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<インタビュー>「一人の涙や、僕の歌、何気ない言葉がどこかで誰かの人生に繋がっていく」ACIDMAN大木伸夫、『ゴールデンカムイ』愛と自身の哲学を交えて制作した「sonet」を語る

インタビューバナー

Text & Interview: 黒田隆憲

 3人組ロックバンドACIDMANが、映画版『ゴールデンカムイ』のメインテーマに続き、その続編となる『連続ドラマW ゴールデンカムイ ―北海道刺青囚人争奪編―』の最終話エンディングテーマを担当。ボーカル&ギターの大木伸夫は本楽曲「sonet」を通じ、「小さな歌(ソネット)」がやがて広大な物語へと発展していく景色を描き出す。『ゴールデンカムイ』という壮大な作品への深いリスペクトはもちろん、人生における大木自身の哲学が織り込まれた一曲だ。

 今回のインタビューでは、そんな楽曲「sonet」の制作エピソードはもちろん、今年3月の愛知・Zepp Nagoyaを皮切りにスタートする全国ツアーへの意気込みや、ファイナル公演でもある日本武道館への想いを大木自身の言葉で語ってもらった。

──今回、映画『ゴールデンカムイ』の続編となるドラマ『~―北海道刺青囚人争奪編―』のエンディングテーマ「sonet」を制作する上での思いをまず聞かせてもらえますか?

大木伸夫:映画『ゴールデンカムイ』の主題歌「輝けるもの」を作り、その流れでオファーをいただきました。最初はどのように使われるのかわからなかったのですが、最終話の締めに使っていただけると聞いて、大きな節目……僕は「シーズン1」と勝手に捉えているのですが、それが大団円を迎えるイメージで作りました。

映画版のメインテーマ「輝けるもの」は、作品の激しいアクションに寄り添う形でした。今回は、少し落ち着いた曲にしたいと提案したところ、すぐOKをいただけました。この2曲を通じて、異なる表情の『ゴールデンカムイ』を楽しんでもらえたらと思います。

──おっしゃるように映画版はアクション要素が強めでしたが、ドラマ版ではギャグなども散りばめつつ「人間ドラマ」としての重厚感がありました。楽曲制作にあたり、ドラマの内容やストーリーにどのように向き合いましたか?

大木:曲を作るにあたって、まず1話と最終話(9話)を事前に観させていただきました。ドラマ版は確かに笑いが多いですね。もともと僕自身が『ゴールデンカムイ』の原作ファンで、再現度の高さも含めてドラマを楽しめましたし、俳優さんたちの演技が原作のキャラクターそのもので感動しました。そんなドラマに寄り添う形で、穏やかで壮大な曲を目指しています。


──本来ソネットとは、「14行で構成されたイタリア発祥の近代抒情詩の一形式」のことです。タイトルや歌詞には、どのような意味や思いを込めたのでしょうか。

大木:おっしゃるように、もともとソネットは「小さな歌」という意味。それが歌詞のテーマである「バタフライ・エフェクト」にも重なっています。たとえ「小さな歌」でも、世界を大きく変える可能性もあるというメッセージです。

この曲の原型は、今回のオファーをいただく前から実は存在していたんです。それを膨らませていく過程で生まれた2番の歌詞は、まさにドラマのための書き下ろしと言えるもの。「涙」というものを肯定的に捉えようと思いました。ドラマと一緒に聴いていただければ、杉元(佐一)やアシㇼパ、梅ちゃん(梅子)といったキャラクターが自然と浮かんでくるはずですし、そうしたキャラクターたちの物語がより深く心に響けば嬉しいです。

──曲のテーマであるバタフライ・エフェクトについて、大木さんはどんな見解をお持ちですか?

大木:バタフライ・エフェクトという言葉を知ったのは学生の頃でした。きっかけはカオス理論で、物理学や天文学、数学など、あらゆる分野で統一的な理論を見つけようとする研究が進められていることを知り、非常に興味を持ったんです。カオス理論の一部として語られることが多いバタフライ効果やその考え方を、僕はとてもリアルだと思っています。

──バタフライ・エフェクトのどんなところをリアルだと思うのですか?

大木:例えば僕が今まさに飲んでいるこの水は、かつて誰かの涙だったかもしれない。あるいは排水の循環の中にあったかもしれない。そう考えると、世界は密接に繋がり合っていて、全てが奇跡の連続だと感じるんです。

ACIDMANの楽曲の中で、これまでもバタフライ・エフェクトを要素として取り入れたことはありました。今回それをよりシンプルに、わかりやすく表現することを意識しています。一人の涙や、僕の歌、何気ない言葉がどこかで誰かの人生に繋がっていく……そういう密接な繋がりの中で世界は形作られていると思っています。そして、それがポジティブな変化をもたらすものだということを伝えたいなと。

──「ポジティブな変化」とは例えば?

大木:例えば私たちの体の中に流れる鉄。鉄は宇宙で超新星爆発によって生成され、星の終焉と共に宇宙に放たれたものです。生命を成り立たせる上で必要不可欠な鉄、それ自体がとてつもない壮大なプロセスを経てここに存在している。そういったことを知ると、日々の生活や身の回りの物事はすべて何十億年も続く壮大なストーリーの一部だということに気づかされるんです。

──なるほど。

大木:僕は植物一つとっても、その植物がやがて何になるのか、その植物が育つためにどれだけの年月がかかり、どんな背景があるのかを考えるのが好きなんです。元をたどる、ルーツを探るという作業ですね。そう考えると、バタフライ・エフェクトというのは、決してファンタジーの理論ではなく、むしろ「当然ありえること」として受け止めることができます。

──例えば、「ペットボトルをなるべく使わない」といった一つ一つの行動は、とても小さいことのように思えます。しかし、それを見た誰かが影響を受け行動を変えることがあるかもしれない。それが積み重なることで、やがて地球そのものに大きな変化をもたらす可能性もある。そんなふうに考えることがよくあるのですが、これもバタフライ・エフェクトの一種と言えますよね。

大木:その通りです。一人ひとりの意見や行動は、実は密接に繋がっている。表面上は目に見える成果がなくても、世界には大きな影響を与えているんです。ポジティブな意味でもネガティブな意味でも、たった一言が誰かの人生を大きく変えてしまうことがあるように。

──誰かの一言が祝福になることもあれば、呪いのように人を傷つけることもある。

大木:その一言で命が失われるかもしれないし、一生を左右することだってありえますよね。だからこそ、自分の言動や行動には責任を持つべきだと思います。たとえそれが小さなことでも、世界は密接に繋がっているということを意識しながら生きていくべきだと感じています。

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──今回の楽曲制作において、サウンド面で特にこだわったポイントを教えてください。

大木:なるべくシンプルに仕上げることを意識しました。派手なアレンジや奇をてらう演出ではなく、本質を伝えることを大事にしています。この考えは、「sonet」だけでなく最近の僕のテーマでもあります。時代に合わせたり、流行の要素を加えたりすることに今はあまり魅力を感じていません。

昔はそういったアプローチをすることもありましたが、最近は楽曲そのものの素材感やプリミティブな良さを感じてもらいたいという思いが強くなっています。そのため、今回も無駄をそぎ落とし、シンプルで純粋な表現を目指しました。

──ストリングスの四家卯大さんやピアノの別所和洋さんも参加されていますが、彼らとのコラボレーションはいかがでしたか?

大木:四家さんとは長年一緒に制作していますが、そのたびに感動させられています。求める音のニュアンスや表現を完璧に理解してくれるんですよね。例えば僕が好きな伸びやかな表現を、いつも期待以上の形で仕上げてくれます。今回も本当に素晴らしかった。

一方、別所くんは今回が初めてのコラボレーションでしたが、僕は以前から彼のピアノが大好きで、密かに「日本のキース・ジャレット」と呼んでいるんです(笑)。彼のピアノは技術的なジャズ演奏に加え、叙情的で湿度を感じさせる部分があり、それが僕の感性にとても合うんです。今回お願いしたところ、まさにそのウェットな叙情性が存分に発揮された演奏をしてくれて、とても嬉しかったですね。


──今回のミュージック・ビデオは、ドラマの撮影地で監督とともに制作したそうですね。

大木:撮影は朝4時スタートだったので、3時には起きなければならなくて大変でした(笑)。北海道には2泊3日で滞在したのですが、2日目は撮影が少し早く終わったので「せっかく北海道に来たし、美味しいご飯を食べよう」という話になって、夜に少しだけお酒を楽しみました。ただし、翌朝も2時起きだったので、本当に1時間だけ食事してすぐ寝るという感じでした。

それでも意外と乗り切れて、「これが毎日続くと、明るいうちから酒を飲む生活になるのかな?」なんて思いました(笑)。贅沢な体験を短時間に凝縮したような、なんとも不思議な気分でしたね。タフな撮影スケジュールの中、監督も本当に素晴らしい対応をしてくださいました。僕から編集に関していろいろ細かいオーダーを出させていただいたのですが、どんな要望にも嫌な顔ひとつせず、全て快く受け入れて的確に作品に反映してくれたので感謝しています。

──ところで来年開催されるツアーと武道館公演について、どのような構想や準備を進めていますか?

大木:僕たちACIDMANは、毎年10月末頃に【This is ACIDMAN】と銘打ったライブを行っています。メジャーデビューが10月30日だったことにちなんで始めたもので、ACIDMANの魅力を凝縮した「ベスト・セレクション」とも言えるライブを目指しています。毎年必ず開催することで、ファンの皆さんにワクワク感を提供し続けたいという思いもあります。

このライブを始めたのは2021年で、来年で5回目となります。しかも武道館公演は7年ぶりの7度目。「令和7年」に「7度目」と、縁起のいい数字が並んでいるのも、なんだか不思議な巡り合わせを感じます。全国各地でACIDMANの本質を表現しつつ、武道館という大きな舞台でその集大成を見せたいという思いがありますので、ぜひ多くの方に楽しんでいただきたいです。

──今回のシングルには、ライブ音源も収録されています。それを聴くと、「ライブバンド」としてのACIDMANのすごさを改めて認識させられるのですが、大木さんにとってライブとはどんな場所なのでしょうか?

大木:ライブはいつも、その日のコンディションや体調、会場の空気や気圧、湿度など目に見えない多くの要素が密接に関わっています。「今日はいいライブになりそうだ」と思っていたにもかかわらず、意外と届かなかったり、逆に「今回はあまりよくなかったかな」と思ったライブが結果的に高く評価されたりすることもあって。

今回収録された音源は、ライブの奇跡がまさに結晶化されたもの。何がそのライブを成功に導いたのか、あるいは失敗に導いたのか、いまだに完全にはわかりません。ほんの少しの時間のずれや出来事が、何か大きな結果に繋がることがあります。それは、まさにバタフライ・エフェクトのようなものだと思います。映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』にも、たった1秒の違いで人生が変わるシーンがありましたが、一つ一つの言動や行動が未来に大きな影響を与えることもあるんです。

──ライブというのは、まさにそうした「未来を形作る一瞬」が集まった場所なのかもしれませんね。

大木:おっしゃる通りです。一回一回が特別で、予測できないからこそ、その魅力に取り憑かれます。


──1月11日に東京・Zepp Hanedaで開催される【「sonet」発売記念ライブ&壇上交流会】についてもお聞かせください。どのようなイベントで、どんな楽しみがあるのでしょうか?

大木:これは僕が発案した企画です。まず、ステージ上から見える景色をファンの皆さんにも体験してもらいたいという思いがありました。コロナ禍を経て、お客さんとの距離感がどんどん広がってしまって、「今だからこそできる新しい試みを」と考えたときに浮かんだアイデアです。

ステージに上がってもらって、僕らの視点を体験してもらうことなど普通はなかなかできないことですよね。僕ももし観客だったら「どんなエフェクターを使っているのか」「アンプのつまみはどうなっているのか」を見てみたいですし、それを皆さんにも感じてもらいたい。握手会とセットで行いますが、僕たちとの触れ合いはあくまでおまけのようなものです(笑)。それよりも、壇上から見える景色を楽しんでいただくことを大事にしてほしいですね。普段は絶対にできない体験なので、特別な思い出になればと思います。

──2025年に向けて、ACIDMANとして、あるいは大木さん個人として挑戦したいことや目標はありますか?

大木:僕は毎年、特に大きなチャレンジを掲げることはなくて、日々やるべきことをこなすこと、そしてケガや病気をせず健康でいることを一番大事にしています。それだけでも十分ですが、まずは【This is ACIDMAN】と、そのファイナルである日本武道館公演を大成功させることを目標に頑張っていきたいです。

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