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<コラム>aiko “都合よく”生きる日々を肯定し、生きる力を奮い立たせる新曲「シネマ」――ドラマ『アンサンブル』と生み出すシナジーにも注目

Text:蜂須賀ちなみ
2024年のaikoの活動は、約5年ぶりのアリーナツアー【Love Like Pop vol.24】から始まり、劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の主題歌である「相思相愛」のヒット、16thアルバム『残心残暑』のリリース、神奈川・サザンビーチちがさきでの野外フリーライブ【Love Like Aloha vol.7】の開催など、トピック満載だった。さらに秋には全国ライブハウスツアー【Love Like Rock vol.10】をスタートさせ、大晦日には『第75回NHK紅白歌合戦』で「相思相愛」を歌唱。そんな激動の1年を経て発表された、2025年第1弾楽曲が「シネマ」だ。
「シネマ」は川口春奈、松村北斗出演のラブストーリーである日本テレビ系 土ドラ10『アンサンブル』の主題歌となっているバラード。第1話では、踏切の音にトラウマを持つ小山瀬奈(川口春奈)の耳を真戸原優(松村北斗)が両手でふさぐシーンで「シネマ」が流れ、2人が恋に落ちる瞬間が音楽とともに演出された。以降、ドラマのワンシーンが「シネマ」によってどのように彩られるのか、注目が集まっており、「シネマ」と『アンサンブル』の織りなすシナジーに感動する声も多く上がっている。SNSでは「不意打ちの歌始まりでずるい。鳥肌が立った」「シネマが流れるタイミングが神すぎる」といったコメントから、楽曲そのものが持つ魅力と演出の満足度も非常に高いようだ。また、「素敵なシーンで流れるから、曲がもっと好きになった」「ダウンロードして曲を聴くのもいいけど、ドラマに寄り添うように流れるシネマも素敵」とドラマとの親和性にも反響が集まっており、今後もドラマと「シネマ」の共鳴に期待が高まる。
「アンサンブル」ロングPRムービー(主題歌aiko「シネマ」)
制作にあたってドラマサイドからは「自由に作ってください」と依頼があり、aikoは「大切な人とのふとした瞬間に傷ついて、そこから逃避したくて作った」曲を形にしたとオフィシャルインタビューで明かしている。そうして生まれた「シネマ」は相手へ想いを伝えるラブソングではなく、私はどう生きようかと歌ったライフソングに。曲のタイトルは人生を「しぶとく、粘り強く、全うする」というaikoの想い、そして「人生は映画のようで、一度きりだから全員違っているし、だからこそ大変なことがあったとしても着地するときは面白い日々になるような日常を過ごして欲しい」という考え方から来ている。
楽曲はノイジーなバンドサウンドから始まり、Aメロでいきなり人生の真理が歌われている。〈孤独とは儚いもの/夜が明ければ昨日より薄らぐさ/そして誰かと出逢い/触れて揺れてこの人しかいないと気が付いた後/何気ない言葉でまた孤独になるのさ〉。社会を生きる以上、多くの人にとって心当たりのある感覚を的確に言い当てたフレーズだ。aikoの楽曲において孤独が歌われることは珍しくなく、むしろ永遠のテーマと言えるだろう。「相思相愛」というタイトルの曲が〈あたしはあなたにはなれない〉と始まるように、aikoは「人と人は重なり合えない」「どれだけ想い合っても、相手の喜びや悲しみを完全には分かり合えない」という事実を前提としたラブソングをこれまで歌ってきた。
「シネマ」では孤独を歌ったあと〈未来とは〉と内省に入り、自分と大切な人との間にあるものを捉えるというよりかは、自分自身を見つめる方向で思考を深めていく。個人的にはDメロの歌詞が特に心に響いた。昨年、野外フリーライブ【Love Like Aloha vol.7】で雨に打たれながら力強く歌うaikoを観た時、あるいはデビューから26年経っても全く落ちないリリース&ライブペースに驚愕しながら、「いったい何が彼女を駆り立てるのか」と思ったが、その根源にあるものが「シネマ」のDメロでは歌われている気がする。〈短い言葉で伝えられないの/言葉にしたくて仕方ないの/きっと終わるまで伝えられない/きっと終わるまで分かり合えない〉。きっと「歌えるうちに聴いてくれる人に伝えたい」「生きているうちに世の中に作品を遺したい」という意欲が、誰にでもいつかはやってくる“終わり”に対する目線が、aikoが音楽を奏でる理由になっている。
全体を見てみると、サビ以外は同じメロディが登場しない構成で、「ここでこう来るのか」という意外性が多分に含まれている。感覚的に紡がれたメロディは、レールのない道を歩む人の足取りそのものだが、aikoの詞曲、川嶋可能によるアレンジ、ミュージシャンによる演奏が一体となって表現するイメージは、行ったら最後の直線型人生モデルではない。ワルツのリズム、(歌詞にある)洗濯機の円運動などが、円環型人生モデルを想起させる。豊かなアンサンブルは、孤独に苛まれる瞬間も含めて美しき人生だと謳っているかのよう。歪むギターは心の軋む音。しかし途中から登場するストリングス&ブラスによって、ドラマティックに昇華されている。
喜びも悲しみも、上昇も下降も、光も影もあるのが人生だとこの曲の主人公は受け入れられていて、日々の小さな積み重ねが自分の内面を構築すると信じている。だからこそ〈都合よく生きる〉という軽やかな結論に至るのではないだろうか。サビのラストのこのフレーズは、母音の独特な発音もフックとなり、一際耳に残った。鼻声がまだ少し残った状態のまま歌入れを行ったため、こういうボーカルになったとのことだが、そんな制作エピソードも、何がどう転ぶか分からない人生のようで愛おしい。
日々を忙しなく生きていると、セルフケアの視点が欠落してしまいがちだ。悲しいことがあったら我慢せず、心をすり減らす前に、もっと自分を労って、“都合よく”生きてしまえばいい。aikoからのやわらかなメッセージは、私たちの肩の荷を軽くさせてくれるものだ。現在aikoは、昨年秋から続いているツアー【Love Like Rock vol.10】の真っ只中。全国のファンと向き合いながら、明日を生きるエネルギーを届けている。
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