースを重ねるにつれて、技巧的になっていった印象があります。
ナカシマ:でも今はムキムキになったから、もう脱いでも大丈夫みたいな(笑)。
原:確かに今作は、ドラムもシンプルなフレーズが多かったです。昔は「複雑怪奇なフレーズを叩こう」「それこそがおいしくるメロンパンだろう」と思っていた時期もあったんですけど、そんなことないんだなと、少しずつ分かってきて。「おいしくるメロンパンの芯はこれまでの9枚でちゃんと確立できた」「フレーズを複雑にせずとも、しっかりカッコいい作品を作れる」という確信があったからこそ、作れた作品だろうなと思います。
峯岸:制作中、「マジで初心だな」と思ったんですよ。アレンジや曲作りが本当に楽しくてですね……『thirsty』を作っていた頃みたいで、すごく嬉しかったんです。
――いいですね。結成当初からのファンは、特にグッとくる作品かも。
峯岸:そうですね。でも俺が一番グッときてます。俺はおいしくるメロンパンの一番長いファンでもあるので。初心に帰るといっても、ここまで9枚作ってきた経験もあるので……僕の中では“ifの世界線の3rdアルバム”なんですよ。
ナカシマ:どういうこと?
峯岸:僕の中で、1st~2ndは繋がってる感じがあって。それこそ何も纏ってない感じだったけど、そのあと、3rdミニアルバム『hameln』というすごく音楽的な作品を作れた。あそこで『hameln』を作る道を選んだから今のおいしくるメロンパンがあると思うし、僕は『hameln』が本当に好きなんです。だけど、「1st~2ndの方向性で3枚目を作っていたら、どうなっていたんだろう?」「こっちのルートの3枚目も聴きたかったな」という気持ちも自分の中にあった。それが今回の『bouquet』で叶った気がするんです。
ナカシマ:なるほど。面白いね、その考え方。
――アルバム制作の突破口になったという「群青逃避行」は、どのように生まれた曲なんですか?
ナカシマ:「初心に立ち返って、おいしくるメロンパンなりの王道のロックを今作ったらどうなるんだろう?」という。「そういう曲を自分が聴いてみたい」という気持ちもあったし、メジャーデビュー発表後初のミニアルバムというタイミングだからこそ、応援してくれているお客さんにこういう曲を届けたいという気持ちもありましたね。
――「群青逃避行」を聴いて、2017年リリースの楽曲「look at the sea」を思い出すリスナーも多いと思います。どちらの曲でもボサノバのリズムが用いられていますが、これは意図的なセルフオマージュですよね?
ナカシマ:そうです。情景をサウンドに落とし込むのが僕の音楽制作の方法の一つなんですけど、海をイメージすると、あの「ズンチャッズンチャッ」というリズムが頭の中で自然と流れるんです。同じ考え方で、今回作った「群青逃避行」にもそのリズムのギターが入ってますね。
――おいしくるメロンパンの王道を更新する楽曲を改めて作ってみて、感じたことはありましたか?
ナカシマ:思い描いている情景はずっと変わらないけど、「随分遠くまで来たな」と思うような……。あの頃は“海”をもっと漠然と描いていたけど、技術や表現力が身についたことで、音楽にいろいろなディテールが追加されて、解像度が上がったような気がします。
――本当に描きたかったものにさらに近づけているような。
ナカシマ:そういう感覚です。この「群青逃避行」がアルバムの一歩目として十分な楽曲になったので、「この曲があるからなんでもできる」「じゃあもっと振り幅を見せようかな」という感じで、バラエティ豊かなミニアルバムになっていったのかなと思います。
おいしくるメロンパン「群青逃避行」Music Video
「おいしくるメロンパンはなんでもできる」という感覚を
ライブを通じて感じてもらえたら

――次にできたのはどの曲ですか?
ナカシマ:デモ自体は、実は他の楽曲の方が先にできてて。「ジャクソン」(※)とか……(※「クリームソーダ」の仮タイトル)
――「ジャクソン」? おいしくるメロンパンらしからぬネーミングですね。
ナカシマ:仮タイトルなので(笑)。元々「アルバムに入れるかどうか分からないけど、とりあえず作ってみた」という感じでいろいろな曲を作っていたんですけど、「群青逃避行」ができたことによって、「これもこれも入れられそう」「入れたいな」というふうに収録曲が決まっていったんです。
――なるほど。そうして完成した『bouquet』には、「誰もが密室にて息をする」のようにバンドのフィジカルを感じさせる曲も、「十七回忌」のように内省的かつたゆたうようなサウンドの曲も収録されています。
ナカシマ:そうですね。「誰もが密室にて息をする」はめちゃめちゃフィジカル。
原:楽器のアンサンブルの面白さが前面に出ているし。演奏していても楽しい曲です。
峯岸:ただただ「カッケー!」と思いながら、家でフレーズを考えた覚えがあります。
――「クリームソーダ」は別れ、「十七回忌」は死を扱った曲ですが、思えば、諦めや受容も含む人間の営みを美しいものとして認めることが、このバンドのテーマになっている気がします。
ナカシマ:そうですね。アングルの違いのような感じで、肯定的な解釈を歌ってる曲もあれば、悲観的な解釈を歌ってる曲もあるけど、ずっと同じことを歌ってるのかなと思います。
――その上で、「十七回忌」の〈君が言うほど悪くないよこの世界〉というフレーズが印象的でした。
ナカシマ:そのフレーズは僕もめちゃめちゃ好きなんですけど……一昨日書いたばかりだから、自分でもまだその言葉を咀嚼できていなくて。確かに「絶対にこの言葉だな」と思いながら書いたんですけど、なぜそう思ったのかは……ちょっとわからないですね。
――この曲に対する自分の解釈は、まだあんまり定まっていない?
ナカシマ:そうですね。この曲は自分を主人公にして……実体験とかではないんですけど、楽曲にしたようなシチュエーションを思い浮かべて「自分だったらどう思うかな」「どういう感情になるだろう」というものを書き起こしていった曲なんです。そうやって書き起こしていったけど、自分でもまだ言葉を咀嚼しきれてはいない。聴いた人に「こういうことなんだろうな」と解釈してもらえたら、その行動自体がこの曲の正解になると思うので、自由に聴いてもらえたら嬉しいですね。

――今作はトイズファクトリーからのリリース。インディーズでの10年間の活動を経て、メジャーデビューですね。
ナカシマ:元々「メジャーに行きたい」という気持ちが強くあったわけではないんですけど、インディーズでやれることはだいぶやったし、いいタイミングで声をかけていただいたので、メジャーレーベルに行くことになりました。
――結成当初から「メジャーデビューするならトイズファクトリーがいい」と話していたそうですね。
ナカシマ:「少数精鋭な感じがいいよね」みたいな話をサラッとしてました。
峯岸:僕は小学校からBUMP OF CHICKENが好きだから、BUMPがいるトイズへの憧れがあったんですけどね。
――環境は大きく変わりましたが、今後はどのように活動していきたいですか?
ナカシマ:「10年後にこういうふうになっていたい」とかは全然なくて。目の前にあること、自分たちのやりたいことをどんどんやっていきたいです。「次はこういうことをやりたい」というアイデアは今もどんどん出てきているので、それを一つずつ実現していけたら楽しいだろうなと思ってます。
――10月24日から初のZeppツアー【おいしくるメロンパン bouquet tour – never ending blue –】が始まります。こちらについては、いかがですか?
原:メジャーデビューがきっかけで初めて僕らを知った人もたくさん来てくれると思うので、そういう人たちの心をしっかり掴みたい。「次の作品も聴きたい」「次のライブも行ってみたい」と思ってもらえるような、おいしくるメロンパンの魅力をしっかり伝えるライブにしたいです。
峯岸:バンドにとって大切なツアーになると思うけど。僕たちがやるべきことは変わらない。今までのライブと同じように、「とにかくカッコいいライブを作りたい」と思っていますが、新しい環境に移ったことでやれることはきっと増えていると思います。それを惜しみなく使わせてもらいつつ、やるべきことはやっぱり変わらず、カッコいいライブをするのみですね。
ナカシマ:「おいしくるメロンパンは、ここからどういうふうになっていくんだろう?」というワクワク感のあるライブを届けたい。今、僕たちが感じているバンドの自由度の高さ、「おいしくるメロンパンはなんでもできる」という感覚を、ライブを通じてみなさんにも感じてもらえたらと思っています。

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