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<インタビュー>岡田武士ワーナーミュージック・ジャパンCEO「変革期の今だからこそ、成功体験を超えて、新しいヒットを生む」

2024年12月にワーナーミュージック・ジャパン(WMJ)の代表取締役社長兼CEOに就任した岡田武士。前職のユニバーサルミュージックではEMI Recordsのマネージング・ディレクターとして活躍し、数々のヒットに関わってきた。そんな彼が、WMJで実現したいこととは。他国との連携や、千葉雄喜との包括契約、そして今後のビジョンについて話を聞いた。(Interview: 礒崎 誠二/高嶋 直子 Text: 高嶋 直子 Photo: 辰巳隆二)
WMJがチャートで存在感を示すために
――WMJのCEOに就任されましたが、どのような可能性を感じて決意されたのでしょうか。
岡田:ワーナーミュージックは、「アーティストファースト」なDNAが根付いている企業だと入社前から感じていました。こだわりを持って良質な音楽を追求しているアーティストが多く、こうしたアーティストに寄り添い、素晴らしい作品を届ける力を持った会社だと感じていました。この印象は入社後も変わりません。こうした強みを活かしつつ、デジタルへの移行を推進するとともに、グローバルメジャーとしてグループ本社や各国と戦略的な連携を強化することで、アーティストにとってより大きな価値を提供できるようになると考え、代表取締役社長兼CEOとしてのオファーの受諾を決意しました。
――41歳という若さでCEOに就任されたことに対するプレッシャーはありましたか。
岡田:大学を卒業してから、ずっと同じ会社で働いてきたので、実は今回が初めての転職でした。なので社長というポジションを引き受けること以上に、会社が変わることに対する緊張はありましたね。
とはいえ、以前から40代を迎える節目には新たな挑戦をしたいと考えていましたので、このタイミングでお声がけいただいたことをご縁と思い、お受けすることにしました。
――現時点で見えている課題はなんでしょうか。
岡田:まずはデジタルの強化ですね。WMGでは先進的なテクノロジーやデジタルマーケティングの導入が成功し、ストリーミングを通じて新人アーティストが続々とブレイクしている状況が生まれています。アレックス・ウォーレンやsombrなどがチャートを席巻し、次々と新たなアーティストがブレイクしています。彼らを見てみると、楽曲の素晴らしさはもちろんですが、インフルエンサー・マーケティングやSNSの使い方が非常に上手く、ヒットの一因にもなっています。日本も学ぶべき点が多いと感じています。
あとは組織作りですね。アーティストを見つけ、それぞれの夢や目標に寄り添って最適なサポートを提供し、ファンを増やすこと。そして、先ほどのデジタルマーケティングを強化して、良い作品を多くの人に届けること。こうした一連の連携をスムーズに推進するために、7月には私が入社してから初めての組織改編を行いました。
――USのワーナーミュージックと比べて、WMJはここ数年チャートに対して大きな結果を残せていないように感じます。どこが弱いのでしょうか。
岡田:1つずつはできていると思うのですが、素晴らしい作品を“作る”ことと、これを“広める”ことが、もう少しうまく、戦略的に連携できるのではないかと感じています。今回の組織改編によってこの連携がより円滑になると期待していますので、まずはそこに力を注いでいきたいと思っています。
ビルボードをはじめ各種チャートを見ていると、トレンドは日々変わります。今のトレンドに乗り遅れていると思ったら、巡り巡って今度はそれがトレンドになる場合もあります。日々、様々なものが移り変わる中でWMJが発信する音楽が時代の最先端に合致する時は必ずまた巡ってくると思いますので、会社の強みや個性は大事にしながら、新しい要素を付け加えてハイブリッド化することで、ヒットの可能性が上げていきたいと考えています。

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WMJがグローバルから期待されていること
――具体的に、どのような組織を作っていく予定ですか。
岡田:自戒も込めて言いますが、レーベルというのは成功体験があると、どうしても過去に成功したアプローチに引っ張られてしまうんですよね。ですがデジタルのマーケティングには「これをすれば必ず当たる」という必勝セオリーがなく、タイアップにしてもSNSとの向きあい方にしても、毎回異なる施策を検討することが必要になります。なので今回の組織改革では、それぞれのアーティストや作品ごとにカスタマイズしたマーケティング施策を企画・実施できるようになることを意図しました。特にマーケティング組織を再編したことで、ノウハウやナレッジがチーム横断的に共有・蓄積され、これらを有意義に活用できるようになることは意義があるかと思います。例えば音楽ジャンルは異なるものの、TWICEもあいみょんも好きな人って絶対にいると思うんです。その場合、TWICEでうまくいったアプローチを、あいみょんの施策にも活かせるかもしれない。もしかしたら最近の流れとは逆行するかもしれませんが、細分化するのではなくチームの垣根を超えて、横断的に取り組めるような体制にしたいと思っています。
あとはデータ分析チームの強化ですね。勘を頼りに、なんとなく進めるのではなく、様々なアーティストのデータを分析して、これを戦略策定や意思決定に活かしていくデータ駆動型のアプローチも強化したいと考えています。
――ワーナーミュージックの他国からアドバイスを受けることもありますか?
岡田:ええ。グローバルで展開するDSPやSNSは日本はもちろん他のマーケットで影響力がありますので、ベストプラクティスなどを共有しあっています。
――2月にはPSYCHIC FEVERとグローバルレーベル契約を締結されました。様々なボーイズグループがグローバル展開にチャレンジしていますが、どのような可能性を感じていますか。
岡田:LDHさんとの最初の取り組みなので、世界を舞台に活躍できるポテンシャルを持ったアーティストでご一緒したいと思っていました。グループとしての魅力はもちろん、多様な個性とバックグラウンドを持ったメンバーの魅力や才能も世界で戦っていけると確信しており、これからのさらなる飛躍が楽しみです。
――LUMINATEを使って、彼らの今年のストリーミング数を見てみると日本からは約63%でUSが約11%と海外の比率が高く、東南アジアや南米など様々な国で聴かれていることが分かります。
岡田:かつては、まずは日本で成功しないといけないという考え方が根強くありましたが、先に海外で火が付くアーティストの事例も増えてきています。どちらのアプローチからでもヒットを作ることができる、とても面白い時代になってきたと感じています。
――ワーナーのグローバルから見て、日本はどのように評価されているのでしょうか。
岡田:各国の社長や幹部と話してきましたが、基本的に皆、エンタテインメントだけでなく、食やファッションなど日本の文化全般が大好きです。日本は色んな国の方から愛されているという有利なベースがあるので、当然ながら日本の音楽も世界にもっと広がる可能性があると期待されています。デジタルプラットフォームの普及もあり、ラテンやK-POP、アフロビーツなどが世界中で人気を博し、「音楽のヒットに国や言語は関係ないんだ」ということを実感しました。そして、いま世界の音楽ファンたちは次に流行る音楽として日本の音楽にも注目しています。彼らは「日本の音楽=J-POP」と画一的な捉え方はしておらず、ヒップホップやロック、ボカロをはじめとするインターネットカルチャーに影響を受けた音楽といった、日本の音楽の多様性に興味を持ち、可能性を感じているのではないかと、海外の幹部陣と話しながら感じました。
そして日本の音楽業界の皆さんもおっしゃっている通り、誰か一人のアーティストだけが海外でスターになるのではなく、様々なアーティストの楽曲がヒットし、日本の音楽の魅力が面として広がることで、大きなうねりになっていくと思っています。

千葉雄喜との包括契約を通じて実現したいこと
――ワーナーミュージック・グループにおいて特に日本が期待されているのは、どのような点でしょうか。
岡田:日本の音楽市場は世界で2番目に大きく重要なマーケットであることは確かです。国内ではシェアの拡大、特にストリーミングヒットの強化を期待されています。
また同時に海外市場の開拓にも期待が寄せられています。グローバルカンパニーとしての強みを活かし、日本のアーティストが世界を舞台に活躍できるように戦略的に取り組むことはもちろん、日本が先行するファンダムビジネスを海外でも展開することで、海外市場での収益も拡大できるのではないかと考えています。
アメリカなど一部の国ではストリーミングの成長が鈍化していて、次に会社をどのように成長させていくのかという課題に向き合っています。そこで最近よく話題に上がるのがアーティストの熱心なファン、いわゆるスーパーファンに対する取り組みです。この文脈で、「日本はなぜ今もCDが売れるのか」と聞かれることが増えてきました。CDが売れている日本の状況が、海外からは「遅れている」と認識されているのかと思っていたら、いつしか次のモデルとして再注目を集めているのです。これからは我々の知見も積極的に海外チームにシェアしていけたらと思っています。
――最後に、WMJの今後のビジョンについてお伺いできますでしょうか。
岡田:先日、千葉雄喜さんとの包括契約を発表しました。彼は「グラミー賞を獲るビジョンが見えた」と言っていて、もし、それを我々がパートナーとしてサポートできたら素晴らしいですし、本当の意味で日本の音楽が世界に認められたという象徴的な出来事になるでしょう。レコーディング活動だけでなく、マネジメント、マーチャンダイジング、ライブ制作など、千葉さんのアーティスト活動全般に関わることで機会を最大化し、グローバルキャリアの発展に全面的に寄与することができると、非常にワクワクしています。
千葉さんは今後LAに拠点を移し、現地のクリエイターたちともコラボしながら制作していく予定です。彼の唯一無二な個性や素晴らしさは変わらないですが、様々なコラボレーションを通じて、予測もしていなかった化学反応が生まれ、新しい可能性が広がるかもしれません。とにかく楽しみでしかありません。
――日本でもヒップホップが、より一層チャートインするようになるかもしれませんね。
岡田:USのビルボードにもチャートインできるようになってきたら、ヒップホップに限らず多くの日本のアーティストにとって、大きな刺激になり、非常に勇気が沸くのではないでしょうか。
今回の発表は、私が社長になってから初めてのアーティストサイニングであるだけでなく、今後WMJをどんどん進化させていくというメッセージにもなると思っています。アーティストの夢やキャリアに寄り添い、必要なサポートやソリューションを提供するプロフェッショナルなチームを用意できる、真に頼れるパートナーになっていきたいと思いますし、5年後には世界を舞台にした日本のアーティストの活躍を牽引する音楽企業として中心的な役割をになっているようでありたいと思っています。
また同時にアーティストだけでなく、若いミュージックマンが失敗を恐れずにチャレンジし、チャンスをつかめる会社でもありたいと思っています。私自身もそうでしたが、音楽業界は若い人にチャンスがある業界です。特に変革期にある今は、従来のやり方が必ずしも通用しなくなってきているからこそ、若くてもいきなりチャンスをつかみ、一気にフロントランナーになれる、エキサイティングな時だと思います。ぜひ若い人たちに、音楽業界でチャレンジしてもらいたいなと思っています。




























