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<コラム>京本大我 プロジェクト『ART-PUT』で解き放つ、新たな“表現”を形にした初のアルバム『PROT.30』
Text:田中久勝
SixTONESの京本大我が昨年2024年に始動させたクリエイティブ・プロジェクト『ART-PUT』。歌やダンスなどのパフォーマンス、そして写真や映像作品など、“表現者”京本大我の頭の中、心の中に存在する衝動、隠せない感情を露わにするプロジェクトだ。『ART-PUT』のティザー映像は公開直後から大きな話題を呼び、京本はインスタライブで「SixTONESでいる京本大我も、ART-PUTの京本大我もどちらも極めたい」と、両方の“場所”でクリエイティブを極めることを宣言していた。
さらに9月、10月、11月と3か月連続で「Prelude」「WONDER LAND」「Blue night」という3曲のミュージックビデオが公開され、アルバムへの期待感が高まっていた。そんな中、4月23日に初のCDアルバム『PROT.30』をリリースすることが発表され、先立って3月25日にはリード曲「滑稽なFight」のMVも公開。さらに4月3日にはアルバムのほぼ全曲を試聴できるティザー映像も公開され、記念すべき1stアルバムの全貌が見えてきた。
Album「PROT.30」OUT-PUT / 京本大我
京本はSixTONESのメインボーカルとして強烈な個性、存在感を放っている。6人の強烈な個性の集合体であるSixTONESの音楽は、まさに色とりどり。あらゆる音楽を内包したSixTONESならではの、感度が高い作品を発表し続けてきた。京本の声はその“真ん中”で響き、グループでの経験のみならず、数々のミュージカルに出演し『流星の音色』(2022年)では劇中歌7曲を作詞作曲、2024年は人気ミュージカル『モーツァルト!』で主演を務めるなど、着実に経験を積み、自身の表現者としての引き出しを増やしてきた。
そして昨年12月に30歳を迎えた京本の、“これまで”と“これから”を鮮やかに映し出し、感じさせてくれるのがアルバム『PROT.30』だ。オープニングナンバーは、自身が作詞作曲を手がけた楽曲「Prelude」。MV公開後に、京本はXで「誰かにとっての挑戦、始まりを鼓舞するような曲になれたら幸いです」とポスト。〈考えらんないくらいでいいじゃん/キラッキラなハートでいたいんだ/世界の向こう側へ行こう〉という歌詞に象徴されるように、「新しいことを始めるために前に進もう」とリスナーおよび自身を鼓舞するように、“覚悟”を込めた疾走感のあるギターロックだ。この曲はギターのイントロから引き込まれるが、2曲目「WONDER LAND」もギターと激しいドラムのイントロが印象的。サブスク全盛の昨今、歌始まりの楽曲も多い中、このアルバムはイントロをしっかり聴かせる曲が多いのも特徴だ。イントロだけではなく、間奏、そしてアウトロまでこだわっている、音楽好きにはたまらない楽曲が揃っている。
Prelude / 京本大我
WONDER LAND / 京本大我
「KOYOI」は、縦ノリのサイケデリックな風情の音像で、声を歪ませたラップが炸裂。アウトロのエレピの余韻が美しい。その音域の広さ、どこまでも伸びるボーカルが印象的な「RAY」は、京本が紡ぐ文学的な言葉も楽しみたい。京本が言葉を“伝える”圧倒的なパワーを持っていることも、アルバム一枚を通じて感じることだ。「孤言」はより内省的な歌詞が生々しく、その言葉たちを激しく動くリズムに乗せ、丁寧にかつ時に激しく歌っている。「Blue night」は切ない恋を歌うロックナンバーで、感情が迸る歌が突き刺さる。「酒と映画とナッツ」は圧倒的な言葉数の歌詞をマシンガンのように放つ、ジャズフレーバー漂う中毒性がある一曲だ。
ピアノのイントロからすでに切なさが薫り立つバラード「灯り」は、真摯な言葉を情感豊かに歌い、ストリングスの美しい音色がその歌をさらに引き立てる。「ヒペリカム」は爽やかなロックチューン。甘さとシャープさを感じるボーカルと、この曲も歌に寄り添うようなストリングスが印象的だ。90年代ロックに傾倒している京本の音楽的バックボーンもこのアルバムには色濃く反映されている。スピッツやMr.Childrenを始め、ギターサウンドと親近感のあるメロディが、楽曲の“芯”になっている。
英語詞の「Die another day」を聴くと、やっぱり京本大我はロックスターだと誰もが思うはずだ。妖艶でエモーショナル、その“引力”が強い歌声で耽美なロックの世界を作り上げている。ノイジーなギターが響き渡る「-27-」ではロックスターへの憧れと、不自由な世の中へシニカルな言葉をぶつけ、自ら道を切り拓き“ロック”していくことを高らかに歌う。そして「滑稽なFight」はギターがリフを刻み、心が躍るサウンドに乗せ、〈時に肥大する間違いだらけの正義/そこに紛れるくらいなら/大草原 大海原 いや大宇宙までも/さあ飛び立ってしまおうか〉と、全ての人の背中を押してくれるポジティブソング。伸びのあるボーカルが印象的なサビの高揚感は格別で、アンセムとしてライブで大合唱が起こりそうな作品だ。
滑稽なFight / 京本大我
炸裂するギターとソリッドで攻撃なボーカルの「癒えない」、ピアノとギターが抜群の塩梅でブレンドされた「margarine」では、〈花火みたく一瞬の ただの代役だって/わざわざ口にしなくたって良いから/全て飲み込んだ上で 君に溺れてるんだ〉と、ままならない恋愛が描かれている。ファンクな匂いがグルーヴを運んでくる「Over Dub」は、他の楽曲とは違う温度感が楽しめる。いい意味でクセのあるメロディは一度聴くと耳に残る。「Desire」は、突き抜けたハイトーンとファルセットで愛の世界を表現しどこまでもドラマティック。「終わらせぬ世界」は〈抱き合って 抱き合って 抱き合って 抱き合って〉〈引っ張って 引っ張って 引っ張って 引っ張って〉と、言葉のリフレインがリズムを生んでいる軽快なロックチューンだ。
先述したようにロックスター然とした歌の佇まいが、このアルバムを極上のロック・アルバムに仕立てている。広い音域、ビブラートがかかった豊かで深く潤いを感じる声で、自身で紡いだ、選び抜いた言葉たちを変幻自在の表現力で、繊細に伝えていく。浸透圧の高い歌が言葉とメロディをまっすぐ聴き手の心に運び、想像をかき立てる。SixTONESで得たものが『ART-PUT』プロジェクトで大きく花開き、ここで手にした感覚をまたSixTONESに持ち帰ることで、刺激的な音楽をクリエイトする。両方で、自由に表現を楽しむ京本の快進撃を知らせるアルバムが、いよいよ世の中に放たれた。

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