Special
<コラム>ディズニー名作とともに振り返る名曲たち 実写版『白雪姫』パセク&ポールが手がける楽曲にも期待
Text: 服部のり子
(c) 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
1937年の『白雪姫』からディズニーの長編アニメーション映画の歴史は始まった。プリンセスは、憧れとなり、夢見るワクワク感を教えてくれた。その後も名作が次々と劇場公開されていったが、実は低迷した時期もあり、それが1989年の『リトル・マーメイド』で息を吹き返した。その復活に大いに寄与したのが作詞家ハワード・アシュマンと作曲家アラン・メンケンの音楽チームだった。
彼らが手がけた作品は、ほかに『美女と野獣』、『アラジン』があり、いずれもサントラがヒットして、主題歌や劇中歌が【アカデミー賞】に輝いている。なかでも、アシュマンの逝去後に参加したティム・ライスと完成させた、レジーナ・ベルとピーボ・ブライソンのデュエット「ホール・ニュー・ワールド」は、グラミー賞主要部門の<最優秀楽曲賞>を受賞している。
ディズニー・ルネッサンスとも言われるこの時期の3作品は、後に実写版映画になり、ブロードウェイでミュージカルにもなっている。この人気を支えるのは、キャラクター、ストーリーの魅力と共に、音楽の力だ。実写化や舞台化にあたっては新曲が加わり、ファンタジーの世界観を大きく変えることなく、歌で時代の感性にマッチさせることに成功。言い換えれば、名曲以外に観客が感情移入できる新曲に出会える歓びがあるのだ。たとえば、2019年の『アラジン』の実写版映画では原作の時代にはありえなかった、女性の自由な発言を求めて歌う「スピーチレス〜心の声」が登場する。
そして、2014年に日本公開されたのが、あの『アナと雪の女王』だ。主人公は2人のプリンセス、エルサとアナの姉妹で、ファンタジーではあるけれど、ロマンスではなく、家族の絆を描いたストーリー。サントラは全米1位、主題歌の「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」も5位のヒットとなり、【アカデミー賞】で<歌曲賞>を受賞した。公開から10年経った今でも、街で流れてきた「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」に合わせて小学生の女の子が“レリゴー~♪”と歌う姿を見かけることがあり、これぞ社会現象の威力だとあらためて思い知らされる。そんな歴史に残るメガヒットを生み出したのがロペス夫妻だ。続編『アナと雪の女王2』の音楽も彼らが手がけて、再びサントラが全米1位となった。
最初ロペス夫妻が音楽担当と聞いた時、「どういう人達だろう?」と思ったほど、映画界では無名だったが、この成功のあと、新しいソングライターが続々起用されていった。同時に描かれる女性像にも変化が見られるようになる。「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」も“いい子にしている”人生をやめて、魔法の力を怖れず、“ありのままの自分”で生きようと運命に立ち向かっていく決意を歌ったものだった。同じ夢見る姿でも自分次第で手が届きそうなリアル感が加わった。
2017年の『モアナと伝説の海』もそうだ。主人公のモアナは、不作と不漁が続く島の生活を救うべく、掟を破ってまでも大海原での大冒険を始める。その時にモアナが“自分を信じて、新たな世界へ”と力強く歌うのが「どこまでも 〜How Far I’ll Go〜」。ミュージック・ビデオの再生回数が14億回(!)を超えているこの曲は、【グラミー賞】で<楽曲賞(映画、テレビ、その他映像部門)>を受賞している。そんな大ヒット曲を生み出したのはリン=マニュエル・ミランダ。人気ミュージカル俳優であり、ソングライター、劇作家としてもマルチに活躍する稀代のヒットメーカーだ。『モアナと伝説の海』のサントラも全米2位になっている。
ミランダはまた、『リトル・マーメイド』の実写版映画に「まだ見ぬ世界へ」などの新曲を提供。2021年の『ミラベルと魔法だらけの家』では、劇中歌を全面的に作曲した名作曲家のひとりである。米ニューヨーク生まれで、プエルトリコに母方のルーツがあるバックグラウンドを生かしたラテン音楽と、得意とするラップを取り入れた音楽が特徴的だ。『ミラベルと魔法だらけの家』のサントラは全米1位となり、【グラミー賞】で<コンピレーション・アルバム賞(視覚メディア部門)>を受賞。劇中歌「秘密のブルーノ」も同じく全米1位になっている。
映画『メリー・ポピンズ・リターンズ』には俳優として出演したリン=マニュエル・ミランダは、ディズニー音楽において重要なキーパーソンのひとりだが、そこに大抜擢で新たに加わったのが『モアナと海の伝説2』の新曲を担ったアビゲイル・バーロウとエミリー・ベア。ディズニー初の女性チームは、20代で、TikTokからバイラルヒットを生むなどデジタルネイティヴ世代だ。劇中歌「最高の世界」では“自分自身の物語を生きる時”と歌う。今年の【グラミー賞授賞式】でも、若い女性アーティストが「不完全でも自分らしくあることが大切」と語っていたが、歌詞とその言葉が重なる。主人公とも観客とも感性が近く、共感を引き出せるのがバーロウ&ベアの強みだ。
そして、2025年待望の新作が実写版映画『白雪姫』。すでに新曲「夢に見る 〜Waiting On A Wish〜」が公開されているが、ほかにも前述の「スピーチレス〜心の声」を作曲したパセク&ポールが新曲を書き下ろしていると聞くので、21世紀の『白雪姫』にどんな魔法をかけてくれるのか、3月20日の公開が待ち遠しい。