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<インタビュー>川谷絵音、楽曲制作がより自由に、想像以上に――次世代プロジェクト“夢ノ結唱”連載Vol.4

インタビューバナー

Interview & Text:小川智宏
Photo:興梠真穂


 「BanG Dream!」(バンドリ!)から生まれた新たな音声合成ソフト『夢ノ結唱BanG Dream! AI Singing Synthesizer』。「バンドリ!」のキャラクター4人の歌声を細かな歌い方や癖までを含めて再現できるこのソフトを使って、さまざまなアーティストが楽曲を作ったアルバム『CULTIVATION』がリリースされた。それぞれのアーティストが自身の個性をいかんなく発揮した楽曲たちをそう言われなければ気づかないほど自然に歌いこなすソフトの実力のほどもさることながら、各アーティストが「夢ノ結唱」という自由自在な「歌声」を得てのびのびと曲を生み出しているところにも、このアルバムの魅力はある。

 そんなアルバムに参加したアーティストのひとりが川谷絵音。かつて音声合成ソフトを使ったユニットを組んでいたこともある彼は「夢ノ結唱」にどんな面白さを感じ、どのように楽曲制作に挑んだのか、語ってもらった。

「自然に歌ってて、快感がありました」

――まず、今回のプロジェクトについて聞いたときはどんなことを思いましたか?

川谷絵音:最初はどういうプロジェクトなのかあまりよくわかっていなかったんですよ。それから「音声合成ソフトで曲を作る」ということなんだなというのを途中で理解した感じでした。「BanG Dream!」自体の名前は知ってたんですけど、THE SPELLBOUNDが参加しているというのを聞いて、これは思っていた方向と違うのかもしれないと思ったんです。「好き系のやつだ」という(笑)。作ってる人たちがかなり好き勝手やってるイメージがあったので、「これは好き勝手やっていいやつなんだ」と久しぶりに思って、嬉しかったです。


――どういうものか理解した上で、どんなことを考えたんですか?

川谷:こういう二次元の組み合わせのものって、今はすごく増えてきてるし、僕もVTuberに曲提供したりとかも増えたんです。でも、今回は生身の声というわけじゃなくて、ソフトで作るっていう――僕、一度そういう、音声合成ソフトで曲を作るプロジェクトをちょっとやってたんですけど。



――はい。休日課長とやっていた「学生気分」というユニットですよね。

川谷:あのときはあまりコミットできなかったんですけど、それから時が経って色々なものへの理解が深まったので、今なら上手くできるかもなみたいなことを思ったというか。しかもかなり自然な感じの声で、「もうこれでいいじゃん」となっちゃった部分もあった。人間とは違うんですけど、ものすごく難しいメロディもすごく正確に歌ってくれるから気持ちいいんですよ。


――なるほど。

川谷:楽曲提供のときに、「これはたぶんやめたほうがいいだろうな」みたいなメロディって結構あるんですよね。レコーディングはいいかもしれないけど、ライブとかでやらない曲にされるのが嫌だなと思ってやめたりとか。でもこれはそれも全部できるなって。長谷川白紙さんが作ってる曲を聴いての見て「これはそういうプロジェクトだ」と思ってすごく前向きにやれました。


――白紙さんの曲とか、かなりやりたい放題ですからね。

川谷:そう、やりたい放題だなって(笑)。


――学生気分をやっていた頃から今に至るまで、川谷さんのなかではソフトウェアに歌わせるということに対してはどういうスタンスなんですか?

川谷:学生気分のときは「とにかくやってみよう」という感じだったんです。でも……「自然にならない感じがいい」みたいなのをよくいうじゃないですか。そこが当時はあまりよくわからなかった。やっぱり生身のほうがいいなって。特有の「ケロる」感じとかが、いいとは思えなかったんですよ。でもそこからいろいろ聴いていって、こういうソフトでしかできないことっていっぱいあるなって思って。人間が歌えないメロディだったり、人間も歌えるけどソフトが歌ったほうが入ってくるメロディもあるし。そうやってどんどん受け入れ体制が整っていったところに、今回の話をいただいたので、凄くタイミングがよかった。



――生身の歌の代替品というわけではなく、別のものとして捉え始めたということですか?

川谷:そうですね。本当に難しいメロディも正確に歌えるということの特性というか。人間が歌うよさももちろんあるんですけど、人間が難しいメロディを機械的に歌うって、ちょっともったいない気がするんです。でも機械がやるのであればすごく難しいメロディを歌う意味があるというか。ただ、人間は人間の魅力というか、「その人が歌ってるから」という概念があるんで、結構そこで補完できちゃったりするんですけど、ソフトウェアが歌うとそれがないんで、かなりメロディを強くしないとのっぺりしちゃうんですよね。


――人間味で補完されないからこそ、メロディのよしあしがはっきりと出る。

川谷:そう。だから僕は今回、Aメロから何もかも、かなり強めにメロディを作るというのはすごく意識しました。


――うん。たとえば「あなたなんか幻」とかは、川谷絵音の武器というか、キラーメロディみたいなものを惜しげもなく出している感じがします。

川谷:そうですね。あれ、結構無理なコード進行なんですよ。無茶なメロディの動き方とかしてて、僕も自分で作ってて、歌ってみたんですけど歌えない(笑)。AメロからBメロに入れないんですよ。突然のコード展開でメロが覚えられない。「作る過程で自分で何回も分けて歌ったりとかして大変だったんですよ。でもソフトウェアだったらすごく自然に歌ってて、快感がありました。





Synthesizer V AI 夢ノ結唱 PASTEL/あなたなんて幻


――今言ったように分析してみたら無茶なメロディだったりするんだろうけど、パッと聴いた感じはまったくそれを感じないですよね。

川谷:そうなんですよ。すごいなと思いましたね。僕はメロを提供して、実際に打ち込むのはやってくれる人がいたんですけど、最初聴いて、人間が歌っているのかソフトの声なのか、全然わからなかった。メロディがすごく飛ぶところとかもちゃんと自然に飛んでるというか、無駄なしゃくりがないんです。それがものすごくよくて。でもちゃんとその人の声質があって、より人間に近い。今回作った2曲はどちらも結構女性の強さみたいなのを歌っているんですけど、それもちゃんと伝わる。歌詞を「歌わされてる」というよりは、ちゃんと「歌ってる」感じがするのがすごいなと思いました。


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  1. 「自分のバンドでできなかったことを」
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「自分のバンドでできなかったことを」

――先ほどの話にもありましたけど、こういうソフトを使う時に、あえて機械っぽくしていく方向と、より人間っぽくチューニングしていく方向と、大きく2つの方向性が考えられると思うんです。でも「夢の結晶」を使った曲を聴いていると、その二択じゃなくなっていく感じがします。

川谷:うん。すごくいいとこ取りな感じというか、凄く面白いなと思いましたね。


――しかも、元になっているのは「バンドリ!」のキャラクターですけど、実際そこに声を当てている声優さんがいるわけで、元をたどるとリアルな人間の声の再現という側面もあって。それもおもしろいですよね。

川谷:そう。だからこれ、自分の声でやったら仮歌とか作るときめちゃくちゃ便利じゃんって。機械上でやって、メロディ変更とかも歌い直さなくていいから。自分の声のやつほしいって思いました(笑)。


――川谷さんはもちろん自分でも歌うけど、自分で作った曲を誰かに歌ってもらうということも多いじゃないですか。それぞれの面白さや難しさについてはどう考えているんですか?

川谷:人に歌わせるときは、その人の特質とか声質もあるんで、その人に合わせる楽しさみたいなのがもちろんあります。自分じゃ歌えないものとか、僕が歌ってもあんまり入ってこないメロディもちゃんと歌ってくれるとか。特に女性に提供するときは、自分じゃ歌えないものを歌ってくれるから、自分の中でできないものをやってくれる感覚が毎回あって、それが楽しくてやってます。


――それと今回、ソフトで作るっていうのはまた違うことでしたか?

川谷:今回はもう、無理なことも全部やろうという感じだったというか。仮歌歌ってくれた子に「マジでこれやるの?」と言われましたからね(笑)。人間だとかなりきついものをできる機会だったので、「こんなこともできる、あんなこともできる」となりました。


――これからもやってみたいという気持ちはありますか?

川谷:やってみたいですね。実際にもっと使って曲作りたいなと思ったし、自分の曲の仮歌とかを歌ってもらったら新しい発見がありそうとか。そこから自分に落とし込むこともできるだろうし。


――今回川谷さんは「あなたなんて幻」と「私がマスター」という2曲を提供されましたが、それぞれの曲の着想自体、音声合成ソフトを使って作るという前提から出発したんですか?

川谷:そうですね。最初にコードを考えるときから結構「嫌な」コードにしようと思って。





Synthesizer V AI 夢ノ結唱 HALO/私がマスター


――嫌なコード?

川谷:人間が歌うとしたら「歌いづらいな」みたいなものだってできるってことだから。もともとそういうものが好きなので、いろいろできるなって。でも逆にいろいろできすぎるからすごい悩んだんですよね。どこからどう作っていこうって。


――先ほども「好き勝手やっていいんだと思った」とおっしゃっていましたね。

川谷:楽曲提供とかだとだいたい「こういうのでお願いします」とか僕の過去曲とか、何かしらのリファレンスがあるので、そっちに向かっていくんです。でもこれはリファレンスがない状態で始まった久々の制作だったので、自分の曲を作るのに近いというか、ゼロイチだったし、風呂敷が広がりすぎて。いろいろ作っては「これでもないな、あれでもないな」みたいなのをずっとやってました。結構長い期間スケジュールをいただいてたんで、考える時間がすごくあったんです。その間にもいろいろな楽曲提供とかをしていたんですけど、そこでできなかったこととか自分のバンドでできなかったことを結構詰め合わせて作りました。


――「あなたなんて幻」は「PASTEL」、「私がマスター」は「HALO」を使って作られていますが、声の違いなどは意識していましたか?

川谷:いや、それはその時はほぼ意識してなくて。メロディを歌ってくれて「これでよかったな」と思ったという。結果論なんですけど。


――それぞれの曲を作ってる中で難しかった部分やこだわりはありました?

川谷:普通、1番が終わったら2番のAメロに行ったりするんですけど、ボーカルソフトの企画なのにめっちゃギターソロを長くしたり(笑)。


――確かにどちらの曲も、もちろん歌がメインではあるんだけど、アレンジでめっちゃ遊んでる感じがあるなと思いました。

川谷:遊んでましたし、ギターソロからいきなり転調して歌に行くとかも普通だったら絶対嫌なんですけど、ソフトだったらできるから。そういう、ソフトでしかできないアレンジみたいなのを考えながらやってましたね。自由に考えながらも、結構複雑な展開なんで、じつは数学的に考えてる部分もあって。数学的に曲を作るっていうのもソフトで曲を作るというのに合ってました。結構緻密なコード進行で作ってるから、そういうのも最近あんまりやってなかったので、この機会をいただいて、その面白さみたいなのも久々に感じましたね。


――逆に、人が歌っていると予想外なことが起きることもあると思うんですけど、今回そういうタイプの驚きみたいなものはありましたか?

川谷:ありました。想像以上というか、聴いて「めちゃくちゃいい」と思って。最初、人間の仮歌で歌ったんですけど、やっぱりすごく違和感があって。無理してる感もあるし、ツギハギ感もあったからどうなんだろうなと思いながらだったんですけど、完成したら2倍も3倍もよくなって、このメロディにして良かったなと思いました。



――今回さまざまなアーティストが「夢ノ結唱」で作った楽曲がアルバムになったわけですけど、全体を聴いてどんなことを感じました?

川谷:みんな普段、楽曲提供を別の人にしている方も多いと思うんですけど、みんなすごく自分を出してる感じがしましたね。THE SPELLBOUNDの曲はすごくスペルバっぽいし、長谷川さんはもう本当に長谷川白紙って感じの曲だったんで。みんなが自分を出せる場所だなと思いましたね。


――どんなメロディを作っても文句言われないし(笑)。

川谷:そうなんですよね。もうちょっと言ってくれてもいいのになと思ったぐらい(笑)。あまりにも自由にやりすぎて「大丈夫かな」と不安になった(笑)。楽曲提供すると絶対に「もっとこうしてほしいです」というのがあるんですよ。そういうクライアントとのギリギリのやり取りみたいな作業があったりするんですけど、それがなかったから楽ではありました。


――それがこのプロジェクトの可能性というか面白さですよね。何やってもこの声になるし、歌えるし、曲になるっていう。

川谷:どんな曲を歌ってもまとまってくれるんで。人間だとそうならないじゃないですか。合わないなとかってこともありうる。それがないから、音楽作る上ですごく自由度が増すんです。だからこれからのクリエイターの人にとってもすごくいいんじゃないかなと思いますね。


――これだけリアルな声の再現性を持ったソフトなので、元々の声の持ち主が生声で歌ったりということもありそうですね。

川谷:うわ、それはやばいでしょうね(笑)。大変だな。それは俺、一切考えてなかった。人間が歌うことなんてもう一切考えてない。



――セルフカバーやってみても面白いかも。

川谷:ちょっときついな、セルフカバーは。でも本当に不自然じゃないし、パーって聴いたときにどれがソフトを使ってるかってわかんなさそうですよね。これはソフトだとわかってるからそう聞こえるかもしれないですけど、すごく再現度が高いですから。たとえば何かのアニメの主題歌とかがこのソフトで作ったやつとかでも全然いいと思うし、そっちのほうが、今までなかったメロディとかが生まれるんじゃないかなと思います。あとラップとかもできそうですよね。迷ったんですよ、ラップ入れるか。でも音程がないと変になるのかなとか勝手に思ってやらなかったんですけど、やればよかった。


――面白そう。

川谷:こういうのを使ってグループ作るのもいいですよね。そういうのもできますよね。


――ああ、AIだけのグループ。それをやるときにはぜひ、川谷絵音プロデュースで(笑)。

川谷:面白そうですよね。コーラスとかだってめちゃくちゃ高いところに上ハモを入れたりできるし。人間が歌っているものでもコーラスは機械で作ることがあるんです。でもやっぱりちょっと変になっちゃう。それがよさでもあるんですけど、そこら辺も自然になるというか、がんばらなくても高いキーが出ると思うので。自分の声にコーラスをさせるみたいなことをこのソフトでやってみるのも面白そうだなって。それは本当にやりたいですね。


川谷絵音


日本のボーカリスト、ギタリスト、作詞家、作曲家、音楽プロデューサー。1988年、長崎県出身。「indigo la End」「ゲスの極み乙女」「礼賛」「ジェニーハイ」「ichikoro」のバンド5グループを掛け持ちしながら、ソロプロジェクト「独特な人」「美的計画」、休日課長率いるバンドDADARAYのプロデュース、アーティストへの楽曲提供やドラマの劇伴などのプロジェクトを行っている。


夢ノ結唱 POPY・ROSE・PASTEL・HALO「CULTIVATION」

CULTIVATION

2025/07/16 RELEASE
BRMM-10953

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Disc01
  1. 01.停止線上の障壁(バリア)
  2. 02.世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて
  3. 03.Little Lazy Princess
  4. 04.汀の宿
  5. 05.ポータルB
  6. 06.Hatch
  7. 07.ヌード
  8. 08.antidote
  9. 09.流れ星のダーリン
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  11. 11.最も濃いもの
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  14. 14.あなたなんて幻
  15. 15.手を叩け今ここで祈るだけ願うだけ
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  17. 17.すべてがそこにありますように。
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  19. 19.Leap up Lollipop
  20. 20.心の愛

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