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<インタビュー>ユッコ・ミラーの熱烈オファーで実現したH ZETTRIOとの共作アルバムとビルボードライブ公演について両者が語る
Interview & Text:小松香里 / Photo:SHUN ITABA
かねてよりH ZETTRIOをリスペクトしていた国内外で活躍するサックス奏者、ユッコ・ミラーの熱烈なオファーにより生まれたコラボレーション・アルバム『LINK』はユッコ・ミラー(Sax.)とH ZETTRIOのM(Pf.)が5曲ずつ作曲を手がけ、H ZETTRIOが全面的にアレンジを担当した全10曲が収録されている。4人の演奏が火花を散らすようにぶつかり合うカオティックな楽曲もあれば、引きの美学が注入された静謐で落ち着いた楽曲もある。パッショネイトでユニークでクールでスリリングなユッコ・ミラー×H ZETTRIOにしか作り得ないサウンドが詰まっている今作を引っ提げ、4月に東阪のビルボードライブで公演を行う2組に話を聞いた。
熱烈なオファーによって実現した夢のコラボ
――昨年の夏に、ユッコさんがH ZETTRIOにコラボのオファーをしたところから始まったそうですが、いつ頃からそういう想いがあったんでしょう?
ユッコ・ミラー:私は高校1年生の時に吹奏楽部に入ってサックスを始めたんですが、2年生の時にH ZETTRIOの皆さんが以前やっていたバンド、PE’ZのファンになってPE’Zばかり聞いていました。私は毎年自分のアルバムを出しているんですが、今年はどういうアルバムにしようかなと思っていろいろなアーティストの音源を聞いてた時に、PE’Zを聞いたら「やっぱりめちゃくちゃかっこいい!」と思って奇跡的にH ZETTRIOさんとご一緒できないかなと思ってH ZETTRIOさんの事務所や連絡先を調べて「コラボしていただけないですか?」というメールを送りました。
――H ZETTRIOの皆さんは見に行ったビルボートライブでのテラス・マーティンの公演にユッコさんが登場したことを覚えていたそうですね。
H ZETT M:そうですね。3人で観に行きました。
H ZETT NIRE:最後の方で急にユッコさんが出て来て、ピンクの髪の女性がぶわーっとサックスを吹くわけです。「すごいな」って思いました。そこから何年も経ちましたが、かなり強烈なインパクトがあって、今回のお話をいただいた時にすぐに「あの時の!?」と思いました。
M:それですぐにOKさせていただきました。
ユッコ:あっという間に打ち合わせやリハーサルやレコーディングが進んでいきましたね。
――H ZETTRIOは毎月新曲を配信するというギネス記録を更新しつづけていますが、お忙しい中すぐにレコーディングに入ったんですね。
M:そうですね。意外とやることはあるのでスケジュール的にはタイトなんですが、面白くなりそうだし、いいものできそうだなっていう予感がありました。
ユッコ:一緒にやっていただけることになってからすぐに曲を作って最初のMさんとの打ち合わせにアルバムの1曲目に入っている「Emotional」という曲を持っていって、「こんな感じがやりたいんです」とお伝えして、それぞれが曲を作っていくことになりました。
M:最初1~2曲ぐらいかなと思ったんですが5曲って聞いて目が飛び出ました。でも、やる気マシマシになりましたね。
ユッコ:Mさんがすぐに2曲目に入っている「Dragon Funk」を作って送ってくださったんです。「めっちゃかっこいい!」って思ってワクワクが止まらなかったです。
――「Dragon Funk」というタイトルはついていたんですか?
M:まだついてなかったです。最後の最後でKOUさんがつけたんです。
H ZETT KOU(Dr.):初めてユッコさんと一緒に演奏した時からユッコさんの後ろに竜が見えたんです(笑)。
M:(笑)。昇り竜がね。
KOU:それくらいの良い圧があったので「Dragon Funk」という曲名にしました(笑)。
――Mさんは最初にユッコさんの「Emotional」を聞いてどう思いましたか?
M:メロディアスでジャズな展開があって面白いなと思いました。
ユッコ:最初から「Emotional」っていうタイトルを付けていたんですが、高校時代の吹奏楽部の友達に「H ZETTRIOさんと一緒にアルバムを作ることになったよ」って言ったら「マジでエモいじゃん!」って言われて。エモいです(笑)。
NIRE:リハの時から「Emotional」を演奏するユッコさんの熱量がすごかったですね。
――アルバムの構成はユッコさんが考えたんですか?
ユッコ:とにかくH ZETTRIOさんが大好きなのでH ZETTRIOカラーのアルバムにしたいと思って全曲のアレンジをお願いしました。しかも、すごいスピードで曲を送ってくださって。昨年の8月に打ち合わせをしてすぐにリハーサルに入り9月にレコーディングするという急ピッチなスケジュールでした。しかもレコーディングは3日間だけで。
M:すごいスケジュールだと思います(笑)。
KOU:ユッコさんはリハーサルからかなり仕上がってましたね。
NIRE:最初は「このスケジュールでいけるのか?」って思ってたんですが、リハーサルやって音源を聞いたら「これもしかしていけるんじゃないか?」って思いましたね(笑)。
KOU:やってみたらすごく噛み合っていい感じのスピード感で進んでいきました。最初合わせた時の新鮮に弾き合ってる感じがそのまま音に反映された感じがしますね。
NIRE:リハ1日やってすぐレコーディングでしたからね(笑)。フレッシュ感はあると思います。
――最初に「Emotional」を録ったそうですが、どんな感触だったんですか?
「Emotional」Official MV / ユッコ・ミラー feat. H ZETTRIO
KOU:想像以上にしっくりきて、もう4人のバンドだなっていう感覚がありました。
NIRE:非常に良い感じだったので安心しましたね。
M:このメロディーでこの和音でこのリズムでこの進行でここをソロしてっていうやり方で各々が得意なフレーズを出し合えばフレッシュで良いものがスピーディーにできるんだなと思いました。
――Mさんは曲を作る際にどんなことを意識したんでしょう?
M:できる限りサックスのかっこいい音を聞きたいなって思いました。それを意識しながら作るのは楽しかったですね。
――NIREさんとKOUさんは演奏してトリオの時とはどういう違いを感じましたか?
NIRE:4人で演奏することで守備位置が変わるような感覚がありましたね。トリオの時と違って全体がバッキングという感じで自分側に寄ってくる感覚があって。だから自分はもっと下がってもいいかもしれないと思って、安心してがっちり守って、トップスペースでユッコさんが暴れまわるという構図でした。意識したわけじゃないんですが、演奏が始まったら自然とそうなりましたね。
KOU:いま、NIREの話を聞いて「なるほどな」と思いました。レコーディングの時はユッコさんの顔が見れずに音だけヘッドフォンから聞こえるという状態だったんですが、それだけでもぐいぐいと煽られる力強さを感じたんです。サックスが入っていますし、刺激は大きかったですね。
――特に新しいアプローチだった曲というと?
KOU:「日付変更線」は音数が本当に少ないんですよね。H ZETTRIOの曲も含めてこれまでで一番少ないんじゃないでしょうか。
M:特に意識したことはないんですが、5曲を作るなかでバランスを取っていくうちにこういう曲ができました。
ユッコ:「日付変更線」の音源が送られてきた時、当時の自分の状況の影響もあると思うんですが、涙が出てきそうになって「めっちゃ良い曲だな」って思いました。
――ユッコさんはアプローチに迷った曲はありましたか?
ユッコ:「Moments」はこういう無機質さのある曲をサックスで吹いたことがなかったので、どういう風に静かに吹いた方がいいのかいろいろと考えました。それで、ちょっと無機質で大人っぽく吹き始めました。演奏の難易度が一番高かったのは「Strong Point」です。最初のパートの入りが難しくて。そこから始まって、だんだん皆さんの演奏が盛り上がっていくのについていくっていう流れでしたね。
KOU:「Strong Point」はユッコさんのソロがすごく盛り上がっていたので相乗効果があったと思ってます。
NIRE:ユッコさんのソロが本当にすごかったのでそれに引っ張り上げられる感じでしたね。最初何テイクかやった時は自分の演奏が全然足りてないなって思って。どんどん上げていってようやくユッコさんのところまでいけた感じがしました。
M:この演奏は盛り上がりましたね。ライブでも盛り上がりそうだなと思ってます。
Interview & Text:小松香里 / Photo:SHUN ITABA
――曲順は誰が決めたんでしょう?
ユッコ:全部録り終わった後に私が決めました。かなりいろいろな組み合わせを考えながら迷いました。「日付変更線」は最後にしたかったっていうのと、私が作った「Scent of the Day」っていうバラードは真ん中にしようって思って。あと最初にできた「Emotional」と「Dragon Funk」は特に思い入れが強かったので最初にしました。
M:レコードのA面B面のような良い曲順ですよね。
「Dragon Funk」Official MV / ユッコ・ミラー feat. H ZETTRIO
――ユッコさんのタイトルからはどんなことを感じましたか?
M:強い意志を感じましたね。「このタイトルだ!」っていう意志が音に現れている気がしました。
ユッコ:でも私、性格的には結構優柔不断なんですよね(笑)。
M:迷いを感じない音の切れでしたよ。
ユッコ:ありがとうございます。例えばチャーハンとかを作る時に塩コショウの加減があるじゃないですか。同じようにレコーディングでも匙加減があって、それに対する意志は強いのかもしれないです。音を合わせている中で「これくらいこういうことがやりたい」っていう匙加減をはっきり決めてますね。
KOU:本当にあっという間にレコーディングが進んでいきましたからね。楽しさしかなかったです。「絶体絶命」のユッコさんの演奏はコショウが結構多めでした(笑)。
ユッコ:(笑)。
KOU:七味も入ってる気がします。
NIRE:「おっしゃー! 次は塩行くぞー!」みたいなそういう感じの楽しさがありましたね(笑)。
――4月に東京と大阪のビルボードライブで2組によるライブがありますが、どんなライブになりそうですか?
ユッコ:昨年の10月に開催された横浜BAY HALLでのH ZETTRIOさんのライブに私がサプライズゲストとして出演させてもらってコラボ・アルバムが出ることを発表したんですね。そのライブで「Dragon Funk」と「危険なアリバイ」を演奏したんですが、お客さんの熱量がすごくてかなり盛り上がったんです。こっちが圧倒されるみたいな感じで。4月のライブもそういうライブになったらいいなって思います。
NIRE:すごく盛り上がりましたね。2曲だけではなく全曲演奏するライブをやるべきだなって思いましたね。
KOU:ドラムは一番後ろの位置ですが、またユッコさんの背中に竜が見えて「これはどこまでもいけるぞ」って感じました。4月のライブはアルバムの曲を全曲やる予定なのでもっとすごいことになると思います。
ユッコ:CDもめっちゃかっこいいんですが、生だとさらに何倍もパワーが伝わると思うのでそれを感じに来てほしいです。
M:数々の名演が行われてきたビルボードライブという場所ということもあるのでですし、良いライブをしたいですね。 このメンバーだからこそできるジャズの名曲カバーなども取り入れられたら良いかもしれませんね。ライブ内容についてはこれから検討していきます。
――ビルボードはこの二2組の出会いの場所でもありますが、皆さんがよくライブを見に行く場所でもあるそうですね。特に思い出に残っているライブというと?
M:亡くなってしまいましたが、2022年のセルジオ・メンデスのライブです。よれよれしてましたが高齢にも関わらず頑張って演奏してました。Tシャツもちゃんと買いました。
KOU:僕はカマシ・ワシントンです。良いハコですよね。
NIRE:カマシ・ワシントンは良かったね。Mさんと一緒にマセーゴを見に行ったんですが、結構変わったライブで印象に残ってますね。小さいキーボードでメロウなフレーズを弾くんですが、ちょくちょく全く同じフレーズを入れるのでネタなのか真面目にやってるのかわからなくて(笑)。あと、マイケル・ジャクソンの銀の手袋をはめて完全にふざけるコーナーもあって。
M:やってたね。
NIRE:そのふざけ方がギリギリ「ふざけてません」って言えるくらいのレベルだったのが良かったんです。あと、ビルボードっていう素敵な雰囲気でこういうことをやるんだっていうおもしろさもありました。テイク6のライブも良かったです。
ユッコ:私はめっちゃ歌が好きなブライアン・マックナイトのライブに感動しました。グッズを買ってサインももらったのがすごく良い思い出です。
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