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<インタビュー>初来日で日本を沸かせたカトリエル&パコ・アモロソ、人生に不可欠な“ユーモア”を音楽に

Text & Interview: 黒田隆憲
Photos: 興梠真穂
【コーチェラ】や『タイニー・デスク・コンサート』などで一躍注目を集め、急速に世界的な存在感を高めているアルゼンチン出身のユニット、カトリエル&パコ・アモロソ。彼らは今年、【フジロック・フェスティバル】のステージでも圧巻のパフォーマンスを披露し、オーディエンスを熱狂させた。
本インタビューは、そんなフジロック出演直前に行われたもの。最新作『パポタ』についてじっくり語ってもらいつつ、ヒップホップやプログレ、AOR、レゲエなど多様なジャンルを自在に横断する彼らの音楽的ルーツや創作の哲学、そして幼なじみでもある二人の関係性、日本への思いまで話を聞いた。
左から:カトリエル、パコ・アモロソ
──「ミ・デセオ/バッド・ビッチ」では〈日本からブエノスアイレスへ〉と歌っていたり、「ラ・ケ・プエデ、プエデ」には〈ここは日本じゃないけど、酒を飲む〉〈Paco が刺身を食べるなら私はロールを食べる〉という歌詞があったりと、日本について歌うことが結構多いですよね?
カトリエル:それだけ日本に対して強い印象があるからです。僕たちは日本に100%魅了されていますね。
パコ・アモロソ:この地球上で、僕らがもっとも行きたかった国が日本でした。文化も人もすべてを含めて、まるで未来にいるようなイメージを持っていましたね。今回も信じられないような体験をさせてもらっていて、「夢が現実になった」と感じています。曲の中で日本のことを歌っていたおかげで、こんな状況を引き寄せることができたのかなとすら思います(笑)。こうして夢を叶えることができて本当に嬉しいです。
──今作のタイトル『パポタ』(PAPOTA)は、“強い男”という意味のスラングだそうですね。今の時代において“強さ”というのは、とても複雑なテーマでもあります。
パコ:パポタという言葉は、アルゼンチンでは“筋肉をつけるためのサプリメント”を指す俗語として使われています。それをタイトルにしたのは、「男は強くあるべき」「マッチョでなければいけない」といった、今の時代にある“美の基準”に対して皮肉や批判の意味を込めたかったから。だからこのタイトルには、現代社会における身体的な理想像や、そこに押しつけられるプレッシャーに対するひとつの社会的メッセージが込められているとも言えます。
──なるほど。
パコ:それを象徴するように、僕たちが『パポタ』の中で制作したショートムービーでは、タイニー・デスク・コンサートでブレイクしたあとにシンバランドという音楽プロデューサーと出会うエピソードが描かれています。彼に「成功したいならジムに通わないと」って言われるんですよ(笑)。それで僕たちが筋肉スーツを着て登場するという展開になるっていう(笑)。
──ユーモアを交えた風刺ですよね。筋肉や人工的な美について、どう考えていますか?
パコ:僕たちはいつも、いまこの世界で実際に起きていることを音楽に取り入れているのですが、筋肉や美の基準といったテーマも、まさに現代を生きる誰もが少なからず関わっているものだと思っています。そして、そういったテーマを取り扱うときには、今あなたが言ってくれたように「ユーモア」を取り入れています。人生に「笑い」や「ユーモア」は不可欠だと思っているし、音楽表現においても同様です。深刻なテーマを掘り下げるときこそ、まずは笑ってもらおうというスタンスなんですよね。真面目すぎると退屈になってしまうし。
カトリエル:僕たちにとって、ユーモアはすべての表現に自然にくっついてくるものです。どんなに切ない曲でも、必ずどこかに“ちょっと笑える言葉”を入れようとする。聴いてくれた人の心をふっと軽くしたい、笑顔になってもらいたい、そんな気持ちで音楽を作っています。
──ヒップホップやプログレを引き合いに出されることの多いカトパコの音楽ですが、ソングライティングの面では、アース・ウインド&ファイアーやマイケル・ジャクソンなど、80年代のブラック・コンテンポラリーやAORからの影響も感じました。他にもトラップやドラムンベースなど、多様な要素が詰め込まれたカトパコの音楽は、どのようにして確立されていったのでしょうか。
カトリエル:僕たちの制作プロセスは、まず「まだ自分たちがやっていない音楽性に挑戦しよう」っていうところから始まるんです。とにかく“過去の自分たち”を繰り返したくない。これまでとは違うことをやる──それが、僕らにとってのスタートラインなんです。
パコ:僕たちに限らず、今の時代、みんな多様な音楽を聴いて育っていると思うんです。だから、僕らの音楽も自然とそういうふうになっていくし、それが今では当たり前になってきている。昔だったら「ロックが好きならロックだけを聴く」みたいな時代もあったけど、今はもっと柔軟で、ジャンルの垣根もなくなってきましたよね。
──Spotifyのような配信サービスが、世界中の音楽を聴くうえで大きな役割を果たしていますよね。
パコ:それはもう100%間違いないです。日本はちょっと特殊で、今でもCDみたいな“フィジカル(物理メディア)”を買う人が多いそうですね。でもアルゼンチンでは、もうほとんどそういう文化はなくなってしまいました。CDはまずリリースされないし、そもそもみんなお金がなくて買えないんです。だから、インターネットとSpotifyこそが、音楽を聴くためのメインの手段なんですよ、僕たちにとっては。

──ちなみに、もっとも影響を受けたアーティストというと?
カトリエル:僕はもともとギタリストで、純粋にギターばっかり弾いていた時期がありました。スティーヴ・ヴァイやパンテラ、メタリカ……そういう音楽に夢中だったんです。最近はラップ系のアーティストにもたくさん触れているし、すごく聴いていますね。幼少期を振り返ると、家族や周りの影響でプログレッシブ系の音楽が多かったかな。
パコ:僕がいちばん影響を受けたのはジェイムズ・ブラウンとボブ・マーリー。もちろん、今の音楽を聴くことにもすごく興味があって、新しいアーティストもたくさんチェックしています。そういう体験を重ねることで、自分たち独自のスタイルや、自分なりの人生の捉え方が育まれていくんだと思います。
カトリエル:あとはミュージシャン仲間からの影響も大きいですね。彼らの音楽はもちろん、その感性や視点によって新しい世界を見せてくれる。
──ルーツも、普段聴く音楽も2人はバラバラなのですね。
パコ:そう。僕たちはそれぞれに強く個性があるので、ふたりが合わさると、本当にクレイジーなものが生まれるんですよ。
カトリエル:アルゼンチンでは「シン・シャン」っていうんだけど……日本語では「陰陽」? そう、そういう関係ともいえますね。
──おふたりは幼なじみだとお聞きしました。そんなに長くいて喧嘩とかしません(笑)?
パコ:実は、あまりケンカしたことがないんですよ。もちろん、友だちと一緒に仕事をするっていうのは、子どもの頃みたいにただ遊んでいるだけの関係とは違いますけど、僕たちは本当に仲がよくて、衝突はほとんどないです。
カトリエル:大事なのは、何かあったときにちゃんと向き合って、本音で話すこと。そういう姿勢があるから、関係がこじれずに続いてきたんだと思います。

──パンデミックを経て、それぞれのソロ活動を挟んだ今、再びふたりで音楽をやることでどんな相乗効果が生まれていますか?
パコ:孤独に音楽を作っていたステイホーム期間は、間違いなく今の“デュオとしての力”につながっていますね。お互いが内面を掘り下げることができたし、その経験があるからこそ、また一緒にやるときに、それぞれがいろんなツールやアイデアを持ち寄れるようになったんです。
カトリエル:僕はロックダウンが解除されてから、よくパーティーに行っていました。そこでエレクトロニック・ミュージックの新しい感じ方を学んだ気がします。今では、エレクトロは僕たちのDNAに組み込まれているというか──もう、血の中にしっかり根付いている感覚がありますね。
──わずか数年で1,000人規模の会場から15,000人規模のアリーナへと急成長を遂げ、【コーチェラ】や【フジロック】といった大舞台にも立ちました。「インポストール」では、『タイニー・デスク』出演後の戸惑いを歌っていますよね?
パコ:あれも一種のユーモアなんです。「うわ、期待に応えなきゃ」とか「みんなの期待が高すぎるよ!」っていうプレッシャーに対して、ちょっとした演技と笑いで返すような、外向けの表現のひとつ(笑)。
──今後のプロジェクトについても教えてください。やってみたいこと、挑戦してみたいことはありますか?
パコ:いま、ちょうど新しい作品のレコーディングを進めているところです。歌詞にしても音楽にしても、これまでとはかなり違うアプローチになっていて、僕たち自身もすごく楽しみにしている。今回の大きなツアーが終わった後、それがどんな作品として形になるのか、とてもワクワクしています。
カトリエル:僕たちは常に「まだ自分たちがやっていない音」を探し続けていて、その試みは今も続いています。うまくいっているかはわからないけど(笑)、とにかく今は、すごく深く掘り下げながら音を追いかけていますね。
リリース情報

世界初のCD化『パポタ』
2025/7/16 RELEASE
SICP-6603 2,860円(tax in.)
【収録曲】
1. インポストール
2. #テータス
3. レ・フォロ
4. エル・ディア・デル・アミーゴ
5. ドゥンバイ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
6. エル・ウニコ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
7. ミ・デセオXバッド・ビッチ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
8. ベイビー・ギャングスタ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
9. ラ・ケ・プエデ・プエデ(ライヴ・アットNPR MUSICタイニーデスク)
10. ドゥンバイ *ボーナス・トラック
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