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バルーン企画アルバム『Fall Apart』鼎談 Reol/椎乃味醂が示したもう一つの「レディーレ」



インタビューバナー

Interview & Text:ヒガキユウカ


 「シャルル」「雨とペトラ」「メーベル」など立て続けにヒットソングを生み出し、2010年代を代表するボカロPの一人となったバルーン。ボカロPとしてはv flowerを愛用していた一方で、自らが歌唱したセルフカバー版もより一層の人気を集め、2017年からは須田景凪名義で活動も行っている。そんな彼が2025年4月16日に、企画アルバム『Fall Apart』をリリースする。バルーンとしてリリースした既存楽曲たちを、彼自身がリスペクトするアーティストたちがアレンジカバー。さらにヒトリエを客演に迎えた新曲 「WOLF」を加え、全6曲を収録予定だ。

 収録楽曲のひとつ、「レディーレ」は歌唱をReol、アレンジを椎乃味醂が担当した。バルーンの数年来の友人だというReolはもともと、ニコニコ動画で歌い手として頭角を現しカルチャーを代表する存在に。創作に対するバイタリティと唯一無二の歌声を武器にJ-POPシーンへと羽ばたいた後も、「劣等上等」「ULTRA C」などボカロシーンにとって重要な楽曲を提供しており、キャリア上バルーンとは共通点が多い。一方の椎乃味醂は、ボカコレ2020冬に投稿した「じゃあ君の思想が死ねばいい」で評価され、Adoはじめアーティストへの楽曲提供はもちろん、アート作品の出展、自主制作プロジェクト「StudioGnu」の主宰など、音楽表現の拡張に積極的に取り組んでいる。21歳という若さも印象的だが、彼がインタビュー等で明かしている現在の名義が生まれるまでの過程を思えば、クリエイターとして誰よりも高濃度な半生を歩んできたと言えよう。

 今回はそんな3人の鼎談が『The VOCALOID Collection(ボカコレ) ~2025 Winter~』の開催に併せて実現。Reol・椎乃による「レディーレ」再解釈の過程や、全員のルーツでもあるニコニコ動画・ボカロカルチャーへの思いについて、今だから話せることも含めて語ってもらった。

自分の曲に「驚異的な中毒性」タグがついたらうれしい

バルーン:まず、Reolも椎乃くんも、今回はマジでありがとうございます。

Reol:いえいえこちらこそ。嬉しかったです。

椎乃味醂:僕「レディーレ」がめちゃくちゃ好きだったんですよ。ボカコレ2022秋のプレイリスト企画でも、「椎乃味醂の人生を変えた曲10」のひとつに入れていたくらいで。

バルーン:え! 知らなかった。

――Reolさん、椎乃さんはいつからバルーンさんをご存じだったんですか?

Reol:気づいたら友達になっていたので、これを機に記憶をさかのぼってみたんですけど……。最初は「花瓶に触れた」を聴いて、バルーン名義の方を知ったんです。その後に須田景凪名義の「MOIL」の実写MVを見て、もともとボカロシーンにいた人間が自分の声で歌うという活動スタイルもそうだし、メジャーデビューの時期も自分と近くて、注目するようになったんですよね。それで辿って行ったら「あ、この人バルーンか!」とつながった感じです。


▲花瓶に触れた/flower


▲MOIL/須田景凪

バルーン:僕もまさにReolとは、気づけば友達になっていた感覚でした。知ったきっかけは覚えていないんですが、「レッド・パージ!!!」の歌ってみたとか昔めちゃめちゃ聴いてたし、オリジナル曲だと「ちるちる」とかもリアルタイムで聴いてました。
特に印象的だったのは、「ギミアブレスタッナウ」のMVですね。当時ニコニコ出身の人って、自分の姿を出すことにとても慎重だったんですよ。その中でReolはもう、ものすごい勢いで公開して。当時はまだ知り合ってもいなかったけど、そういう見せ方みたいな所も含めて、すごくストロングな精神を持ってやっている人なんだろうなという印象がありました。


▲〔れをる〕 レッド・パージ!!! 〔歌ってみた〕


▲[MV] REOL - ちるちる


▲[MV] REOL - ギミアブレスタッナウ

椎乃味醂:厳密には覚えていないんですけど、確か小学生くらいの頃に3DSでニコニコ動画を見ていて、「v flower」のタグから「シャルル」を見つけたのがきっかけだと思います。小学生の頃の僕はボカロしか聴いていなくて、特にボカロックが大好きでした。2016年ごろって、それまで速いのがトレンドだったボカロ曲のBPMがだんだん遅くなってきて、おしゃれなロックが増えた時期なんですよね。


▲シャルル/flower

Reol:私もニコ動に出会ったときは、ボカロの存在が衝撃的でしたね。それまではJ-ROCKが好きで残響レコードや東京事変に傾倒していて、電子音楽は聴いてこなくて。しかも、「ボカロ」自体は音楽のジャンルではなく、あくまでソフトの名前なので、いろんな音楽がそのひとつのカルチャーの中に存在できる。それでいて毎日誰かが新曲を投稿するから、刺激的でずっと張り付いていました。

バルーン:僕は歌ってみたとか、二次創作からボカロに入っていったんです。さっきの話の流れでいうと「レッド・パージ!!!」という曲がいいなと思ったら、曲名のタグでいろんな人の歌ってみたを聴いて、自分だけの“レッド・パージ!!!マイリスト”を作ったりして。

Reol:カテゴリーランキングも見てたし、当時の流行みたいなものも追ってはいたんですけど、一方で「感性の反乱β」っていうタグがあって。再生数とかではなく、尖った表現をしている曲とか、思想をぶつけてくる感じの曲につくタグで。それを辿るとメッセージ性の強い曲が並ぶので、よく見てましたね。

バルーン:あったあった。それこそ、味醂くんの曲もつくタイプだと思う。

Reol:クリエイター側からすると、あのタグがつくとちょっとうれしいんだよね。

――ほかにもみなさんにとって「ついたらうれしいタグ」ってありますか?

Reol:最初のころは「もっと評価されるべき」かなあ。

椎乃味醂:僕は「驚異的な中毒性」をずっと見ていたので、自分の曲についたときはうれしかったですね。

バルーンReol:ああ~~~! めっちゃわかる(笑)

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