Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>Creepy Nutsが、初の東京ドームも「通常回」と言い切れる理由 ニューアルバム『LEGION』でよりディープに向き合った“感情”

インタビューバナー

Interview & Text:Maiko Murata


 Creepy Nutsが、約2年半ぶりのニューアルバム『LEGION』をリリースした(CDリリースは3月12日)。今作には、彼らの名を一躍世界規模に轟かせた「Bling-Bang-Bang-Born」「オトノケ」も含む、自身過去最多となる15曲を収録。昨年の大晦日には『NHK紅白歌合戦』に初出場、2月11日に開催した東京ドームでの単独公演は、ステージ真裏の「完全見切れ席」も含めた全席種が前売り時点で完売と、2024年からの彼らは一見“飛躍した”ように見えるかもしれない。しかし、そんな視線へのアンサーとも言えるのが収録曲の「通常回」だ。今回のインタビューではアルバムを比較的マクロな視点で語ってもらったのだが、ふたりが東京ドーム公演すら「通常回」と言い切れる理由と、そこまでに培ってきた“地肩の強さ”を窺い知ることができた。

“生活”と“シンプルさ”に立ち返って

――まずはアルバムの話を伺えればと思います。アルバムを聴いて思ったのが、おふたりが上半期と年間チャートのインタビューで小出しにしていただいていた「今後の展望」みたいなところが、見事に全回収されているなということで。

R-指定:あっ! 確かにそうかも。振り返ってみると。


――最初、アルバムを聴く勇気がなかったんで、リリックを読んだんですよ。

R-指定:あーっ! あれっ、俺がたまに……。

DJ松永:たまにRがやる聴き方(笑)。


――そのリリックがこれまで以上に、「実録ドキュメンタリー過ぎる」というか。

R-指定:そうですね。今回はその側面が強いですね。

DJ松永:うん。確かに。


――前作『アンサンブル・プレイ』が“フィクション“をテーマにされていた作品というのもあったので余計、それとは真反対くらいに感じたんですが、この部分は意識していらっしゃったんですか?

R-指定:むしろ、ヒップホップのアートフォーム上、基本はいちばん“ドキュメント”が多くなるというか。身の回り、自分らのことを書くのがベースで、『アンサンブル・プレイ』がちょっと実験やった感じで。前作が、違う人間の中にちょっと入って、そういう目線を書いてみる……とはいっても俺のフィルターを通してるんですが。そういうのを経て、その時期からしばらく空いて、忙しくしていた時期よりも「生活」っていうところに立ち返ってみて……みたいな。特に俺なんかはプライベートが変わったりして、言葉も自ずとたくさん書けたというのもありますね。このアルバムの流れに繋がるいちばん最初の「ビリケン」が、そういう超ドキュメントの側面から始まったから。アルバムも自然と全部自分の話になったんです。今回は曲数も多いから、前までのアルバムだったらやらんかったくらいの(日常の)一場面だけを切り取った曲とか、より詳細に描いた曲も増えてる感じはありますね。



ビリケン / Creepy Nuts


――そして、いよいよ曲を再生したときに、松永さんが上半期のインタビューでおっしゃっていた「音数の少なさ」の部分に驚きました。想像以上の少なさで。

DJ松永:めっちゃ減らしましたね。


――『アンサンブル・プレイ』は全体的に耳触りがポップな作品と捉えていたので、今作はここでも真反対な雰囲気を感じました。音数というと、収録曲の中では「ビリケン」がいちばん最初にリリースされたわけですが、このときからアルバムはこんな感じにしようとか、音数は特に減らそう、みたいなことは考えていらっしゃいましたか?

DJ松永:アルバムの全体像っていうのは全く見えてなかったですけど、「いい曲を作る」っていうことを考えたら(そうなった)……。リフとかを全部バラバラにして、ひとつの楽器だけを見たとしても、全部ハイクオリティな状態でいたいなって思うんです。ほどほどのやつでも色々重ねて……ってしたらなんとなく成立してしまうけど、このアルバムの音数だと、ちょっとでも妥協したらたぶん、普通に成立しない。チープになったり、成立しなくなるギリギリくらいのシビアな設計で、シンプルでも破壊力があったり、めちゃくちゃ聴けちゃうようなものがいちばんクオリティが高いって、俺はトラック作りにおいて思うから、それを研ぎ澄ませてやれたなっていう感じですね。シンプルな状態でトラックのデモを作って微妙だったら、たぶんこれ微妙だなって。


――松永さんがその考えに至ったのって、いつごろからですか?

DJ松永:前からそうではあるけど、年々強まってたかもしれないですね。最近、特に自分の中で至上命題になってるなあ。音を重ねて、隙間に楽器を埋めて……とすると、どうしても、この曲で聴かせたい楽器とかメロディー、リフが情報過多でわからなくなっちゃうから。レコーディングのときのマイクから、プリアンプ、コンプレッサーまで全部選んで、研究してましたね。自分の作りたい音楽を作るためにはどういうところから始めればいいかな?っていうのを全部、自分でやって。なかなか日本国内でそういうノウハウがないから、結局自分で考えて作るしかないなっていう結論に至りました。


――1曲目の「中学22年生」、この曲がアルバムの中でもダントツで音数が少ないなと思って。タイトルのサンプリング元「中学12年生」もなかなか音数が少ないですよね。意識されていた部分はあったのでしょうか?

DJ松永:これは、元から俺は「中学22年生」にするって発想はなくて。Rが、デモに俺が想像してないものを乗っけて返してきたっていう感じなんです。


――へえ!

R-指定:最初は全然違うテンション感の曲を作るつもりやったと思う、お互い。

DJ松永:そうそう。だいぶ謎トラック作ったな?みたいに思ってた。

R-指定:俺も、(最終形とは)逆にめちゃくちゃ難解なフロウとか乗っけて、かなり細かく刻む……みたいなことを言ってたけど、結果的にこの大きいひとつのフロウというか、ひとつのでっかいグルーヴで行ききるみたいな曲になったし、リリックもずっとパンチラインで殴っていく感じになった。想定していたものと全然違って(笑)。でも、こっちで正解やったなと思いましたね。今回はけっこう、特にその楽しさがあったアルバム作りでした。想像してないところに、お互いの発想でどれだけ飛んでいかせるか、脱線して飛躍していけるかというか。

DJ松永:確かにね。「事故らす」。

R-指定:そう! 「事故らす」。


――なるほど。そしてリリックには〈ビルボードで1位を獲る人生〉と……(笑)。

R-指定・DJ松永:あははは!

R-指定:そうですね、そこは……使わせていただきました(笑)。


――2曲目は、アルバムに先駆けてデジタル・リリースされた「doppelgänger」です。この曲のリリックだと、フックが「『Dr.strangelab』のサンプリングだ!」という驚きもあって。SNSでも話題になっていましたが……。

R-指定:これね、完全にたまたまなんですよ。


――たまたまなんですか!?

R-指定:俺の口が気持ちいいワードをはめたいなって思って作ってたんですけど、(SNSで)言ってくれてる人がおって、「あ! ほんまや」って思ったくらいというか。最初は音優先というか、気持ちよさ優先でブワーッと書いていって、リズムやフロウによって言葉が導き出されていって、「doppelgänger」っていうワードに最後着地していった……このフックから先にできたんで、そこから自分の中の“ドッペルゲンガー性”というか、最終的には自分の多面性みたいなことを考えて落とし込んだリリックになっていきましたね。


――「中学22年生」もそうですけど、私は年間チャートのインタビューで「Creepy Nutsをやり始めたときのマインドに戻っている」とのお話を聞いていたので、「その回収……!」と思ってこの部分を聴いていました。

R-指定:その頃くらい好きなこととか、自然な状態にある自分らの発想、みたいなのをぶち込んで作っていく感じになった結果、もしかしたらそことつながったりするようなことがいっぱい出てきたんかもな、みたいなことはありますね、確かに。でもやっぱり、そういうマインドに戻った状態で現状を書いていくと、こうなるというか。



doppelgänger / Creepy Nuts


Dr.strangelab (Track by DJ松永) / R-指定


――ところで、今作にはカニエ・ウェスト、ケンドリック・ラマー、タイラー・ザ・クリエイターなど、USの超有名ラッパーを手がけたエンジニアが参加しておられますね。彼らから新しい刺激みたいなものはありましたか?

DJ松永:上がってくる音がやっぱ、全然違いますよね。音の話になると、共通でみんなが認識できるワードだけでしゃべるのがなかなか難しいんですけど。でも、俺が作りたい音が上がってきましたよね。


――ちなみに今回、錚々たるエンジニアが参加した理由とは?

DJ松永:作りたい音があったから、海外の皆さんに投げて、っていう感じですね。自分の求めるクオリティまで上げてくれる、素晴らしいエンジニアさんに頼みました。


――巡り会えて。

DJ松永:レコード会社の力添えです、これは(笑)。完全に。

R-指定:ふふふ(笑)。


NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. “ラッパーとしての自分”と“それ以前の自分”
  3. Next>

“ラッパーとしての自分”と“それ以前の自分”

――では、8曲目「Get Higher」より後。最初にリリックを読んだときに、ここから急激に視点が“内”に入っていくなと思いました。ここから最後の「LEGION」まで、この内向きの視点のまま突っ走っていくところにはCreepy Nutsらしさも感じたんですが……。

R-指定:確かに。前半のというか、この曲までは自分のこともしゃべってるけど、そこまで入り組んではないですよね。たぶん、「Get Higher」くらいですごい、超超個人的なことを言い出す。「中学22年生」とか、「ちゅだい」「エマニエル」でも入ってることには入ってるんですけど、俺の実体験とかでありつつ、どっかにデフォルメというか……“ラッパーとしての自分”が言ってる感じもあれば、後半、「Get Higher」とかは特に、ラッパーの自分――もちろんフックとかはそうやねんけど、バースとかでは“それ以前の自分”というか、それよりもっと奥、内側の個人的な話をしてるかもしれないですね。


――今回のアルバム曲順はどんな視点で話し合われたんですか?

R-指定:「中学22年生」ができたときに、松永さん的に「これ1曲目にしたい」みたいなイメージがあったやんな?

DJ松永:そうだね。

R-指定:で、俺としては、聴きながら順番を入れ替えて……って考えていった感じですね。だから、リリックは確かにそういう変化はあれど、自分の中で聴いて気持ちいい流れかつ、意味合い的にも繋がる流れで最終的には組んだ感じです。今回はなんとなく、「俺こんな並びいいと思うねんけど、どうかな?」みたいな感じで、(自分が)提案したような覚えがありますね。

DJ松永:うん。

R-指定:で、「めっちゃいいやん!」ってなって、ちょっとだけ前後はあれど、基本その感じでスッと決まった感じでした。でも楽しかったですね。こんだけの曲数をバーっと作ると、並べ替えるのも楽しいし、どんどん積み重なって1曲1曲破壊力を増していく側面もあれば、前後の曲によって、すでにリリースしていた曲の破壊力が増したりするっていうのもあって。


――確かに、この並びで聴くと「オトノケ」「二度寝」もすごく“内”に入ってくる曲に聴こえるし、なんならこの2曲、音数多くない?と感じたりもしました。シングルとして聴いていた時と、全然違うように聴こえたのがすごく面白くて。

R-指定:違うように聴こえてくれるのは嬉しいですね。


今がめっちゃドラマチックなわけじゃないというか、ずっとそうやった

――この流れで行くと、「通常回」。この曲は本当に、今のCreepy Nutsがいちばん言いたいことなんじゃないかと思って聴きました。かたや東京ドームを幕引きの場所に選んだBAD HOPもいたなかで、Creepy Nutsは東京ドーム公演の先も活動を続けていく、という意思表明のようにも聴こえてきて。

R-指定:“ラップ”っていうのは、自分の日常とか、自分の超個人的なこととかを、すっげえドラマチックに解釈してしまうわけですよ。それがリリックになったり。でも、それがほんま「日常」というか「通常」、全部、どんな場面もそうというか。だから俺は確かに、リリックで“そう”(ドラマチックに)書くんですよ。実際そう思ってるし、そう見えてるし。で、こういう仕事をしていると、たぶんそこで限界なんです、俺のドラマチック具合は。もうそれで自分の中では完結しているけど、やっぱり外から見た人にとっては、よりドラマチックに感じられて演出されたり、気持ちが乗っかってくる……みたいなところがあるじゃないですか。だから、改めて「通常回」って言ってる感じがします。この曲のこのテンション感が、今の自分らの感じというか。必要以上にエモくもドラマチックでもなく、でも必要以上に淡々ともしてない。ほんまにこの感じ(笑)。


――なるほど。

DJ松永:なんか、ことあるごとに最終局面みたいな話の振られ方をするわけですよ、どこに行っても。

R-指定:言葉にするとむずい、というか一言で言えないから、これだけの行数を書いてて(笑)。世間的に見たら「すごいですね」ってことがあって、それに対して「すごいですね!」って言われて、「そうっすよね」みたいな感じもあるし。でも、必要以上に「人生が……」みたいなことを言われても、「いや、なんやったら俺はラップに出会った瞬間からめちゃくちゃ、それでいうと超・最終局面」というか。そこでエンドロール流してもいいくらい、俺はヒップホップに出会った瞬間に、超感動してるし。全然、今変わったわけじゃない。今がめっちゃドラマチックなわけじゃないというか、ずっとそうやった。逆に言うと、ずっと淡々としてきたし、ただ好きなことを好きなようにやろうとしてきただけなんです。

DJ松永:去年で、別に生活変わってないしな。全く。一昨年と変わんねえし!みたいな。

R-指定:そうなんよ! 日記的な曲でも……もちろん、ラッパーとして「すごいですね」って言われるくらい“かました”わけですから、「かましたぞ!」っていうのは言ってはいるけど、なんというか、すごい生活はしてないでしょ?(笑)リリックの中で。


――はい(笑)。「その辺を歩いてる感」があって。

R-指定:そのテンション感でアルバム(の曲)を全部書いていったし、気持ちも込めていったからこそ、最後「通常回」で、「要はこういうテンションですね、俺は」みたいな感じを表現したというか。

DJ松永:本当そう。なんというか、一定して穏やか、とかっていう意味じゃないけど、“凪”。

R-指定:ほんまそうですね。俺は“浮き沈み”はむちゃくちゃ激しいから、それがいつも通り続いてるって感じ。いつも通りぶち上がってるし、いつも通りめちゃくちゃ落ちるし。いつも通りスンってなるし、いつも通り感傷的になるし……っていうのは、別に、最近やから変わったとかじゃない、みたいな(笑)。

――私、逆なのかなと思ってました。成功した今のほうが、過去も肯定的に見えやすいというか。

R-指定:俺は、自分のことがずっとドラマチックに見えてるんですよ。だからラッパーになったと思うんです。ほんま些細なことでも、たとえば「はらぺこあおむし」とかも、「子どもがおもちゃをすぐ口に入れる」っていうことですら、俺からしたら「おいこれヤバいやん! このシーン!」みたいになって。


――この曲も、キャベツからここに飛ぶんだ!と思いました。

R-指定:そのキャベツとかも、テークエム(梅田サイファー)とかと昔遊んでて、「いや、俺らはらぺこあおむしやん!」って言ってたのも、マジでなんでもないフレーズやのに、俺の中ではずっと名パンチラインとして残ってて。俺はたぶん、全部過剰に捉えすぎるんですよね。その「捉えすぎる」のが、ずっと変わってないっていうことなんです。たとえば『紅白』に出て、より“エモ”が増すかと言ったら、ずっとこう(笑)。これが俺の通常運転なんですよ。でも、いわゆる皆さんが思うような“エモ”とか“感傷”じゃなく。もっと浮き沈みが激しいし、ちっちゃいことにものすごい極端になるし、勝手に自分を重ねるし……みたいなのがあるから、俺はラップに向いてるんやろうなとも思うし。

DJ松永:最近さ、(エモさが)なさすぎて困ってるんだよ。過去イチ自分の中にエモさが消えててさ。でも、そのぶん音にはフォーカスできるから、音作りに集中できるマインドにはあるのかもしれないけど。音だと、感情が関係ない。単純に音として「いい」か、みたいなのを考えて作るから。

R-指定:でもさ、そう考えたら「いい」んじゃない? 俺はたぶん……めちゃくちゃ忙しかった時期あるやん? あの時期は、自分の感情をしっかり、なんというか、味わい切ることができんかったわけよ。

DJ松永:あ~。

R-指定:で、俺はたぶん、一回その感情になったらとことんまで浸りたいわけですよ。そしたら、言葉がいっぱい出てくるんやけど……。それをする前に次の仕事とか、次の何かがあったから。

DJ松永:サイクルが早すぎたよな。

R-指定:浸りきれんまま走り出した◯年間、みたいなんがあったんですよね、実際。だから今回はゆったり、贅沢に時間を使ったから……。

DJ松永:深く入っていけたよね。

R-指定:うん、深く。そこがめっちゃ良かったんやと思う。松永さんは“凪”で、音にグーンって入っていける。俺は日常っていうものを過ごしながら、より自分の浮き沈みとか、些細なことにズシーンと浸れたというか。全部に浸れたから、たぶんこんだけ個人的なワードとか、聴いてくれたときに「◯◯と◯◯が繋がってる!」って感じるくらい地続きでの表現ができていたから、自然とアルバム一枚を通して、意味合いとかも繋がったんかもしれないですね。


Rが脚本、俺がカメラマン

――先日あるアーティストさんの取材で、楽曲について、作曲者の方は「自分の感情の表象」としてメロディーを作って、詞は別のメンバーさんがそのメロディーに込められた「感情を共有」することで乗せた、とおっしゃっていて。おふたりはその方法と真反対な感じがしますね。

DJ松永:でも、曲を作るキャッチボールの時に、めっちゃ“R-指定のリリック”は降ろしますね。最初、自分が思い描くいいリフを送って、Rが歌詞を書いてラップが乗っかってきたら、そこにストーリーが乗っかるじゃないですか。そのストーリーを際立たせるために、どの音がいいか?っていう取捨選択の基準が生まれるんで、「じゃあここはこうして、こう」みたいな……Rが脚本を書いてくれて、俺がカメラマンで、脚本に画をつけるみたいな作業工程に近いなと思ってて。


――なるほど!

DJ松永:全部、歌詞に合わせてるんです。自分の中で、画を想像しながらトラックを作ることが多くて。Rの歌詞が上がってきて、「あ、こういう画だな」ってなったら、その画に自分でハマるような音選びをしてますね。「エマニエル」とかめっちゃ意識してる。

R-指定:はいはいはいはい! そうやんね。

DJ松永:バースのとことかも、俺の中で映像を……〈うなだれた俺に~〉のところとか、その時のRの様子とかを想像して、それに合うBGMをはめて作る、みたいな。めっちゃ落ちたりとか。

R-指定:落ちてるなあ~、そこ。そっから俺の「きたきた!」ってひらめいたところで戻ってくる。

DJ松永:そうそう。……サビの頭とかも、バースと地続きにしたいなと思って。サビでボーン!じゃなくて、ここはドラムでシンプルにして、あんまりバースと展開はつけずに、ってやったりとか。

R-指定:ストーリーは続いてるもんな、このまんま。この延長線上で、ここの〈蛇口壊れた~〉ってのがきて。

DJ松永:サビの後半になって音数が戻ってくる。


――すごい……。

DJ松永:それは全部、めっちゃ時間かけてやりますね。

R-指定:インタビューしていただいてから何回も言うてる「贅沢に音楽に向き合える」みたいなことですけど、それをもっと正確に言うと、こんなに贅沢に「感情」に向き合える、自分に入っていける、みたいな。俺の場合はそうやったなと思います。

DJ松永:めっちゃわかる。

R-指定:ね。結果、だから「doppelgänger」みたいなことが出てくるんですよ。歌詞的にも。あの自分、この自分……みたいな。どれがいい/悪いじゃなくて、そんないろんな自分がおる状態って、まさしく“ドッペルゲンガー”やし、ひいては「LEGION」っていう悪霊の軍団、俺の中では映画『ガメラ2 レギオン襲来』の怪獣レギオンなんですけど、あのウワーッて集まってくる大群が全部自分で、自分の感情で、自分の2個目の顔かつ側面、みたいな。

DJ松永:そうだよな。俺、「doppelgänger」も完全にRのリリックで展開つけてるわ。

R-指定:俺の中では結構「doppelgänger」の曲のやり取りで、どんどんお互いぶち上がっていく、「えーっ、そう行く!?」みたいな感じは、「ビリケン」を作ったときの感覚とすごい似てたというか。とにかく超試されるビート、試されるトラックがまずあって、それに俺が思いっきり自分の持てるイケてる乗せ方で暴れまくって、それを松永さんがまた俺のフロウにさらに展開つけて加速させていく……みたいな、そこのワクワク感、ライド感みたいなのはあったよな。

DJ松永:そうね。新しくラップ乗っかって返ってきたら、なんか“まんま”で返しちゃダメというか、負けなような気がして。それをしすぎてちょっと、迷走しちゃったり(笑)。


NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. DJとラップだけでかますのが、
    俺らの“最大”であり、やりたいこと
  3. Next>

日々の生活が全部インプット

――おふたりとも、その新しい引き出しを作るためのインプットってどうされてるんですか?

R-指定:様々ですね。言うてもうたら「全部」ということになってしまうから、非常に申し訳ないんですけど……(笑)。

DJ松永:気づいたら貯まってるよね。

R-指定:そうなんですよ。

DJ松永:でも根本のところはだいぶ、自分のセンスに委ねてるところもありますね。なんか、そこに関してはもう、自分頼りでしかないなっていうところもある。


――Rさんはもちろんですけど、松永さんも“連想力”がすごいですよね。

R-指定:めっちゃすごいと思います。松永さんのは音やったり、視覚化/聴覚化するほうの連想力やと思ってて。俺は言葉にしていくっていう、全然違う役割がやっぱりあるんやなと思うし。たぶん、日々の生活が全部インプットになってるんですよね。

DJ松永:気づいたら、やりたいこととかが貯まってるよね。時間はかかるけど。「今貯まった!」というよりは、1か月経ったらいつの間にか「あれ? なんか曲作れそうなくらい貯まってるな」みたいな。

R-指定:俺も。作りたい曲の感じとか貯まってたり。俺なんかは、生きてたら言葉が貯まるというか、生きてて経験する、日々時間が経過していくたびに何か思うわけで。


DJとラップだけでかますのが、
俺らの“最大”であり、やりたいこと

――では最後は、東京ドーム公演のお話で。「通常回」で〈ターンテーブルとマイクやる事は変わんない〉というリリックがありますが、Creepy Nutsのライブをいつも拝見していて印象的なのが、ワンマンでもフェスでも、会場の大小に関わらず、いつもターンテーブルとマイクだけで観客を沸かせているストイックな姿です。とりわけドーム公演というと、ほとんどのアーティストさんが大掛かりな演出を取り入れられることが多いなか、ステージ図面を見る限り(※取材はドーム公演前、1月下旬に実施)、今回も特別な演出があるわけではないですよね?

DJ松永:そうですね、特には。バンドが入ったり、ダンサーが入ったりとかはせず、いつも通りです。


――ここへのこだわりを、最後に伺えればと思います。

R-指定:結果さ、それが“最大”やからじゃない? 俺らの。

DJ松永:ほんっとそう!

R-指定:いろんな演出したり、いろんなことをしてもらう以上に、「ラップすること」が俺的には、いちばんいろんなものを見せられるし、いちばん派手にできることで。で、松永さんはDJで、っていう。

DJ松永:というか、自分たちにとってはそれがいちばん“いい”から、それをやるというか。ヒップホップの多くの人は、途中でバンドとかダンサーが入っていって……ヒップホップって言い始めて、それでどんどん大きいステージを踏んでいくのが――俺の中で、他の人は違うかもしれないけど――いいわけであって。「いやちょっと待って、大きいステージは結局、ヒップホップ的なライブはできなくなるってこと?」みたいな。大きいステージになった途端、元々やりたいことを手放さないといけない虚しさみたいなのがあって。そもそも、バンド入っちゃったら俺、いらないですからね……?

R-指定:あははは!

DJ松永:アイデンティティの問題なんですよ。それは他のアーティストでやったほうがいいんじゃない?って感じがしちゃう。演出を派手にしていくって、逆に何も考えなくてもできるやつというか(笑)。大きいステージに耐えうるDJ、ラップをすればいい。むしろそこが問われる、そこの競技な気がするんです。


――なるほど。

DJ松永:大きいステージ、大所帯になっていけばなるほど、なんか……ゲタを履かせてもらえるようなことになるじゃないですか。複雑ですよね。やっぱ、剥き出しでよりヤバいラップをして、ヤバいDJができるようになっていきたいはずなのに。

R-指定:特に俺らはそういう側面が強いから……むしろそういう、ド派手なのが最初っからやりたくて、そこを目がけてやってるやつは(派手な演出で)めっちゃいいと思うんですよ。俺はやっぱ、ラップで“いわせたい”わけですから。

DJ松永:そう。

R-指定:松永さんも、俺もスキルでバチコーンといわせたい、みたいなところがあったから、より最善の形がこうだったんです。


――でもたぶん、そうやって言い切れる人は少ないというか……言い切るのって勇気がいるんだろうなと思ったりします。

DJ松永:確かに……傲慢だったかもしれません(笑)。

R-指定:あははは!

DJ松永:「ドヤ!」って自分でめっちゃ思ってるからこそ、こんな演出をしたいって考えるっていうね。

R-指定:そうかも。「とにかく、他の何かより俺の話を聞け!」みたいな(笑)。

DJ松永:かましたいよね。

R-指定:そうそう。俺のラップでかましたい、DJでかましたいっていうのがいちばん強い欲求やから……そういうことなんでしょうね。


関連キーワード

TAG

関連商品

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥6,500(税込)

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥4,800(税込)

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥3,600(税込)

オトノケ
Creepy Nuts「オトノケ」

2024/12/11

[CD]

¥1,870(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥5,500(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥3,300(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥2,200(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥5,500(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥3,300(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥5,500(税込)

かつて天才だった俺たちへ
Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」

2020/08/26

[CD]

¥3,960(税込)

かつて天才だった俺たちへ
Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」

2020/08/26

[CD]

¥2,420(税込)

よふかしのうた
Creepy Nuts「よふかしのうた」

2019/08/07

[CD]

¥3,630(税込)

よふかしのうた
Creepy Nuts「よふかしのうた」

2019/08/07

[CD]

¥2,200(税込)

クリープ・ショー
Creepy Nuts「クリープ・ショー」

2018/04/11

[CD]

¥3,300(税込)

助演男優賞
Creepy Nuts「助演男優賞」

2017/02/01

[CD]

¥1,650(税込)

Breezin’
DJ☆GO & DJ FILLMORE DJ松永 CRAY-G 詩音 秀吉 RICHEE BIG RON DAZZLE 4 LIFE「Breezin’」

2016/08/31

[CD]

¥2,178(税込)

Breezin’
DJ☆GO & DJ FILLMORE DJ松永 CRAY-G 詩音 秀吉 RICHEE BIG RON DAZZLE 4 LIFE「Breezin’」

2016/08/31

[CD]

¥2,178(税込)

たりないふたり
Creepy Nuts「たりないふたり」

2016/01/20

[CD]

¥1,650(税込)

サーカス・メロディー
DJ松永「サーカス・メロディー」

2014/10/15

[CD]

¥1,980(税込)

サーカス・メロディー
DJ松永「サーカス・メロディー」

2014/10/15

[CD]

¥1,980(税込)

セカンドオピニオン
R-指定「セカンドオピニオン」

2014/04/01

[CD]

¥2,750(税込)

DA FOOLISH
DJ松永「DA FOOLISH」

2012/05/02

[CD]

¥2,096(税込)

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥6,500(税込)

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥4,800(税込)

LEGION
Creepy Nuts「LEGION」

2025/03/12

[CD]

¥3,600(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥5,500(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥3,300(税込)

アンサンブル・プレイ
Creepy Nuts「アンサンブル・プレイ」

2022/09/07

[CD]

¥2,200(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥5,500(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥3,300(税込)

Case
Creepy Nuts「Case」

2021/09/01

[CD]

¥5,500(税込)

かつて天才だった俺たちへ
Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」

2020/08/26

[CD]

¥3,960(税込)

かつて天才だった俺たちへ
Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」

2020/08/26

[CD]

¥2,420(税込)

よふかしのうた
Creepy Nuts「よふかしのうた」

2019/08/07

[CD]

¥3,630(税込)

よふかしのうた
Creepy Nuts「よふかしのうた」

2019/08/07

[CD]

¥2,200(税込)

クリープ・ショー
Creepy Nuts「クリープ・ショー」

2018/04/11

[CD]

¥3,300(税込)

助演男優賞
Creepy Nuts「助演男優賞」

2017/02/01

[CD]

¥1,650(税込)

Breezin’
DJ☆GO & DJ FILLMORE DJ松永 CRAY-G 詩音 秀吉 RICHEE BIG RON DAZZLE 4 LIFE「Breezin’」

2016/08/31

[CD]

¥2,178(税込)

Breezin’
DJ☆GO & DJ FILLMORE DJ松永 CRAY-G 詩音 秀吉 RICHEE BIG RON DAZZLE 4 LIFE「Breezin’」

2016/08/31

[CD]

¥2,178(税込)

たりないふたり
Creepy Nuts「たりないふたり」

2016/01/20

[CD]

¥1,650(税込)

サーカス・メロディー
DJ松永「サーカス・メロディー」

2014/10/15

[CD]

¥1,980(税込)

サーカス・メロディー
DJ松永「サーカス・メロディー」

2014/10/15

[CD]

¥1,980(税込)

セカンドオピニオン
R-指定「セカンドオピニオン」

2014/04/01

[CD]

¥2,750(税込)

DA FOOLISH
DJ松永「DA FOOLISH」

2012/05/02

[CD]

¥2,096(税込)