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<コラム>リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノが11年ぶりに来日、ソロデビュー作『For You』に込めたメッセージとは

インタビューバナー

Text: Hiroko Shintani

 グラミー賞にノミネートされた北欧エレクトロニック・ポップ・バンド、リトル・ドラゴンの創設メンバーであり、ヴォーカリストとしても名高いユキミ・ナガノがソロ・デビュー・アルバム『For You』を引っ提げて来日公演を開催する。

 聴く者の耳をとらえる独特で優雅な歌声を、親密な空間で堪能するその前に、彼女のキャリアを辿りながら、待望の新作について繙いていく。

 過去20年間の音楽界を振り返ったとき、“アイコニック”と表現できる唯一無二の歌声の持ち主といえば、誰が思い浮かぶだろう。エイミー・ワインハウス? ラナ・デル・レイ? それともアデルだろうか? 6月にソロ・アーティストとして来日を果たすユキミ・ナガノも、間違いなくここに加えるべき歌い手のひとりだ。スウェーデン出身のエレクトロポップ・バンド、リトル・ドラゴンのフロントパーソンである彼女の美声は、そう、ダイアナ・ロスやジャネット・ジャクソンのセンシュアリティと、ケイト・ブッシュのドリーミーさを併せ持ち、ソウルフル極まりなく、微かにスモーキーな感触が心地良く耳に引っかかる。その妙味に、世界中の音楽ファンはもちろん数多のアーティストたちも魅了されてきた。

 1982年にスウェーデンのヨーテボリで、日本人の父とスウェーデン系米国人の母の間に生まれ、多様な音楽に親しんで育ったユキミ。14歳のときに同じ中学に通っていたフレドリック・ヴァリン(Ba)とエリック・ボダン(Dr)とバンド活動を始め、その傍らで同郷のKoop(クープ)、もしくは日本の沖野修也やSLEEP WALKERといったクラブジャズ・ユニットの曲にヴォーカルを提供していたものだ。

 そして、ホーカン・ヴィレーンストランド(Key)を4人目のメンバーに迎えたリトル・ドラゴンは、2007年に満を持してファースト・アルバム『Little Dragon』を送り出す。ちょうどスウェーデン発のインディー・ミュージックの黄金期が到来していた中、ユキミたちはリッキー・リーやザ・ハイヴスといった同輩と共に世界進出を果たし、3作目『Ritual Union』(2011年)からシングル「Ritual Union」がヒットを記録。4作目『Nebuma Rubberband』(2014年)で【第57回グラミー賞】の最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞の候補に挙がり、今までにいずれも高評価を得た7枚のアルバムを発表している。



Little Dragon「Ritual Union」


 これと並行して彼女たちはゴリラズやSBTRKT、DJシャドウ、アウトキャストのビッグ・ボーイ、デ・ラ・ソウル、リトル・シムズ、ラファエル・サディーク、フライング・ロータス……と、奇才のラヴコールを続々受けてコラボを重ねてきたのだが、ここにきて4人は各自の関心事を掘り下げるべくバンド活動をしばし休止。ユキミは昨年10月にシングル「Break Me Down」でソロ・デビューに至っている。



Yukimi「Break Me Down」


 では、3月末に発表するアルバム『For You』ではどのようなヴィジョンを打ち出したのか? リトル・ドラゴンで志向したクールなエレクトロ・ファンクに対し『For You』が醸すのはぬくもりでありスピリチュアルな重みだ。気心の知れたエリックをプロデューサーに選び、英国人シンガー・ソングライターのリアン・ラ・ハヴァスとデ・ラ・ソウルのポスを共作・客演者に起用。エッジーなギターや淡々と打ち鳴らされるピアノ、ラテン音楽やアフロビートに根差したパーカッションで、従来以上にデリケートな歌声を縁取り、時にジャジーに、時にサイケデリックに振れながらナマ音とエレクトロニクスの絶妙な均衡を見出して、バンドの路線と差別化している。

 差別化といえば作詞者としての彼女も然りで、ソロ作品がよりパーソナルになることは必至だが、今回初めて女性と共作したこともあって、バンドの曲では触れなかった、二児を育てる母としてのフェミニンな視点を率直に歌詞に反映。自身が直面していた試練を克服する、エンパワーメントと再生のストーリーに本作を仕上げており、普遍的なメッセージをたくさん潜めている。例えば先行シングルの「Winter Is Not Dead」では、暗い冬の間でも地中で生命が着々と育っていることに準えて、試練がもたらす成長を歌い、フィナーレの「Feels Good to Cry [ft. Yusuke Nagano]」は感情を露わにすることの重要性を訴える……といった具合に。そういう意味では歌い手としてだけでなくソングライターとしてのユキミの魅力を伝えるアルバムでもあり、冒頭「Prelude For You」ではいみじくも次のように語っている。“パーソナルさを極めた曲はすごくヒューマンになる。だから私はアルバムを『For You』と名付けた。なぜってこれは私についてのアルバムだけど、同時にあなたのことを歌ってもいるから”と。



Yukimi 「Winter Is Not Dead」


 そんな曲の数々を我々と分かち合うために、彼女は日本にやって来る。父の故郷でパフォーマンスを行うのは、リトル・ドラゴンが11年前に【SUMMER SONIC 2014】で公演して以来。随分長い空白が生まれてしまったが、ビルボードライブのインティメートな空間で触れるあの声が、きっとそれを埋めてくれるのだろう。

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