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<インタビュー>chilldspotがアルバム『handmade』をリリース――3人の持ち味を活かした音楽制作とバンドの現在地

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Interview:小川智宏
Photo:堀内彩香


 chilldspotが3作目となるアルバム『handmade』を完成させた。昨年のEP『echowaves』以降、それまで楽曲制作の中心だった比喩根以外のメンバーも作詞や作曲、アレンジで積極的にコミットするようになり、バンドのメカニズムも変化する中で作られた今作は、バンドにとって新たなスタートと言っていいほどに画期的で新鮮な1作となった。

 昨年は中国のレーベル「MODERN SKY」と契約し現地での活動が活発化、ワンマンライブやフェスへの出演を通してその知名度と人気もどんどん上昇しており、バンドの活躍の場は確実に広がっている。一方でメンバーの脱退という大きな出来事も経験して、chilldspotはよりタフな共同体となった。バラエティ豊かなサウンドと前向きな言葉が並ぶこの『handmade』の手応えは、そんなバンドとしての成長を見せつけるものだ。メンバー3人にこのアルバムに至る道のりを語ってもらった。

メンバーがより積極的に作曲に携わるようになった

――chilldspotはライブの規模もどんどん大きくなってきているし、昨年、中国のレーベルと契約して、北京でワンマンライブをやったり、現地のフェスにも出演したり、活動があまり想像してなかったところにまで広がっていますね。そのあたり、手応えはどうですか?

比喩根(Vo./Gt.):中国ってアプリも含めて日本とは違うので、日本にいると「本当ですか?」と思うんですけど、北京でのワンマンのチケットがすぐに売り切れたり、出させていただいているフェスでも、最初は小さいステージだったところから、もちろん自分たちだけが目当てではないと思いますけど、数千人規模に増えてきて。具体的な数字はわからないけど、現地に行くと聴いてもらえているのかなというのは感じますね。


――お客さんの熱や盛り上がり方は日本とは違います?

玲山(Gt.):全然違うよね。


小﨑(Ba.):違う。


玲山:びっくりしたのは、めっちゃ大合唱するんですよね。


比喩根:「ネオンを消して」で大合唱。あとラフだよね。知ってても知らなくても、音楽が楽しかったら全然ノるし。


小﨑:感情をストレートに伝えてる感じはするよね。


――そういう異文化に飛び込んでいって、そこで曲を作るという経験は得難いものだと思いますけど、そもそもchilldspotは日本の外でもどんどん活躍していきたいというビジョンは持っていたんですか?

玲山:最初はなかったと思います。だから話が来たときはめっちゃびっくりしたよね。


比喩根:「なんで?」って(笑)。


小﨑:「どうやって我々を見つけたの?」と思いました。



――そんな中、7月にジャスティンさんの脱退が発表されました。ずっと活動をお休みしていたとはいえ、改めて正式に3人でやっていくという決断をしたわけじゃないですか。そのことが3人それぞれの意識やバンドとの向き合い方に与えた影響はありますか?

比喩根:バンドメンバーかつふざけ合える距離感の友達っていう空気を作ってくれていたのがジャスティンくん、要はムードメーカーだったんですよね。だから、抜けちゃって「寂しいな」みたいな気持ちは大きいですけど、別に喧嘩別れをしたわけじゃないし、それぞれがやりたい音楽の軸がしっかり固まってきた上での脱退だったので、ジャスティンくんの音楽もどんどん栄えていったらいいなと思いますし、この大きな決断が、最終的にchilldspotにとってもいい選択だったねとなれるようにできたらなと。そういう意味では引き締まりはしました。「がんばらなきゃな」って。でもそれくらい。


小﨑:そうだね。


玲山:今はサポートドラマーを入れてやっているんですけど、同じドラムとはいえ、人が変わったら同じ曲でも変わってくるので。それもおもしろいかなと思っていますね。逆にジャスティンもめっちゃいいなって思ったし、入ってもらっている嶋さんのドラムもめっちゃいいなって思ってます。


――変な言い方ですけど、固定ドラマーがいないからこそできることもあるかもしれないですしね。

比喩根:やっぱり、いろんな良いところに触られるっていうのはもちろんあると思うので。こういう形態になったからこそ、やれることはやっていきたいなというのはありますね。


――そういうバンドの体制変化と並行して、昨年のEP『echowaves』以降、メンバーそれぞれのクリエイティヴィティが今まで以上に発揮される状況ができていって。それが今回のアルバムにつながっていると思うんですけど、そのあたりはバンド内の役割分担みたいなところでどういう意識の変化があるんでしょうか?

玲山:それでいうと、メンバーがより積極的に作曲に携わるようになって。これまでは比喩根がゼロイチの段階を作っていたのを僕ら2人もやるようになったので。そこはうまいこと仕事量が振り分けられるというか、それぞれが協力し合って作れている感じがします。



――そういう形になったのは、もちろんいろいろな経験を積んできた結果という部分もあると思うんですけど、「そうしていこう」という話をどこかでしたんですか?

比喩根:具体的にあったというよりは、『echowaves』で「やりたいことや好きなことをやってみなよ」って周りの人が言ってくれて。いい曲を作るという前提で、自分たちの好みに全振りして作って、それをリリースして反応を見た上でよりバランスの取れたアルバムを作ろうっていう話だったんです。それでEPからの延長線上でアルバムに向けてデモをたくさん作ったんですけど、そこで作業を分担するために、まずはメロディのコンペから始まって、歌詞も含めて全部がコンペで構成されるようになっていったんです。


――そのコンペというのは、3人それぞれが曲を作って持ち寄って、テーブルに並べるっていう感じだったんですか?

比喩根:いや、まずは表みたいなのを作って。そこにアルバムに入れたいジャンル感みたいなものを書いて、その1ジャンルにつき2曲、1番までのデモを上げていったんですよ。それぞれの担当を決めて、「このジャンルの1パターン目は玲山お願い、2パターン目は私がやります」「このジャンルは2パターン小﨑に任せます」みたいな。その時はジャスティンくんもいたんですけど、それをもとに制作していきました。デモはトラックだけできているものもあればメロディがついているものもあって、それがいいねってなったら仮でアルバムの候補曲になっていく。その上で全部メロディのコンペをしていくっていう。


――あまり聞いたことのない作り方ですね。

小﨑:そうですね、特殊。


比喩根:完全に会社みたいな。


玲山:一番それがいいのかなって。せっかくそれぞれ作れるからっていう。


――その結果、ジャンル感も本当にさまざまな曲ができ、1枚を通してすごくカラフルな作品になりましたね。何せ1曲目が「Unbound」で、まさかの小﨑さんのラップから始まるという。

比喩根:確かに(笑)。


小﨑:もともとラップは全然やってないし、デモでラップを入れたのがレコーディングする3日前とかで、その時に初めてやったんですよ。だからまさかそれが採用されるとは思ってなかった。比喩根にラップしてもらうつもりで、自分は仮歌みたいな感覚だったので、自分でやることになってめっちゃ焦った記憶があります。でもやってよかったなと思いますね。


比喩根:ベースの声から始まるアルバム、おもろいな(笑)。SNSでも「フィーチャリングが誰か分からない」って書いてあって、私、リプしてました。「これ、ベースの小﨑くんが歌ってます」って(笑)。



chilldspot – Unbound (Music Video)


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結果的にバンドとしていい成長ができてる


――そんな始まり方をするアルバムだから、本当に1作通して自由だし、3人それぞれのキャラクターややりたいことがよく出ている曲たちが集まっていて。chilldspotになかった要素をちゃんと2人が持ち込んでいる感じがしますし、しかもそれがちゃんとアルバムの中で存在感を放っているっていうのがいいですよね。それぞれ、ご自身の手がけた楽曲について話してもらいたいんですが、小﨑さんはどうですか?

小﨑:今回、僕はトラックをめちゃくちゃ作ってて。「緑のダンス」、「踊っていたいわ」「フレイドル」「middle」……。


玲山:「Unbound」もか。


小﨑:そうだね。遊んで作ってる感じがこのアルバムは特にあって、「この音入れたいなあ」を続けてたらこんな個性ある曲たちが出てきたので、あまり苦労もせずっていう感じですかね。「踊っていたいわ」に関してはメロディや歌詞も全部自分が作ったんですけど、そこにメンバーがレコーディングで音を乗せた時の感動は初めてだったんで、嬉しかったですね。比喩根が感情を乗せて歌った時の表現力に驚いたり、「玲山はこういうところを気にしてギターを弾いたりしてるんだ」とか、メンバーのいいところをいっぱい見つけたアルバムな気がします。


――小﨑さんの趣味やらしさはどんなところに出ていると思いますか?

小﨑:それこそ「踊っていたいわ」はメロディを含めて音も全部自分が関与したし、レコーディングではボーカルのディレクションもして。やりたい放題やった気がします。自分のしたいようにできた曲だなって。特に愛情を込めて作ってますね。


――玲山さんはどうですか?

玲山:自分の作った曲の推しポイントは……「暮れ色」のサビが英語なんですけど、英語ができるわけでもなかったので、めちゃくちゃ苦労して。「このニュアンスで合ってるのか」って、英語が分かるスタッフさんとか、そのスタッフさんの知り合いにまで聞いてもらって。大変だったけど、いい曲ができたなと思ってます。


――「暮れ色」みたいな曲は比喩根さんと小﨑さんからすると玲山さんらしいなっていう感じなんですか?

比喩根:この曲はジャスティンくんも作曲に参加しているので、そのハーフ感がすごいですね。玲山はどちらかというとテクい感じの人なので、音色とか音色の入れ方とかはそれを感じつつ、歌のメロディとか全体の雰囲気は、ジャスティンくんがちょっと昔の年代の洋楽のバンドとかに詳しいので、「音楽好きなんだろうな」っていう感じ。


――本当に2人が携わったことによって曲の振り幅が広がったし、小﨑さんがおっしゃったように、比喩根さんの歌にも新しい光を当てるような形になりましたよね。

比喩根:そうですね。本当にそう思います。



――今までは基本的には比喩根さんの曲があって、それを形にしていくっていうバンドだったわけじゃないですか。そこから、そうじゃない形もありうるようにどんどんなってきたわけですけど、それに対してはどんなふうに受け止めていたんですか?

比喩根:ぶっちゃけた話、私は最初からバンド限定でやりたい人ではなかったので、世に出ていけるのであればどの形態でもいいというハングリーさがありましたし、それによって自分の承認欲求を満たせるという自己満足的なものももちろん人間なのでありまして。だからこのレコーディング中にも、こういう形で作品を作ることに対しては2人に「納得はしてるけど、心が追いついてない部分があるよ」みたいな話もしたんです。

でも話す中で、2人も今まで私と同じような気持ちを感じながらも、バンドとして大成していくために、力をつけたり、抑えるところは抑えてバンドが回るようにってやってきてくれたんだなっていうのもすごく感じて。要は自分が一歩引かなきゃいけないというところに対して「うーん」って思う部分も正直あったんですけど、2人がこれだけできて、しかもクオリティが高いんだから、それは出した方が絶対にいいし、そこはお手伝いをしてもらいながら、私もできる部分はするみたいな。そういう変化をしていった気がします。ある意味一歩引いてみて、2人の苦労も少し分かったし、逆に「歌作るの大変だね」とか「作詞難しいね」とか、そういう話もできるようになって。結果的にバンドとしていい成長ができてる気がしました。


――表現をする人である以上、そこの葛藤はありますよね。だって、今までは自分の歌いたいことっていうのを表現する場だったわけだから、そこにメンバーとはいえ他者の視点が入ってくることの難しさというのは当然ある。今おっしゃったように、そこを受け入れていったっていうところが今作のいちばんの変化かもしれない。

比喩根:そうですね。


――だから、2人のクリエイティヴィティが覚醒したっていうのも一方ではありつつも、それを受け止める比喩根さん側の変化があったからこそ成立したんだろうなって。

玲山:大人ですよ。


比喩根:そういうことをメンバーと話せたのは大きかったですね。「は? 何言ってんだよ」みたいな感じじゃなく、それぞれのアプローチでちゃんと話をしてくれて。バンドとしていちばん腹割って喋った感じがありました。今まで別に喧嘩をしたこともないんですけど、「俺ら、魂で繋がってるよな!」みたいなこともあまりしてこなかったので。そうやって腹を割って話して、2人もそれに対して返してくれる人たちだったから、緩やかに腑に落ちて。平和に移行できたので、だいぶ大人なんじゃないでしょうか。うちら、年齢としては社会人1年目の年ですから。


――いや、本当にそれだなと。人が3人いたら社会じゃないですか。それぞれが役割と責任を負って、このchilldspotっていう組織をうまく回して発展させていくために、みたいな、社会的な集団になった感じがします。

比喩根:めっちゃそうかもね。chilldspotをよくするためにという点でみんな動いていたから、潔くというか、きれいな気持ちで「頑張ろう」みたいな感じになった気がします。


玲山:大人になったねえ。


比喩根:ジャスティンくんとかもそうかもね。今まででいちばん平和な感じになった気がする。彼もいい意味で大人になって、私たちも大人になって、ちゃんと話し合えたから。もうちょっと若かったらお互いの不満とか思うところがもっとバチバチになってた未来もあったんじゃないかと思います。


――アルバム全体にちゃんと風が通っているというか、窓が開いている感じがしますよね。

比喩根:窓を開けてもらってますね。でも大丈夫、閉めなきゃいけないときは本当に閉めるから(笑)。


――そういうアルバムに『handmade』というシンプルであたたかみを感じるタイトルがつけられたのも必然だと思います。これまでもchilldspotの作品はずっとハンドメイドだったと思いますけど……。

比喩根:はい。前はそれぞれ1枚の大きい布の中でそれぞれの場所でパッチワークしてる感じのイメージだったんですけど、今回は1つの布に1つのパッチワークをみんなで一緒に縫ってるみたいな感覚なんです。


――うん、そういう意味で、本当にバンドという共同体で作ったアルバムなんだと思います。

比喩根:うん、私もそう思います。



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