スペイン・マラガ生まれのシンガー／俳優のアナ・メナが、2025年8月30日～31日に開催された【a-nation 2025】で初来日を果たした。スペイン語のみならず、イタリア語やフランス語でも歌唱し、トラディショナルなポップスから情熱的なラテン、洗練されたアーバンまで、ジャンルの枠を軽やかに超えるその音楽性で、ヨーロッパを中心にリスナーを魅了してきた。「Una Volta Ancora」「A Un Passo Dalla Luna」などのヒット曲を放ち、2023年にリリースされた最新アルバム 『Bellodrama』 は、スペインのチャートで1位を獲得し、その存在感を確固たるものにした。現在、新たなアルバムの制作に取り組む彼女に、これまで歩んできたアーティストとしての軌跡、その音楽性に影響を与えたもの、そして初めての日本ステージに寄せる想いについて語ってもらった。（Interview: Mariko O.）

──明日いよいよ日本で初めてのパフォーマンスを行います。今の心境をお聞かせください。

アナ・メナ：日本を訪れるのは初めてで、本当に夢のような気持ちです。言葉ではとても表しきれませんが、尊敬してきたアーティストたちと同じステージに立てることは、私にとってかけがえのない経験です。美しくも貴重な機会であり、まさに夢が叶った瞬間だと感じています。普段は2時間以上のステージを行いますが、今回は30分に凝縮されているので、その分すべてを注ぎ込み、全身全霊で挑むつもりです。

　日本の皆さんはとても温かく迎えてくれて、本当に幸せです。同時に大きな挑戦でもあります。というのも、観客の多くはまだ私のことをよく知らないからです。だからこそ、その反応を真正面から受け止めなければならないと思っています。

──あなたはとても若い頃から女優として芸能活動を始めました。そんな中、音楽の道に進むきっかけとなったのは？

アナ：7、8歳の頃からスペインの伝統音楽であるフラメンコを歌い始めました。プロの歌手ではありませんでしたが、母がフラメンコを愛していた影響で、自然とその音楽に親しんで育ちました。11歳になると女優としての活動をスタートし、10代の間は演技の道を歩み続けました。そして10年前に、自分の音楽プロジェクトを立ち上げ、本格的に音楽の道を選びました。音楽こそが私の人生だと確信していたからです。

──フラメンコ以外では、どのような音楽やシンガーから影響を受けましたか？

アナ：クリスティーナ・アギレラやマライア・キャリーといった、圧倒的な歌唱力を持つシンガーたちです。私は昔からアメリカのポップスターが大好きで、よく聴いていました。彼女たちの歌声には一切のブレがなく、精緻で完璧な表現力があります。その才能と鍛錬の成果に、心から敬服しています。それに加え、イタリアやフランスなどヨーロッパの音楽にも触れてきました。

──ご自身で作詞・作曲もされていますが、自身の体験から生まれているのでしょうか、それともあくまで物語として描いているのでしょうか？

アナ：はい。6年前からチームと共に曲を書き始めました。題材は自分自身の経験や、友人に起こった出来事、そして女性として感じてきたことです。恋愛や人間関係など、誰もが共感できるテーマを書いています。時には寂しさや悲しみも含め、あらゆる感情を音楽に込めていますね。

──アナさんの音楽には、伝統的なサウンドからEDM、アーバンまで幅広いジャンルが取り入れられています。

アナ：私の音楽には二つの側面があります。ひとつはポップで踊れるEDMの側面、もうひとつは伝統的なイタリア的な叙情的でメロディアスな側面です。いくつかのヒット曲も生まれていますが、この二面性こそが私の音楽を形づくっています。

──そういった伝統的でメランコリックな音楽に惹かれる理由は？

アナ：子どもの頃からエンターテインメント業界で活動し、大人に囲まれて過ごしてきたことが大きいと思います。自然と影響を受けて、深い情緒を持つ音楽に心を惹かれるようになりました。

──そしてスペイン語だけでなく、イタリア語やフランス語でも歌っていますね。

アナ：そうなんです。実はイタリア語を全く話せないまま、イタリア語の楽曲をレコーディングしたのが最初でした。そのときはGoogle翻訳の発音を真似しながら歌っていたんですよ（笑）。真似して録音する、その繰り返しでした。曲がヒットしたときに「ありがとう」くらいは言えるようにならなければと思い、そこから本格的にイタリア語を学び始めました。私は何事もまずやってみてから学ぶタイプで、やりたいと思ったらすぐに飛び込む性格なんです。これは赤ちゃんの時からそうです。

──あなたのミュージック・ビデオには映画的な要素があります。それは俳優としての経験から来ているのでしょうか。

アナ：はい、自分のMVの中で役を演じることが大好きなんです。MVを短編映画のように捉え、映像を通じて物語を語ることに強い魅力を感じています。

──本格的な演技の仕事に戻る予定はありますか？

アナ：『Ídolos』というMotoGPを題材にした主演映画が近日公開予定です。日本でもMotoGPが人気だと聞いているので、公開されることを願っています。

──最新アルバム『Bellodrama』は2023年にスペインのチャートで1位を獲得しました。最近の投稿では新しい音楽に取り組んでいる様子も見られますが、今はどんなテーマやサウンドを探求していますか？

アナ：現在、3rdアルバムに向けたソングライティングを進めていて、すでに半分ほど完成しています。今回は新たな要素を模索しながら、より深い感情を探求しています。サウンドにはどこかイタリア的な響きがあり、今作に関しては歌詞が荒削りなのが特徴的です。

──ツアーで世界を飛び回っていますが、異なる音楽シーンで活動することは、あなたの表現にどんな刺激を与えてきましたか？

アナ：ツアー中も立ち止まることはなく、常に新しいアイデアを考えています。思いついたことはすぐにメモし、飛行機の中や眠っている途中でも書き留めます。創作のインスピレーションは絶え間なく湧き続けているんです。

　旅は視野を大きく広げてくれます。長いフライトだと、自分自身と向き合う時間を持つことができます。考えすぎてブルーになることもありますが、私はノスタルジーを好むんです。こんな話ばかりすると憂鬱な人間と思われるかもしれませんが、ちゃんとユーモラスな面もありますよ（笑）。

──アナさんのライブは情熱的でエネルギーにあふれていると評判です。あなたにとってのライブ・パフォーマンスの魅力とは？

アナ：私がパフォーマンスを愛するのは、その周囲にあるクリエイティブな過程すべてに魅力を感じるからです。フェスティバルでは短いセットのため、代表曲にすぐ入らなければなりませんが、単独公演では物語を語ることを大切にしています。例えばマドリード公演では、ウェディングドレス姿でステージに立ち、演劇的な演出を加えました。物語性を持たせるのが私のスタイルなんです。

──現在、ラテン音楽は世界的に盛り上がりを見せています。ロザリアのようなアーティストが活躍する、現在のスペイン音楽シーンについてはどう感じていますか？

アナ：スペインやラテン・アメリカには、スペイン語を話す数億人もの人々がいます。私たちは豊かな文化を持ち、国ごとに異なる多様なジャンルが存在します。その融合こそが、今のラテン・シーンを一層魅力的なものにしているんだと思います。

　そしてスペインには独自の個性があります。今の音楽シーンをとても誇りに思っていますし、まさに素晴らしい時代を迎えていると思います。特に若い世代が偏見を持たず、あらゆる音楽にオープンになったことが大きな変化です。例えば先日バルセロナで行われたBLACKPINKの公演には、多くのファンが集まりました。ジャンルや言語を越え、みんなが自由に音楽を楽しんでいますね。

──最後に、今後のアーティストとしての目標を教えてください。

アナ：まずはアルバムを完成させることです。そしてぜひ日本に再び戻ってきたいです。制作活動のための休止期間を経て、今秋から音楽をリリースし始める予定です。新しいショーも控えていて、これからの活動にとてもワクワクしています。