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<コラム>【第67回グラミー賞授賞式(R)】開催迫る! ビルボードライブ来日公演開催アーティストの行方

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 2025年2月3日に行われる【第67回グラミー賞授賞式(R)】にはビルボードライブとなじみ深いアーティストが6組ノミネートされている。レイラ・ハサウェイ、エスペランサ・スポルディング、ミシェル・カミロ、ミシェル・ンデゲオチェロ、ロバート・グラスパー、スナーキー・パピーはグラミーではおなじみの実力派ばかり。ここではそれらをひとつずつ紹介したい。

TEXT:柳樂光隆


Lalah Hathaway

【Lalah Hathaway】

 グラミー賞12度のノミネート、5度の受賞。しかも、自身の作品のみならず、ロバート・グラスパー、スナーキー・パピー、カーク・ウェイラムに起用された作品もあり、どんな形でも自身の力を発揮できるのがレイラ・ハサウェイの強みだ。そんなレイラの2024年作『VANTA BLACK』はこれまでで最も多彩な作品だった。その理由はフィル・ボードロー、Arizaといった若いプロデューサーに委ねたこと。レイラは彼らを尊重することで自身の音楽の可能性を飛躍的に拡張することに成功した。『VANTA BLACK』はレイラの新たな最高傑作と言っていいだろう。中でもマイケル・マクドナルドを起用した「No Lie」はソウルフルかつAOR的なポップさもある曲で、これまでのレイラには無かった曲調。新境地も開拓したこの曲のクオリティを考えれば、ノミネートされたのも納得だろう。


Best Traditional R&B Performance
"No Lie" - Lalah Hathaway Featuring Michael McDonald



Best R&B Album
VANTABLACK - Lalah Hathaway




esperanza spalding

【esperanza spalding】

 デビュー時にBest New Artistを受賞したエスペランサ・スポルディングは12度のノミネートで5度の受賞を果たしている。そんなエスペランサはブラジルのレジェンドのミルトン・ナシメントの楽曲をデビュー作『Esperanza Spalding』でカヴァーをし、続く『Chamber Music Society』ではミルトン本人をゲストに迎えていた。ミルトンはエスペランサの最大の影響源だった。そんなミルトンと連名で制作したアルバム『Milton + esperanza』が今回グラミーにノミネートされた。まるでミルトンが持っている様々な文脈を批評的に抜き出し、調理したような解釈からはエスペランサの並々ならぬ思い入れが聴こえてくる。中でも“ブラジルの声”とも評され、歌詞のない歌も多用するミルトンの楽曲をエスペランサはエモーショナルに歌い上げる。Best Jazz Vocal Albumにふさわしいアルバムだと思う。


Best Jazz Vocal Album
Milton + esperanza - Milton Nascimento & esperanza spalding



4

Michel Camilo

【Michel Camilo】

 ドミニカ出身で現代ラテンジャズを代表するピアニストのミシェル・カミロとスペインの革新的なフラメンコ歌手カマロンとの共演でも知られるフラメンコ・ギタリストのトマティートは幾度となく共演してきた。二人は連名でデュオアルバムも制作していて、2000年の『Spain』をヒットさせてからは2006年に『Spain Again』、2016年に『Spain Forever』を発表。抜群の相性が話題を呼び、二人の共演作は名作の名をほしいままにしてきた。2024年、二人は『Spain Forever Again』として再び録音を行った。フラメンコとラテンジャズ由来の曲だけでなく、パット・メセニーの曲など幅広いレパートリーを取り上げ、このふたりならではのテクニカルなアレンジで聴き手の度肝を抜く。このデュオ・プロジェクトでのノミネートは初だ。受賞に期待が膨らむ。


Best Latin Jazz Album
Spain Forever Again - Michel Camilo & Tomatito



Meshell Ndegeocello

【Meshell Ndegeocello】

 2024年に新設されたBest Alternative Jazz Albumの最初の受賞者がミシェル・ンデゲオチェロだった。そして、ミシェル自身にとっても初の受賞だった。今年ミシェルは2年連続での受賞を狙う。今作は公民権運動にも貢献した黒人作家ジェイムス・ボールドウィンへのトリビュート作。ジャズ・ミュージシャンを含めた精鋭たちを揃え、ボールドウィンが抱いた差別や人種問題への激しいメッセージやアメリカを離れたこともあるボールドウィンの愛憎入り混じる自国への想いなどをミシェルらしい生演奏とプロダクションを組み合わせたサウンドで表現している。




Robert Glasper

【Robert Glasper】

 そして、過去に15度ノミネートされ、5度受賞しているロバート・グラスパーはアップルミュージック限定で配信されていた『Code Derivation』でノミネートされている。『Code Derivation』はジャズとヒップホップの関係を示す実験的な作品で、グラスパーのバンドが様々なタイプのバンドサウンドを演奏した曲と、その曲をサンプリングして作ったジャズ×ヒップホップの楽曲が交互に並ぶ。この意欲的な試みがグラミーの場でどう評価されるのかという点でも興味深い。



Best Alternative Jazz Album
No More Water: The Gospel Of James Baldwin - Meshell Ndegeocello
Code Derivation - Robert Glasper



Snarky Puppy

【Snarky Puppy】

 作曲家ヘンリー・マンシーニの生誕100周年の2024年、トリビュートアルバム『The Henry Mancini 100th Sessions』が制作された。クインシー・ジョーンズやハービー・ハンコック、スティービー・ワンダー、パットメセニーら豪華な面々が参加していたこのアルバムの最後に収録されたのがスナーキー・パピーが奏でる「Baby Elephant Walk - Encore」。この曲はアフリカのタンザニアで撮影された映画『Hatari』の挿入歌。この名曲をスナーキー・パピーのマイケル・リーグはパーカッションを際立たせた穏やかな前半部からスタートし、そこから一気に得意のアフロビートへとなだれ込むアレンジで、映画との関係性を示しながらリズムの面白さをアピールした現代的なアレンジへと生まれ変わらせた。スナーキー・パピーはこれまでにグラミー賞に5度ノミネートされ、5度受賞している。無傷の6連勝になるかも含めて楽しみな部門でもある。ちなみに同賞にはスナーキー・パピーとも深いつながりがあるジェイコブ・コリアーもノミネートされている。


Best Arrangement, Instrumental or A Cappella "Baby Elephant Walk - Encore" -
Michael League, arranger (Snarky Puppy)




 

 我々日本のリスナーがビルボードライブでまさに自身の目の前で演奏しているのを目撃したアーティストたちが今年もグラミーにノミネートされている。主要部門やカントリー部門がどうなるのかも気になるが、実際に目にしたアーティストが受賞するかどうかにも注目したい。




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