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クレイジーケンバンド 『ま、いいや』 インタビュー
行定監督最の最新映画主題歌は“でも、やるんだよ”に続く至言!?
行定勲監督を監督に、“全身恋愛小説家”井上荒野の原作を映画化した『つやのよる』主題歌を、クレイジーケンバンドが担当する。監督直々のオファーで実現したこのコラボについて、CKBの首謀者 横山剣が語る。“でも、やるんだよ!”や“イイネ!”に続く至言である「ま、いいや」誕生秘話とは!?
2012年のCKBとクラブ文化、ライブについて
▲クレイジーケンバンド - ま、いいや(Short ver.)
--昨年は2月にアルバム『ITALIAN GARDEN』をリリース、その後ツアーと例年とは異なるタイム感での活動になりましたね。
横山剣:2007年くらいから、春に作って夏にリリースするのが続いていたので、頭の中で音楽が一番鳴ってる時期に出しちゃうのはMOTTAINAI!と思ってたんです。でも、8月くらいになっちゃうとちょっと遅いというか、海にクラゲが出始めちゃう(笑)。それ以前は5~6月くらいに出していたので、今年はその感じに戻そうかと思ってます。
というのも去年は、ツアーの合間にレコーディングをするようになったんですよ。そうするとツアーの体温のままレコーディングできるので効率が良いし、アイディアも出てきますよね。スタッフは楽器の搬入などで大変ですけど(笑)、音楽に向き合う上ではいきなりトップギアから入れますから、ちょうどいい塩梅ですね。--9月には、須永辰緒さんとMUROさんがそれぞれ手掛けた2枚のMIX CDもリリースとなりました。
横山剣:僕らは横浜のバンドですけど、そもそも再生してくれたのは渋谷のレコード文化というか、須永さんや小西(康陽)さん、(コモエスタ)八重樫さんといった方々で。渋谷のクラブフィールドから広めて頂いた恩恵があるんです。
その辺が恋しくなったと思っていたタイミングでお話頂いたので、どちらからともなくといった感じなんですよね。選曲家の方々は聴き方のプロであり、アメーバ的拡散のプロですから、そういったエフェクターを通せばまた魅力的な聴こえ方がするんじゃないか。……そう思ってたら、良い意味でトンでもないモノがきちゃった!(笑)
--ただ、ここ数年の日本のクラブ文化は非常に厳しい状況が続いています。
横山剣:風営法には困ったモンですよねェ。僕らは10年以上前から、オルガンバー等で演らせてもらっていたので、クラブカルチャーには相当の恩恵がある。
逆に若いコにとっても、クラブにいた方が安全だったと思うんですけどね。最低限の秩序はそこにもある訳ですから、悪いことばかりではないですよね。クラブにいれば何かあっても、誰かしら助けてくれる。だけど、ヘタに深夜の街角に放り出されたら、治安的にはそっちの方がよっぽど危険でしょう。--そうした所からの受け皿として、CKBのライブが機能していると思いますか?
横山剣:かなりそのようなお手紙とかを頂きますね。かつてナイトクラビングをしていたような人たちが、40代になって家族になって親父になって……。で、それと同時にクールス的なモノを求めてくる人もいる。客席は色んな人が多岐に渡っているし、お子様からお年寄りまでいらっしゃいますしね。とはいえ、中心をなしているのはかつて渋谷的なレコード文化を謳歌してた40代の人たちですね。
--そういう客層だと、選曲も難しくなってくる部分があるのでは?
横山剣:かなり独断と偏見で選ぶしかないですよね。一時期、選曲番長のガーちゃん(新宮虎児 / g,key)にお願いしてたんですけど、最近、彼の選曲「攻め」がなくなって来ちゃったんで(笑)、また僕が選曲していますね。
ライブでは不人気曲をわざと1曲目に持ってきて、人気曲にしちゃうとかもできるんですよ。バイクのカスタムと一緒で、新品だった頃は全然売れなかったTWとかFTRが、ある時期を経てカスタムして大ブレイクして、新車として売り直すみたいな。
あと、代表的なシングル曲、CKBで言えばちょっとだけ売れた「タイガー&ドラゴン」、あれを演るのが照れくさくて、全然やらなかった時期もあったんですけど、今は演らない方がかっこ悪いって思うようになった。今はアレのおかげで、スカジャンみたいな“ダサかっこよさ”をスパイスとして効かせられるのが有り難いです。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
行定勲監督と共作した「ま、いいや」の歌詞
--1月23日には、映画『つやのよる』主題歌に起用されるシングル『ま、いいや』がリリースとなりました。
横山剣:一昨年前の秋くらいに、この話を行定勲監督(※1)から頂きまして、コンペなしの直接オファーだったので逃げ場がない!(笑) しかもくっきりしていないというか良い意味で曖昧な、ヌーベルバーグ的な質感のある映画でしたから、最初はふわっとした雰囲気が合うのかなって思ったんですけど、それは(劇伴担当の)cobaさんが担当していたんですよ。僕には具体的な“男の一途な想いをセクシーで艶のあるスウィート・ソウルで”みたいなリクエストだったので、さァ~……困った、と(笑)。
--「ま、いいや」は難産だったと?
横山剣:依頼を受けて映画のパイロット版を見たんですが、物語の後半で主演の阿部寛さんが、素晴らしい表情をするんですよ。その表情に押し出されるかのように、“ま、いいや”ってタイトルと、メロディーと、アレンジ原案と、8割くらいの詞が沸いてきたんです。 でも、2割どうしても埋まらなかった。後から考えた言葉を乗せても天然と養殖の違いくらい温度差が出てきてしまって。だったら“リクエストした本人が一番そこのツボを分かってるだろう”って予感があって、監督に作詞をお願いしました。
--実際にはどの辺りが監督の作詞した部分なのでしょうか。
横山剣:(歌詞カードを見ながら)3ブロック目の“漂う 首の残り香 胸の輪郭 忘れない”の部分は、元々ハナモゲラ語になってましたね(笑)。あと、“あの日の 熱は何処に”から“悪い女”までのくだりと、“憂鬱な 絡み付く髪 濡れた指先 離れない”の所。それから“一瞬の夢 追いかけたから”もそうですね。
--行定監督の詞はけっこう多いんですね。
横山剣:あと、“ひとりぼっちになっちゃったけど”の所は、行定監督は“ひとりぼっちになっちまったけど”にしていたんです。でも、僕は絶対に“ちまった”を使わないんですよ。ちょっと世良公則&ツイスト的な響きなので(笑)、もうちょっと可愛い響きに変えさせて頂きました。
あ、そうだ! さっきの“悪い女”の部分も、行定監督は“悪女よ”としていたんですけど、それだと歌の摩擦感というか伸ばし難いっていう都合もあって変えさせてもらいました。
--“悪女”よりも“悪い女”の方がチャーミングで良いですね!
横山剣:原作を読んだり映画を観て受けた(艶の)印象がチャーミングだったんですよ。というか、そうじゃないとやってられない(笑)。最悪な状況の中で究極のネガティブまでいくと、最後はやり抜いたんだっていう達成感しかない、みたいなね。主人公 松生春ニを演じた寛さんがラストシーンでイイ表情を見せるんですね。その時に“ま、いいや”が浮かんできたというか。
剣さんがイメージする“悪い女”
--映画は一人の女性に振り回される周囲を描く群像劇です。その最後に流れてくるのが「ま、いいや」だというのは本当に見事だと思います。
横山剣:そこはやはりヤる前から諦めるんじゃなくて、ヤるだけヤって“もうこれだけしたんだから悔いはない”って所まで愛し抜くことができたからなんですよ。どうあれとにかく究極まで振り切らなければダメだって、MAXまでヤりきらないと本質までいかないし、その本質が“ま、いいや”だったってことですよね、全部がネイキッドになったら。
--では、剣さんがイメージする“悪い女”は?
横山剣:まァ~……、女性ってみんな“悪い女”ですよね?(笑) 要するに神秘だらけで分からないから惹かれ合うんだと思うし、通じ合ってたと思ってたら全然そうじゃなくて、ただの勘違いだったとか。和合する部分なんて本当に少ししかないからこそだし、まったく違う星の生き物なんじゃないかって思う時もあるし。
やっぱり自分が満たされている歌は聴いていてもスパイスが足りないというか、泣きたいから聴くとかグジャグジャになりたいから観るとか、Mな所があると思うんですね。“幸せだなァ……”っていう歌は加山雄三さんだけの特等席ですよ(笑)。
--映画は妻 艶の死期を知った夫の春二が、過去に妻と関係を持った男性に連絡をしていく所から始まるんですよね?
横山剣:いやァ~……、絶対に嫌ですよ、こんな奥さん!(笑) 映画だったからいいけど、実際だったらとっくに離婚ですよね。まァ、要はそれでも愛し抜くっていうね。そこまで感情移入できる自信はないけど、それまで愛されたら凄いですよね。
--ちなみに原作者の井上荒野さん(※2)には“全身恋愛小説家”というキャッチコピーもあって、こんな所にもCKBとの共通点がと驚きました。
横山剣:初期の頃は“全身音楽家、CKBのクレイジーケン!!!”って自称してましたよ。誰も言ってくれないから(笑)。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
切羽詰まった状況下で本気の人間が一番セクシー
--そしてカップリングには『コミックゼノン』CMソング「SOUL BROTHER」が収録されています。
横山剣:ベースになっているのは非常にネガティブな状況です。だけど、“でも、やるんだよ!”(※3)というか、無事に帰ったら笑って“一緒に酒でも飲もうぜ”みたいな。僕はお酒飲めないけど。と、同時に、例えば、朝鮮戦争がそうであったように、同じ民族同士、親友同士で殺し合わなければいけないという哀しい運命であったり、こう、色んなシチュエーションにおける人間の哀しみ、どうしようもない力強さみたいなものがイメージとして沸き上がってきてもいたんですね。
やっぱり切羽詰まった状況下で本気を出している時の人間の姿が一番セクシーなんだと思います。 オリンピックとかを観ていても思いますよね。昭和40年代とかは当たり前にあったような悲壮感を呼び込んだ感じがあってですね、ザラついた音とかもイメージできたし、この曲も究極のMAXまでいってる感じがありますよね。
--最近のシングル曲は直球モノが多かったりもしますよね、前作『不良倶楽部』やその前の『ワイルドで行こう!!!』などなど。
横山剣:言われてみればそうかもしれませんね。もちろん曖昧な曲を出すタイミングもあると思いますし、デザイン的に優れた楽曲もあると思うので、たまたまっていうのはありますね。この曲もタイアップがあって引き出された所もあるので。戦闘モードになることも、時にはある訳ですね。そっちのチャンネルは希少ではありますけど。
--例えばシーンを見渡して、いわゆる戦闘モードの楽曲が少ないと感じる時は?
横山剣:やっぱり癒しが求められますからね。311の影響はとても大きいと思います。でも、これからの世の中をサバイブしていく上で、自分の中に野性のカンだとか、それを引き出すキーワードがあるのとないのとではかなり温度差も違って来るんじゃないかって思います。
“ま、いいや”もそうだし、“でも、やるんだよ!”もそうだし。最初は“イイネ!”もそうでしたけど、シャレにならないくらいのキラーパスがくるかもしれない。そんな時をサバイブしていく考え方のセンスみたいなモノを、ちょっと提示してみた、というのはありますね。
--“ま、いいや”ってある意味、究極の癒しの言葉ですよね。
横山剣:そうやって自分を逃がして、“死ぬしかないのか……”って時も“ま、いいや”にしてとにかく生きる。生きてるんじゃなくて生かされているんだと知って、自分のエゴだけで死んではいけない。
特にバンドとかをやっていると、コンサートでみんなが盛り上がってくれたりするので、自分のエゴだけで身体をイジめるんじゃなくて、健康を維持してツアーを回らないとって。前はかっこ悪いと思っていた責任感も、親父っぽく出てきちゃいましたね(笑)。
合法覚せい剤として喜劇が必要だった時代
--まったくかっこ悪いと思いませんよ! “ま、いいや”は“でも、やるんだよ!”や“イイネ!”に通じる名言です。
横山剣:言ってることはまったく一緒なんですよね。根本敬さん(※4)の世界そのままだし、前向きな言葉や表現だけでは拾い切れない究極の世界ってあると思うんですよね。“頑張ろう!”では救えない、もっと非常用の言葉というか。あんまり容易く言ってはいけない言葉なんですよ。“それはさておき”みたいに一つ線を引けるんです。
--昔でいう植木等さんやクレイジーキャッツの世界ですね。
横山剣:そういうことです! 「スーダラ節」とかってユルく感じるかもしれないけど、敗戦直後という時代背景を考えてみるとね、ああいう喜劇が合法覚せい剤として人々に必要だった。笑いというのはエネルギーで、体温を高めるモノだから。
--では最後になりますが、2013年のCKBはどのように進んでいくのでしょうか。
横山剣:5月にアルバムがあって、そのリリースに合わせてツアーですよね。ただ、去年からまたライブに対する想いが急激に強くなってきているんですよね。CKBはライブを頑張らなければダメなんだって気持ちなので、今年はライブをバンバンやろうと思ってますね。
--夏フェスなどはどうでしょう?
横山剣:前は嫌がってたんですよね(笑)。良かった試しがなかったというか気負いすぎちゃって、共演者がいると頑張りすぎちゃって、「これ音楽じゃなくてスポーツじゃん……」って(笑)。体育会系の気持ちはありますけど、どうしてもライバルがいるとね。 何度か演っているうちに馴れてきましたし、場数を踏んで自分の相撲ができるようになってきたかなって。【ap bank】とかもピンながら出させて頂いて、だいぶ人馴れしてきました(笑)。なかなか声がかからないんですけど、演りたいですね。
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Interviewer&Photo:杉岡祐樹
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