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<インタビュー>aikoが向き合い続ける“言葉にすること、完全に理解することの難しさ”――ニューシングル『シネマ/カプセル』
Interview & Text:森朋之
aikoがニューシングル『シネマ/カプセル』をリリースした。昨年8月26日にアルバム『残心残暑』を発表。その後、野外フリーライブ【Love Like Aloha vol.7】、ライブハウスツアー【Love Like Rock vol.10】を開催し、『NHK紅白歌合戦』に出演するなど、精力的な活動を続けてきたaiko。通算46作目のシングルとなる本作を聞けば、現在の彼女の充実ぶりを実感してもらえるはずだ。
――昨年リリースした「相思相愛」(劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』主題歌)がBillboard JAPANチャートにおけるストリーミングの累計再生回数1億回を突破しました。
aiko:ありがとうございます! たくさんの人に聴いてもらえるきっかけをくれたコナンくんには感謝しかないですね。新しい曲を発表するときは、毎回「寝て起きたら、たくさんの人が聴いてくれる奇跡が起きたらいいな」と思うんですけど、「相思相愛」は本当にいろんな場所でかかっていて。映画をきっかけにライブに来てくれた方もいらっしゃるし、本当にうれしいです。
――曲が広がっていると実感するのはどんなときですか?
aiko:小学生のお子さんが「学校で『相思相愛』を歌ったよ」「aikoちゃんの話をして、仲良くなれた」と話してくれたり。そういうときは本当にいろんな人に届いてるんだなって。
――「相思相愛」を小学生のときに聴いた子が、高校生くらいになって「こんな曲だったんだ」って気づくこともありそう。
aiko:そうなってくれたらうれしいです。私も子供のとき、原由子さんが歌う「流れる雲を追いかけて」(サザンオールスターズ)を聴いて、その牧歌的な曲の空気感で、当時は童謡だと思っていて。大きくなってから「サザンの曲だったんだ」と気づいたんです。なので「相思相愛」を聴いてくれたお子さんもaikoの存在に気づいてくれた時に「他にも300曲くらいある!」って思ってもらえたらなって(笑)。
aiko-『相思相愛』music video
――そしてニューシングル『シネマ/カプセル』がリリースされます。今回も本当に素晴らしい曲ばかりで、じっくり堪能させてもらいました。
aiko:ホントですか!? よかった…。新しい曲を出すときはめっちゃ不安なんで、そう言ってもらえると安心します。
――「シネマ」「カプセル」は配信リリースされてますが、シングルとして続けてきくとまた違った印象があって。「シネマ」はドラマ『アンサンブル』主題歌。〈孤独とは儚いもの〉という歌い出しからグッと掴まれました。
aiko:きっかけとしては、ある人の言葉を聞いたときに、勝手に裏切られた気持ちになったことがあったんですよね。小さい頃に「いつも“おはよう”って言ってくれる友達が、今日は言ってくれなかった」というだけで1日がどんよりしてまうことがあって。大人になっても同じようなことがあって、ある人のひと言によって、相手はそんなつもりじゃなくても勝手に傷ついて、勝手に落ち込んでしまったんです。でも、そんなふうに思っている自分が恥ずかしいというか、ダサいなって思って。自分と向き合って、「どうして傷ついたんだろう?」と考えて、自分勝手で「ダサいな」と思うことでとりあえず解決して。そうやって1日1日やっていけばいいんじゃないかなと思って、「今日も都合よく生きる」という歌詞が出来たんです。
aiko-『シネマ』music video
――なるほど。〈短い言葉で伝えられないの/言葉にしたくて仕方ないの〉というフレーズも印象的でした。
aiko:今って、端的に伝えることがカッコいいってことになってますけど、私は、それができないんです。自分が思っていること、自分の解釈をちゃんと伝えたいんだけど、全然上手くできなくて。あと、どんどん新しい言葉が出てくるじゃないですか。“フィジカル”とか。
――CDやレコード、カセットテープなど手に取れる形態のことですね。
aiko:なんでCDって言わないの?って(笑)。新しい言葉にはもう追いつけないから、自分の言葉で伝えるしかないんだけど、本当に言いたいことはなかなか言葉に出来ない。それを歌詞にしたかったのかもしれないです。
――「カプセル」はTVアニメ『アポカリプスホテル』のエンディング主題歌。aikoさんはオープニング主題歌(「skirt」)も担当していますね。
aiko:そうなんです。とても嬉しかったです。ちょうどアルバム『残心残暑』の制作中にエンディング主題歌のお話をいただいて。〈あなたに出逢ったら/毎日がとても短くなった〉から始まるんですけど、以前、本当にそう思ったことがあったんですよ。大切な人を想うことで、「明日も楽しく過ごすために、ちゃんとメイクを落として、お風呂に入ろう」とか「髪もいつもより入念に洗おう」とか。でも、その人がいなくなったことでポッカリ穴が開いて、すべてが過去になったしまったことが寂しくて。それをそのまま歌詞にしたのが「カプセル」です。
――この曲にも言えなかった思い、伝わらなかった思いが込められているのかも。
aiko:確かにそうかもしれないです。友達に対してもそう思うんですけど、ずっと重なり合うのは無理じゃないですか。それでも理解したいし、少しでも重なってるところがあったらいいなというのはいつも思っていることで。「カプセル」の歌詞にもその気持ちが出ているし、“大切な人でも完全にわかり合うのは難しい”というのが私のテーマなんだなって思いますね。
――「カプセル」はアレンジもドラマティック。曲のなかに「ここで終わりかな」と思わせる箇所があるんだけど、そこからまたバンドと一緒に盛り上がっていく構成がエモいですね。
aiko:最初はもっと短い曲にしようと思ってたんです。今おっしゃってくださった“終わりそうなところ”で終わるはずだったんですけど、島田昌典さんにアレンジをお願いしたら、“続きがあるバージョン”も作ってくれて。それを聴いていたら「やっぱり続きがほしいな」と思って、サビを2回リピートすることにしました。ツアーの最終日(4月10日に福岡・Zepp Fukuokaで行われたライブハウスツアー【Love Like Rock vol.10】の最終公演)の1曲目で歌ったんですけど、みんなすごく一生懸命聴いてくれて。初めて歌うときって緊張するんですけど、それがすごく心地よかったです。
――カップリング曲「燃えた涙 月とライター」はスカのサウンドを取り入れた楽曲。イントロからめっちゃテンション高くて、ライブ映えしそうですね!
aiko:“石原軍団が暴走族だったら”みたいなイメージでアレンジしてもらいました(笑)。この曲、演奏が大変なんですよ。特にトランペットの方のパートが多くてレコーディングのとき唇がヒリヒリしていたと思います。でも完璧で格好良くて。すごく感動しました。
――〈あなたのキスでどうでも良くなって触れた頬にブレーキ壊れて〉という歌い出しにもグッと来ました。
aiko:好きになって気持ちが上っているときの感覚ですよね。そういうときの気持ちってすごく自分勝手なんだけど、それがいいなって。先のこととかあんまり考えてなくて、「好きな人の前で前髪がキマってなくてイライラしてる」とか、感情がどんどん移り変わっていく感じを曲にしてみました。
――今回のシングルもひとつひとつに色彩豊かな感情が描かれていて。今、ご自身の現在の音楽モードはどんな方向性だと思いますか?
aiko:いつもそうなんですけど、しっかり自分と向き合って作りたいなと思ってますね。自分ではいつも0から1を作り出しているつもりだけど、いつの間にかラクしてるかもしれないじゃないですか。甘えてしまわないように、自分の尻を叩かないと(笑)。ここまで活動できてること自体が奇跡だし、感謝の気持ちを持って、いつもゼロから始めようと思っています。
――12月には東京、大阪で【Love Like Pop vol.24.9】を開催。東京は国立代々木競技場 第一体育館、12月31日の大阪城ホール公演は10年ぶりのカウントダウンライブですが、どんなステージにしたいと思っていますか?
aiko:今からプレッシャーで潰れてしまいそうです(笑)。12月までに時間があってよかったなって思うし、逆にプレッシャーを潰せるように、精神的にも体力的にもちゃんとした状態で臨みたいです。
――aikoさんもプレッシャーを感じることがあるんですね。
aiko:もちろんです。ライブは生ものだし、「いける!」と思う日もあれば、そうじゃない日もあって。「今のフレーズ、よくなかったな」と思うと、それまで積み上げてきた自信が全部なくなっちゃうんですよ。日常生活とかは「まあいいか」と思えるんですけど、音楽に関しては、いつもちゃんと胸を張ってやりたいので……。「これまでも乗り越えてきた」という経験もあるけど、明日の自分は知らない自分じゃないですか。過去の自分とそのときの自分が話し合いながら、なんとか乗り越えていけたらいいなと思ってます。
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