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<インタビュー>「幾億光年」のヒットと夢の舞台・紅白初出場――Omoinotakeが激動の2024年を経て、バンドの在るべき姿を再確認した最新アルバム『Pieces』【MONTHLY FEATURE】
Interview & Text:Takuto Ueda
Photo:Akari Yagura
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、メジャー2ndアルバム『Pieces』をリリースした島根出身の3人組バンド、Omoinotakeのインタビューをお届けする。
TBS系火曜ドラマ『Eye Love You』の主題歌として書き下ろし、2024年1月にリリースした「幾億光年」は、Billboard JAPANの総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で最高2位をマーク。その後も長きにわたってチャートインし続け、12月に発表された年間チャートでは総合3位を獲得するなど、この年を代表する一曲に。ほかにもシングルをコンスタントにリリースし、ツアーも回りながら、さらには数々のフェスやイベント、音楽番組にも出演。着実に活躍の場を広げた結果、年末には『NHK紅白歌合戦』へ初出場を果たした。かねてより「ヒットソングを作る」「紅白歌合戦に出場する」を公言しながら活動してきたOmoinotakeにとって、2024年はその二つの目標を叶えた意義深い一年となった。
最新アルバム『Pieces』は、前述の「幾億光年」やTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第7期エンディング・テーマの「蕾」、ドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』主題歌の「ラストノート」など、既発のシングルを含む計10曲入り。バリエーション豊かな“踊れて泣ける曲”が集まった本作について、メンバー3人に語ってもらった。
念願の「紅白出場」を叶えて
――これまで「紅白出場」を目標に掲げてきた皆さんですが、実際にそのステージに立ってみていかがでしたか?
藤井怜央(Vo. / Key.):やっぱり「紅白に出続ける」を掲げてきたぶん、思い入れが特に大きくて。僕は基本的にライブもテレビもあまり緊張しないんですけど、さすがに今回はめちゃくちゃ緊張しました。あとは「出続ける」という目標を叶えたいという想いがより強くなりましたね。
――現場の雰囲気などはどのように感じましたか?
藤井:お祭り感がすごくあって。場の雰囲気も楽しかったので、それも相まって「また出たい」と思いました。
冨田洋之進(Dr.):シンプルに楽しかったですね。ほかの番組とはちょっと雰囲気が違うのもあるし。でも、自分たちのステージは「気がついたら終わっていた」みたいな感じで。
――パフォーマンスの魅せ方など、事前に話し合ったことはありますか?
藤井:今回披露した「幾億光年」は、まっすぐに想いを届けようとする曲なので、特に「こういうふうに届けよう」という話はしませんでしたね。ただただ歌をちゃんと届けたかった。
福島智朗(Ba.):ずっと目標にしていた舞台が素敵な場所で良かったと改めて思いましたし、なかなか第一歩を踏み出すことが難しかったので、やっと人生を前に進められたなって気持ちになりました。
――「幾億光年」のヒットや紅白出場など、2024年はバンドとして大きな飛躍を果たした一年になったのではないかと思います。総括するとしたら、どんな言葉がふさわしいと思いますか?
藤井:やっぱり「激動」ですね。それに尽きるかな。常にやらなきゃいけないことが目の前にあったけど、自分としてはそれがうれしくて。この12年間、自分から動かないと何も始まらないという時期が長かったので、去年は高いモチベーションをずっと持ち続けられたという意味で、「激動」だったのはよかったなと思います。
――能動的に届けにいく活動の一方で、何かを求められる機会も増えたというか。
藤井:そうですね。出たかったフェスからも声をかけてもらえたりして。すごくうれしかったです。
福島:そのなかで制作もちゃんとしていく、というのを体験できたのも大きかった。すごく健全なスケジュールの組み方ができていたなって。下積み期間というか、結成してからの十数年があっての去年でよかったなと思います。
――地力があってこそですね。
福島:そうですね。パンクせずに活動できたのは、たぶん続けてきたものがあったからなんだろうなと思います。
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――最新アルバム『Pieces』ですが、制作はいつ頃からスタートしていたのでしょう?
藤井:(2024年)9月くらいまではシングルに集中していた感じで、アルバムのモードに切り替えたのが10月ぐらいかな。
福島:そうだね。シングルとしては「ラストノート」が最後の制作だったと思う。アルバムを作ること自体は夏頃に話していたけど。
――当初はどんな作品イメージを描いていましたか?
福島:その夏頃の時点では、まだ全体像が見えてなかったですよね。
――では、本格的なアルバム制作が始まった10月頃から一気に構築していった感じでしょうか?
福島:わりとそうでした。タイトルから先に決まったんですけど、根本的なテーマとして考えていたのは、僕たちは誰かが一人でも欠けていたら何もできなかっただろうし、一人で良いものは作れないけど、それぞれ自分の得意なことを持ち寄ることで、Omoinotakeという一つの塊、集合体になれるということで。ちょうど10月にレオ(藤井)が体調を崩して、ワンマンを延期したこともあったので、なおさら思い知ったりもしたんですけど。2024年はそういうことを実感しながら歩いた一年だったので、そこから『Pieces』というタイトルがまず最初に決まったんです。
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――バンドの在り方を表現した言葉なんですね。
福島:あとは、シングルも一曲一曲がすごくバリエーションに富んでいたので、それもピースの一つずつと捉えていて。「Pieces」という表題曲は絶対に作ろうと思っていたし、ほかのアルバム曲もそのタイトルに沿って作れたなと思いますね。
藤井:これまでも“踊れて泣ける”というのを軸に曲を作ってきたなかで、今回は『Pieces』というタイトルがまず決まったことで、いろいろな“踊れて泣ける曲”が揃ったアルバムにしたいと思いながら、僕も曲を作っていました。もともと10曲入りにすることは決めていたので。
冨田:僕自身もメンバーの一員として、できることを最大限にやれたなという手応えがありますね。音作りから演奏まで。デモの時点では、レオがちょっと余白を作ってくれるんですよ。「好きなようにやっていいよ」みたいな。そこに納得のいくフレーズと演奏を作れたなって。
――少し難しいとは思いますが、特に手応えを感じている楽曲を選ぶとしたら?
冨田:「P.S.」の2サビ前です。
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――ピンポイントですね(笑)。この曲はもともと1曲目のイメージでしたか?
藤井:そうですね。歌詞が完成したのはいちばん最後なんですけど。でも、1曲目のつもりで書きました。
――具体的にはどんな構想を?
藤井:今までやったことのない挑戦をしてみたいなと思って、いろいろ探したらジャングルのビートを見つけて、「これ、やってみたいな」と思ったんです。本来のジャングルはベースもシンセベースで、もうちょっとダンス・ミュージック寄りですけど、それをそのままやるというより、エモアキ(福島)にはロックみたいなピックのルート弾きをしてもらったりして混ぜ合わせたら、Omoinotakeなりのジャングルができるなって。その流れで、もともと自分たちが聴いていたメロコアも混ぜちゃおうみたいな感じで、最後のサビはメロコアっぽいビートにしたり、すごく遊び心たっぷりの曲になりました。
――そこにメロコアが入ってくるのが面白いです。
藤井:自分がすごく飽きっぽいので、すぐに“やったことないこと”をやってみたくなるんです。常にいろいろなビートを楽しく探していますね。メロコアの部分については、サンダーキャットを聴いたとき、2ビートみたいな曲があって。メロコア出身じゃない人もこういうふうに組み込めるんだなと勉強になりました。
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――作詞はどんなふうに進めましたか?
福島:表題曲の「Pieces」を書き終えていたので、それとつながっているものにしたいなと思いつつ、入り口はあくまで提示というか、こういうコンセプトのものが始まるということを伝えたいと思っていました。最後の「Pieces」でどーんと響けばいいなって。
――アルバムのテーマ性が「Pieces」にはいちばん詰まっている?
福島:そうですね。この曲は歌詞を先に書こうと決めていて。すでにシングル曲がいくつか並んでいたなかで、アルバムのタイトルも決まっていたこともあって、ちゃんと“バンドの現在地の歌”を書かないとアルバムを終われないなと思っていました。ちゃんとタイトルに込めた想いを歌にできたかなという感じですね。
藤井:今回のアルバム、実は「Pieces」だけ歌詞が先なんです。いろいろタイアップもあるけど、それはタイアップ先の作品と自分たちの共通項で歌詞を書いていると思っていて。でも「Pieces」はそうではなく、エモアキが自分たちのこと、バンドのことだけを書いた歌詞で。すごく大切にしたかったし、だからこそ当事者として言いたいことがダイレクトに伝わってくるから、その部分を大切にしてメロディーを乗せたいなと思いました。
冨田:エモアキから歌詞が送られてきたときも素晴らしいなと思ったけど、それにレオがメロディーを乗せて曲が完成したとき、二人で歌詞と曲、メロディーを書き分けているってすごく大変なことだなと、改めて思いましたね。そのバランス感覚がバンドの歴史を感じさせるというか。すごく美しいものを感じました。
――もともと中学の同級生で、10年以上の付き合いですもんね。作詞と作曲の分業制は今後も変わらないスタイルだと思いますか?
藤井:そうですね。このスタイルがOmoinotakeのベストだと思います。たとえば「Pieces」でいうと、冒頭に〈灰色の 街の中で/モノクロの 夢を見てた〉という歌詞があるけど、「灰色の街」とか「モノクロの夢」とかを完全に“共通の言葉”として持っているから、「じゃあ、このメロディーを乗せるしかないよね」というのが歌詞から見えてくる。それはずっと同じ景色を見てきたからだなと思いますね。
福島:「Pieces」の歌詞を考えていたとき、光の三原色もピースだなと思ったんですよね。そこから紐解いて歌詞が湧いてきた感じでした。それこそ灰色のところとか、〈重なり合えば 僕ら どんな色の 夢さえも 描ける〉の部分とか。〈プリズム〉も三角形だし、いいなって。
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――「Pieces」以外は作曲が先とのことですが、作詞のためにデモを福島さんに渡す際、テーマやコンセプトなども一緒に伝えておくのでしょうか?
藤井:いや、基本的にはエモアキが感じるままに書いてもらいます。ただ、今回のアルバムで「フラジャイル」だけ、最初にエモアキが書いた歌詞がちょっとイメージと違ったので、書き直してもらって今の形になりましたね。
――全体的に悲壮感を纏った歌詞になっていますが、最初はどんな歌詞だったのでしょう?
福島:もっとラブソングの感じというか、ちょっとJ-POPをやりすぎていたというか。アルバム曲として、もっと思い切ってしまってもよかったんだなって。これぐらい悲しくてもいいかと思いながら作り直しました。
――曲が進むにつれて多彩なビートが折り重なっていきますね。
冨田:デモ段階でパーカッションがいろいろ鳴っていたんですけど、それを生楽器でどうやるか、ライブもサポートしてくれているぬましょう(細沼章吾)さんの力も借りながら試行錯誤したのがめちゃくちゃ楽しかったですね。
藤井:「フラジャイル」は、北欧の切ないピアノとかシンセのサウンドに、ダンサブルでパーカッシブなビートを組み合わせて、自分の好きなエッセンスで“踊れて泣ける”のど真ん中をやれた曲になりました。
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