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<インタビュー>上野大樹、「自分の積み重ねから生まれた楽曲になった」――NHK夜ドラ『あおぞらビール』に書き下ろした「あおぞら」&挑戦を続ける理由に迫る

インタビューバナー

Interview & Text:沖さやこ
Photo:興梠真穂



 上野大樹が新曲「あおぞら」をデジタルリリースする。同曲はNHK夜ドラ『あおぞらビール』の書き下ろし主題歌。初夏の雰囲気漂う爽やかなメロディに乗せて現代を生きる若者のリアリティを歌う、軽やかさと穏やかさの中で心の機微を描いたポップソングだ。

 昨年のツアーを経て2025年頭には手術を行い、それがターニングポイントとなった上野は現在“Change”を掲げて様々な可能性を探している最中だという。『あおぞらビール』の登場人物のように、迷いながらも楽しみながら歩みを進める彼は、「あおぞら」の制作でどんなトライをしたのだろうか。プラネタリウム、能楽堂、ビルボードライブ横浜でのライブについても聞きながら、彼の現在を探った。

全世代の“二十歳の頃”をくすぐられる歌を作りたかった

――2025年初の新曲「あおぞら」はNHK夜ドラ『あおぞらビール』の書き下ろし主題歌です。ドラマの主題歌は昨年の『アンメット』オープニングテーマ「縫い目」以来ですね。

上野大樹:NHKドラマの主題歌を担当させていただくのは目標のひとつでもあったので、すごくうれしかったです。今年の3月の頭に脚本をいただいて、「若者が主人公の作品なので、若者の視点で自由に書いてください」と依頼を受けて曲作りに入っていきました。ストーリー自体は柔らかくてあったかい、優しいドラマなんですけど、端々に若者特有の葛藤や抱えている悩みが見えてきたので、そういうところを楽曲でしっかりピックできたらいいなと思っていました。


――ドラマの主要登場人物は大学生で、窪塚愛流さん演じる主人公の森川は、就職活動をしなければいけない時期であるものの数社受けて離脱するという役どころです。

上野:森川はどんな人に対してもオープンで優しくて、はたから見ると強そうなんだけど、きっとひとりのときはいろんなことを頭の中で考えているタイプだと感じたし、森川みたいな若者はたくさんいるなとも思いました。そういう強さと弱さをどちらも表現したかったんです。だから自分の経験を反映させたというよりは、森川の心情にフォーカスしていったので、作品に書かせていただいた曲だなと感じます。


――それだけ上野さんのマインドがオープンだったんですね。実際に「あおぞら」は作品のイメージを余すことなく詰め込んだ、風通しのいい曲だと感じます。

上野:自分が書いているなら自分の要素は自然と滲み出るものだと思ったし、あと「あおぞら」に関しては今年の1月の終わりから2月の頭まで手術入院をしたのも結構大きい気がしていて。1週間ぐらいずっと病院の中にいたので、退院して閉鎖的な空間からパッと放り出されたときに「世界ってこんなに自由なんだ」みたいな感覚があったんですよね。「自分もまた1から頑張ろう」「前向きな歌を作りたいな」とも思ったので、その心境の変化が投影されました。


 メロディは最初にできたデモからほぼほぼ変わってないんですけど、歌詞に関しては「もっと上野さんの雰囲気で自由に書いてほしい」と言っていただいて、ちょっと悩んじゃいました。それでもう少し自分の感情を掘り下げてみたり、大学時代に音楽の道を選んだときのことを思い出してみたり。そこから主観的な要素が増えました。


――〈僕に似合う色は僕が決めるから〉などでしょうか。

上野:これは個人的なところから引っ張った歌詞ですね。手術をした後から、ライブ衣装でいろんな服を着るようになったんです。そしたら自分の殻を破れた感覚があって「どんな色を着ていても自分は自分だし」と思ったんです。そういう部分も反映しつつ、〈誰と同じでも誰と違うでも/胸が痛くなった〉は自分の天邪鬼なところが出ていると思います。自分のアイデンティティを突き詰めすぎるから生きづらさを感じやすかったりもするので、そういう自分の面倒な性格にしっかり向き合いながら書きました。


――確かにその歌詞は、上野さんのパーソナルなところと『あおぞらビール』という作品がリンクする印象的なラインでした。

上野:やっぱり自分は高校生の頃に、自分のアイデンティティだったサッカーをケガで失ったことで音楽を始めているので、そういうところに人一倍固執しているというか、今でもコンプレックスがあるんだろうなと思います。だから油断すると当時の自分の感覚に戻ったりもするんです(苦笑)。そういう要素も照らせたらいいなと思いました。だから結果的に、今までの自分の積み重ねから生まれた楽曲になったなとも感じています。


――タイアップありきで生まれた楽曲であると同時に、今の上野さんのモードが反映されたということですね。『光り』のときに「カーテンを開けるようになった」とおっしゃっていたので、“青空”というテーマはそれを彷彿とさせました。

上野:最近はカーテンを開けるどころか、ベランダでコーヒーを飲むぐらいにまで進化しました(笑)。だからこそ自分の悩みとか葛藤だけでなく、いろんな人のそれを書きたいと自然に思うようになっているのかな。もともと子どもの頃から“青空”が好きだったのと、『あおぞらビール』という作品にもいろんな世代の人たちの童心を感じたので、自分が子どもの頃に観た景色も描きたかったんです。


――確かに“今”というものは過去の積み重ねがあって存在するものですものね。だからこそ自然と現在には過去が浮かび上がってくるというか。

上野:僕にとっての青空は、地元の山口にいた頃に観ていた真っ青な空なんですよね。サッカーをやっていたから晴れているとうれしくて、その名残で今でもやっぱり晴れだと気分がいいんです。子どもの頃はプライドや汚れもなく、ただただひたすら上手くなりたいからサッカーに打ち込んでいて。『あおぞらビール』からはそれに近い純粋さを感じたんです。監督さんやプロデューサーさんと打ち合わせをしたとき、作り手の皆さんもものづくりに対して少年の心を持ってらっしゃると感じて、「いくつになってもあの頃の気持ちのままものづくりをしている人がこんなにたくさんいるんだ」とすごくうれしくなりました。そういう全世代の“二十歳の頃”をくすぐられる歌を作りたかったんです。


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音楽に特化した場所という枠を飛び越えてみたい

――「あおぞら」のアレンジを手掛けているのは、上野さんの制作チームのメンバーであり、ライブのサポートもなさっている村田昭さんです。これまでの上野さんにはなかったアプローチのポップソングですが、どのようなイメージでアレンジを固めていったのでしょう?

上野:まずは「みんなを踊らせたい」「聴きながら身体を揺らして楽しんでもらいたい」と思っていて。弾き語りでデモを作ったときからああいう感じのリズムをちょっとだけつけていました。チーム全体で「2025年は今までとは違った新しい上野大樹を見せていきたい」という思いから“Change”を掲げて動いているので、自分としてももっともっと可能性を広げていきたくて、それはアレンジ面にも反映していました。


――先ほどおっしゃっていた「ライブ衣装でいろんな服を着るようになった」というのは、心境の変化だけでなく“Change”を掲げていたことも理由だったんですね。

上野:今までは歌詞もメロディもサウンドも“自分であること”にこだわりすぎていた部分が多かったと思うんです。それをもうちょっとオープンマインドに、人(ニン)として音楽を伝えていけるような人になれたらいいな……と今は“Change”にチャレンジ中なんです。いろんな服を着て、ハンドマイクでパフォーマンスして、ステージを動き回ったりして。そうやっていろんな音楽をいろんな方法で体現できるようになれたらいいなと思いながら、挑戦している最中なんです。


――その精神性を楽曲に落とし込んだのが「あおぞら」であると。

上野:今までの僕の曲は人知れず抱えている寂しさに寄り添ったり、みんなの中にある悲しい気持ちを肯定するものが多かったんですけど、聴いて「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えたり、明るい気持ちになってくれる曲も作りたくて。昭さんとやり取りを重ねる中で自分にどんどんアイデアが湧いてきて、それを昭さんが音で返してくれて。自分の思い描いたものと化学反応が生まれたものが合わさって、想像以上に化けた楽曲になりました。


――「あおぞら」はコーラスワークも印象的でした。

上野:それこそ昭さんの発想ですね。コーラスは全部僕が録っているんですけど、今まであんまりコーラスというものを意識したことがなかったので、レコーディングでかなり苦戦しまして……(苦笑)。ボーカルとコーラスの表現は全然違って、細かいニュアンスが必要なんです。「ただ平坦に歌うだけじゃかっこよくないよ」と言われて、「コーラスの“かっこいい”ってなんですか?」という初歩の初歩から意見交換して、自分でもコーラスが素晴らしい曲をいろいろディグりました。


――上野さんはもともと声や歌を大事にしたサウンドメイクですし、コーラスは声のアンサンブルという意味合いもあるので、コーラスと向き合うにはいいタイミングだったかもしれないですね。

上野:「これとこれを重ねるとこんなふうになるんだ!」という感動もありましたし、コーラスがグルーヴを作ったりもするんですよね。今までは自分の歌1本で、ハモり自体入れていない曲もたくさんあったので、今回で新しい発想が吸収できました。昭さんは僕のインディーズデビューから一緒にやってもらっていて、僕の全部を知ってくださってる方なんです。しっかりと人として向き合ってくれて、僕の意図を汲み取りながらプロの視点で「上野くんはこういうことも絶対にやっていったほうがいいよ」と導いてくれるので、毎回ひりひりする制作なんです。ボーカリストとしても「あおぞら」で歌い方の幅も広がったし、ブレスの位置でグルーヴが変わる面白さも知ったし、多方面に可能性を広げられたなと感じます。『あおぞらビール』が“Change”にブーストをかけてくれて、本当に自分は運がいいなと思っています。



上野大樹 /「あおぞら」Music Video 【NHK夜ドラ『あおぞらビール』主題歌】


――可能性を広げるという意味では、多彩なライブ会場もとても興味深いです。6月はプラネタリウム、7月には能楽堂、8月にはビルボードライブ横浜にてワンマンライブが決定しています。

上野:これもすべて奇跡的に舞い込んだお話で、やっぱり自分はすごく運がいいなと思います。来てくれるお客さんの思い出に残るものにしたいので、ライブを作品として捉えた場合、いろんなところで音を鳴らして、それによって聴こえ方や見え方が変わっていけると面白いんじゃないかなって。


――確かに上野さんのライブは、ゆとりのある空間のほうがじっくり味わえるかもしれません。

上野:僕自身がライブハウスにいっぱい出てライブを鍛えてきたタイプというよりは、路上ライブや配信のような、気張らずに音楽ができる場所で精力的に活動してきた実感があるんです。見える景色が変わるのは楽しいので毎回新鮮な気持ちですし、音楽に特化した場所という枠を飛び越えてみたいんですよね。


――どうやら各会場の雰囲気に合わせたライブを考えているそうですね。

上野:心の中でじっくり楽しむだけでなく視覚的にも楽しめるものにしたいので、プラネタリウムは夜空の下という環境に身を任せていい歌を歌いたいですし、能楽堂は日本的な会場だし夏なので、浴衣を着ようかなと思っていて(笑)。皆さんも能動的に参加できるようなイベントを作っていきたいので、夏っぽい格好で来ていただけたらうれしいな。ビルボードライブは久々のフルバンドセットでのライブを予定しているので、また全然違うものになると思います。


――ビルボードライブ公演の【上野大樹 band set Billboard Live -the pitch to the spotlight-】は、お昼の1stステージと夜の2ndステージの二部制で、それぞれ異なるテーマが設けられるとのことで。

上野:はい、それぞれ異なったテーマでお届けする予定です。バンマスの昭さんを筆頭に錚々たる方々がバックバンドについてくださるので、刺激的で実験的なライブになる予感がしています。ビルボードライブでのライブはミュージシャンとしても憧れなので、少年のような気持ちで挑むライブになりそうです。「上野大樹のライブってこんなこともできるんだ! じゃあ今後もっといろんなライブに行きたいな」と思ってもらえるライブにしたいですね。


――今回お話を聞いて、上野さんは現在進行形で可能性を広げていることを実感しました。これまでの経験が糧になって、いろんなものに挑戦しているんだなと。

上野:びくびくしながらいろんなことに挑んでいます(笑)。僕が大好きな尊敬する方々……ミュージシャンに限らずお笑い芸人さんとか俳優さん、監督さんは変化を恐れず進んでいるんですよね。時には失敗しつつ、でも後から振り返るとそれも味になっている。ずっと同じことを追求するのも素晴らしいことだけど、自分はまだまだ音楽を始めて間もないですし、自分の得意分野だけに収まらず、楽しんで挑戦する姿を応援してくれるみんなに観てもらえるように頑張ってみようかなって。


――堂々と宣言というよりは、若干の照れを感じさせるところもリアルです。

上野:ほんとに踏み出したばかりなので(笑)。でもようやく誰かに委ねることに踏み出せたのは自分にとって大きいです。今までは全部自分でやらないと自分が自分でなくなるような感覚があって……それは自分に自信を持てていなかったからなんじゃないかとも思うんです。自分の中にある「こうなりたい」を突き詰めるだけでなく、周りから言ってもらった「上野くんのこういうところがいいよね」を受け止めていきたい。自分以外の人の判断に委ねることで、もっと自由になれることもたくさんあるんじゃないかなって。


――いろんな人の力を借りて、幅広い視野を手に入れるような。

上野:そうですね。僕はソロミュージシャンではあるけれど、チームで動いていろんな人に応援してもらっている以上、自分ひとりのものではないし、ひとりよりもみんなを巻き込んだほうが楽しいことに気づいたんです。僕を支えてくれる人たちのマインドを自分にしっかり投影しながら、みんなに応援されるアーティストになっていきたい。もちろんその道のりにはしんどいこともあるけれど、それも全部大事な成長痛だと思うんです。しっかり逃げずに立ち向かって、乗り越えた先に何があるかをしっかり自分の目で見ていきたい。戦いつつ委ねつつ、進んでいきたいですね。


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