Text: もりひでゆき

　かけがえのない大切な相手へと注がれたあたたかく、優しく、切ない感情たちの“軌跡”。想いを込めて紡がれた物語たちが受け取り手の元に大きな共感を呼び起こしながら届いていく“軌跡”。そして、一人の女性シンガー・ソングライターが心の内に広がる世界を音楽に落とし込みながら、凛とした足取りで前へと進み続けてきた“軌跡”――。

　2019年秋からギター弾き語りによるカバー動画をSNS上にアップし、2020年からはオリジナル曲の配信をもって本格的なキャリアをスタート、22年にはメジャーデビューを果たしたりりあ。が1月15日にリリースした待望のメジャー1stアルバム。そこには、その輝かしい歩みを慈しむように「軌跡」というタイトルが掲げられた。

　タイトルに相応しく、約5年の濃密な活動を網羅する全17曲（初回生産限定『わたしの幸せな結婚』盤のみ18曲）が収められた本作。その多くの楽曲にタイアップがついていることを見ても、りりあ。の楽曲、歌声がいかに今の時代に求められているのかがわかる。自身が声優デビューも果たした映画『バブル』のエンディング・テーマとして生まれた「じゃあね、またね。」では、“恋が終わった日”の張り裂けそうな感情を情感に満ちた歌声で表現し尽くす。恋愛をモチーフとした楽曲を得意とするりりあ。は、誰もが経験したことのある恋に起因する感情を真っ直ぐに、瑞々しく紡ぐ。その大きな武器を遺憾なく発揮した「君の隣で。」は、ABEMAの恋愛リアリティ番組『今日、好きになりました。初虹編』挿入歌として多くの共感を呼んだ。「イツメン。」では、APOGEEの永野亮が作曲・アレンジを手掛けた弾むサウンドの上で、大好きな“イツメン”の友達との楽しい時間を色鮮やかなボーカルで描き出した。恋愛ではないものも、これもまたりりあ。らしいラブソングといえるだろう。

　TVアニメ『わたしの幸せな結婚』第一期オープニング主題歌となった「貴方の側に。」では原作に登場するセリフを歌詞に盛り込んでみたり、TVアニメ『らんま1/2』エンディング・テーマの「あんたなんて。」では相手への想いとは裏腹に強がってしまうチャーミングな表情を見せたりと、アニメの世界観にグッと寄り添った歌詞とソングライティングを披露。そのマッチングの妙は、日本国内はもちろん、海外からも大きな反響を得ている。自身の軸をブレさせることなく、タイアップ作品に融合していくセンスと柔軟さもまた、彼女が時代に求められる大きな要因のひとつになっていることは間違いない。

　

　アルバムには他にも、ノンタイアップだからこそ素のりりあ。の内面がより垣間見えている「ずるい君。」や「私じゃなかったんだね。」といった名曲も収録。さらに、初めて男性アーティストとのコラボが実現したことにより、男女それぞれの感情が1曲の中で交錯していく「恋って難しい。feat. Aru. from ミテイノハナシ」や、TVアニメ『サマータイムレンダ』第二クールの最終回でのみオンエアされた「失恋ソング沢山聴いて 泣いてばかりの私はもう。acoustic ver.」、映画『バブル』のサントラのみに収録されていた澤野弘之による作曲・アレンジ作「色彩」など、多彩な楽曲が目白押しだ。

　また、アルバムにはもちろん新曲も収録されている。オープニングを飾る「幸せな約束。」は、放送中のTVアニメ『わたしの幸せな結婚』第二期のオープニング主題歌。人気作との二期連続でのコラボとなった。元HOWL BE QUIETの竹縄航太によるあたたかなアレンジが施されたサウンドとともに、幸せに満ちた関係が歌われていくストーリーは、第一期オープニング曲「貴方の側に。」からの進展を感じさせる仕上がり。前述の通り、作品の世界観にしっかりと寄り添った2曲は、ぜひアニメのストーリーとともにじっくりと堪能してほしい。

　もう1つの新曲は、aikoやback numberなどの楽曲を手掛ける島田昌典がアレンジを手掛けた「ごめんね。」。恋の灯が消える寸前の苦悩、諦め、未練が切なさ成分全開で描かれていく感動的なミディアムナンバーだ。島田節ともいえるストリングス・アレンジが光るドラマチックなサウンドをバックに展開していくりりあ。の感極まったボーカルが、強く胸を打つ。振り絞るように吐き出したラストの“幸せになろうね”の1ラインと、その後の何かを飲み込んだかのようなブレスからは、表現者としての大きな進化が実感できるはず。

　そしてもう1曲は、「ガランド」などのヒット曲を持つボカロP、Piconがアレンジを手掛けた「消去。」。冒頭から踏切の警報音が鳴り響く緊張感のあるサウンドや、恋愛におけるダークな感情へ踏み込んだリリック、エフェクトをかけた無機質なボーカルと、全編にわたってりりあ。にとっての新境地を鮮烈に感じさせる仕上がりとなっている。普遍的な恋にまつわる感情を、繊細な筆致で紡いできたことで着実に支持を獲得してきたりりあ。だけに、この曲で見せるディープな表情は驚きをもって迎えられることになるのかもしれない。だが、それもまた彼女にとっての表現の幅として、今後は大きな武器のひとつになっていくことだろう。言わずもがな、恋愛はきれいごとだけじゃないのだから。

　シーンの中でひときわ強い輝きを放つりりあ。という才能にどっぷりと浸れるメジャー1stフルアルバム『軌跡』。すでに完成されたアーティストイメージが持つ早熟さはありつつも、そこに胡坐をかくことなく、様々なアレンジャーとのコラボレーションを積極的に行い、常に自身を革新的にアップデートさせようとする姿勢も、本作ではしっかりと表現されている。活動スタートからの約5年間のベストアルバムともいえる作品を創り上げたことで、ここからはりりあ。のフェーズ２がスタートするのだろう。そのヒントもここにはきっと隠されているはずだ。大成功となった昨春の初ワンマンに続き、この春には東京、名古屋、大阪、札幌、福岡という全国5大都市を巡る初のスタンディング・ライブツアー【OneMan Live Tour 2025「春歌の軌跡」】の開催も決定した。果たして彼女はここからどんな進化を遂げていくのか。りりあ。楽曲はタイトルに句点がつくのがお決まりだが、軽やかに続いていく“軌跡のその先”への期待を込め、あえて読点で本稿を終えたい、