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<インタビュー>「Lizaって何ですか?」答えられなかった悔しさをばねに作り上げた『PARAPARA MIXTAPE』
Interview: 渡辺志保
Text: Mariko Ikitake
AbemaTV『ラップスタア誕生2023』への出演で注目を集め、2024年10月にリリースした「PARALLEL feat. 7」がTikTokでバズヒット、国内外で知名度を高めたLizaが、ミニアルバム『PARAPARA MIXTAPE』を3月にリリースした。
YENTOWNのメンバーであり、AwichやKEIJUといったトップアーティストの楽曲を手がけてきたChaki Zuluが、全曲の監修プロデュースを担当。その卓越したセンスとサウンドメイキングによって、Lizaが綴るリリックの世界感に一層奥行きが増し、より広がりを見せている。Liza自身の人間性や制作スタイルをも変える機会になったという、楽曲制作の裏側を本人に聞いた。
──今回の『PARAPARA MIXTAPE』は“ミックステープ”という位置付けなんですね。
Liza:はい。「これがLizaです」っていう100%のフルアルバムというより、やりたいことを詰め込んだミニアルバムになっています。
──全収録曲を手掛けたのはChaki Zuluさん。どんなきっかけで制作がスタートしたのでしょうか。
Liza:最初にChakiさんと会った段階では「一緒にやろう」ってことにはならなくて、2回目もそうならなかった。その原因が、私がChakiさんからの「Lizaって何ですか?」って質問に答えられなかったからなんです。そこで、“自分とは何か”を見直す機会をいただきました。同時に、「自分って、もともとこういうことがきっかけで音楽を始めたんだった」とか、いろいろ初心に戻る瞬間みたいなものも与えてくれて。そのおかげで、目指すべき道が明確になってきたと思います。
──Chakiさんとは実際にどんなふうに収録が進んでいったのでしょうか?
Liza:Chakiさんは、私が「こういうのやりたい」って言った時に「じゃあ、やろう」って返すんじゃなくて、「なぜやりたいのか」「やった先に何があるのか」「これからもこういう路線でやっていくのか」っていうことを考えながら、それを一本の道に揃えてくれるっていうか。制作をスタートするにあたって、私が「命かけてやります」って言ったら、「じゃあ、やろう」って答えてくださって。覚悟を決めて、曲を作り始めました。
──「PARALLEL feat. 7」はTikTokを中心にバイラルヒット化しましたよね。〈適当に着陸した〉というフレーズも印象的で、ライブやクラブでもみんなが合唱しているのをよく聴きます。どんなふうにできた曲ですか?
Liza:今回のアルバム用の曲はほぼできている状態で、Chakiさんが「俺がやりたいことやっていい?」って感じでビートを構築していって、私もいつもはしない新しいノリ方をして作りました。(ヒットを受けて)Lizaって名前が広まった点ではすごくよかったと思ってるし、思っていたよりも海外からの反応も大きくて、それもよかったです。ベトナムのチャートに入ったり、自分が聞いていた洋楽のアーティストからDMとかフォローがめっちゃ来たりするようになって。それで結構、「わ〜お」みたいな。
──フィーチャリング・アーティストの7さんとは、これまでにも息のあったコラボ曲を発表しています。「PARALLEL」で再びタッグを組んだ背景は?
Liza:「PARALLEL」の時は、7ちゃんと一年ぶりに一緒に曲を作りたいと思ったし、Chakiさんも「7ちゃんとのコンビが好き」と言ってくれたので、LINEで「やるー?」と聞いたら「やるやる」って感じで。
──もう一曲、リードシングルとして発表された「PARADISE」にはsheidAさんが参加していますよね。
Liza:sheidAはもともと全然交流がなかったんですけど、去年、自分がイベント【Liza presents Slytic】を発表した時に呼びたいと思って、そこからの流れで曲を作るようになりました。
──同世代の女性アーティストと一緒に楽曲を作る、ということは、Lizaさんにとってどんな意味を持ちますか?
Liza:まず、一緒に曲を作るのは“自分が人間的に尊敬できる人”っていうのが絶対条件です。同じ世代で、明確な目標や軸を持っているなって感じるのが、この二人でした。新たな時代を開拓したいっていう気持ちもありつつ、同じ女性としてかっこいいなと思ったから一緒にやりました。
──Lizaさんのリリックは、脱力的な魅力がありつつも、奥深い表現も多い。今回のアルバムを聴いて、改めてLizaというアーティストの奥行きがさらに深くなったような印象を受けました。
Liza:一緒に制作するようになった初めの頃、Chakiさんから「Lizaは達観しすぎ」ってアドバイスをいただいたんですよ。私、遊んでるときも「イエーイ!」とかあんまりやってこなかったんです。知り合いとかが羽目外して遊んでるのを見ても「興味ない」って思っていたんですけど、「それがよくないかもね」ともアドバイスをいただきました。「共感できる層を狭めてるから。だから、もうちょっと視野を広げて寄り添ってあげてもいいかも」って。それで、歌詞を書く視点も変わりましたね。
──「PARADOX」のリリックを見ると、〈嫌いな絵文字ヤッホー(^^)/〉とか〈忠告しておくね笑〉とか、実際には発音していないけど視覚的にわかる遊びの要素が散りばめられていますよね。その感覚も、すごくいいと思いました。
Liza:その曲は「ギャルになって」って言われたんです(笑)。今、若い子は、煽るときにその絵文字を使うんですよね。なので、SNS世代の若い子だったらわかる“煽りの文脈”を入れました。
──Chakiさんとの制作を通じて、リリックの書き方や表現方法もどんどん変わっていったんですね。
Liza:Chakiさんと話し合って、何十時間もかかった曲もあれば、時間がかからずにスムーズにできた曲もある。「PARASOCIAL」はそうでした。“パラソーシャル”って、最近できた言葉なんですけど、例えば好きなアーティストがいたとして、あっちはこちらのことを知らないじゃないですか。だけど、こっちは勝手にその人のことを他人以上の存在だと一方的に感じている。他人なのに、勝手に身直に感じてしまう。その状態をパラソーシャルっていうんです。
──この曲は〈ダ・ヴィンチ僕のすぐ傍においで〉というフレーズがユニークですよね。
Liza:私は美術館とかも好きで、まず、『最後の晩餐』の絵について曲を書こうかなって思って。私のママはキリスト教で、小さい頃から教会に行っていたから、そういう自分の背景にも絡めている。あと、この曲には本当にわかる人にしかわからないテクニックみたいなものも入れているので、一番考察のしがいがあると思います。ゴッホとかの絵画には「この作品はこういうときに書きました」みたいなのがなんとなくわかるんですけど、ダ・ヴィンチの絵は、解析されるたびにその定義が改正されていくんですよ。作品の本当の意味がまだ解き明かされていなくて、勝手に現代の人が「こういう表現をしたのでは」って評価しているんです。結局本人にしかわからないし、あっちからしたら良くも悪くも好きに言われてますよね(笑)。それが、パラソーシャル状態だなと思って。〈ダ・ヴィンチ僕のすぐ傍においで〉というリリックは、全くの他人なのに、勝手に私が(ダ・ヴィンチに対して)身近に感じているという私自身も誰かにパラソーシャルしてるしされてもいるので、不思議ですよね。そういう気持ちを込めました。
──リリックの中には、恋愛のエッセンスが入った曲も多いですよね。「PARAGRAPH」は特にビターな切なさもあって。
Liza:そもそも、自分を100%表現できる曲が完成していなかったんです。それで、今年の1月に出した「PARAGRAPH」みたいな曲を作りたいって言って最初に4時間くらい話し合いをして、最終的に私がChakiさんに「これを作らないと次に進めない」と言って、それをわかりやすくストレートに伝えてできたのが「PARAGRAPH」でした。
──ちなみに、私生活の様子ってご自分のアーティスト活動に影響しますか?
Liza:めっちゃくちゃしますね。私がこの音楽スタイルをやり続けている限り、アーティストとしての宿命だなって思ってるんですけど、ハッピーなときは曲が書けないんです。恋愛とか、女性としての幸せを求めていないことはないんですけど、「もしも今、恋愛で幸せになってしまったら、音楽ができなくなる」って感じています。本当は思い出したくもない悲しいこととかも、わざと制作前に思い出してしんどくなったり病んだりすることもあるんですけど、それが必要な作業なんだなって。めちゃめちゃ病んでるときにライブしたら、周りの人に「今日、めっちゃよかったよ」って言われたし、そういうのって聞き手に伝わるんだなって思います。
今は自分のことがわかってきた
私にとって、自分を表現する術が音楽
──次はアルバム制作に向けて動く、という感じですか?
Liza:今は、もう新しいことに挑戦しています。『PARAPARA MIXTAPE』には結構元気な曲も入っているんですけど、陰(いん)を大事にしたいっていう話をしていて。私、結構、暗い人なんです。本も、ダークなものとか、最近だと自己啓発本とか心理学とかの本を読むことが多くて、恋愛ものとか“陽”な本は読まないです。
──最近、プライベートではどんなふうに過ごしていますか?
Liza:自然に触れたり、本を読んだり。あと、チェスにハマってます。あとは日々、どう音楽と向き合うか、本当の意味で音楽をちゃんと好きになっているっていうか……そんな過ごし方をしている気がします。
──普段、どんなアーティストにインスパイアされますか?
Liza:あんまり人に“くらい”たくないんですよ。アーティストとしてめちゃめちゃ売れてる人でもそうじゃない人でも、私が尊敬していたけど実際はやることやってなかったり、嘘だったり、そういう感じの人が多かったから「所詮、みんな生まれたときは一緒でしょ」って思っちゃう。だからあんまり、「この人に憧れて」っていうのはないです。ショパンとかのクラシックとか、映画のサウンドトラックとか、あとは昔の久石譲さんの曲とか人間の声がない音楽を聴くことのほうが多いです。
──ここ一年ほどで、「アーティストとしても急成長したのでは?」と感じています。リリース量もそうだし、アーティストとしての輪郭がよりはっきりしてきたような。
Liza:この一年で、他人軸ではなく自分軸で考えるようになりました。(アーティストとしての)自分がブレている時期、例えば新しい若手が出てくると「え、誰?」って思ったり、ある曲がTikTokで伸びていると「なんでこれが伸びるの?」みたいな感情になったりしたけど、今はそういう気持ちがゼロになりました。周りを気にしなくなったし、今は、人のことを見てる暇はない。自分にフォーカスする。大人になったなって思います。
──今後の展望を教えてください。
Liza:具体的にはワンマンライブをやりたいです。今でもできると思うんですけど、武道館とかZEPPとか、その規模でやりたいんです。そのためには、自分のファンを増やす必要があると思うので、そこに向けて楽曲を作ってスキルアップしています。中途半端にはやりたくない。今は22歳だけど、(時間が過ぎるのは)あっという間なので、日々焦ってますね。でも、変な焦り方じゃない。
──今、「Lizaって何?」と聞かれたら、どんなふうに答えますか?
Liza:「LizaはLiza」って言います。前は何がやりたいかもわからなくて迷走していたけど、今は自分のことがわかってきた。私にとって、自分を表現する術が音楽なんです。その気持ちを大事にして活動していきたいです。
リリース情報
『PARAPARA MIXTAPE』
2025/3/19 DIGITAL RELEASE
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