Special
<インタビュー>にしな×川谷絵音が6年ぶりにコラボ――2人の関係性や○○がアレンジに含まれているという「夜凪 feat. にしな」に迫る
Interview&Text:金子厚武/Photo:興梠真穂
indigo la Endが1月に発表したニューアルバム『MOLTING AND DANCING』に、にしなを客演に迎えた「夜凪 feat. にしな」が収録されている。にしなと川谷絵音の関係性は深く、2019年3月に川谷がTwitterで弾き語り動画を募集し、「一番良かった人には新曲を作って、その曲をあげます」という企画でにしなを選出。川谷のソロプロジェクト・美的計画の1曲目に参加し、「KISSのたびギュッとグッと」がリリースされた。その後ににしながデビューをして、indigo la Endは今年15周年を迎え、久々のコラボレーションが実現することとなった。
そこで今回、にしなと川谷の対談を実施。それぞれの活動を長く見てきた2人だからこその、充実の対話となった。
すごい人間らしさがあって、自分と近いところにいるなと思った
――まずは改めて、お二人が知り合ったきっかけから話していただけますか?
川谷絵音:当時(2019年)思いつきで始めた、Twitterの弾き語り企画がきっかけですね。正直なんでああいうことをしたのかはもう覚えてないんですけど、結構夜遅くだった記憶があって、本当にただのつぶやきみたいな感じだったから、あんなに応募が来るとは思ってなくて。全部合わせると2万件以上来たんですよ。
にしな:そんなに来てたんですね!
川谷:途中からふざけて送ってくる人とか、YouTuberとか混ざって、変な盛り上がりになっちゃって。その中には有名になる前の優里くんとか、瑛人くんとか、幾田りらちゃんとかもいたんですよね。
――その中でこれだ! と思ったのがにしなさんの歌だった。
川谷:そうですね。とにかく数が多くて、それをずっと聴いてるとだんだんただ上手いとか下手とかが基準じゃなくなってきて、聴いてもすぐに流れていっちゃうのばっかりだったんですけど、でもにしなの声は耳に残ったんですよね。一聴して、声の持ってる力が違うというか、すごく立体感があって。弾き語りしてる姿も良かったし、太い声で、切なさを帯びてて、あんまりいない声だなと思って。曲はwacciの「別の人の彼女になったよ」だったんですけど、全然違う曲に聴こえたというか、カバーなんだけど、その人の曲になってしまうみたいな感じ。これはすごい才能だなと思って。

――にしなさんはなぜ曲を送ってみようと思ったんですか?
にしな:そのときは、YOASOBIになるりらちゃんとかとセッショングループに所属していて、ライブハウスで弾き語りをしたりしてたんですけど、自分の活動をもっと前進させたい気持ちがあって、弾き語りのカバー動画を定期的にポツポツ上げてたんです。そういう中で川谷さんの募集ツイートを見て、「これはダメもとで飛び乗ってみるしかない」と思って。私の友人の音楽をやってる人はみんな送っていて、その中には私がすごいなと思ってる先輩とかもいたから、自分は絶対通らないだろうなと思いつつ、でも送らないことには始まらないなと思ったので、カラオケで撮った弾き語り動画を送って。でもなぜか胸がザワザワしていて、あるときTwitterを開いたら、川谷さんから連絡が来てて、「わ!」ってなったのを未だにすごく覚えてます。
――川谷さんの音楽は当時から聴いてたんですか?
にしな:いやもう大好きですね。川谷さんのバンドはどのバンドも好きなんですけど、その中でもindigo la Endが一番、自分の感性に合うというか、好きな世界観にとてもマッチしていて。なので今回一緒に歌わせてもらえて、あのときの自分からしたら信じられないです。最初は曲を書き下ろしてくださって、それを歌わせてもらって、それだけでありがたいのに、今回一緒に歌わせてもらえたっていうのは、自分もちょっとは前に進んでこれたのかなと自信になり光栄でした。私を見つけてくださった川谷さんには自分なりに何か返していきたい気持ちがすごくあったので、ちょっとでも自分の良さを出して楽曲の力になれたらいいなっていうのは思ってました。
――Twitter上でのやり取りがあって、初めて直接会ったのはライブ? レコーディング?
川谷:レコーディングの前に1回打ち合わせみたいな感じで会いました。
――そのときのことは覚えてますか?
にしな:忘れられないです。「本物だ!」っていう、初めて会う芸能人みたいな感じ(笑)。
川谷:にしなはかなり緊張してた記憶がある。Twitterの企画からの流れでやったイベントでもめっちゃ緊張してたし、当時はまだ気持ちが外に向いてない感じだったんですよね。でも数年ぶりに【VIVA LA ROCK】でライブを見たときに、めちゃくちゃ外に向いてたんです。ステージでも左右に動き回ってて、僕が知ったときはまだそういう音楽性じゃなかったけど、そこからちゃんと自分を確立してて、すごいなと思いましたね。

――にしなさんは川谷さんに初めて会った日であり、弾き語りライブの日のことでは特にどんなことを覚えていますか?
にしな:まっすぐ目を見て話してくださる人だなと、この人には嘘をつけないなと思った記憶があります。イベントのときは、本当に何者でもなかった自分を引き上げてくださって、ありがたすぎるなと思ってたので、ライブで少しでも今の自分のできることを見てもらいたいと思って、本当に緊張したんですけど、その中でできることを頑張ってやる、みたいな感じでステージに立ちましたね。りらちゃんとかアマアラシさんとか、他の出演者の方も声も楽曲も素敵で、でもその中で私を選んでくださったので、その人たちの気持ちの上にも成り立ってるわけだから、レコーディングもそうですけど、できることをしっかり頑張る、食らいついていくっていう気持ちでした。
――その後に美的計画の「KISSのたびギュッとグッと」のレコーディングをしてると思うんですけど、そのときの記憶はいかがですか?
川谷:泣いてたの覚えてるんだよなあ。
にしな:私ですか? 泣いてましたっけ?
川谷:泣いてた記憶が鮮明にあります。
にしな:でも確かに、私いまだに音程のこととかあんまりわからなくて、そのときも「こうだよ」って言われても全然できなくて、泣いた覚えはないんですけど…泣いてたっぽいですね(笑)。
川谷:ちょっと申し訳ないなと思いましたけどね。そういう空気感を僕が作り出しちゃったのかなって。でもそこからときを経て、今回5年ぶりぐらいに一緒に歌録りをしたんですけど、もう全然違うというか、安心できる感じ。いいテイクがどんどん録れるし、本当に素晴らしいシンガーだなって。でもにしなはすごい人間っぽいんですよ。弾き語り企画のときも上手い人は多かったんだけど、ちょっとこなれちゃってる感じの人も多かった中で、にしなは1人だけちゃんと緊張してて、それが良かったというか、すごい人間らしさがあって、自分と近いところにいるなと思ったんです。ちゃんと泥臭くやっていく人なんだろうなと思って、すごく共感もあったというか。
にしな:ありがとうございます。私は小心者なので、いつも緊張しがちで。前回のレコーディングも川谷さんのせいではなかったです。今回もめっちゃ緊張してたんですけど、最初のときにうまくできなかった悔しさがすごくあって、今回はそれは避けたいと思って挑んでたので、滞ることなくちゃんとできてメンタル的にも自分の成長を感じられて、嬉しかったです。
――にしなさんがデビューして以降は、直接的な交流はあまりなかった?
川谷:たまにDMで曲の感想を言ったりするくらいですね。
にしな:私はあんまり先輩っていう先輩がいないんですけど、川谷さんに対しては先輩って思ってて。現場にいらっしゃると、「挨拶した方がいいかな?」ってなったりするんですけど、準備してたりすると逆に邪魔になっちゃったりするから…なのであんまり挨拶とかにも行けなかったりするんですけど、でもめっちゃ先輩! って思ってます(笑)。
川谷:にしなの曲は毎回チェックしてたし、活動も全部見ていて、ずっと一緒にやりたかったんですよね。その機会を伺ってて、indigo la Endで新しいアルバムを出すから、フィーチャリングはこれまでほとんどやってなかったけど、やりたい気持ちはあったので、今回はにしなありきで曲を作ったんです。

――にしなさんありきで、どんなイメージで曲を作っていったのでしょうか?
川谷:冬の曲にしたいっていうのがあって、冷たいけど温かいみたいな、にしなの声ってそうなんですよね。冷たいけど温かい、強いのに優しいみたいな、相反するものが一緒にある声だなと思ってたので、そういう曲を作りたいなって。あとジェニーハイでフィーチャリングをするときは、Aメロから2人で交互に歌わせたりするんですけど、今回は古典的なことをやってもいいかなと思って、1番は全部僕が歌って、2番からにしなに入ってもらって、オクターブ上とオクターブ下に分かれてっていう、古典的なデュエットが逆にはまるかなって。僕のキーは基本高いんですけど、この曲は僕はずっと低いところにいて、高いところは全部にしなに担ってもらう。今までやってなかったことをやろうっていうのがありました。
にしな:私をイメージして書いてくださったっていうのは、川谷さんのインタビューを読むまで知らなかったので、歌を録ったときは知らなかったんですけど、でもすごく気持ちいいキーで歌わせてもらって、川谷さんが下を支えてくださって素材をすごく生かしてもらえる楽曲だなっていうのは、録音の時点で思ってました。
川谷:普段からにしなの曲を聴いてるので、「この辺の音域で、こういうメロディーを聴きたい」みたいなのが、頭の中で再生されるので、それで作っていった感じですね。
――「にしなさんの好きな曲」って言われたらどの曲がパッと出てきますか?
川谷:いっぱいありますけど…「FRIDAY KIDS CHINA TOWN」はめちゃくちゃ好きです。歌がすごく良いテイクだなと思って、それをDMで言ったのを覚えてます。
にしな - FRIDAY KIDS CHINA TOWN【Official Video】
- < Prev
- 先輩後輩とかじゃなくて、1アーティストとしてリスペクトしてる
- Next >
リリース情報

アルバム『MOLTING AND DANCING』
配信はこちら
- 収録内容 -
1. ナハト
2. アーモンド
3. 夜凪feat.にしな
4. 雨が踊るから
5. 心変わり
6. 哀愁東京
7. ラムネ
8. BOYFRIEND
9. FEVER
10. 盲目だった
11. Lauren
349