Special
<コラム>海外公演よりインパクト大きい?チャートデータから見る年末音楽特番の影響
日本の音楽シーンに欠かせないコンテンツと言える、『紅白歌合戦』をはじめとした年末の大型音楽特番。多くのアーティストが憧れる舞台であり、年末の風物詩でもある。しかし、これらの年末特番は、具体的に楽曲のセールスにどのような影響をもたらしているのだろうか。本稿では、音楽アーティストや楽曲の効果的な地上波番組露出を分析できる音楽データ分析ツール「CHART insight Plus」を使用し、同じ週に放送された『CDTVライブ!ライブ!年越しスペシャル!2024→2025』『第66回 輝く!日本レコード大賞』『第75回NHK紅白歌合戦』の3つの大型音楽特番で使用または歌唱された楽曲のチャートアクションを解析、年末の大型音楽特番の影響について考察する。
楽曲特性と放送後ポイント増加との相関関係
「CHART insight Plus」を用い、対象番組で放送/歌唱され、かつ放送週でBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”の総合300位以内にチャートインした楽曲を抽出した。次に、各楽曲のポイントの増加幅と、放送前週の各指標のポイントおよび割合との相関関係を計算した。なお、放送前週の各指標のポイントが低く、統計的な分析が難しい楽曲は除外した。
相関係数が±0.5以上(一般的に相関があると考えられる)かつ統計的に有意(p<0.05)となった指標は以下の通りである。
・ダウンロード(r=0.577, p=0.000)
・ストリーミング(r=0.597, p=0.000)
・カラオケ(r=0.546, p=0.000)



この分析から、放送前週においてダウンロード、ストリーミング、カラオケのポイントが高い楽曲は、放送後にさらに総合ポイントが伸びる傾向があることが明らかとなった。
また、「CHART insight Plus」で、2023年と2024年に放送されたすべて音楽番組の個人視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区、下記に同じ)の番組平均視聴率の合計値と番組に使用された全楽曲のチャートポイントの合計値を抽出し、視聴率とポイントの相関関係を計算した。自明なことかもしれないが、個人視聴率が高いほど楽曲ポイントも高くなる傾向にあることが分かった(r=0.678, p=0.000)。なお、音楽番組以外の全番組の合計個人視聴率と、使用された全楽曲の合計ポイントの間には、相関関係があると考えにくい(r=0.264, p= 0.0065)ことも判明した。したがって、本稿の分析対象となる『CDTVライブ!ライブ!年越しスペシャル!2024→2025』(6.0%)『第66回 輝く!日本レコード大賞』(7.6%)『第75回NHK紅白歌合戦(21:00~)』(23.4%)といった、通年番組より視聴率の高い特番で放送された楽曲は、より多くポイント獲得できる傾向にある。これは、テレビ放送を通じたプロモーション効果が楽曲の認知度や人気を高め、結果として高いチャートポイントに結びついている可能性を示唆している。一方、音楽番組以外では視聴率と楽曲ポイントの相関が弱いため、単に番組の視聴率が高いというだけでは楽曲のヒットに直結しないことも明らかになった。すなわち、音楽番組特有の演出やコンテンツの魅力が、視聴率の高さと楽曲の成功を強固に関連付ける重要な要因となっていると考えられるだろう。
年末特番の影響が海外に波及?
J-POPが海外でも聴かれていることは、もはや常識になっていると言っても過言ではない。ルミネイトが発表する「2024年イヤーエンド・ミュージック・レポート」によると、2024年1年間において、海外でのJ-POPプレミアム・ストリーミング再生回数は約100億回に到達しており、成長を堅実に続けている。
では、日本における1年間の音楽シーンを象徴するコンテンツとして、年末特番は、海外にも影響するのだろうか。グローバルでの音楽データ分析ツール「CONNECT」を使用し、総合ポイントの増加幅が大きかった楽曲を数曲抽出することで、世界(日本を除く)におけるストリーミングデイリー再生回数の推移を考察した(集計期間:2024年12月15日~2025年1月15日)。再生回数の実数値は楽曲ごとに差があるため、12月15日を基準とした変化率をグラフ化した。


図が示すように、個体差はあるものの、調査対象楽曲のほとんどが12月31日前後を境に、日本以外の地域でも約20%~80%の増加を示した。特にB'zが『紅白』で披露した3曲すべてが、日本以外で最高約+300%という圧倒的な成長を記録した。これらの増加率は、「日本のアーティストが世界へ羽ばたくために必要なのは? ストリーミング再生数から見る海外公演の効果」で考察した、日本のアーティストが海外公演を実施した際のストリーミング増加幅と匹敵するものとなっている。
もちろん、楽曲の人気や聴取行為に影響を与えるものは、テレビ出演だけのわけではない。測りきれないリスナーひとりひとりの行為が複雑に絡み合い、データはあくまでもそれらの行為の結果を反映するものにすぎない。したがって、「日本の年末特番に出たら海外でもストリーミングが伸びる」のような安直な因果関係を導き出すことは難しい。しかし、仮説として、年末特番といった年に一度しかない行事的なイベントの注目度が高く、そこに歌唱された楽曲は番組公式のYouTubeやSNSを通じて国境を越えて拡散されて話題となり、楽曲の人気を測る各指標に反映されたと考えられる。
まとめ
まとめると、「CHART insight Plus」を用いた分析を通じて、“JAPAN Hot 100”において、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ指標が強く、かつ年末年始の大型音楽特番で歌唱または放送された楽曲は、さらにポイントを増加させる傾向にあることが分かった。また、『紅白』をはじめとする番組は、楽曲のパフォーマンスをYouTubeやSNSで発信することで、日本国内のみならず、海外にもリーチする可能性も見受けられた。このような地上波およびインターネットで報じられる効果が、一定の知名度や話題性のある楽曲にとってはブースターとなり、より一層多いリスナーの獲得につながったと考えられる。
また、今年5月に開催予定の【MUSIC AWARDS JAPAN】も、日本の音楽シーンを象徴するイベントとして年末音楽特番と同じ側面をもっているだろう。そこで受賞した楽曲は、今後国内外でどのような動きを見せるか。ぜひ注目していきたい。
Billboard JAPANでは、今後も楽曲のヒットに相関するさまざまなデータの分析と考察を続けていく。