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<ライブレポート&インタビュー>もっとみんなの声を聞きたい――手がクリームパン、大きな決断“顔出し解禁”を告げた2ndワンマン

Interview & Text:矢島由佳子
変化した手がクリームパンを見ていただけるように
5月24日、東京・渋谷WWW Xにてシンガー・ソングライター、手がクリームパンがワンマンライブ【手がクリームパン 2nd Oneman Live『steps』】を開催した。2020年にTikTokへの動画投稿を開始し、2021年9月に初のオリジナル曲を発表した手がクリームパンにとって、9か月ぶり2度目のワンマン。会場には国内のみならず、中国や韓国からもファンが集まった。
この日のライブタイトル『steps』には、「アーティストとしてステップアップしたい」という彼女の強い意志が込められていた。そして、ここで彼女は大きな決断を発表した。ライブ以外の場では顔を隠していた手がクリームパンだが、この日から顔出しして活動することを宣言したのだ。
手がクリームパンは、聴き手と友達のような関係性を築き、音楽で“寄り添う”ことを大切にしているアーティストである。これまでは主に恋愛で揺れ動く心に寄り添ってきたが、この先は、人生におけるさまざまな場面に寄り添える音楽を届けていきたいという。音楽で人に“寄り添う”ことについて毎日考えている彼女だからこそ、その難しさもよく理解している。「寄り添うって、すごく難しいことだなって痛感した。それぞれに生活があって、苦しいことも悩みもつらさも違う。その一つひとつに寄り添えているのかなって、自信がなくなることもあった。だからこそ、もっとみんなの声を聞きたい。みんなが何に悩んで、何がつらくて、どんな自分が嫌いで、逆に何が楽しくて、何が好きで、どうなっていきたいのか。もっとみんなのことを知って曲を書いていきたい」。これはライブの途中で彼女が語った言葉だが、自身の素顔も人間性もオープンにしたうえで、人間が抱える多彩な感情を作品に昇華しながら、より多くの聴き手と深くつながりたいという想いから、顔を出して活動する決断を下したのだ。
前回のワンマンライブの会場である渋谷eggmanから、9か月のあいだにいくつものライブを重ねて、渋谷WWW Xへと辿り着いたストーリーを表したオープニング映像(この中でも手がクリームパンの顔は堂々と映されていた)を経て、1曲目に演奏したのは「本気で恋してたって話」。この日を境に始まるのが手がクリームパンの第2章とするならば、第1章の彼女の代名詞とも言える恋愛ソングを、彼女の持ち味である今にも涙が溢れ出しそうなくらい繊細な歌声を震わせて届けた。続けて、手がクリームパンのライブを9か月間も待っていたファンの気持ちを代弁するように「会えなくても繋がってる」を歌って、最後には「会いに来てくれてありがとうございます!」とシャウト。そこからオーディエンスの目を見ながら歌った「1%の奇跡」「弱虫のち晴れ」では、行き詰まったり転んだりした日さえもポジティブに捉えさせてくれるような、手がクリームパンらしいエネルギーが降り注がれた。
その後、曲の一部分のみをSNSにて公開している「生きている」のフル尺を初披露した時間は、この日のハイライトのひとつだ。「私がつらくて、しんどくて、ここからいなくなっちゃいたいなと思うようなときに書いた曲」と語ってから歌ったこの曲には、〈もし君が逃げたくなった時は思い出してほしいの 君には君を大切に思う人が必ずいること〉など、手がクリームパンがリスナーに向ける想いや、これからどんな音楽を届けたいのかを表現した言葉が詰まっている。この楽曲がリリースされたとき、きっと手がクリームパンのイメージが更新されるだろう。
続いて、スペシャル・ゲストの上野大樹が登場したシーンもこの日のハイライトだ。今月リリースした「消えないで (feat. 上野大樹)」をライブ初披露。手がクリームパンにとって上野は以前から大尊敬する存在であり、アーティストとしてステップアップしたい想いから、自分にないものを持っている上野にコラボレーションをお願いしたという。上野はこの曲を「生きていくうえでの迷いも自分のものだよって肯定してほしいなと思って書きました」と語り、手がクリームパンは「自分自身も救われた曲」と紹介。二人が目を合わせて、声を重ねると、どんなに暗く重たいネガティブな感情も包み込んで美しいものへと変えてくれるような力が生まれていた。
上野が代表曲「ラブソング」も歌い届けたあと、手がクリームパンはジャケット・スタイルに変身して登場。会社員として働いていた頃のリアルな気持ちを歌った「お先に失礼します」を初披露した。主に恋愛ソングを歌ってきた手がクリームパンにとって、これも新たな一面だと言えるだろう。
ライブが終盤に差し掛かる頃には、ももちひろこの楽曲で、手がクリームパンにとって憧れの存在である井上苑子もカバーしている、家族愛をテーマにした「and I…」、聴き手の琴線に触れる彼女の声が一層際立つ「会いたいな」。そして最後の曲の前に、この日一番大切なことを語り始めた。
「みんなを驚かせてしてしまうかもしれないんだけど……私の中のステップスとして、今後は顔を出して活動していくことを決意しました。活動当初は顔を出して届けることにすごく不安があったのね。でも間違いなく言えるのは、こうやって私の曲を好きでいてくれるみんなからの愛で、私は音楽ができているということ。正直すごく怖いんだけど、こうやって私の音楽を聴いてくれる人がいるから続けていきたいなって思うし、変化した手がクリームパンを見ていただけるように頑張っていこうと思います」
顔出しする決意と、ファンの愛があるからこそ不安や恐怖を乗り越えてこの決断ができたことを語ったあとに歌ったのは、「推しへの感謝のうた」。これはファンから推しに向ける気持ちが歌われた曲であるが、この日は〈私は凄く救われてるよ/ありがとう/君に出逢えて本当に良かった〉〈君がいたから前向きになって/毎日が明るくなった〉などの言葉が、手がクリームパンからファンへ伝えているように聴こえてきた。歌い終わると、温かい拍手が鳴り止まない。そして手がクリームパンがステージをあとにすると、次はオーディエンスが「推しへの感謝のうた」を歌い返し始めた。ありがとうの応酬による温かな空気が会場中に充満する。
ステージに戻ってきた手がクリームパンは、あらためて愛と感謝を伝えたうえで、顔出ししたアーティスト写真と、初の東名阪ツアーを発表。「みんなからもらった愛を返せる人間になるね。手がクリームパンがいるから頑張れると思ってもらえるようなアーティストになる」と宣言し、最後は「頑張ったで賞」で、この日一番の盛り上がりを作り上げた。この先の手がクリームパンは、自分の素顔も悩みもさらけ出しながら、聴き手の心の深層に耳を傾ける。どんなことも共有し、いつもお互いを応援し合う、親友のような関係性を築いていくのだろう。
ライブ直後のインタビューにて
――ライブが終わって、今どんな気持ちが一番大きいですか?
手がクリームパン:お客さんがすごく温かくて、みんなからたくさん愛をもらったライブだったなあという気持ちが一番大きいです。温かいライブにしたいとは思っていたんですけど、みんなの愛があってこそのライブだったなと思います。
――顔出しについて発表するのは、相当緊張しました?
手がクリームパン:緊張しました。本当に、不安でしかなかったです!
――みんなからの愛があるから不安や恐怖を乗り越えていける、ということが表現されていたライブでしたね。あらためて、このタイミングで顔出しすることを決めた理由を聞かせてもらえますか。
手がクリームパン:今まではみんなから愛をもらっていたんですけど、これからはもらった愛を自分の力に変えて、もっとみんなの背中を押していけるようになりたくて。“生きる”ということや、人生の“葛藤”、“孤独”など、いろんなことを描ける表現者になりたいので、これからは顔を出して手がクリームパンの音楽をお伝えしたいなと思いました。
――普段のコミュニケーションでも、こちらが心を開くと相手も開いてくれるように、クリパンさんが自分の顔も人間性もさらけ出すことで、みんなの心のさらに深いところとつながれるようになるのだろうなと想像します。クリパンさんの音楽も、リスナーとの関係性も、より濃くなっていきそうですね。
手がクリームパン:自分の素顔をお見せして、みんなのつらいことやしんどいことにも耳を傾けながら、曲を作っていけるような人になっていきたいなと思います。私から愛を伝えて、それぞれの局面に寄り添える楽曲を届けることで、相思相愛のつながりを作っていけたらいいなって。自分自身のことももっと知ってもらいつつ、みんなのことも知って、本当の意味で寄り添っていけるようになっていきたいです。
――アンコールでみんなが「推しへの感謝のうた」を合唱しているシーンは、すごくグッときました。クリパンさんがみんなに愛を届けているからこそ、ああやって愛が返ってくるのだと思います。リスナーとすごく素敵な関係性を結んでいるなあと、あらためて思いました。
手がクリームパン:たしかに、濃いですね。前回のインタビューで矢島さんが言ってくださった“友達”という表現が、一番近いなって思います。そこは変えずに、恋愛だけじゃなくて、いろんな局面に寄り添えるアーティストになりたいです。自分自身、自信があるタイプでもないし、聴いてくれる人がいないと音楽をやってない人間なので、あらためてファンの方とのつながりや愛を再確認させてもらったライブでした。もっともっと、みんなからもらった愛を音楽で返せるようになりたいです。
――ギターを抱えたツアービュジュアルもかわいいですね!
手がクリームパン:よかったです! アー写もクリームパンの写真から変えたので、発表するときはすごく緊張しました。写真を撮ったことがなかったので、自分がどう撮られるのか、どう写るのか、「どうなるんだろう」という感じだったですけど、今までの手がクリームパンらしさを残しつつ、落ち着きもあるような感じに仕上げていただきました。やっぱり変わっていきたい部分もあるけど、今までとガラッと変わるわけではないので。友達みたいな親近感は残したままの写真になったかなと思います。
――11月から始まる東名阪ツアーは、どんなものにしたいですか?
手がクリームパン:待ってくださっている方も多いと思うので、東名阪ツアーはずっとやりたかったんです。顔出しして初めてのツアーになるので、覚悟が伝わるライブにしたいです。自分が紡ぐ音楽に共感してくれる人が、もっともっと増えたらなと思います。



























