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<レポート>ラテンポップの女王シャキーラが7万人と吠えたLA公演――自身最大規模の北米ツアーで新章祝う

インタビューバナー

Text: Megumi Hamura l Photo: Kevin Mazur

 シャキーラが【ラス・ムヘレス・ヤ・ノ・ヨラン・ワールド・ツアー】を開催中だ。自身のキャリア史上最大規模となった北米ツアーの最終地は、米カリフォルニア州ロサンゼルスのSoFiスタジアム。スペシャル・ゲストにブラック・アイド・ピーズを迎え、現地時間8月4日に開催されたDay 1は7万人を動員したソールドアウト公演となった。

 このツアーは、昨年3月に7年ぶりにリリースされたアルバム『ラス・ムヘレス・ヤ・ノ・ヨラン』を引っ提げてのもの。ツアーの第一期では自身の出身国であるコロンビアやブラジルなど中南米11都市を巡り、米ビルボードが毎年発表する世界で最も興行収入を上げたコンサート・ツアーのランキング“Top Tours”でキャリア史上初となるチャート1位を獲得。さらに、メキシコで史上最多となるスタジアム12連続公演記録を樹立するなど、多くの記録を更新している。

“涙を勝利に変える”アルバム『ラス・ムヘレス・ヤ・ノ・ヨラン』の真髄

 スペイン語のタイトル“Las Mujeres Ya No Lloran”は“女たちはもう泣かない”という意味で、ジャケット写真のアートワークにある彼女が流す涙はダイヤモンドとして捉えられ、“涙は勝利に変わる”というメッセージが込められている。11年続いたパートナーとの関係に終止符を打ち、シングルマザーとしての私生活とキャリアを両立させながら制作された本アルバム。制作を振り返るメディアのインタビューでは「愛のために多くを犠牲にしたの。子どもたちとキャリアのために時間を取り戻すことが、今の私にとっての勝利。」と語っていた。愛する人からの裏切りや別れを経験して悲しみに浸るバラード、相手に対する生々しく挑発的なディストラック、最愛の2人の息子と初共演したミュージック・ビデオなど、自身のリアルライフと心情の変化が如実に描かれた作品だ。

 会場には、フリンジスカートにカーリーなロングヘア、ゴージャスなベリーダンスの飾りを腰に付けたシャキーラ風スタイルの女子グループや、カップル、親子連れなど幅広い層のオーディエンスが集う。ラテン系のファンが非常に多く、あちこちでスペイン語が飛び交っていた。隣の席の子連れの父親が「うちの娘、コロンビアの子だからライブが始まったらかなり騒がしくなると思うけど、ごめんなさいね。」と、断りを入れてくれた。(コロンビアの女性は感情表現がストレートでいつも明るいと言われる)コロンビアの人にとってシャキーラはどんな存在か尋ねると、分かりやすい回答が返ってきた。「日本人はみんな大谷翔平が好きだよね?そんな感じかな。」

 アメリカのスポーツの祭典【スーパーボウル 2020】では、同じくラテン系女性のジェニファー・ロペスと共にハーフタイム・ショーのヘッドライナーを務めた快挙も記憶に新しい。2023年には米ビルボードによる第1回【ラテン・ウィメン・イン・ミュージック】で初の<ラテン・ウーマン・オブ・ザ・イヤー>を受賞。2024年の第67回【グラミー賞】では最新アルバムが<最優秀ラテン・ポップ・アルバム賞>に輝くなど、コロンビアをはじめラテン・コミュニティーから圧倒的支持を集めるシャキーラの存在感は、デビューから30年以上経つ今も偉大だ。



ラテン・コミュニティーと世界を繋ぐ、圧巻のステージングと選曲

 予定時刻を30分ほど過ぎ、会場が暗転。光り輝く白銀のヴェルサーチの衣装をまとい、数十名の女性たちを引き連れてステージへ向かうシャキーラ。サングラスを外してニコっとあどけない笑顔を見せる彼女の顔がスクリーン全面に映し出されると同時に歓声が上がり、最新アルバム収録曲「La Fuerte」で幕を開けた。ジャケットを脱ぎ捨て、左右の客席に手を振りながら花道からメインステージへと移動し、往年のポップスターを思わせるピンクのシャイニードレスに衣装替えして「GIRL LIKE ME」へ。本日のゲストであり、本楽曲の共作をしたブラック・アイド・ピーズと共演パフォーマンスを実現させた。「シャ、シャ、シャキーラ♪ラ、ラ、ラティーナ♪」と曲間でラテンの各国を紹介するパートでは、各出身地のオーディエンスたちが大熱狂。

 彼女のアーティストとしてのキャリア初期の楽曲「Estoy Aquí」のイントロが流れると、会場からは声援が沸き起こった。最後までずっとシンガロングが続き、一体感がさらに増す。「ハロー、ロサンゼルス!見てこの景色!今日は来てくれてありがとう!」と呼びかけ、「アウ〜!」と狼の遠吠えを響かせる。彼女の楽曲には、女性の強さや本能的なパワーの象徴として“雌狼”が多く登場する。ライブのグッズにも狼の耳のカチューシャがラインナップされており、ファンもスタッフも着用するほど定番化しているのだ。白いギターを手にして「Empire」で力強いロックサウンドをかき鳴らす姿を見ると、ポップ界だけでなくロックの領域でも彼女が健在であることを改めて思い知らされる。「Men in This Town」では、“LA”と書かれたキャップにスニーカーとスポーティーなスタイルでステージをパワフルに駆け回る。カリフォルニア・ロサンゼルスをキーワードにした本楽曲の披露に現地のオーディエンスは大盛り上がり。衣装替えを重ねながらもテンポよく曲が繋がり、彼女のスタミナと集中力の高さが際立った。



狼はシャキーラの分身——母として、女性としての象徴

 母親狼と二匹の子ども狼が森の中で共に過ごすシーンが映し出されたが、これはシャキーラと2人の息子サーシャとミランを表しているのだろう。狼のモチーフを胸元にあしらったドレスで再び登場し、「Acróstico」を披露。スクリーン左右に映る息子たちを見守る母としての優しい表情が印象的だった。舞台は森林から海底、そして、嵐から炎へと変化し、自然の猛威の中で繰り広げられる物語を演出。「最初の女性は男の肋骨から生まれたと言われるけど、本当は最初の男は女の腰(ヒップ)から生まれたの。ヒップは、嘘をつかない。(Hips Don’t Lie)」とタイピングされた映像に、会場は“待ってました!”と言わんばかりの熱狂の渦に。「シャキーラ、シャキーラ!」でお馴染みの大ヒット曲「Hips Don’t Lie」だ。スクリーンにはフィーチャリング・アーティストのワイクリフ・ジョンが大きく映し出され、「ウノ・ドス・トレス・クアトロ!(1・2・3・4)」という掛け声と共に、シャキーラはラテンのリズムに合わせてヘッドバンギングしながら髪をなびかせ、妖艶なダンスでオーディエンスを魅了した。

 「知ってる?歌には偏見を変えるためのパワーがあるってこと。少なくとも私にとってはそう。ここに独身の女性はどれくらいいる?(客席から多くの手が挙がった)独身の男性は?どんな道を選んでも、自分が自由を感じられる限りは幸せになれる。もちろん誰かを愛することは素敵なことだけど、自分自身を愛することのほうがもっと大事だと思うから。」スペイン語でトークを繰り広げ、社会の固定観念や偏見に縛られず、自由に生きる女性を称賛する「Soltera」(スペイン語で“独身女性”を意味する)を訴えかけるように歌い上げた。客席のリストバンドライトが白く光り、星空のように一面を照らす。ダイヤの涙をイメージさせる輝かしいマーメイドラインのドレス姿で「Última」をしっとりと歌う彼女の姿は眩く、神秘的な空間を作り出していた。舞台は一変し、真っ赤な炎を背に戦士のごとくエンパワーメントに満ちたベリーダンスで「Whenever, Whenever」へと送り込み、ライブは終盤へ差し掛かる。【FIFAワールドカップ】の公式応援歌として知られる「Waka Waka (This Time for Africa)」では、色鮮やかなステージとリズミカルなパーカッションが聴く人をハッピーで前向きな気持ちにさせ、アフリカン・ワールドミュージックの世界観に引き込んでいく。サウンドもビジュアルも次々と転換していく彼女のショーを通じて、まるで世界各国を旅しているかのような気分になった。



“もう泣かない”と決めた——ウーマン・パワーが降り注ぐ大団円

 本編を終えると、たちまち 「オトラ!オトラ!」(スペイン語で「もう一回」の意味)とコールが響き渡る。巨大な狼のバルーンが現れると、会場のあちこちから「アウ〜!!」と遠吠えが聞こえ始める。セクシーなジャンプスーツ姿で再び登場したシャキーラは「She Wolf」を披露し、ラストには「Shakira: Bzrp Music Sessions, Vol. 53」を堂々とパフォーマンスした。元パートナーとの別れや感情を強烈に表現したかなり攻撃的なこの曲をライブの締めくくりに据えるという攻めの姿勢に圧倒されるばかり。感情を音楽として力強く昇華させる彼女の“今”を象徴しているようだった。

 フィナーレでは、シャキーラの顔が刻まれた札束が天井から舞い降り、彼女のウーマン・パワーと成功の証が降り注ぐかのように豪華絢爛な景色が広がった。この約2時間に及んだステージは、“もう泣かない”と決めたシャキーラの心の中を精算するために用意された舞台であり、「私のファンは世界一。いつも支えられています。」と語るほど信頼を置くファンの前で新章の幕開けを祝う決起集会のようでもあった。一人の女性として、二人の母として、そして、みんなのリーダーとしてーー。シャキーラの遠吠えに呼応がある限り、彼女の音楽の旅は続く。


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