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<インタビュー>日本の音楽シーンに新たな風──ALYSAによるクリエイティブレーベル「O21」始動 プロジェクトにSIRUPも参加

Interview & Text:三宅正一
Photo:筒浦奨太
日本の音楽シーンに新たな風を吹き込もうとするクリエイティブレーベル「O21(オートゥワン)」が始動した。レーベルヘッドプロデューサーを務めるのは、aespa、LE SSERAFIM、NMIXX、MISAMO、BE:FIRST、ENHYPEN、SuperM、Red Velvet、SixTONES、NiziU等、日本・韓国のトップアーティストに楽曲提供を行ってきたプロデューサーであるALYSAだ。
「O21」が掲げるのは「クリエイティブファースト」という理念。アーティストファーストでもビジネスファーストでもない、創造性を最優先に据えた音楽作りを目指している。そして今後、全貌が明らかになる第一弾の楽曲制作には、作詞でシンガーソングライターのSIRUPが参加。「0から1を創る」をコンセプトに、両者がタッグを組んだ化学反応について語ってもらった。
「クリエイティブを練り上げるということを一緒にできる場所を作りたい」
――まず、お二人の出会いから教えてください。
SIRUP:去年、共通の友人であるライターの竹田ダニエルを通じて会ったのが最初で、実際に会ったのはまだ4回目ぐらいなんです。でも出会ってからすぐにLINEでのやり取りが多くなって、最初のLINEの感じで「これは絶対仲良くなれる」って直感しました。なんか、お互い相手に自分を解放するのが早かったんです。
ALYSA:もう一発目からバーッと意気投合しましたね(笑)。
SIRUP:非常に言葉では伝えにくいんですが、言葉遣いとか例え方、そのあたりのテンションや勢いが最高なんですよ。LINEの会話の速度とか、表現の仕方とか。
――ALYSAさんから見た、出会う前のSIRUPさんの印象は?
ALYSA:一言で言うなら、アーリーアダプター層って呼ばれるようなリスナーが好むような音楽をひたすら第一線でクリエイトしている方、という印象でした。こちらが聴いて「うわー!」ってテンションが上がるような音楽って、やっぱりアーテイスト性を突き詰めないと書けないと思うんです。一日で書けるようなものではない、一部屋で作れるようなものじゃないだろうなって。
だから、どういう方なのか、もしかして気難しいのかなとか色々想像していたんですが、実際お会いしたら全然シャープで気難しくなくて。SIRUPの楽曲からは色んな葛藤を乗り越えた深いものを感じていたので、一度お会いしてみたいと思っていたんです。ただ、出会ってそれほど時間が経ってない段階でこうやってプロジェクトをご一緒できる仲になるとは想像していませんでした。
SIRUP:光栄ですね。僕は自分のやりたいことをやっているだけではあるけど、そういうイメージを持たれるような形になっていることをうれしく思います。自分的にはいつも直感的に自分の好きなことをやっているという感じなんです。
でもALYSAはプロデューサーとして世界中で活動していて、それをちゃんとヒットにも繋げている。僕もたまに楽曲制作の依頼をいただくことがあるんですが、本当にめちゃくちゃ難しくて。ALYSAは自分と違うことをやりつつ、でも、共感する場所がめちゃくちゃあって。近くて遠い感じがする。そういう意味でもめちゃくちゃ尊敬しています。多様な音楽を形にするという経験値が僕よりある人だと思ってます。
ALYSA:すごく褒めてくれてる(笑)。本当にお互いをリスペクトし合っているという感じです。
――ALYSAさん、今回O21を立ち上げた経緯を教えてください。
ALYSA:これはSIRUPも共感してくれるところがあるかもしれないんですが、私はSIRUPとはちょっと違う分野に関わることが多かったんです。その中で感じたのは、彼ら、彼女たちは歌って踊るというスキルを身につけるだけではなくて、その先で自分たちの表現したいものをちゃんと持っている子たちがすごく多いということでした。そこに対してのリスペクトを私は持っていたいと思っていたんです。
でも歌と踊り、ビジュアルが全面にフィーチャーされてしまうと、彼ら、彼女たちの表現性を自分のクリエイティブを通して押し上げてあげることが難しい、たどり着けないと感じることがどうしても多かった。それがすごく残念で、そこをなんとか打破できる場所を一つ自分でも持っていたいし、彼ら、彼女たちとクリエイティブを練り上げるということを一緒にできる場所を作りたいと思っていました。
SIRUPと出会って、アーティストとしての表現を突き詰めることにすごくこだわりを持っていることを深く知り、アーティストを目指す人は、ジャンルが違えど、その真ん中にある部分は誰しも持ってるよなということを改めて思ったんです。今回、O21の所属アーティストの作品を作る上でSIRUPにいろいろサポートしてもらっているのですが、それをより強く再確認できましたし、そういう意味でもすごくありたがった。
――今おっしゃっていただいたことが、まさにレーベルの理念である「クリエイティブファースト」の核にあるものだと思います。どうしてもアイドルやダンスボーカルというキーワードでラベリングされていって、ショービズとしてはうまくいく側面もあるけれども、メンバー個々人の創造性の根幹にあるものが消失されてしまう部分があるという危惧があったと。
ALYSA:そうですね。消費されるだけではちょっともったいないと思っていたので、それは避けて、もっと彼ら、彼女たちが持っているクリエイティビティを出せる場所があってもいいと思っていました。
SIRUP:今回楽曲制作のオファーをいただいた時に、やっぱりレーベルの理念に共感できるかどうかがすごく大事だと思っていたんです。
今、アイドルカルチャーが過去最大に広がっているなかで、多種多様なグループなどが生まれている。僕がいちアーティストとしてもシンプルに思うのは、メンバーがいろんな経験をするなかで、自分たちの中で必ず「音楽でこういうことを表現したい」という願望は絶対に成長の中で生まれてくるはずなんです。
でもそこは結構コントロールされがちだったり、アイドルという文脈から外れる活動はしづらい状況があるのかなと。でもミュージシャンって、音楽に関わっていく以上、どうしても自分のクリエイティビティが生まれていくし育っていくんですよ。そこをちゃんと取りこぼさずに育てていくというレーベルの理念はすごく共感できるし大事だと思い今回参加させてもらいました。
- 「日本の音楽業界を世界にプレゼンする大きなビッグバン」
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「日本の音楽業界を世界にプレゼンする大きなビッグバン」

――プロジェクトが具体的に動き出したタイミングは?
ALYSA:SIRUPと仲良くなって、かなり早い段階だったと思います。こういうビジョンがあって、レーベルが本格的に動き出して、いつ何をリリースするというプランが見えた瞬間にはもうすぐにお声がけしました。
SIRUP:しかも最初に会った時から自然にそういう話の流れになったんです。今の時代はアイドルだけじゃなくて、若いアーティストたちは「自分のクリエイティブって何だろう?」って自問自答する前に、評価の対象にされてしまうことがあって。SNSをはじめ外の目線を気にしすぎるタイミングが早く来てしまう。そこを危惧していたんです。
僕自身はいろんな経験をしながらじっくりキャリアを積む時間があったんだけど、「今はそういう現場が少ないかもしれないね」という話を彼女として。その流れで「今後、こういうことを考えてる」という話をその時もしていたなって、今思い出しました。出会ったタイミングが良かったですね。僕もキャリアとしてこれまでとはちょっと違うことをやってみたいという気持ちがあったので。これまでの作曲のオファーをいただいてきたんですけど、お断りすることが多くて。そんななか、例えば三宅健さんに楽曲提供(「Ready To Dance」)をしたり、そういう動きをしていたタイミングだったので。
――ALYSAさんがレーベル運営を考え始めたのはいつ頃から?
ALYSA:1、2年ぐらい前からいつかやらないといけないと思っていました。アーティストがアーティストをプロデュースするという動きが出始めたのが、コロナ禍ぐらいからだったと思います。その頃に自分も音楽プロデューサーとしての立場で、そういうプロジェクトにたまたま関わらせてもらう機会がすごく増え始めて。
アーティストがプロデュースすることの良さって、パフォーマンスする上での苦悩とか、どこで何を見せたいかということをプロデューサーが分かっていることだと思うんですね。それはパフォーマンスを作る上でめちゃくちゃ役立つので。
その上で音楽プロデューサーが立ち上げるレーベルから生まれるアーティストであれば、プロデュースする子たちが持っている個性でありクリエイティビティを活かした曲を作るということ、ヒットを生むということに関しても、間違いなく貢献できるし、確率論的にも高いはずだと。
今、日本の音楽業界を世界にプレゼンする大きなビッグバンを起こせるという波を感じていたところがあったので、絶対にそれを逃したくないと思いました。

――SIRUPさんにとってもキャリアの転換点だったということですね。
SIRUP:僕は自分のために自分の曲しか書いたことないから、プロデュースって難しいなと思ってたんです。その辺をもうちょっと打破したいという気持ちもあったし、このプロジェクトに参加することで、そこからまた自分の音楽に活かせるものもあるだろうなと思いました。

――ALYSAさんは今後も他のレーベルからの楽曲提供は続けていく予定ですか?
ALYSA:それは時間を見つけながらになると思います。私はこれまで力ずくでドアを開けてきたんですよ。最初のキャリアのスタートは、DMとかFacebookのメッセンジャーを使って、「私の曲を聴いてよ」って送りまくっていたんですね。カナダでキャリアをスタートしたので、日本の知り合いが誰もいないところから始まったんです。
曲を送っても9割9分無視されるんですけど、残りの1%の人が曲を聴いてくれてオファーをくれる。
今でも例えばK-POPだったら、本当に何千曲の中から1曲選んでもらう世界なんですよ。決め打ちの仕事よりも、とにかく曲を出して、選んでもらってきたことが私のキャリアになってます。
これからもそれをずっと続けていって、ボコボコにされる感覚がないと、たぶん自分の感覚がぬるくなると思うんですね。だから、挑戦を続けていかないといけない。今は最初からプロデュースのオファーをしていただくことが多いですが、それに甘んじてるとダメになりそうなので、ずっと何千曲の中から1曲を選んでもらって「選んでもらえる、勝てるものがある」という世界でちゃんと戦っていかないといけないと思っています。

――SIRUPさんの場合、これまでクリエイティブファーストな環境にいることのほうが多かったと想像します。
SIRUP:そうですね。僕の場合は本当にクリエイティブファーストすぎる環境にずっといたので、それは運だなと思ってるんです。どこの誰と関わっても、そこを大事にしてくれていたし、逆に言うと僕にやりたいことがないと物事が進まないという環境にずっといます。
ただ、その中で同時に「これでいいのか?」というクリエイティブに関する不安は常にあって、コラボ相手にも「本当にこれで大丈夫かな?」というやり取りをよくします。そういう意味でも、自分が歩んできた道とは異なるキャリアを積んできた人と一緒にやる経験が自分の中でも大事だなと思ったので、今回そこのスイッチが開いたのかなと思います。
ALYSA:彼にアーテイストとしての強いこだわりがなかったら、自分のビジョンと合わなかったと思います。彼がそれを手放せないからこそ、すごく信頼できますよね。
- 「O21」に懸けた想い
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「改めてのアルバムを『物語』として捉えて、楽しんで欲しいなと思いました」
――創作活動におけるリズムの取り方についてはいかがですか?
SIRUP:僕はリリースしたら枯渇するというか、休まないと出ないです。「曲を作らないと、作らないと」ってなると、作れてないことがマイナスに感じる日が絶対に来るんです、アーティストって。
でも「作れないのは作ったからだよ」って思うようにしてるんですね。僕は基本的に日常で感じたことしか曲に書かないので、忙しくて日常がなくなると曲に書けるものもなくなってくる。でも、一回落ち着くと、過ぎ去ったその時間が自分にもたらしたこういう影響があるんだと理解できる。だからこそ、自分と向き合うための休みがすごく大事だなと思います。
それを学んだのもこの3、4年とかなんです。基本的には動き続ける人間だったんですけど、最近は強制的に休んで動と静のバランスを取ってますね。
ALYSA:私はそういう感覚があまりないです。おそらくアーティストならではですよね。
SIRUP:どうやってクリエイティブのエネルギーを作ってるの?
ALYSA:その発想がない。1日4曲くらい書いて送って、とにかくいい曲って思ってくれる人を探す、それをしないと自分が生きていく道を見つけられないという戦いでしかなかったので。自分の書きたいものを書いて、それをいいって思ってくれる人を見つけようっていう気がまずなかった。
だからSIRUPの感覚は、これから私のレーベルに所属してくれるアーティストもすごく大事にしてほしいと思うし、伝えたいと思います。
SIRUP:やっぱりその話を聞いてもプロデューサーとアーティストという組み合わせがすごく大事だなと思いました。
ALYSA:対になって、一緒に手を組み合ったらすごくいいものができるというイメージですよね。

――「O21」というレーベル名に込めた思いを教えてください。
ALYSA:「新しいものを作ろう」とか「世界に行こう」ってワードとしては聞こえがいいなってと思うし、簡単に言えると思うんです。でも、私がカナダから日本に戻ってきて、初めていろんなアーティストや作家さんとお会いして思ったのは、日本の音楽業界を紡いできてくれた人たちがたくさんいるということでした。
日本って文化をたくさん持っているじゃないですか。その中で生まれてきた音楽もやっぱりあるんだなと思った。
それが「新しいものを生み出そうぜ」という意識の中で途切れちゃうのはもったいないと思ったんです。私はカナダという外に出たことでそういう視点を持てたと思っていて。ここまで日本の音楽文脈を紡いできてくれた人たちの思いをつなげるということも、レーベル名に意味として込めたかった。
「O21」を反対に読んだ時に「12O(ITO)」と読めるのはそういう思いからですね。
――SIRUPさんもこの考えに共感されますか?
SIRUP:僕も特にこの4、5年は海外アーテイストとのコラボにすごく力を入れてきたので、やっぱり彼らは日本人だから出てくるものを面白いと思ってくれてるなという感覚があります。例えば英語で歌うなら、日本っぽいメロディーを英語で歌えば面白いかもなとも思うけど、音節が難しかったりする。だからこそ自分の中にも凝縮されている絶対に剥がせない、日本の音楽を聴いてきたレガシーが重要だし面白いんだなってすごく感じたここ5年ぐらいだったので。すごく共感できる話ですね。

――今後の「O21」の方向性について教えてください。
ALYSA:今回、レーベルの立ち上げの段階からSIRUPに関わってもらいたいとオファーしたこともそうですが、やっぱり自分のクリエイティブに対してちゃんとしがみつく強い想いのあるアーティストと活動していきたいと思いますし、一緒にクリエイティブを練り上げていける人たちとともに歩みたいと思っています。
SIRUP: レーベル立ち上げの最初のタイミングで関わらせてもらって、こういう信念があって共感できる信念があるプロジェクトに、しかも最初に作詞で携わらせてもらったのは非常に光栄です。これからどういうレーベルになっていくのは、ここからは外から見て楽しむような流れになると思いますが、すごく楽しみです。
――お二人の今後のコラボレーションの可能性は?
SIRUP:次は僕のプロジェクトで一緒にやらせてもらえたら。
ALYSA:もう絶対にお願いします!
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